2019.06.04

Terroirs & Millesimes En Languedoc 2019

年に一度行われるラングドックワイン委員会主催のワイン試飲イベント、『テロワール・エ・ミレジム・アン・ラングドック 2019』に参加した。昨年に続き、これで3回目の参加だ。泊まり込み合宿で連日の試飲とセミナー。だいたい9時半スタートで帰途につくのは午後11時。何百本ものラングドックほぼ全アペラシオンのワインを連続してテイスティングする機会はなかなかない。昨年の記憶があるうちに再び試すことができるので、アペラシオンの個性の把握がさらに正確になる。

Photo_3

Photo_4

ワインはこうした形でブラインドでテイスティング。ペズナスだけでもこれだけの本数がある。

 

試飲は基本すべてブラインド。これでなくては思い込み、先入観が入ってしまう。ひとつのアペラシオンごとに、多い場合は60種類以上のワインが並ぶ。そうすると各アペラシオンの全体像が抽出されてくる。江戸前寿司とは基本的にどういう味でなければならないか、という基準点が身体感覚的に取得されていないなら、一軒の店で鉄火巻を食べても一体何が評価できるだろう。ワインも同じく、個別ワインの美味しいまずい以前に、まずはティピシティの理解が重要となる。プロならばそれは常識であって、好き嫌いと正しい間違っているを峻別しなければならない。ラングドックワインに関し、その基準点を身に着けるためのある種の修行が、この試飲会・セミナーである。

 

□AOPラングドック、ペズナス、グレ・ド・モンペリエの試飲

モンペリエ空港から1時間で、第一会場・ホテルのシャトー・サン・ピエール・ド・セルジャックに着く。翌朝からのテイスティング。これからテーマごとにほぼ時系列で記事をまとめる。

 Photo_2

▲モンペリエの北にあるシャトー・サン・ピエール・ド・セルジャックは現在ホテル、レストラン、イベント会場になっている。周囲にはブドウ畑が広がり、ワインも生産している。

まず最新2018年のスケールの大きさに脱帽させられる。この年は1月から2月に大量の雨が降り、土中の水分が多く、ブドウへの水分ストレスが少ない。モンペリエの天候を見ると、年間降水量は通年の5割増しで、4ケタに届こうとする驚くべき多さだが、夏のあいだには雨が非常に少なく、収穫時期である9月にはほとんど降雨が見られない。そして年間平均気温は通年より1度も高い。単純に言って、ブドウがすくすくと育った年の味だ。   

2017年のチャーミングなまとまり感も良い。この年は2018年とは真逆に、通年よりも5割少ない降水量。しかし渇水によるストレスを感じさせない。201610月の大雨の貯金が残っていたとは考えにくいが。気温変化は極めてゆるやかで、冬と夏のあいだのカーブがフラットで、6月、7月、8月の気温差がない。そして9月になると平年より気温は下がる。ワインの味わいはまさにそういった気温変化の年の典型と言える。

2016年はインディアン・サマー・ヴィンテージで、こってりした果実味が特徴だ。年初から収穫までの降水量は恐ろしく低く、他よりもタンニンが固く、がっしりした骨格をもつ。つまり、粗めのタンニンを豊満な果実の甘さで抑え込む味で、このパワフルさとコントラストの大きさが個性となる。

ゆえに、譬えで言うなら、ゆったりのんびりした味わいを求めたいアペラシオンでは2018年、スケール感より繊細さや抜けのよさを求めたいアペラシオンでは2017年、迫力を求めたいアペラシオンでは2016年がいい。品種に譬えるなら、それぞれ、グルナッシュ的、シラー的、カリニャン的であろう。

おすすめワインはラベル写真のもの。ひとつやたらとセクシーで華やいだワインがあった。ラ・クロワ・キャピトルのラングドック白、Allegria Dolce Vita。珍しくクレーレットロゼ品種を5割使用。これはもっと注目されるべき品種だろう。

Photo_5

ペズナスは気をつけないと風味が汚くなりやすい産地だが、成功した場合の上方への伸びと細かく強いミネラルは印象的。ペズナスがグラン・クリュかどうかという議論に対しての私の意見は、否、だ。スケール感と余韻の長さが若干劣る。個性で勝負する良質なプルミエ・クリュといった認識で正しいと思える。スパイスを使った重心が高い肉料理に合わせるラングドックワインとして、まっさきに名前が出てくる産地がペズナスである。

Photo_8

Photo_7

Photo_6

グレ・ド・モンペリエはぽってりして腰が安定した南国味。若干キメが粗く、アルコール感も強く、いかにもなのんびり地中海ワイン。これを評価するかしないかもまた議論が紛糾する点であろうが、私はグレ・ド・モンペリエのアンチ北方味は、ラングドックが南仏ワインである以上は重要だと思っている。料理で言うなら、ローストポーク的というかポルケッタ的。スカしたピク・サン・ルーの反対の、家飲み的ゆるさは結構好きだ。ゆえにグレ・ド・モンペリエは高級なつくりにしない方がいい。

 

□■ピクプール・ド・ピネ訪問

エタン・ド・トーに面した牡蠣養殖業者兼レストラン、タルブウーリエッシュでのピクプール・ド・ピネ試飲会&ランチ。当然、山のような牡蠣とムール貝、そしてセト風イカパイを食べる。

Photo_11

▲エタン・ド・トーにある牡蠣養殖場兼レストランでの試飲。オルマリン、ボーヴィニャック、フェリーヌ・ジョーダン、フォン・マルス、アザンといったおなじみの生産者みずからワインをサーブ。

Photo_12

ピクプール・ド・ピネは牡蠣用ワインとして知られる。畑の前が牡蠣養殖場エタン・ド・トーなのだから、両者セットのプロモーションは理に適う。しかし過去15年、年に一度は両者の組み合わせを経験してきたが、合うことは合うが完璧とは言えないと思えた。確かにピクプールは重心が高いから(遅く収穫しても、だ)牡蠣に対して大きく外れることはない。それでもミネラルの質が違うし、性格的にエタン・ド・トーの牡蠣のほうが派手だ。ミュスカデとナントの牡蠣の方が味の方向性は地味同士で揃っている。

今回初めてエタン・ド・トーの波打ち際を歩き、合わない理由がわかった。予期していなかったが、写真の通り、玄武岩だらけだ。つまりこの地の牡蠣は火山のミネラルの味なのだ。というのもエタン・ド・トー南側にあるアグドのサン・ルー山は火山。今まで北側にあるジュラ紀石灰岩のサン・クレール山しか考えてこなかった。対してピクプール・ド・ピネの南部は白亜紀の石灰岩だし内陸部は石灰を含む第三紀の礫岩。ミネラル感を感じる位置が異なるし、性格が内向的だ。だから私はメズ村のような砂・粘土の土壌(表土には石灰の礫があるが、エロー川がかつて運んできたもので角が丸く、実は現地性ではない)のピクプールの方が、石灰の味が強い村のものより地元の牡蠣に合うと言ってきた。それでもぴったりとはいかない。

Photo_15

▲エタン・ド・トーの浜辺。黒い玄武岩の礫がたくさんある。この海の牡蠣に石灰岩のワインが合わないのは当然だと思った。

多くのピクプールはラ・ロシェル近辺の石灰岩の崖の先に育つ牡蠣に合っても、目の前の牡蠣には合わない。ブジーグをはじめとするエタン・ド・トーの牡蠣が要求するのは玄武岩土壌のワインであり、ラングドックで玄武岩と言えばペズナス、またはベサンやオー・ヴァレ・ド・ロルブであり、つまり、その地に植えられた白ワインということになる。それはマイナーな存在で、理念的にはあり得ても具体的なワインは知らない。むしろワシントン、オレゴン、ヴィクトリア、ヴェネトから選ぶ方がいいかも知れない。長年の謎が解けてよかった。やはり自分で歩いて観察するしかない。

さて試飲会だが、気に入ったのはフェリーヌ・ジョーダンの高いほうのワイン、キュヴェ・フェリーヌ。優れた区画のブドウの中汲みからせめの果汁を発酵し(あらばしりは安いほうに行く)、その逞しさを半年のシュールリーで和らげたものだ。フェリーヌ・ジョーダンのスタイルは独特のさらっと流すところがあり、都会的で地酒らしくないが、どのみちピクプールは地元の牡蠣に合わないのだから、私は考え方・評価基準を変え、より普遍的文脈での有用性とより抽象的な品位を重視することにした。あとボーヴィニャック協同組合の古木のキュベ・アニヴェルセル1932の深いミネラル感がいい。こうした文脈で見ると、マス・サン・ローランの牡蠣との不整合性が、以前は保留事項だったが今や積極的な評価事項となり、それがさらに良いワインに思えてきた。簡単に言えば、本来のピクプール・ド・ピネは地中海のカジキマグロに合う力強いワインである。

Photo_13

Photo_14

そもそもピクプール・ド・ピネに見られる赤土は白ブドウに向くのか。土だけ見たら黒ブドウ用だろう。栽培者組合会長に聞くと、ピクプールは昔は黒ブドウだったが1700年頃に突然変異して白ブドウになったとか。どうりで。ローマ時代から千数百年は赤ワイン、白の歴史は遥かに短い。つまり赤ワイン用土壌に植えられた白ワインとはどんな個性かを考えると、多くの人が想像するピクプールよりも太くて重い味であるべきなのだ。皆長いあいだ、エタン・ド・トーの牡蠣のイメージに囚われすぎていた。シャトー・ド・ピネやマス・サン・ローランの方向性で正しかったのだ。昨年マス・サン・ローランに通りがけにふらりと立ち寄り、彼らのピクプールといろいろな魚料理を合わせてみた時も、印象的だったのは生牡蠣ではなく牡蠣グラタンであり、また鯛のポワレのバター系ソースった。

自分で納得できる答えが得られるまでに15年かかった。数千ある主要ワイン産地のたったひとつに関してだけで、だ。こんなペースでは私は何も分からずに死ぬしかない。ワインに詳しい人はどんな頭のつくりをしているのか。どうして彼ら彼女らは1を飲んで100が分かるのか。やはりワインはマンハッタン計画に参加した数学者物理学者レベルの超越的天才のみが扱える対象なのか。いや、ワインは結果ではなく、結果に至る過程を楽しむ趣味だ。あれこれ自分で考えることが大事で、結果を人に聞いたら、推理小説の犯人の名前だけ最初に聞くようなものだ。しかしあまりに安易に、皆答えだけを求めていないか。例えば私の上記の考察は、ピクプールは牡蠣に合わない、という一文で言いあらわせるのか?

Photo_9

▲ピクプール・ド・ピネの畑からエタン・ド・トー、そしてセトの町があるサン・クレール山を臨む。畑の礫は写真からも分かるとおり、角が丸い。

Photo_10

▲ピクプールのブドウ。

それはともかく、ピクプール・ド・ピネの品質向上はここ数年で顕著だ。6、7年前から除草剤は禁止され、機械的な漉き込みが義務になったそうだし、殺虫剤も全1500ヘクタール中1300ヘクタールで使用されていない。認証オーガニックは今でもアザンだけだが(転換中は他にもある)、協同組合のワインを飲んでも以前のようにエグくて薄くてまずいといったことはほとんどない。値段も上がったとはいえ、今やピクプール・ド・ピネは安物海辺夏ワインではなく、高級レストランで複雑な魚料理に対して出されてもいい、いや、出されるべきワインに進化している。

驚くべきは輸出比率で、70%に達する。そのうち4,5割はイギリス向け。EU離脱の動きに対して生産者たちは市場喪失を恐れたが、今年になってもあいかわらず順調な発注がイギリスから続いているそうだ。なぜイギリスと聞いても、よくわからないとのこと。それはそれで不安になる。

 

□コトー・デュ・ラングドック・ソミエールのセミナー

ソミエールといって知る人も少ない。私もかつて十本未満しか飲んだ記憶がない。ガール県18村にまたがりつつも1971ヘクタールしかない小さなアペラシオン。ラングドック東端、コート・デュ・ローヌ西端コスティエール・ド・ニームに接する。ソミエールとコスティエール・ド・ニームの比較ほど、ラングドックとローヌの何が違うかを如実に理解できる例も少ない。引き締まって酸の強い岩ワインであるソミエールと、ふくよかでアルコールが高く酸が低い土ワイン(土壌は砂利だ)であるニーム。ソミエールの酸は極端なほどで、グルナッシュでさえpHは3・2から3・3程度。ニームなら、いや一般にはグルナッシュなら3・7以上の数値だろう。

Photo_17

Photo_18

▲セミナーで紹介されたソミエールの地質。

 

ソミエールの特徴は、白亜紀の地質もあること、第三紀の地質の場所では多くシレックスが見られること。つまりトゥーレーヌ的な土壌であり、実際にワインの味もトゥーレーヌ的な硬質な中心線を備える。AOPとしてはブレンドの赤のみが造られ、シラーとグルナッシュで50%以上、シラー単体で最低20%、15カ月熟成といった規定がある。ラングドックでロワール的ないしブルゴーニュ的な個性を求めるなら、まずはソミエールを探求すべきだ。セミナーで出されたワインの中では亜硫酸無添加のビオディナミワインDomaine de CoursacLa Patience 2016の複雑さと、Mas Montel / Mas GrranierCamp de l’Oste 2016の上品さ・しなやかさが印象的だ。後者はまるでピク・サン・ルーだと思ったが、聞いてみると「この畑からはピク・サン・ルーが見える」とのこと。

Photo_16

▲上写真がセミナーで試飲したソミエールのワイン。どれもそろってクールでタイトな味わい。

しかしソミエールは赤だけのアペラシオンでいいのか。この冷涼なキャラクターは白やロゼにこそ向くのではないか。そう疑問を呈すると、ラングドック委員会の技術部長は「今からINAOに電話してそう言ってくれ。私も白が認可されるべきだと思う。しかしINAOはラングドック=赤という先入観があるから、赤だけのアペラシオンになってしまった」。確かにソミエールでは赤ワインが長く造られてきたのだろうから、INAOの実績ベースの判断では赤産地ということになる。ところが長年安価大量生産産地であったラングドックでは、テロワールにふさわしいワインが造られてきたというより、残念ながら需要に応えざるを得なかったという側面を看過してはいけない。つまり、その場所で最高の品質のワインを生み出しうる品種とスタイルが確立する(それには数百年かかるだろう)前に、アペラシオンが確定してしまったところに問題がある。ラングドックにおいては、今まで何を栽培していたか、ではなく、これから何を栽培するべきなのか、という視点が重要だ。しかしINAOがラングドックだけを例外視するわけもない。ならば唯一の解決策は、それぞれのエリアで本当に栽培すべき品種、造るべきワインはどんなものであるべきかを我々が考え、そのようなワインを支持し、実績を長年かけて積み上げていくことである。そして私にとっては、ソミエールは赤より白とロゼの産地である。

 

□クレーレット・デュ・ラングドック、カブリエール、ソミエール、サン・ジョルジュ・ドルクの試飲

ディナーに出された印象的なワインの写真を載せる。

Photo_19

Photo_20

 

クレーレット・デュ・ラングドックの深みと存在感、カブリエールのシリアスで内省的な密度と引き締まった余韻、そして鮮やかな酸と緊密な構造のソミエールのエリアの白は、いかにもなラングドック白とは隔絶したシャープさ。やはりソミエールは白のアペラシオンであるべきだ。ラングドック委員会会長にその話をすると、「まずは実績と歴史を作らないといけない、30年計画だ」と。写真のドメーヌ・ギヨーム・アルマンは白が6割とのこと。それでいいと思う。

写真はないが、サン・ジョルジュ・ドルクのロゼもいい。ここはグレ・ド・モンペリエのエリア内とはいえ土壌が異なり、南ローヌ的な深い砂利。しかし南ローヌより海に近い味がする。このムッチリと肉厚で酸が低く大きな味のアペラシオンは、コッテリしたソースのホタテやオマールに、そして豚バラ肉の低温ローストに最高だ。テロワール名付きコトー・デュ・ラングドックの中でもとりわけ重宝する個性だから、この名前は憶えておくとよい。

 

□テラス・デュ・ラルザックの試飲

何百本も飲んでも未だテラス・デュ・ラルザックの魅力が分からない。ラングドックの中でもとりわけ内陸部にあり、標高850メートルの山の南斜面に広がるアペラシオンだから、確かにいかにも山ワインの味。しかし陰気さと酸の固さとタンニンのエッジが気になる。テラス・デュ・ラルザックは赤のみだとはいえ、個人的には同じ畑で造られる白やロゼ(アペラシオンはこの場合コトー・デュ・ラングドック)の方がいいと思うぐらいだ。ジェラール・ベルトランのソヴァジョンヌなど典型的な例で、赤はアルコール度数15度に達するにも関わらず、風味が閉じて、熟しているとは言えない。このアペラシオンでは相当にクリエイティブな発想でワインを作らないと形にならないと思う。ただ、緊張感を伴う陰影に着目するなら非常に興味深いアペラシオンであり、冬のジビエに熟成させたワインを合わせるならいいだろう。

膨大な本数をテイスティングし、美味しいと思えたのは数少ない写真のもの。テイスティング自体はブラインドなので予見・偏見はない。写真に撮り忘れたワインに、Les Chemins de Carabote Chemin Faisant 2016 がある。これは残糖があるのではないかと思う甘さ。相当に強いタンニンを補完するための果実の熟度を考えたら、このぐらいのほうがいい。それでバランスが取れる。全体にタンニンがえぐいのは2016年ヴィンテージのワインが大半だったからでもある。ラングドックのこの年はシラーには特に渇水がきつくて厳しい結果になった。この話をしていると、ラングドックのシラー依存に対する根本的な疑問に行き着く。

Photo_21

Photo_22

Photo_23

Photo_24

 

テラス・デュ・ラルザックの美点であるタイトなミネラル感やディティール感や冷涼感を生かしつつゴツさを減ずるには、赤白ブドウの混醸をアペラシオンの規定に含めるのが一番。まあラベルに書いてあることを真に受けてはいけないのはラングドックの常で、そうしている人も実はいるようだが、これ以上はオフレコなので各人探求してもらいたい。ともあれ混醸について私はどんどん法律違反せよと言いたい。すぐにできる解決は、樽ではなく陶製の甕で熟成することだろう。樽の余計なタンニンはいらない。

 

□ピク・サン・ルーの試飲

Photo_25

 

高い標高と大量の降雨量と白亜紀とジュラ紀の石灰岩土壌。ピク・サン・ルーは、ある意味ラングドックらしくない、ブルゴーニュに似たイチゴ&ミントな北方系ワインの味がする。その取り澄ました、よく言えば上品な個性は、南方系ワインが必ずしも好きではない人にも受け入れられやすく、世界的に人気が高い。おしゃれなパリのビストロやワインバー的で、個人的には好きではないが、その圧倒的な平均品質の高さと一貫した個性の説得力・完成度には脱帽する。酸の伸びやかさ、タンニンの細やかさ、果実味の透明感、香りの上品さ、姿形のかわいらしさ、柔らかい厚みといった点を見れば、ピク・サン・ルーを正しく選ぶのはたやすい。

写真はおすすめのワインだ。

Photo_26

Photo_27

Photo_28

Photo_29

Photo_30

Photo_31

Photo_32

 

□フォージェールの試飲

フランスにおけるシスト土壌ワインの代表、フォージェール。肉厚な果実味と黒っぽいアーシーでスパイシーな香りと柔らかい酸と当たりが滑らかでいて強いタンニン。そして芯にはしっかりとした岩のミネラル。明確な個性があり、ラングドックワインのポートフォリオを作る上では欠かせないワインだ。

F924edd27a8742069d39d588fabd5dec 16cfc61dfc444fb88a672e1ce2d54036  406ad03a43fc4fc0a51746bedbdfd20c   2d9d2ad478bf4aaeb8f5ac941e41913d B2db31018f6141199494376ae3976927

 

しかし下手をすると一本調子で下品になるし、風味が汚いワインも散見される。と言って引っ込み思案なアプローチではフォージェールらしい積極的なパワー感が前に出てこない。そこのあんばいがワイン評価の要だろう。実際のところ、試飲したサンプル数が多い割にはおすすめワインが少ない。これまた2016年の問題で、シラー主体のフォージェールにはストレスがかかりすぎたのか。粘土石灰は乾燥した年に有利、シストは多雨の年に有利なものだ。

とはいえ質感の滑らかさと樽の馴染み方は、10年前のフォージェールとは別物。はるかに上品で緻密な味わいになっている。和牛のステーキや焼肉に対し、フランスワイン中で基本的なワインのひとつがフォージェールだと思う。和牛は絶対に石灰の味がしない。ただし、シラーの比率が比較的少なく重心が真ん中から若干高めに収まるワインを選ぶならば、だ。

フォージェールは現在4割のワインがオーガニック(転換中5パーセントを含む)。これは大きな魅力であり、基本的品質の高さに結びついている。生産の80%は赤で、ロゼ17%、白3%。フォージェールの数少ない白がこってりと粘りがあり、酸が低くて、またいい。

 

□ロックブリュン村でのサン・シニャンのテイスティング・ランチ

大勢のサン・シニャン生産者が集まって、ロックブリュン村オルブ川のほとりでバーベキュー・ランチ。サン・シニャンのクリュ、ロックブリュンが生み出されるのがこの村。

Photo_33

Photo_34

 

サン・シニャンは石灰、砂岩、シストの三つの基本的土壌があり、一概にどんな味かを表現出来ないアペラシオン。とはいえ何を作ってもキメが細かく、チャーミングで、スケール感やパワー感より上品なバランスを重視するかのような性格。ビストロよりレストラン向き。だからガッツリ抽出して樽を効かせると大概失敗する。それよりは安いワインの方がいい。ここでもそれを確認した。高いワインが高い料理向けなのではなく、その逆だというのがサン・シニャンの使い勝手のよさである。広大なアペラシオンのどこでも基本品質が高いワインが出来るのはすごい。

赤がいいのは当然として、サン・シニャンの白やロゼがまた素晴らしい。写真の白はカリニャン・ブランを30パーセント含むため、中心にしっかりした柱が立っていて、アルコールが高い果実主体の単純な白ではない。珍しく三つの基本土壌のブレンドで、相当複雑。せっかく三つあるのだから、それらをうまく組み合わせたワインがもっとあってもいい。ロゼはサン・シニャンのチャーミングさ、優美さが引き立つ。

Photo_35

Photo_36

Photo_37

 

ランチで隣に座った生産者ドメーヌ・カスタンのヴァレリー・カスタンさんは「ビオディナミに関心があり、ベルトランの本を読んだ」と。私は「ならば私のことも知っているでしょう」と言うと、「おお、あなたがあの本に出てくる田中さんですか!会えて嬉しい!直接話が聞けるなんて!」。「せっかくの機会だから少しだけワインテイスティング法やサービス法を教えます」。たとえば「ワインの瓶をもって川に行き、数秒ほど瓶を流れる水に浸してきてください」。もちろん自然の川の流れの中に瓶を入れたあとの味たるや、前とは別物のおいしさ。理屈ではわかっていたが実際にやってみたのは私も初めて。うまくいってよかった。さもなければ嘘つきになってしまう。その他いろいろとお話して、納得してもらえた。ラングドックではなぜか本来のポテンシャルが表現されていないワインに多く出会う。ちょっとしたことで見違えるおいしさになるものだ。本来このワインはこの土地とこの年とこの技法ならどういう味でなければならないのか、その理想に対して現状何が欠如し逸脱しているのか、それをどうすれば是正できるのか、といった議論をする機会が少なすぎる。せっかく世界じゅうのジャーナリストが集まっているのだから、もっと積極的な意見交換会を設定すべきだ。ランチのあとは皆でサイクリングに出かけていった。私は自転車に乗れないのでひとりカフェで考えごと1時間。サイクリングする暇があるなら、具体的な議題を複数設定して皆の意見を言う会のほうがワイン生産者の役に立つし、個人的には遊びより楽しい。

 

□ラングドックの大ネゴシアンとのディナー

シャトー・ロスピタレのレストランで、GCF、カーメル&ジョセフ、エシュト&バニエール、ボンフィス、アンテッシュ、ロルジュリル、ベルトラン、ジャンジャン、ポール・マスといった大ネゴシアンが集まってのディナー。彼らのワインを一同に集めて飲む機会もなかなかないので、非常に興味深い。

ネゴシアンワインで垂直性とビビッドな張りを出すのはむずかしい。しかしベルトランのワインはちゃんと出来ていた。自画自賛で申し訳ないが、私の考えも少しは寄与している。他のネゴシアンのワインは偏見抜きにしても水平性が勝るものがほとんどだ。いかにもトレーラーで運んできてステンレスタンクでいろいろ混ぜた、という味。そして往々にして農薬の味。ベルトランの契約農家の多くはオーガニックだし、そうでなくとも平均農薬使用量は確実に少ないはずで、それが効いている。十年前なら大差はなかった。何年か前の時点でも私が「まずい!」と文句を言っていたクレマン・ド・リムーのコード・ルージュを久しぶりに飲んだ。以前とは別物。新商品、陶器瓶入りのクレーレット・デュ・ラングドック・アディサンは出色の出来。このワインの基本アイデアは私が考えたので、これまた自画自賛で申し訳ないが、会場にあったワインの中でも特においしい。リースリング・カビネット的な酸は結構病みつきになる。是非試して欲しい。

Photo_38

 

隣にはジェラール・ベルトランが座った。「テーブルが大きいから対面の人と話をしなくてすむからいい。あれは疲れる」と。もう少しワインの説明を全員に向かってすればいいものを、ようは本質的にシャイで話下手なのだ。当初の予定にはないクロ・ドラ2014年が出された。「出すべきではなかったかな」と聞いてくるので、「そう、不必要」と答えた。宴たけなわになり皆それなりに酔いが回ってからクロ・ドラを出しても意味がない。とりわけ繊細な2014年ならば。高いワインであるという事実に喜ぶ類の人にはそもそも出すべきではないわけだし、きちんと飲ませるなら出すべき文脈を整えるべきだ。私はレストランでいい加減な相性を放置したままただ酔っぱらっている状況が嫌いなのだ。

料理は前菜にナルボンヌ産のアーティチョーク。シャトー・ロスピタレのラ・クラープ白がぴったり。これはまさに地元同士の相性。主菜のオーブラック牛のグリルにはクロ・ドラやミネルヴォワ・ラ・リヴィニエール他多くのワインは合わない。それは当然で、オーブラックは火山だからだ。日本人の多くでさえラギオール、オーブラックのエリアは玄武岩や花崗岩だと知っているのに、当のシェフもソムリエもそのことの意味を理解していない。だから石灰岩ワインを合わせるとひどい味わいになり、火山岩のペズナスだけは予想どおりに美味しい。そうなると、オーブラック牛に対しては、ベルトランの一連のエステートもの高級ワインの中ではブートナックAOPしかチョイスがない。畑の地質が第三紀ミオセーンだから比較的石灰が少ない、という相対な話で、まあ確かに悪くはないが、カリニャンのゴツいタンニンがレアの肉によってさらにゴツく感じられる。さらにはブートナックは岩ワインではないから塊肉には合わない。ゆえにオーブラック牛のグリルはこのレストランのメニューに置いてはいけないというのが結論だ。ラングドックではこうした基本的ロジックさえ皆分かっていない。そして教える人がいない。

 

□フィトゥーの試飲

1948年にラングドック赤ワイン最初のアペラシオンとして認定されながら、近年のフィトゥーはスーパーマーケット用安物の印象が強く、なかなかまともに向き合ってもらえないワインだろう。アルコールが高くタンニンも強く粗野な南国地酒の代表。さらに樽が加わってえぐい。樽なしバージョンは単につまらないワイン。。。一般的にはそんな印象だろうか。

カリニャン主体(作付け面積の4割、その半分は古木)だからタンニンは強くなる。だから最近はMC法とステンレスタンク熟成によって早飲みフルーティタイプにシフトしている。それは総体的には正しいが、グラン・ヴァン産地の名声を復活させることは出来ない。2500ヘクタールの広大な産地を一括りにして方向づけるのは難しい。そこでサン・シニャンにおけるベルルーのように、フィトゥー内にクリュを設ける計画がある。個人的には最上のフィトゥーはバローロやブルネッロ的方向性を狙うべきだと思うから、最低2年の大樽熟成義務。カリニャン比率は50パーセント以上。平均樹齢は40年以上。除草剤殺虫剤の禁止。こんな感じでどうだろう。普通なら収量制限も規定されるが、現状でも20hl/ha台だから不要だ。もちろんフィトゥーを構成する村のうちのどこかだけがクリュになろうとしたら他の猛反対に合って実現不可能だから、全村に等しい権利が与えられる。つまりまずはデノミナシオンとして上級の村名付きフィトゥーをINAOに申請するのだ。それなら生産者全員にメリットがある。今でもフィトゥーはジビエ向きワインとみなされる。MC法のフルーティタイプと大樽2年熟成タイプとどちらがジビエ向きか言うまでもない。

Photo_52 Photo_54 Photo_56 Photo_57

 

さてブラインドでの試飲結果は、まだまだ変革過渡期な印象。多くは粗いか樽が強いかつまらないか。その中で納得できるワインは、というかいかにもフィトゥーらしいなと思えて安心できたワインは、蓋を開ければ写真のように、日本でも馴染みの有名生産者だった。要するに慣れた味だった。これを順当な結果と言うだけでは面白くない。

 

□フィトゥー・モンターニュ、カスカテル協同組合でのフィトゥー試飲

ここでは新世代のフィトゥーに出会えた。ドメーヌ・ガビナート・フレスケなど初ヴィンテージが2018年でまだワインを売っていない。ここはポテンシャルがある。訪問してみて欲しい。クリアでいて凝縮度が高い、おすすめワインが写真の三本。彼らは皆オーガニックにするつもり。

Photo_39 Photo_41 Photo_42 Photo_43

フィトゥー・モンターニュ地区にあるカスカテル村の丘は写真のようなシスト。山の上からの写真は、手前のほうの畑がカスカテル、向こうがフィトゥー村。山を越えると海に近い粘土石灰のフィトゥー・マリティムがある。モンターニュとマリティムは連続していないし、土壌も違う。なぜ一緒にフィトゥーになったのかは分からないそうだ。

Photo_40

 

カスカテル協同組合の売店に入ると、ミュスカ・ド・リヴザルトとリヴザルト・ランシオを見つけた。カスカテルはフィトゥー、リヴザルト、コルビエールが重なっている村だ。このエリアのシストのミュスカ・ド・リヴザルトは緊密なミネラル感があり、引き締まった味で素晴らしい。35パーセントのミュスカ・アレクサンドリーが実体感を与えている。ペルピニャン近くのミュスカ・ド・リヴザルトとは似ても似つかない。ランシオは珍しくグルナッシュ・グリ単一。この品種ならではの酸味と芯の強さがいい。余韻は大変に長い。ワインメーカー自身のお気に入りらしい。これを気に入らなかったら何を気に入るのかというぐらいの素晴らしさ。それでもランシオは売れないから、2011年で生産を一時ストップ。グルナッシュ・グリはバッグ・イン・ボックスのグリワインに全量回される。あと3年は売るワインがあるとはいえ、そのあとどうするのか。歴史を終わらせてはいけない。フィトゥーは買わずにこの二本を買った。なぜならスタイルが確立して存在感があるからだ。対してフィトゥーは、ポテンシャルはあるのにいまだ迷っている。

Photo_44

 

□フロンティニャン

亜硫酸無添加のフロンティニャン。もともと保存性を高めるためのミュータージュなのだから、べつに亜硫酸なしでも問題ないと発見。柔らかで飲みやすい。フロンティニャンを飲むたびにここはグラン・クリュだと思う。風格が違う、ミネラルの安定感が違う。だから亜硫酸無添加でもしっかりフロンティニャンの味がする。こうした方向性のワインがもっと増えて欲しい。

Photo_45

 

好きなラングドックワインは、と尋ねられたら、「フロンティニャン、リヴザルト・ランシオ、アディサン」と答えることが多い。たぶん世界でひとりだけの嗜好か。

 

□ブランケット・メトード・アンセストラル

なぜあの場所でシュナン、ピノ・ノワール、シャルドネを植えねばならないか、いまだにわからないし、たぶん一生賛成はしないだろう、リムーの泡。ラングドックで泡を作るなら、テレットやピクプールやブールブーランクをどこか標高の高いところに植えたらいいと思う。だからクレマン・ド・リムーはいくら飲んでも心底推薦したいものには出会えない。申し訳ないが、おいしいまずいというより、それがラングドックの泡というジャンルを一手に引き受けている状況、それがラングドックらしさだとみなされる認識、シャンパーニュと同じブドウを用いてしまう存在意義に疑問がある。

Photo_58

 

しかしモーザックのアンセストラルは別だ。無理して早摘みした味ではない、必然性を感じる説得力のある味がする。いろいろ飲んでベストはこの写真のワイン。エネルギー感に余裕があり、質感に弾力性と厚みがあって、太くゆったりとした余韻に続く。ただアンセストラルは甘いので、デザートワインだ。もともとりんごの味がするし、順当にりんごのデザートに向く。

 

□ブートナックのセミナー

ラングドックのクリュのひとつ、ブートナック。カリニャンを30パーセントから80パーセント使用しなければならない、カリニャン主体のワイン。カリニャンは熟度が不足すると粗いタンニンが目立ち、香りも青いが、ブートナックでは極めて滑らかなタンニンとなり、なおかつ十分なボディも得られる。そしてカリニャンならではの垂直性と酸もあるから、IGPの単一品種ワイン(ブートナックのアペラシオンはブレンドが必須)でもバランスがいい。表土を覆う珪岩の砂利のおかげでもあるし、樹齢の高さゆえでもある。またブートナックは、1937年にモンペリエ大学フランジー教授によって発明されたMC法をいち早く採用し、カリニャンに関しては多くが全房発酵。これもユニークな特徴で、 ブートナックの個性の一因となっている。

Photo_53

Photo_59

 

もともとラングドックに多く植えられていたカリニャンはフィロキセラ以降に改植されたが、ブートナックでは生き残り、今でも自根のブドウが見られる。ブートナックの深々とした味の理由のひとつは自根にある。自根ファンなら、フランスではブートナックに注目すべき。残念ながらもうそろそろ寿命が尽きるだろうから、その前に買って欲しい。

Photo_61 Photo_62 Photo_55

 

ブートナックの地質年代はミオセーンであり、礫岩に石灰が含まれるとはいえ味には石灰を感じないし、岩っぽい畑ではないから芯があまりなく柔らかい。地質地図上で、例えばヴィルマジューの位置を見て欲しい。ジェラール・ベルトランの実家ヴィルマジューはローマ時代から続くブートナック最古のエステートであり、このアペラシオンの基準となるものだ。ブートナックはカリニャンのイメージからゴツいワインだと思われがちだが、事実は逆で、喩えて言うなら和牛のシチュー向けのワインである。

現時点での名前はコルビエール・ブートナックだが、今年の末にはコルビエールの名前が落ちてブートナックになるらしい。コルビエールとはずいぶんと違うリッチな味だし、コルビエールの決して高級とは言えないイメージからしても、コルビエールの延長線上にブートナックがあると消費者に思われない方がいい。

 

□ブートナックの試飲

セミナーで供されたワイン以外で、ブラインドテイスティングの結果のおすすめは写真のもの。甘く強くムッチリしつつ堅牢。ブートナックもまたグラン・クリュらしい風格がある。

Photo_70 Photo_72 Photo_74 Photo_75 Photo_76 Photo_77 Photo_78 Photo_79 Photo_80

 

□ラ・リヴィニエールの試飲

圧巻のエネルギー感。顕著な垂直性。長い余韻。バランスがよいから単体で飲んでいるとそこまで力強いとは思えないが、他と比較すると桁はずれ。まぎれもなくグラン・クリュ。ラ・リヴィニエールらしい、とりわけ風格のあるワインは写真のもの。

Photo_64 Photo_65 Photo_66 Photo_67 Photo_68 Photo_69

 

このアペラシオンのキャラクターはどれも一貫している、つまりアペラシオンとしてきちんと成立している。ミネルヴォワの中にありながらミネルヴォワとはやはり違う。最初からそうだったわけではない。十年前はもっとバラつきがあった。生産者間のコミュニケーションと各人の努力なしにはこうならない。ラ・リヴィニエールは尊敬に値する産地だ。現状のアペラシオン名、ミネラルヴォワ・ラ・リヴィニエールは年末にはただのラ・リヴィニエールになる予定。着実に、あるべき方向へと進んでいる。

しかしラ・リヴィニエールの名前と質と味の連関が消費者に理解されていなければ意味がない。それ以前にプロが理解していなければ消費者に伝えられない。日本ではまだまだ。時間がかかる。

 

□コルビエール

コルビエールは巨大なラングドックの中でも最も巨大なアペラシオンで、面積は1万ヘクタールを超える。これではコルビエールらしさを抽出するのは難しい。それでもひとつ共通した感想がある。コルビエールの赤は繊細すぎて、頼りなく、好きではない、ということ。なぜか日本ではコルビエールの赤をよく見かけるが、この線の細さ、暗さ、声の小ささがいいと思う人が多いのか。ロゼも同じ印象だから、品種(シラー、カリニャン、グルナッシュがほぼ同じ栽培面積)とテロワールの相性としか思えない。自分にとっては、全体としてコルビエールは白の産地だ。超少数意見なのは知っているが、テイスティングしてみた結果がそうだ。甘くてチャーミングでポジティブ。赤より大きく余韻が長い。飲んでいて気持ち良い。コルビエールの白はこんなに美味しいワインだったかと驚かされた。ビオディナミのラ・バロンヌは別格的に風格があり、チャーミングという言葉では片付かないシリアスさも備える。オーガニック栽培面積は2017年の時点で1245ヘクタール、転換中が407ヘクタール。分母が大きいだけにこの数字も大きい。これはいいことだ。

Photo_81 Photo_82 Photo_83 Photo_84 Photo_85

 

コルビエールは全体に乾燥した土地で、異常な大雨だった去年を除いて近年では300ミリしか雨が降らない。粘土が多いためにそれでもなんとかなってはいるらしいが、さすがにINAOもブドウに過大な渇水ストレスがあると証明出来る時に限って灌漑を許可。これからコルビエールはどうなるのか。

 

□■コルビエール・マリティムとフィトゥー・マリティムを船上で飲む

グリュイサン(ラ・クラープ)の港からルカート(フィトゥー)の港までコルビエール・マリティムの生産者と一緒にカタルーニャ方向にクルージングしながら、ワインをテイスティング。

Photo_86

▲海の向こうにスペイン国境ピレネー山脈、そしてその端にバニュルスの岬が見える。

コルビエール・マリティムはフィトゥー・マリティムと重複しているエリア。つまりフィトゥー生産者が造る白はコルビエールになる。フィトゥーの素晴らしいテロワールは白を造っても明白で、しかし値段は安く、狙い目だ。浜町などという目一杯海な名前の町に住む私には、海沿い産地のミネラルに親近感がある。基本的に海洋民族である日本人ならそれが普通だろう。

Photo_87

 

ランチは膨大な数の生牡蠣、ムール貝、イカ、鴨の心臓。今日の牡蠣は石灰の味がする。一番合ったのはアベイ・サント・ウジェーヌのマカブー。いかにもコルビエール・マリティムな穏やかさと明るさを備えてまとまりがいいのは、シャトー・モンファン。この中庸さは使える。既に日本でも名高いビオディナミ生産者マス・デ・カプリスの白はマカブーとグルナッシュをコンクリートエッグで混醸。さすがに別次元の立体感と躍動感。柔らかく腰が座っていてイカにぴったりだ。

Photo_88 Photo_89 Photo_90 Photo_91 Photo_92 Photo_93

 

フィトゥー・マリティムは昨日のフィトゥー・モンターニュとは打って変わってしなやかな果実味と滑らかなタンニン。マス・デ・カプリスのフィトゥーはシストと石灰が接するフィトゥー村からなので、シストと石灰の2種類のワインがある。シストは重心が高く硬質でスパイシー。石灰は重心が低くソフトでフルーティ。前者は鴨の心臓にはぴったりで、後者は赤だがイカと合う。シャトー・レ・フェナルは両者の土壌をブレンドして、見事な垂直性を形づくる。気負ったところのない滑らかで優しいワイン。邪念なし。そして考えられないほど安い。以前から好きだったがさらに美味しくなっている。こういうワインが日本でも普通に売っていて欲しい。興味深いのはシャン・デ・スールの亜硫酸無添加フィトゥー。クリーンな味で、フワンと広がり、チャーミング。無添加だと確かに海のワインなのだとよく分かる。極少量生産で高価。シャン・デ・スールは白に関してはオーガニック。赤は古木のゴブレなのでオーガニック栽培ができないとか。

それにしても、沖合で飲むワインの圧倒的な美味しさといったら!海風に吹かれて心地よいからではない。乗り物酔いする自分には船は地獄だ。それでも同じワインなのに、陸上と海上では力強さ、生命感が違うと分かる。クルージング出発前と沖合の30分の時間差で飲んで記憶内比較ができないわけがない。船の上でワインをテイスティングしたのは初めての経験で、未知の世界を見て衝撃を受けた。つまり、携帯やらWi-Fiやらワインに愛情のない無関係な人たちの悪い気やらの影響が海によって遮断されていれば、どれだけワインは本来のポテンシャルを発揮するか、ということ。ないし、海の揺れが特別な効果を与えるということか。

地中海は穏やか。レバノンやイスラエル、もちろんギリシャやイタリアから、古代の帆船でも難なくフランスに渡航できたことだろう。ワインが広まらなかったはずもなく、またローマ帝国が拡大しなかったわけもない。こうしてみると、日本の海は荒い。荒くなかったら、日本はとっくに他国の一部になっていたか、戦争で荒廃したか、少なくとも他の文化になっていただろう。白村江の戦いの後に追撃がなく、弘安の役で諦めてくれて良かった。

 

□ルカートで生牡蠣とミュスカ

洋上テイスティングの終着点、フィトゥー・マリティムのひとつの村、ルカートで、地元のミュスカと生牡蠣、生ムール貝、生アサリを試す。ルカートの牡蠣は石灰の味がする。美はふっくらして、味の構成は引き締まり、ものすごく美味しい。これはテロワール・エ・ミレジムのイベントのあとに訪れた場所だが、話の流れから、ここに記す。

 

Photo_94

 

Photo_95

 

ミュスカ・セックは生の貝に最も合うワインだ。なぜならは全品種の中で最もキメが細かくツルツルしているのがミュスカだからだ。貝はすべてツルツルしている。ミュスカは香りばかりに注目されるが、質感にも着目しないといけない。しかしミュスカならなんでもいいわけではない。ルカートは海に囲まれた畑であり、味にヨードっぽさが加わり、また気温差が少ないため、香りが華美にならないのが逆にいい。さらにはルカートの土壌は石灰ね丸い砂利を含む、つまり、土っぽいのであって、その柔らかさが魚貝向けなのだ。  

ミュスカ=貝、という単純な覚え方をしてはいけない。あくまで石灰な貝とルカートのミュスカ・セックが合うという話だ。貝に石灰の味がしないなら、ピクプール・ド・ピネのエリアに植えられたミュスカ・セック、ないしはリュネルのミュスカ・セックといった選択肢が考えられる。

料理向けのワインとしてのミュスカの可能性を深く考えることができる機会だった。しかしこれらのミュスカは日本に最も入ってこない類のワインだ。論理的に考えれば、生の魚貝の宝庫たる日本には非石灰のミュスカが絶対に必要なのにもかかわらず。なぜそうなるかは火を見るより明らか。日本では香りでワインを判断する比重が大きいからだ。ワインは第一義的には香りで料理と合わせるものではない。そんな粗暴な捉え方では一生ミュスカは浮かばれない。

 

 

□ミュスカ・ド・サンジャン・ド・ミネルヴォワの試飲

スッキリ冷たい山のミュスカが欲しいなら、サンジャン・ド・ミネルヴォワ。非常に石灰っぽい味。タイトで固い。単体で飲むと、たぶん全ミュスカ酒精強化ワイン中最も美味しいと思う人が多いはずだが、デザートにもフォワグラにも難しい。甘口ワインを合わせる食べ物はカントゥッチ等除いて大半は柔らかい。ピスタチオの食感を生かしたレモン風味の何か、ならどうか。夏のデザートにソーテルヌやSGNはしつこいだろうから、概してラングドックのVDNミュスカがいいと思う。

Photo_96 Photo_97

 

□ナルボンヌのワインレストラン、ガイアでの、ミネルヴォワ試飲会

先日の日本でのセミナーでは私が講師を務めた、ミネルヴォワ。その時も言ったように、ミネルヴォワは内向的な凝縮感と滑らかさと熟度と堅牢さが特徴。典型的地中海型のんびりおおらかタイプではないから、パーティー用というより、真面目なガストロミー用。生産者たちはラフな南国イメージを作り上げているが、それでは誤解される。クリュであるラ・リヴィニエールを見てほしい。恐ろしくシリアスで高貴なワインではないか。

Photo_98 Photo_99

 

コルビエールと同じ、いやそれ以上に、赤ばかり。しかしミネルヴォワの白は高いポテンシャルがあり、緻密でミネラリー。Caihol Gautrand の白Villa Luciaはこの試飲会での白眉で、テレットを理想的な形で使用。私が頭で考えていた理想のラングドック・ブレンドの形に近い。よくあるグルナッシュ、ルーサンヌ、ヴィオニエ、ヴェルメンティーノのブレンドでは陰陽バランスが取れないのだ、と、これを飲めば誰もが理解出来る。これからオーガニック認証を取るし、さらに期待していい生産者。亜硫酸無添加の赤もセンスの良さを感じる。

Photo_100 Photo_101 Photo_102 Photo_103 Photo_105 Photo_106

 

 バルービオのミュスカ・ド・サンジャン・ド・ミネルヴォワは常に安心の出来。今回出されていたワインは、ミュスカを遅く摘んで、ミュータージュを極小に抑えたVDN。酸は低くなるが、より粘りが出て味が濃く、リッチなデザートやチーズ向け。これは役に立つ試みだ。

ドメーヌ・カンタローズは広い畑を所有しているが、大半のブドウは協同組合に売って安定した収入を得、良いブドウだけで自分の好きなワインを作るとか。うらやましい限り。だからワインには算盤が感じられずに飲んでいて気が楽だ。「ステンレスタンクがあなたの望むことの足を引っ張っている。ファラデーケージの問題にはちゃんと対処しないといけない」と言うと、「だからこれから地元陶器の甕にする」と。世の中良い方向のワインが増えてきて嬉しい。そしてここも近いうちにオーガニックになるはずだ。

 

□グリュイサンの海辺でのラ・クラープ試飲ディナー

ラ・クラープの南、グリュイサンの海辺にある魚料理店、La Boile Blancheでの、ラ・クラープのテイスティング。料理は写真のような魚、エビ、貝の串焼き。いかにも海辺。

Photo_109

Photo_116

 

ラ・クラープは紛れもなくグラン・クリュ。赤はバンドールと並ぶレベルの高品質なムールヴェードルを軸とした、極めて高密度なミネラルとラングドックでたぶん最もシルキー(ベルベッティではなく)なタンニンを備えるワイン。海側はよりゆったり。山側はよりかっちり。白はブールブーランク主体。こちらは赤以上に海側畑と山側畑で性格が異なり、前者はトロピカルな厚みのある果実感とどっしりした安定感、後者はくっきりした緊張感のある冷涼さが特徴となるが、どちらも余韻が極めて長い。

個人的には海側の白が一番興味深い。なぜならフランス白ワインの中で、魚に合うグラン・ヴァンは本当に少ないからだ。ラングドック委員会のベルナールさんに、「フランスでは一般的に魚にはいったい何を合わさるのか」と聞くと、「シャブリかミュスカデ。最近ではピクプール・ド・ピネも人気。酸の高いワインが合うとされている」。酸で魚の味を流そうとするのだろう。魚が好きではない国民なのか。そもそもシャブリをはじめとするブルゴーニュは典型的な内陸ワインだから、新潟のノドグロに岐阜の酒を合わせるようなものだ。ミュスカデはクリソン等いくつかのクリュを除いてリッチな高級料理に対しては厚みや余韻や風味の複雑さに欠けるものが多く、さらに質感が固くて酸が強すぎ、魚にはなかなか合わない。ボルドーの白はこれまた固くて酸っぱいものが多い。地中海に魚は沢山いるのに、地中海の白はどこにあるのか?プロヴァンスのカシーはソービニヨンやコロンパールが入っているから案外北方系の味で、必ずしも地中海の味ではない。他のプロヴァンスはロゼばかりだ。では海沿いの白ワインは、と言えば、誰しもピクプール・ド・ピネと考える。実際に人気だ。しかし、よいワインとはいえラ・クラープと並び立つほどのグラン・ヴァンではない。

こうして見ると、フランスは赤ワインばかりでまともな白ワインが少なすぎる。だから地中海に面した傑出したクリュであるラ・クラープの海側白ワインは貴重な存在なのだ。重心が低くリッチで酸が低く大きく柔らかく、しかし緩さが皆無で構造は明確。魚とワインの相性をまともに考えようと思っているフランス料理店は(日本もフランスも)、これを置くべきだ。

Photo_110 Photo_113 Photo_112 Photo_115 Photo_114

 

いかにも海側白らしい味は、Chateau Marimorieres。山側白らしいのはChateau Ricardelle。そしてChateau L'Hospitaletはビオディナミだけあってさすがのダイナミズム。一緒に食事したDomaine Ferri Armaud も世代交代してこれから伸びそうだ。日本には輸出していないが日本が好きで、今年の春はもう花見をしながら、去年の夏には富士山頂上で自分のワインを飲んだとか。今年の冬も行きたいと言って、隣の母親にたしなめられていた。日本に行く前は寿司とか日本酒とかまずいと思っていたそうだが、本物を経験して衝撃を受けたとか。春には神戸にも行って神戸牛に魅了され、いったいフランスにある日本食はなんなんだ、と。日本に観光に来てもらうのはいいことだ。来れば多くの人が日本ファンになる。日本のフランス料理はフランスの日本料理よりはいいだろう?と聞くと、ノーコメント。うーむ。

海の家食堂でのテイスティングは楽しいが、シンプルな料理ではワインの前に跡形もなくなる。ラ・クラープが相応しいのは複雑且つ良質な料理だ。世界じゅうのワインファンがそういった認識を共有するまでは、まだまだ努力しなければならない。

 

 

□ピク・サン・ルー訪問

久しぶりのピク・サン・ルー。畑の向こうに見える左の山がピク・サン・ルー、右がロルテュス山。畑には白亜紀の白い石灰の礫が積もり、土も白っぽい。場所によっては黄色いジュラ紀の石灰の礫。多くのワインは両者の土壌から造られるとのこと。こうした石灰の斜面のみがピク・サン・ルーAOPで、斜面下のマルヌ土壌はIGP。こんなに白い土なら白ワインも美味しいかと思いきや、小さくて短い。分からないものだ。

Photo_118

Photo_119

 

ピク・サン・ルーは1956年の霜でいったん全滅している。その後、どの品種を植えるべきかを模索して、現在のようなシラー主体(規定では50パーセント以上、実際のワインはもっと多い)にグルナッシュを混ぜたスタイルが70年代にできあがり、80年代に20軒のワイナリーが自社瓶詰めを始めて評価を得た。産地名付きのラングドックAOCに認められたのは1994年。若い産地である。

降水量はラングドックでは、いやフランス全体を見ても例外的に多く、1000ミリに達する。しかし内陸にあって山に囲まれているから夏の日中の気温は40度、夜は15度と激しい気温差。これがしっとり感、熟度、高い酸をもたらし、シラーにとって最適なテロワールとなる。十年以上熟成させた冷涼年(例えば2008年)のピク・サン・ルーはまるでブルゴーニュであり、そこが人気の理由だろう。好き嫌いは別にして、赤ワインの質は見事の一言だ。オーガニック比率は四割を超える。それも平均品質を高めている。

Photo_121

好きな生産者は写真のMas Peyrolle。自分で理科系と言うし、線がくっきりして真面目で安定した味がする。ピク・サン・ルーはその方向でいい。赤も当然良い出来だが、ここのロゼが例外的に美味しい。多くのプロヴァンス的な実体感のない酸っぱいピンクワインが嫌いだそうで、話が合う。きちんと重心が低く、適度な厚みと粘りがある。しかしピク・サン・ルーらしさは彼の赤ワインのほうに遥かに感じられる。他のロゼは知る限りすべて美味しくない。

Photo_122

 

ピク・サン・ルーは繊細さや酸を失っては意味がない。あくまで北方的な細やかな山ワインとして評価しないといけない。以前は無理に強い味にしたものもあったが、白い土のワインは白い土らしく造ふべし、と皆理解したようだ。ゆえに牛肉ステーキには合わず、基本は鶏肉やラムだろう。それなのにランチには牛肉ランプのステーキが出てきた。もちろんどのワインともまったく合わなかった。

Photo_123 Photo_124 Photo_125

 

パリでも地元でも、ピク・サン・ルーをカジュアルな文脈に押し込めるきらいがある。それこそ北方民族による地中海文化の低位固定化であり、ピク・サン・ルーのテロワールが備える高貴さに光をあてる努力が必要だ。それはピク・サン・ルーに限ったことではないが。日本での使い方としては、通常ならブルゴーニュの上質なピノ・ノワールがぴったりな鴨や鳥系ジビエと合わせるのが分かりやすいだろう。本当ならブルゴーニュ一級が合うが値段的にあり得ないという状況は多い。そこで村名や地域名になってはまったく意味をなさない。その値段なら、十年熟成させたピク・サン・ルーがお勧めだ。

 

□まとめとして

飲むたびに品質向上が顕著だと分かる、まだまだ伸びしろのある産地、ラングドック。しかし技術が表に出ることは少ない。それを上回る自然の力強さこそラングドックの魅力だからだ。ブドウが本来育つべき場所に育っているかのような安定感を欲するなら、人為優勢の産地のワインでは物足りなくなるか、落ち着かなくなるものだ。ワインから力をもらいたいなら、フランスにおいてまっさきに考慮すべき産地はラングドックである。フランスワインの新世界とのキャッチフレーズだが、私はそうは思っていない。歴史的事実として、フランスワインにおける初源の地、むしろフランスワインの中の旧世界がラングドックなのであり、その歴史に支えられた完成度という側面を忘れてはいけない。

ラングドックのテロワール別AOPは基本どれも1000円台のワインではなく、3000円台超のワインだ。我々はAOP、IGP、ペイドックのヒエラルキーとそれぞれの役割に対してもっと意識的にならねばならない。単純化するなら、ペイドックは高CPヴァラエタルワインの産地としてのラングドックに対応し、IGPはテロワールの魅力を創造的に表現した楽しいワイン産地としてのラングドックに対応する。これらふたつは確かに“新世界”と呼んでもおかしくはない。しかしAOPは違う。自然・歴史・伝統・文化が一体となったものがAOPであり、知的感性的両側面での真摯な取り組みを消費者側にも要請するワインである。ラングドックのテロワール別AOP(つまりジェネリックなラングドックAOPやコトー・デュ・ラングドックAOPを除く)はそれぞれ確たる個性をもっている。その個性を探求する努力に対して、ラングドックは必ずや豊かな見返りを用意している。それが分かれば、いまだラングドックは恐ろしく安い。しかしAOP、IGP、ペイドックの役割分担を理解せず、ただひとつのラングドックとしてしか把握できないと、この広大な産地のいったい何のワインをなんのために買えばいいのかも見えず、結局は安いワインを価格で選ぶことになる。それが長らく続いて改善の兆しがなかなか見えない日本の状況である。

ゆえに我々はまず、まさに冒頭に記したように、それぞれのAOPの本質を、その判断の基準点を見定める努力をまずしなければならない。その理解のあとに、本質に沿ったワインの使用(料理との相性等)を創造的に行うことで、ワイン消費が正しいアール・ド・ヴィーヴルとなる。道はまだ遠いが、行くべき方向は明確だ。

 

2019.04.08

エルヴェ・ジェスタンとの雑談

 醸造長を務めるシャトー・ダヴィーズのシャンパーニュを携えてエルヴェ・ジェスタンが来日した。「私はワイン醸造家であってプロモーションは自分の任ではない。プロモーションツアーなどには行かない」と言っていた彼が来るとは驚く。シャトー・ダヴィーズの輸入にかかわる人たち、そして日本のワインファンが、世界でもっともビオディナミとエルヴェ・ジェスタンについて理解しているからだ、と考える以外に説明はつかない。つまり、プロモーションではなく、魂と霊の交わりのために彼は来たのだ。

 既に多くの方々が来日したエルヴェ・ジェスタンの話を直接聞いたはずだ。私が何か付け加えて話すことがあるとは思えない。内容の濃いインタビューはこれから多くのメディアに掲載されるのだから、私が“インタビュー”するなど僭越だ。だからここではエルヴェ・ジェスタンと私の一時間半弱の軽い雑談を載せて、エンターテイメントの役に立とうと思う。


2

 

 

田中・お久しぶりです。何か月か前にメールしたじゃないですか、ブルゴーニュからパリにのぼる途中、エペルネで会えるかと。返事がなかったが。

ジェスタン「あの頃はセラーの仕事が忙しくてそれどころじゃなかったから」。

・その時に持参しようと思っていたカップとコースターを今持ってきた。

「ああ、このコースターは君の知り合いが私にこの前見せてくれた。レッヘル・アンテナで計測しようとしたらアンテナがまったく反応しない。不思議だ」。

・外乱要因を遮断してある種の閉鎖空間を作ろうというのがデザインの意図だから、アンテナが反応しないのは当然。というか、自分が考えたセオリーが実証されてうれしい。ペリエのグラスをコースターに載せる前と後で水のエネルギーがどう違うかを計測してみよう。

Photo_1



(レッヘル・アンテナで計測して)「載せる前は600。エネルギーがとても少ない」。

・計測するまでもなく飲んでみれば分かる。

「どのくらいの時間載せておけばいいのか」。

1分もあればじゅうぶん。

「おお、載せたら同じ水が16000になった」。

・ね、効くでしょう?載せる前と比べて味が大きくダイナミックに。しかし16000という数字が多いのか少ないのかわからない。

「普通のワインで12000、オーガニックワインで17000、ビオディナミワインで最高30000まで行く。先日DRCのコルトンを計測したら29000だった。コルトンの丘は古えの時代スピリチュアルな場所だったと思う」。・

・コルトンの丘はそうでしょう。それにしてもペリエで16000ならたいしたものだ。コースターが何かを与えているわけがないのであって、もともとワインなり水なりが持っているはずのエネルギーが外乱要因によって失われるのを防いでいると解釈している。どうしてこれを制作しようと思ったかと言うと、プロワインのような試飲会場で飲むワインの味がまずいから。あなたもそう思うでしょう?

「ああ、そう思う」。

・それでいいのか。ワイナリーで飲むとおいしいビオディナミワインがそういう場ではひどい味になるのはなぜか、と。

「これは売っているのか」。

・売ってくれと言われれば作るけれど。私の作ったコースターの話はそのぐらいにして、今日はあなたが最近気になっていることを教えて欲しい。

「クロ・デ・キュミエールはまだまだ整備されていないし、前オーナーの家は廃墟のままだし、、、」

・銀行はお金を貸してくれないのか。

「まだ何も商品を生産していないのだから、事業計画が受理されない。シャンパーニュは売れるまでに時間が長くかかるからしかたない」。

・南東の角のあの家はどのみち使わないのだから、あの区画は売却して原資にすれば整備がもっと進展するのではないか。

「それは絶対にありえない。クロの中に他人が入り込むなんて!」

・ならば時間がかかるのもしかたない。

「この前君がクロ・デ・キュミエールで話していた自根の計画は進めている。しかしブドウを自然の木に這わせて育てる話に関しては、適当な木を見つけ出せていない」。

・できることからやっていけばいいと思う。

「いま最大の関心事はアイリッシュ・タワーだ」。

・なんですか、それは。

「高さ最高2メートル、普通は06から15メートルほどのタワーで、バサルトでできている。その上には内角60度の三角錐が載っている。これを畑の中に置くと不要な電磁波が吸収される」。

・電磁波の悪影響は我々の共通の関心事。あなたと私はだいたい似たようなことを考えているものだが。

「あとはコスミックエネルギーを媒介するケイ素とテロリックエネルギーを媒介する火山硫黄との関係について」。

・ケイ素と炭酸カルシウムではないのか。私はそのふたつが対応関係にあるとみなしてきたが。

「いや違う、ケイ素と火山硫黄だ。あと最近研究しているのがラコフスキー・サーキット。これは第二次大戦前に活躍した医師ジョルジュ・ラコフスキーが発明した銅線で作るオシレーター。現在のブドウ栽培ではミルデュー対策に銅を使う。ビオディナミでも銅を使う。しかしその発想はどこかおかしい。生体バランスが崩れるから病気になるのであって、生体バランスを整える方法を考えるのが本筋ではないか。土に差した銅線を上にのばして環を作り、一部分は接触しないままオープンにして、その環の中にブドウの幹が入るようにする。開口部は通常なら北に向ける。君の作ったテイスティングカップも銅の環がついているね」。

・だから、別々のところで似たようなことをしているものなのですよ。銅には何かの特別な働きがあると思っていろいろと実験した。このカップの銅の環を用いて外乱をトラップしようと思った。銅を直接畑に散布するのは確かにおかしい話だ。私は誘引用ワイヤーを鉄から銅に替えて大地アースに繋ぐことでミルデューは相当抑制されるのではないかと、以前あるところで話したことがある。

「現在のビオディナミの方法に囚われていたらいけない。シュタイナーはアルコールを否定しているのだから、ビオディナミでワインを造ることには限界がある。シュタイナーの時代は大量生産の粗悪なアルコールが出回っていたから、それをもとにして彼は反アルコールの立場をとったのではないか」。

・シュタイナーが反対しているのはアルコールを目的としたアルコール飲料の摂取であってワインそのものではないと思う。コーランや旧約聖書の記述を見ても、酔っぱらったら礼拝所に入るな、といったことが書かれている。それは世界中の常識で、何か特別なことを言っているとは思わない。ワインを飲む意味とは、いわば礼拝所、会見の天幕に入ること。それは我々がより高次なものへとつながり、我々を進化させるための手段だ。

「それこそが我々がワインを造る意味だ」。

・ここを明確にしないままビオディナミの議論をするから混乱する。ニコラ・ジョリーは今年11月に来日してセミナーをする予定で、その時どんな内容の話にするかを彼と議論していた時、彼はSO2の問題を取り上げる、と。私は、それも大事だが各論であって、まず根本の意味を問い、そこから演繹せねばばらないと言った。

「当然だ。だからワインは2杯までしか飲むべきではない。2杯までは頭脳が覚醒する。それ以降は酔っぱらう」。

・私にはワインを飲んで酔っ払うということが分からない。ワインをなんだと思っているのか。さて、近年の温暖化への対処は急務。それについてのあなたの考えは?

「ヨーロッパの2018年は非常に暑く、多くのワイナリーで発酵が停止したり、一次発酵とMLF発酵が同時進行したり、揮発酸が発生したりという問題が生じた。私は果汁に石灰石を入れ、月の光を浴びせてから発酵することで対処した。

・太陽のエネルギーが強すぎる時に、多くの人は早く収穫することで対処しようとする。だから最近の多くのワインはおいしくない。ビオディナミ的に発想すれば、太陽のエネルギーが強いとは、その反対のエネルギーが相対的に弱いと考えるべき。だから太陽のエネルギーを減じるのではなく、月のエネルギーを強化しなければならない。石灰は月のエネルギーの媒介者となる。あなたの方法は完璧にビオディナミだ。それではあなたが造ったシャトー・ダヴィーズ・グラン・クリュ・ブラン・ド・ブラン2012年をテイスティングしてみましょう。・・・・・・・・おお、紛れもなくダイナミックなエルヴェ・ジェスタンのシャンパーニュであり、骨太で腰が強いアヴィーズの味。これはワイナリーの前の畑から?

Photo

「そう。2010年の初ヴィンテージは畑の農薬の影響が強く、自分たちで瓶詰めするに値する品質ではなかったからネゴスに売った。2011年は途中の段階」。

・ええ、分かっていますよ。2012年はビオディナミの味になっている。畑の地形を考えればなおさら驚くべき垂直性。大地から天空へと伸びる円柱のような、あるべきビオディナミ・シャンパーニュの姿だ。ではこれを私が作ったテイスティング・カップで飲んでみてください。三つある突起に指を触れるようにして。

「わあ、頭頂からさらに上のほうにぐわっと力が上がってくる」。

・地上性を離脱して天空につながる力がなければ本来のワインではない。もちろんそれはワインの中にあるのだが、通常のグラスでは表現しきれない。上に三つの突起、そして下に四つの足、これが大事。

「そうそう」。

・私もあなたから学ばせてもらった。あなたのセオリーをカップの形で具体化したつもり。だからもちろんあなたのワインは本来の味になる。ただ、これはステンレス発酵なのだろうか。味の広がり方がそんな感じがする。

「このヴィンテージの段階では樽三分の二、ステンレス三分の一。今ではすべて樽発酵。アンフォラ、テラコッタの類は好きではない。なぜなら土にはワインの風味に悪影響を与える鉄やマグネシウムのような金属、有害なアルミニウムのような金属が入っているからだ。発酵は高い位置で、熟成は低い位置で行い、発酵樽から熟成樽には重力で移動させることで、ワインに重力のエネルギーを与える」。

・発酵が高くて熟成が低いという考えには疑問がある。ブドウの死と再生=発酵と考えるなら、発酵は地下で行われるべきで、そのあとワインになって霊的な力を得ると考えるなら熟成は高い場所で行われるべきではないのか。それは以降の考察対象としておいておきたい。もうひとつの疑問はドサージュ。シャトー・ダヴィーズの2012年には4グラムの砂糖が使われているが、なぜ砂糖なのか。なぜムー・ド・レザンではないのか。

「私はムー・ド・レザンは絶対に使わない。発酵していないブドウジュースと発酵したワインのあいだには断絶がある。砂糖とワイン以上に関係がない。砂糖は熱を加えられて結晶化している。生のものはエネルギー・レベルが低く、ワインのエネルギーを引き下げる」。

・その説明は納得できる。それでも砂糖はブドウではないので、やはりワイン=ブドウを発酵したもの、という本義からは逸脱している。おいしいかまずいかではなく、ドザージュは哲学的問題を引き起こす。だから私は昔からノン・ドゼが一番と主張し続けている。ノン・ドゼである以上は純粋性議論に陥ることはない。

「毎年ドザージュは少しづつ減らしている。しかしドザージュはワイン自身が欲しているなら問題はない。レッヘル・アンテナを用いてワインに聞いてみればよい。ワインが望むなら1グラムとか2グラムといった砂糖を加える。人間よりワインのほうがものを知っているのだ。地球上の問題を解決するための宇宙からのメッセージは我々に送られている。宗教家とはそのメッセージを聞き取ることができる人だ」。

・その宗教家に盲目的に帰依したらカルトになる。私は宗教家でなくとも人間は誰でもメッセージを聞き取る力を持っていると考える。ただその力は多くの人にとっては休眠中の種子のようなものだ。ワインとはその種子を発芽させる契機なのだ。

「その通りだ!」

2019.03.28

ドメーヌ・ツィント・ウンブレヒト当主、オリヴィエ・ウンブレヒトのインタビュー

 アルザス最高の生産者のひとり、ドメーヌ・ツィント・ウンブレヒトの当主、オリヴィエ・ウンブレヒトが来日し、セミナーを開催した。その詳細なレポートは他のワインジャーナリストの方々が書かれるだろうから私の出番があるとも思えず、またセミナーの内容の大半はこれを読まれている方々には既知の事柄だろうから、それを書いても退屈させてしまい申し訳ない。だからここではオリヴィエのセミナー内容はほぼ省略して、彼への個人的なインタビューを書くことにする。

Dsc08322-2

                  ▲アルザスを牽引してきたオリヴィエも来年で引退、ドメーヌは

                   次世代に引き継がれる。

 

OH「発酵熟成はアルザスのオークの大樽で行う。もし樽の使用を禁じられたらワイン造りをやめるしかない。ステンレスタンクは好きではない。ステンレスは宇宙とのつながりがない。コンクリートタンクも好きではない。コンクリートの中には金属が入っているからだ」。

KT・金属がよくないなら、樽のフープも鉄ではありませんか。瓶に鉄線を巻いてワインを飲んでみるとひどい味になります。ならば樽のフープも悪影響を与えているとみなすべきでしょう。絶縁物質つまりナイロン等で樽を縛ることを考えたことはないのですか。

「ステンレスとコンクリート内部の鉄はファラデー・ケージとして機能する。飛行機や車に落雷しても感電しないのは飛行機や車が導電体の箱だからであって、その内部には電気力線が侵入しない。ファラデー・ケージは導電体表面で電荷が移動して外部からの電気を中和する。内部のワインのコロイドは電荷を帯びており、これもファラデー・ケージに引き寄せられ、コロイドが浮遊状態のままでワインはいつまでも白濁したままとなる。樽のフープはファラデー・ケージを形成するほど多くない。これはビオディナミとは関係なく純粋に物理学的な事柄だ」。

・樽の殺菌は火山の硫黄を使用するのですか。

「樽の殺菌は火山の自然の硫黄だが、ワインに添加するのは石油由来の液体。できれば自然の硫黄を使いたいが、中毒の危険を伴うし、ワインに対しては現実的なオペレーションとして難しい。最近ロワールで火山の硫黄を使いつつ適切量を添加する器具が発明された。それは酸素ボンベとバーナーを使って800度に硫黄を熱して気化させるのだが、酸素と火が同じ場所にあれば最悪の場合どうなるか」。

・爆発です。

「自分でも使いたくないし、従業員に使用させて事故が起きたら私は刑務所行きだ」。

・あなたのワインには石油由来の硫黄の影響を感じるのですが。

「それは長期の澱上熟成による還元だ。ランゲンの場合は土壌が火山性だからワインには硫黄の香りがする。ブドウの段階から既に硫黄の香りだ」。

・澱はファイン・リーなのですか、それともグロス・リーなのですか。

「グロス・リーでなければワインに栄養を与えられない。ファイン・リー上の熟成は風味を変えたり少し濁ったワインになったりするだけで、化粧でしかない」。

・アルザスでは多くの場合、ブドウの圧搾はドイツよりはるかに長い時間をかけますよね。12時間とか24時間とか。これはアルザスの伝統なのですか、それとも誰かが最近考えたことなのですか。

「それは私が1986年に考案したことだ。4時間、8時間、12時間と圧搾時間を変えていろいろと実験してみた。うちではいろいろなワインがあるから24時間にするには圧搾機械を増やさねばならず、そのスペースはない。長時間の圧搾をするとジュースがきれいになるからあとでフィルターを強くかけなくともよくなる。またワインのストラクチャーやボディーをもたらす成分は圧搾の終わりの時に出てくる。なぜドイツでは短時間圧搾なのかといえば収量が多すぎるからであって、ブドウを絞り切ってしまったら法的最大収量を上回る果汁が取れてしまう。だから彼らは短時間で軽くしか圧搾しない。結果、ああゆう味になる。同じ問題は現在ブルゴーニュでも見られる。軽やかな味になるかも知れないが熟成しない。軽い圧搾は発泡ワインにはいいが、スティルワインにはよくない。最近のブルゴーニュの早すぎる熟成は、私見では圧搾の問題なのだ。2003年のワインはリリース当時は酸がないから熟成しないと言われていた。しかし今飲むとどうだ?」

・素晴らしい熟成を見せています。今でもビビッドです。

「なぜなら2003年は収量が極めて少なく、誰もが過収量に陥ることなく、しっかり成分を引き出すことができたからだ。また、ブドウが完熟していなければ熟成のための成分は得られない。RVF誌が暑い年のワインという記事を作るために私もワインを供出したが、暑い年のほうが熟成するのだ。2010年を見てほしい。リリース当時は酸があって最高だと皆が言っていたが、今ではどうだ?」。

・失望させられることが多い。酸化が早い。私も近頃は暑いヴィンテージのほうが好きです。

2010年はブドウの成熟度が足りなかったからだ。だから私は完熟したブドウを収穫するのだが、アルコールっぽい味にはならない。ビオディナミによってブドウが自律的にバランスを調整する。ランゲンのゲヴュルツトラミネール2016年はアルコールが実は15度もあるが、そうは感じないだろう。ところで長時間圧搾はいいが、オレンジワインには反対だ。ゲヴュルツトラミネールを醸し発酵したら恐ろしく苦くて飲めたものではない。リースリングもそうだ」。

・ピノ・グリのオレンジワインは成功していると思いますが。

「確かに。それはピノ・グリの果皮が薄いからだ」。

・数日前に私は某グラン・クリュの会長とメールでやりとりしていて、これからそのグラン・クリュにはピノ・ノワールを含めるかそれとも複数品種のブレンドを含めるべきか、といった議論をしていました。そもそもなぜグラン・クリュは4つの品種までしか許されないのか。他の品種やスタイルをグラン・クリュに含めれば、落とされるのはだいたいのところミュスカです。栽培面積がもともと少なくて市場も小さい。とするとミュスカの伝統が滅びることになる。認可品種を増やせばいいだけのことでしょうに。

INAOというのは、これからピノ・ノワールを植えたいのですがいいでしょうか、といったお伺いを立てる相手ではない。申請するまでに、ピノ・ノワールがその畑で成功し、そのワインの質が既に評価の高いピノ・ノワールと比べて同レベルであることを長い時間かけて証明し、その結果を持参して初めて審査を受理される。変更しようとしたら、今まで認可されていた品種の中で売れていないものがあれば、なぜ売れないのか、植えるべきではないのではないか、と厳しく尋問される。7品種をグラン・クリュに含めるという申請をすることは原理的には可能だが、そのためには7品種すべてのワインがグラン・クリュにふさわしいと証明しなければならない」。

・つまりはビジネス的成功を収めているものがよい、という話ではありませんか。グラン・クリュか否かと売れるか売れないかとは別でしょう!

「いや、売上ではなく、評判が重視される。しかし売上の数値以外で評判を証明するのは難しい、、、。そもそも現在のINAOの方針は、増やすのではなく減らす方向だ。本当にその畑に合うとされている品種のみに絞ろうとしている。どこでもミュスカは植えてあるにせよ、ではどのグラン・クリュでもミュスカは成功するのか。ウィーベルスベルグにミュスカは必要ないだろう」。

・有名なビオディナミ生産者がウィーベルスベルグにミュスカを植えているではありませんか。なかなかおいしいと思いますが。

「ウィーベルスベルグのミュスカはくそだ。たとえばゴルデールのミュスカは最高だ。ゲヴュルツトラミネールも最高だ。しかしゴルデールのリースリングはくそだ、ピノ・グリもくそだ」。

・そうですか、グートが最上部に植えているピノ・グリはなかなかいいですよ。

「なかなかいいでは、グラン・クリュとしては不足なのだ。卓越していなければならない」。

・そんなことを言ったらモエンチベルグとかどうなるのですか。何か卓越していますか。

「え?UのほうかOのほうか」。

・粘土のほうですよ。

「それはグラン・クリュの中にでも上下はある。しかしその話をしたら私は殺される。それにグラン・クリュじたいを責めるよりその畑でワインを造る生産者をまず疑うべきだ」。

・モエンチベルグはビオディナミやオーガニックの生産者が多く所有しているではありませんか。

「ビオディナミならいいわけではない。ダメな生産者とは教科書的ビオディナミであって、人の言うことを聞くだけで自分で考えていない。もしモエンチベルグを有能な生産者の手に任せたら、果たして今のような品質かどうか」。

・あなたはピノ・ノワールに対して懐疑的で、ブルゴーニュの品種はブルゴーニュに任せておけばいいと言いますが、その論理ならリースリングはドイツに任せておけばいいということになりませんか。そもそもピノ・ノワールはブルゴーニュ品種というより修道院品種でしょう。だからクロスター・エバーバッハでもクロスター・ノイブルクでもピノ・ノワールを栽培してきた。

「君は12世紀の修道士に、アルザスに持ってきた黒ブドウが何かを直接聞いたのか。君は事実誤認をしている。彼らが導入したのはピノ・ノワールではない」。

・え?中世のシュタインクロッツは赤ワインで有名でしたが、あれはピノではないと。

「彼らが持ってきたのはガメイだ。シュタインクロッツはガメイのワインだった。我々が住むトゥルクハイムもガメイの産地だった」。

・それは初耳です。ならば再びガメイを植えればいいではありませんか。ガメイは悪い品種ではありません。

「そうだ、ガメイは悪くない。植えてもいいと思う。ただボージョレのガメイのせいで、世の中ガメイと聞くとまずいと思う。えー、ガメイですかあ、と皆に言われるだろうから商売にはならない。自分がガメイを植えるなら、ボージョレではなくコート・ロアネーズに生き残っている優れたガメイにする」。

・そうは言っても、キルシュベルグ・ド・バールのピノ・ノワールはブルゴーニュうんぬんと比較する必要なく素晴らしい品質です。結果が出るならいいではありませんか。

「だからキルシュベルグ・ド・バールのピノ・ノワールは近いうちにグラン・クリュになる」。

・濾過についてお聞きします。アルザスのワインは残糖があるから濾過はほぼ不可避です。しかし濾過すれば味がフラットになる。今日のテイスティングに出された2016年のランゲン・ゲヴュルツトラミネールは今まであなたが造ったランゲンの中でも最高傑作だと思いますが、06グラムしか残糖がなければ濾過の必要はありませんよね。

「ああ、あのワインは自分でも最高傑作だと思う。MLFをしているからなおさら濾過の必要はない。だからタンクの底の部分の濁った部分だけは板フィルターをかけたが、清澄度の高い部分はフィルターをバイパスした」。

・どうりであのワインがあんなに複雑でおいしいのですね。

「フィルターをかける際には圧力計を注視していなければならない。目が詰まってくると圧力計の針が急に跳ね上がる。それでもワインを通そうとするとストレスがかかってまずくなる。自分も濾過しないワインがいいと思うが、そうするとワインが少し濁るからあれこれ問題が、、、。無濾過で瓶詰めしたヴィンテージもある」。

・何年ですか。

1999年、2000年、2001年」。

・ああ、私が最高だと思うヴィンテージではありませんか。やっぱりそうだったのですね。再び無濾過に戻るべきですよ。

「コルクを抜いて泡が出てもいいなら」。

・私は大丈夫です。

 

2019.02.14

Jo Ahearneによるクロアチア、フヴァール島ワインのセミナー

 
Photo_5

 イギリス人MWジョー・アハーンがクロアチアのフヴァールで造ったワインをテイスティングしつつ、フヴァールと主要品種プラヴァッツ・マリについて深く学ぶセミナーが、輸入元ヴァンドリーヴ主催により、南青山のキャプラン・ワイン・アカデミーで行われました。
 以前、日本橋浜町ワインサロンでもフヴァール島のワインについては現地取材をもとにご紹介しました。フヴァールは全長150キロの島ですが、人口は11000人しかおらず、未開の土地が広がっています。あるのはブドウ畑ぐらい。おなかがすいても食べるところさえ見当たらない(冬はどこも休み)。しかしそのワインは圧倒的です。日本橋浜町ワインサロンでお出しした過去すべてのワインの中でもベスト10に必ず入るほどです。

Photo
▲フヴァールの畑を説明するジョー・アハーンさん。映っている写真は、畑から海を見下ろしたところ。転んだら天国行きです。

 フヴァールの気候は、最高気温30度、最低気温6度、日較差8から10度、日照時間はヨーロッパの島で最高となる2800時間、そして降水量700ミリ。南の海沿いは急斜面、北は平地で肥沃です。土壌は石灰岩か、ドロマイト。場所によって細かく石灰になったりドロマイトになったり。石灰岩は酸性水に溶けるので脆くなって根が深く入り、ドロマイトは溶けないので逆。石灰岩土壌のほうが陽イオン交換容量が大きく、ワインの酸も高くなる。ようするに石灰岩のほうがドロマイトより優れているようです。

Photo_2
▲プラヴァッツ・マリとその親品種の歴史。プリミティーヴォがヴェネチア共和国滅亡の近くになって初めてイタリアに渡ったのが興味深い。それまではヴェネチアによって守られていたと考えるべきか。


 プラヴァッツ・マリは19世紀の終わりに生まれたCRLJENAK KASTELANSKIとDOBRICICの自然交配品種。CRLJENAK KASTELANSKIは18世紀半ばにイタリアに渡ってプリミティーヴォになり、19世紀半ばに(たぶんウィーン経由)アメリカに渡ってジンファンデルになりました。もともとの品種は病気でほぼ絶滅してしまい、今フヴァールに植えられているジンファンデルはアメリカから持ってきたものだそうです。プラヴァッツ・マリは意外と最近に誕生したのですね。

Photo_4
▲プラヴァッツ・マリは色づきに相当なムラが出る品種。ゆえに下写真のように、収穫時には必ずレーズン状のブドウが混じる。

Photo_3


 プラヴァッツ・マリとは青くて小さいという意味です。実際そういうブドウです。大変に興味深い点は、色づきが同時期に起こらないこと。写真を見ても分かるとおり、青い果粒もあれば緑の果粒もあります。これが収穫時期になっても緑だった果粒の成熟はそのまま遅れているため、収穫時には必ず未熟果、適熟果、過熟果がひと房の中にまじりあいます。レーズン状のブドウが2,3割の時点で収穫せよ、と地元では言われているそうです。それがワインになると、若干のえぐみを伴う強いタンニンとレーズンのようなこってりした風味がまじりあう不思議で複雑な味に。譬えて言うなら、ひとりゲミシュター・サッツ味。単一品種でもこの複雑さ、そして必ず表現される垂直性。それが好きな人は、プラヴァッツ・マリは世界屈指の素晴らしいブドウです。私ももちろんこの品種が大好きです。

 未熟果の種は緑色で、長くマセラシオンすればワインが強烈にエグくなるので、アハーンさんは調理用濾しザルで緑色の種をすくって除去するそうです。それをブルゴーニュでシャルドネ用に使われたジュピーユのオークの樽で熟成。ジュピーユはけばいヴァニラ香ではなく上品な個性で有名ですが、それをフヴァールで使うというセンスがいいと思います。伝統的なスラヴォニアの樽はあまり質がよくなく、トーストが強すぎるそうですが、優れた樽を発見したので、そちらも少し使用するようになったとのことです。
 揮発酸が多めの味が好きだそうで、欠陥として感知される閾値ぎりぎりのところで抑えつつ、意図してそういうワインに仕上げます。そうしないとプラヴァッツ・マリはシンプルな香りになってしまうそうです。ですから彼女のプラヴァッツ・マリ・サウスサイド2014は、昔のバローロや昔のブルネッロ的なキャラクターがあります。明らかにイタリアワインに近い。フヴァール島を含むクロアチアのダルマチアは、昔はヴェネチア共和国、そのあとオーストリアですが、彼女のプラヴァッツ・マリはオーストリアっぽくは一切ありません。
 「酸が大好き」だというだけあり、ロゼのロジーナ2017(ダルネクシャ品種)も、オレンジワインのワイルドスキンズ2017(クッチュ、ボグダヌシャ、ポシップのブレンド)も、テレンス・パトリック2016(ダルネクシャ主体、プラヴァッツ・マリ、メルロのブレンド)も、最近のワインっぽい早摘み味です。プラヴァッツ・マリ・サウスサイド2014はそこまで早摘みではない味ですが、それでも地元で飲むプラヴァッツ・マリと比べればずっと酸っぱい。地元の人にはやはり「酸っぱい」と言われるそうです。

Photo_6
▲ピノ・ノワールに似た味に仕上げたテレンス・パトリックはフヴァールのサバのグリルにぴったり合うそう。


Photo_7
▲左がアハーン・ヴィーノのプラヴァッツ・マリ2014、右がピーチー・キャニオンのパソ・ロブレスのベイリー・ジンファンデル2014。ジンファンデルのほうがなめらかだが水平的、プラヴァッツ・マリは風味の幅が広く垂直的。


 いかにも頭脳明晰なイギリス人がきちんと計算してイギリス人の嗜好に合わせて造ったワイン、といった趣。特にテレンス・パトリックは「ピノ・ノワール的なワインを造ろうと思った」そうで、その通りになっています。それも新世界のピノ・ノワールです。完成度は高いと思いますが、ここからフヴァールに入門したら、寿司をカリフォルニア・ロールから入門するようなものです。既にフヴァールに親しんでいる人なら、「ああ、こういう解釈もあるんだ」、「確かにここが問題で、こう解決したのか」、といった知的な楽しみが得られます。そういった意味では大変に高度なワインですが、経験値と知的好奇心の高いお客さんに向けたワインなのですから、それでいいのです。

 ちなみにセミナーは英語のみ。ロンドンっ子アハーンさんの早口のイギリス英語に追いつくのは私にとっては大変でした。教室の中のノリは通常とは異なり、私は最前列に座っていたのでなおさらなのですが、ふと海外にいるような気になりました。最近は日本でも英語のみでOKになったのかと、プラスの意味でもマイナスの意味でも感慨しきり。
 

2019.02.10

日本酒の勉強

沢山の日本酒を試飲しながら、日本酒をいかなる基準で評価すればいいのか思案中。なぜいいのかを表現するための用語を確定していかないと。簡単に言えば、私がワインに対して使ってきた言葉と尺度をそのまま該当させた時に、何か問題が起きるのかを自分で検証しなければいけない。例えば、A という要素があれば美味しい、と仮説を立てるとする。そして実際にいろいろ飲んで。Aという要素がないのに美味しいと思うお酒があったなら、その仮説は修正しなければならない。また、AB二本のお酒があって、Aが美味しいと思う。ではもう一方のBにはなく、Aにはあるものとは何か、と考えていきます。こういった感覚と論理を一致させる努力をしないと、何か言おうにも、まともな日本語にすらなりません。

Photo_14
 
美味しかった作品は次の写真のもの。
Photo_15
ブラインドで飲んでも、いざ蓋を開けてみると、やっぱり兵庫県吉川町特A山田錦だったりする。福井の梵の日本の翼、いかにもそういう味。氷温長期熟成によってパワー感が奥行きや複雑さに転化している印象。社長の高橋さんによれば、梵は90品目もあって杜氏は一年中忙しく酒を造っているそうです。品目数がひたすら増えていくのがどこでも問題だと思います。人間の才能には限界があるので、どれだけひとつに集中することができるかも究極的な品質に関係するはず。それでもこの作品は見事。兵庫県の福智屋の生酛純米大吟醸も堂々たる構えと安定感の中にゆったりとしつつビビッドな酸が絡み合い、香りは穏やかでいて伸びがあってたいしたもの。特A山田錦だけがいいわけではないと先日書いたばかりではないか、と言われそうですが、美味しいものは美味しい。そして地元の米と酵母で発酵したタイプも美味しいものは美味しい。青森県の米、華想いと、青森県の酵母、まほろば吟を使った桃川も、淡々とした中にきちんとした構成力があり、前後感とそれがもたらす空間の広さを感じさせ、さらには中心密度もあるため、品があります。福島県の豊久仁の純米大吟醸は、いかにも五百万石の軽快さとすーっと伸びる香りときめの細かさ。いかにも大吟醸といった趣ですが、香りと味のあいだの一体感に優れ、香りを浮足立たせないだけの足腰の強さがさりげなくあるのが素晴らしく、全体として整った品位があります。どこに美味しい理由があるのか、ずっと考えています。美味しいと思わなかったのが、吟醸と大吟醸。純米大吟醸は面白いことに、いいものはとてもいいし、ダメなものは肩透かしの極致。雫酒や中取りならいいわけでもない。
 
この4本の純米大吟醸は順当に高品質ですが、左3本は個性の面白さが印象的。岐阜のお酒の流れのスムースさと風味の透明感、京都のお酒のフワフワした捉えどころのない花霞的空気感の中に秘めた芯の強さ、東京のお酒の朴訥な当たりのよさや朗らかさや親しみやすい温度感。どれも飲んですぐに風景が浮かび、使い途が見える。東京のお酒は余韻が若干短いので点数は高くならないにせよ、実は飲んで一番身体に浸透する感じ。私は東京人なので身体の大半は東京の水で出来ているからなのか。正直、多摩自慢が一番「普通でいい感じ」に思えるとは予想していませんでした。ある意味、テロワールおそるべし。
 
 

2019.02.08

ジャパン・ワイン・チャレンジ授賞式&ワイン・イントゥー・ウォーター、チャリティ・オークションー

汐留のコンラッドホテルでジャパンワインチャレンジのトロフィー受賞生産者や代表者の方々への賞状授与式。審査員代表として私がプレゼンターをさせていただきました。

Photo_10

そのあと、高円宮妃殿下や各国大使のご臨席を賜わり、水のない国で井戸を掘る運動資金を作るためのチャリティオークション。高円宮妃殿下のスピーチのあとに、私がスピーチを仰せつかりました。ケンブリッジ大学を出られた妃殿下の美しい英語のあとで私のつたない英語とは申し訳ない。話したことは、世界各国には沢山の知られざる美しい個性があり、それらは一つの尺度で優劣をつけるべきものではなく、ひとつひとつの存在の中に踏みいって本質を見る努力をすべきである。そしてそうした未知の美しさを発見して世の中に知らせるのが我々の責務である。といった内容。目の前にアルメニアやクロアチアの大使がおられたので、ヴォスケハットやアレニ・ノワール、ポシップやブラヴァッチ・マリを例に挙げて話しました。例によって急に言われて即興スピーチですが。

...Photo_11

Photo_13

 

それにしても、こうしてトロフィーワインや日本酒を飲むと、ジャパンワインチャレンジとインターナショナルサケチャレンジがいかにユニークか分かります。普通ならトップにならない作品がトロフィーです。

例えばベスト日本ワインは、都農ワインのスパークリングうめわいん。甲州でもメルロでもなく、ブドウですらない、梅を発酵したもの。日本ワイン関係者全員が卒倒するか激怒するか嘲笑するか、でしょう。日本のワインのプロは、こうした作品がブラインドで出てくると、イレギュラーだから判断停止してしまうか、梅は補糖と加水なしにはワインにならず、不純であり、炭酸ガス注入式は邪道であるとして却下するでしょう。それは原理主義です。結果より理屈優先。しかしこのワインは、ミネラル感、構造、バランス、垂直性、余韻の長さといった普遍的評価項目において優れているだけでなく、純粋に美味しい。さらに、地元名産の果物の素晴らしさを知らしめる役割をしっかり果たしている。そして商品企画力、具体化の技術において卓越している。他にはないユニークな美味しさを初めて作り出したこと自体、絶賛されるべきものです。そもそも宮崎で無理してヴィティス・ヴィニフェラを栽培するのがそんなにいいことか。地元に育つ伝統的な果物を使う方がテロワールのワインとして正しくはないか。さらに言うなら、梅は自根だし、より自然な形で生えている果物ですから、ブドウより自然なエネルギーがある。よく出来たボルドーもどきやブルゴーニュもどきを日本で作っても仕方ない。ウソだと思うなら、このワインを買って試して欲しい。ちなみに外国人審査員は皆評価しました。彼らは美味しいものは美味しいと自信を持って言う。そしてこれが日本でしかあり得ないワインであることを評価する。生産者の方は、海外からの観光客に評価される、と。それは当然でしょう。

Photo_12

日本酒もしかり。トロフィーを取った岩手の浜千鳥大吟醸は、通常なら評価されない類の酒。固くて厳しい味。しかし大吟醸なのに重心が真ん中にあり、立体的垂直的で余韻が長く、タイトでミネラリーで、しっかり背骨がある。いかにも岩手。兵庫の山田錦を使ってもこの強烈に岩手らしい味を出してくるのがいい。つまりどういう味なのか違う表現で言ってくれ、と、岩手めんこいテレビの方に質問されたので、「岩手短角牛の味、石割桜の姿」と答えました。日本じゅう同じ味のお酒では意味がない。土地の神さまに捧げるに相応しい、その土地らしい味でなければ。

梵の天使のめざめは更に過激な個性。「いろいろ受賞してきましたが、天使のめざめに賞を与えるのはこのコンテストぐらい。普通なら門前払いのお酒」だと。使用するお米は地元産のいろいろな品種ブレンド。山田錦ではなく、普通米さえ使っています。それをフレンチオークで10年熟成。アルコール度数18度、日本酒度マイナス15。日本酒かどうかさえ分からない味。あえて他に喩えるならリブザルト・ランシオ。ものすごいパワー、凝縮度、複雑さ、垂直性、構造、余韻、そして唯一無二の美味しさ。暴れた要素を熟成によってまとめ上げたダイナミックな構成。世に溢れる去勢酒の反対。私は20点満点をつけました。外国人審査員と私は高い点数、日本人審査員は低い点数。同じ話ばかりですみませんが、ユニークなものに対する評価が出来ないのが日本人です。ユニークなスタイルの中にある普遍的な美点に着目すれば、この作品が素晴らしいと即座に分かるはず。似たり寄ったりのお酒、減点法で成績のよい無難なお酒ばかりあってもつまらないばかりか、退化してしまう。今売れているタイプのモノマネをするのではなく、自分が正しいと思う酒を作らないといけない。

口では個性だ多様性だと建前を言いつつ、審査員がら実際にはユニークな作品を正当に評価出来ないなら、異分子排除、画一化に加担しているだけです。建前を言うだけたちが悪い。他人がどうあれ、いいものはいい、と主張できる自信を持つのが大事。欠点を指摘するより、長所を発見するほうが百倍難しいが、百倍世の中のためになるのです。

モンテリー, Domaine Monthelie-Douhart-Porcheretの五代目当主、カタルディーナ・リポさん来日セミナー

 モンテリーはブルゴーニュの中でも特筆すべきお買い得産地。知っている人は知っています。ブルゴーニュファンを自称していながらモンテリーに関する見識がないならモグリと言われます。ですからカタルディーナ・リポさんの長い日本滞在期間のあいだに行った数々のイベントは相当な盛況だったようす。知らない人は知らないままでいいです。モンテリーまで法外に高くなったらたまったものではありませんね!
 そしてこのドメーヌはモンテリーの中でも最上の一軒。オスピス・ド・ボーヌやルロワの醸造長を務めた名人、アンドレ・ポルシュレのドメーヌだったのですから、技術的洗練度が違います。モンテリーに地酒っぽさを求めるなら他にもたくさんありますが、完成度と上品さを求めるならここです。
 
Photo
▲カタルディーナ・リポさん(右)と、パートナーのヴァンサン・モンフォールさん。モンフォールさんはベルギー人。彼のレストランでリポさんのワインを売っていたことから知り合ったそうだ。
 モンテリーはコート・ドールの村々の中で最大の日照量。ゆえにモンテリー=日照量最大=温かい味と思われがちですが、話はそう単純ではありません。日照量は村の中で計測されます。モンテリーの村は高台の開けた場所に位置しますから、確かに日の出から日の入りまで燦燦と照らされています。他の村より高いので、中世の戦争時にも敵兵の動きがよく見え、防御策を事前にとることができたため、他の村々のように破壊されることがなかったといいます。畑も、ヴォルネイの丘にある1級シャン・フュイヨとかは開けた地形ですが、多くの村名畑が位置する特徴的な南北に延びる狭い谷は、朝の光がないか、すぐに日陰になるか。決して日照が多いわけではありません。
 
 それでもモンテリーの村名白は概して温暖味。特にこのドメーヌは周囲より1週間遅くシャルドネを収穫するそうですから相当にトロピカルだとはいえ、他でもやはり温暖味。譬えて言うならプティ・シャブリの風味にも似ています。谷に堆積している真っ白な石灰の礫を見てもプティ・シャブリに似ていて、どう考えても一般的なコート・ド・ドールのジュラ紀中期の石灰岩ではありません。地形を考えてもオート・コートからの崩落礫なはず。そこを今回聞いてみると、やはりそうで、ジュラ紀後期とのことです。原地性ではないので、畑の土を掘っても岩盤には至らず、どこまでも礫が積もっているそうです。つまりは温かい土壌なわけで、ワインの味がそうなるのも当然です。岩がないので、石灰の風味があるのに構造が柔らかく芯がないという独特の味わいになります。それが個性的でいい。構造という点では新世界的。貴重な存在ですし、マリアージュ的には大変に役に立つのです。モンテリーは最小の村でいて白ブドウの栽培比率は12%しかないので、これこそ知る人ぞ知るワインです。

Photo_2
▲モンテリー1級レ・デュレスの白ワイン。2016年の超低収量が味わいの凝縮度に反映されている傑作。
 1級レ・デュレスの白は反対に、典型的なコート・ド・ボーヌ。風味はよりレモン的で、酸に硬質さがあり、芯の堅牢さが特徴的。近隣のムルソーに似ているとよく言われますし、その通りですが、ムルソーよりきめ細かくしなやかだと思います。同じ畑の赤も素晴らしく、ヴォルネイ側のようにキメが粗くなく、細かく硬質な要素が隙間なく結合している姿に品があります。誰もがヴォルネイ側は女性的でエレガント、オーセイ側はマッチョと言います。私は反対です。ざっくりとして温かいヴォルネイ側と精緻でタイトなオーセイ側と言うべきです。白赤ともに、大変に優れたブルゴーニュです。他に気に入った赤は、ポマール1級シャンラン。ポマールはよく言われるようなごついワインではありません。特に1級シャンランは標高が高く、ヴォルネイと接している畑ですからすっきりと伸びやか、かつ安定感があります。形のきれいさはさすがポマール。よいテロワールならではの隙のない構成美が感じられます。
 
 今回のヴィンテージは2016年。この年は霜にやられて白の収量は通年の8割減。赤は3割減。ですから白の味わいの凝縮度は桁外れです。2003年のシャンパーニュのブラン・ド・ブランの味と似ていると言えばわかりやすいでしょうか。これほどの凝縮度が味わえる機会はめったにありません。
 
 希望を言うなら、ビオディナミにしてほしい。既に2018年からはHautes Valeurs Environnement認証レベル3。ならばそんなに難しくはないはず。ここなら、カッコつきビオワインではないビオディナミワインが造れるはずです。
 

2019.02.06

ヴィレッジセラーズ新着




銀座歌舞伎座横のヴィレッジセラーズで新着ワインの試飲会。おすすめは、
 
1 The Eyrie Vineyards Pinot Noir 2010

Photo_5
 
言わずと知れたオレゴンピノの元祖にして頂点のひとつ。緊密で硬質なミネラルと気持ちよくタイトな酸味。冷涼な赤系果実の香り。そして自根ならではの垂直性。飲むほどにすごいワインなのだが、鬱陶しい自己主張もケバい高級感も皆無で、あくまで素朴。アルコールは11・5パーセントしかない。この古典的オレゴン美学が分からない人はオレゴンワインを飲まなくてよい。9000円。
 
2 The Eyrie Vineyards Trousseau 2016


Photo_6
 
オレゴン初となるトルソー品種のワイン。これが2ヴィンテージめ、そして日本では初リリース。ダンディ・ヒルズならではのタイトな構造と垂直性。味にボケ滲みがないのに華やかに広がる空気感。エキゾチックな花とスパイスの香り。このジュラ品種の素晴らしさを、ジュラのワインよりも理解できるほど。ジュラと異なり泥臭さがないのに、ジュラと同じく実直で腰が座っている印象。6200円。
 
3 Koyle Cerro Basalto 2014

Photo_7
 
チリ、コルチャグワの珍しい玄武岩土壌に植えられたムールヴェードル、グルナッシュ、カリニャン、シラーのブレンド。この地のローヌ品種ワインの出来は常に素晴らしいが、中でもこれは凝縮度の高さを保ちつつ軽やかな伸びときめ細かい質感とビビッドな酸を備えた秀逸な作品。なぜ今でもチリ=カベルネだと思うのか。前二者も玄武岩土壌であり、ある意味で香りもミネラル感も似ている。ほぼ無灌漑。ビオディナミ栽培。もちろん自根。4500円。
 
4 Teusner Gentleman Cabernet Sauvignon 2017

Photo_8
 
南オーストラリア、バロッサのカベルネ。熟してなめらかな黒系果実風味。カベルネの構成の堅牢さがありつつゴツい粗さがない。バロッサ=ユーカリ的な香りに過剰な樽風味と思ってはいけない。それでもさすがバロッサらしい存在感と安定感は健在。無理ないつくりで味が整っている。よくこの低価格で出来るものだと思う高品質。高地と低地の畑のブレンド。低地は無灌漑。バロッサはシラーズが有名だが、実はカベルネがお買い得。家でステーキや焼肉を食べる時にこのワインがあれば間違いない。2500円。
 
5 Johan Vineyards Blaufrankisch 2014
Photo_9
ビオディナミ生産者によるオレゴンのブラウフレンキッシュ。この品種のファンとしては、ついにアメリカでもオーストリア品種ワインか、と感慨深い。相当冷涼な風味。オレゴンに涼しさを求めるなら、多くのピノはもはや温暖味過ぎ。完成度はまだまだだが、当然ポテンシャルは充分。オレゴンの最先端に触れたい人にはおすすめ。4800円。

2019.02.01

モルドバワイン

ソムリエ教本にも載るぐらいにポピュラーな存在になってきたモルドバワイン。ゆったりした厚みのある果実味とソフトなタンニンと酸は多くの人にアピールするし、価格も手ごろなので、一定の人気が出てしかるべき。2000円程度のワインの平均的品質は高いと思う。つまりハズレなし、素っ頓狂なワインなし。数年前と比べて樽の使い方も洗練されてきましたし、タンニンが細かく滑らかになって、ますます飲みやすい。

Photo_4
▲会場には輸入元ごとにブースが設営されていたが、これはモルドバ大使館のブース。
 
しかし。。。そこまでは万国共通の技術でどうにでもなること。このままでは、メルローやカベルネやシャルドネといったメジャー国際品種の安価なワインというポジションのままです。数十本のワインを飲んでも、正直心躍るワインなし。フラットでエネルギー感弱く要素数少なく余韻短い。現代的洗練を増すと、ますます気になる。もっとキャラクターをしっかり出さないと。土地のポテンシャルはあるのはわかるだけに、大変にもどかしい。
 
単純なレシピを言うなら、甕発酵・熟成にすべき。安い昔風ドイツワインみたいなクリーンさの方向では将来がない。そして赤白品種混ぜて発酵すべき。中間色のアヤを増して、鍋物的な複雑さと一体感の両立を目指すべき。ブドウ価格も上がっているらしく、つまりは価格訴求も出来なくなるなら、将来誰があえて2000円のそこそこのシャルドネをモルドバから買うか。
 
日本では関係諸氏の多大な尽力のおかげでモルドバのほうがルーマニアより遥かにポピュラーだが、同じフェテアスカ・アルバやフェテアスカ・レガーラで比較したら、クリーン&フレッシュでモダンな方向性ならば、ルーマニアの方が標高の高さや石灰岩土壌ゆえに優位に立つように思える。ネガティブなことばかり言って申し訳ないが、逆に私は何故世の中じゅうモルドバをそこまで賞揚するのか分からない。口当たりのいいことを言うのは簡単。それは本心なのか。いまのうちに危機感を持たねば、鉄が固まってからでは形を変えるのが大変になる。モルドバのポテンシャルはこんなものではない。
 
モルドバワインの推進者、遠藤誠さんによれば、モルドバ人の奥さんの親戚たちの自家醸造自家消費用ワインが美味しい、と。そうだろう。黒海系ワインはどこもそうだ。クロアチアもそうだ。輸出用瓶詰めワインとは比較にならない美味しさだと容易に想像できる。つまり、もともと出来ないのではなく、やっていないだけ。なぜか。この問題こそ皆で真剣に考え、是正すべきだ。プロが揃って一元的なフランス中心的価値尺度をもってワインを評価する以上は無理なことだが。
 
会場にいらしたある指導的なワイン評論家の方に、「有名なワインのことばかり話してないでモルドバみたいなこれからの産地をサポートしなければダメだ」と言われた。私は怒って「マイナー産地を無視してきただと?本気で言っているのか?頭からワインかけるぞ、お前」。ここは怒るポイントですね。私は常に主流とは違う視点を提示してきたつもりだが、そんな風に思われているなら努力不足だということだ。しかし私にとってサポートとはその場限りのヨイショのことではない。

Photo_3

試飲した中ではこの上写真のワインが印象的。カベルネ、メルロ、サペラヴィのブレンド。サペラヴィは強力な個性なので、ボルドー品種クサくない。地場品種ワインにストラクチャーを加える時にすぐにカベルネに頼るのは間違い。キャンティ・クラシコを反面教師にして欲しい。カベルネの代わりにサペラヴィだ。
 
最も素晴らしい点は、自然な質感と暖かみと包容力。木桶発酵、スラヴォニアオークの大樽熟成ならでは。ステンレスとバリックだけではモルドバのテロワール自体の美点を相殺することになる。何がモルドバの取り柄なのかを考え、それをどう技術的に実現するかを考える時、このワインのつくりは良い参考になるはずだ。この時の問題は、何がモルドバらしさなのか、というテーマでの突っ込んだ議論がないことだ。らしさの自覚、共有なくしてアペラシオンという意味での産地の形成はあり得ない。ただ物を生産しているだけではワイン産地とは言わない。
 
とはいえこのワインもやはりディテール、動き、余韻が弱い。モルドバにビオディナミワインはないのだろうか。
 
 

2019.01.03

2018年の20本

2018

2018年に出会った最も印象的なワインを20本選んで紹介したいと思う。多くのワインが異なった理由で大変に素晴らしく、本来なら到底20本では済まない。ちなみにワインの並び順は優劣とは関係ない。

Photo_5

Voyots Dzor Karasi (Aleni Noir) 2016 Zorah

アルメニアにある世界最古のワイン醸造所跡、アレニ1遺跡の向いにあるワイナリー。アレニ1の近くに残る樹齢数百年のアレニ品種のブドウから取り木して増やした自根の畑。コンクリートタンク発酵、カラシ(陶製の甕)熟成。ある意味、ワインに関心があるすべての人にとっての基本のワインのひとつ。ジョージアと並んでアルメニアはワインの原産地だが、そのワインはジョージアとは大きく異なり、ジョージアがアジアの味ならアルメニア(言語的にはインド・ヨーロッパ語族)は明らかにヨーロッパの味がする。地酒的な朴訥感をアルメニアに期待してはいけない。上品で、緻密で、垂直的で、堅牢な、紛れもないグラン・ヴァン。ワインは最初からそうだったのか。。。。。

Photo

Herefordshire, England  Pinot Noir Early  2013  Sixteen Ridges Vineyard

気候変動ゆえに温暖な味わいのワインが多くなった昨今、正しく冷涼な味のワインを求めるなら高地や高緯度に行くしかないのは当然だ。そしてこのピノ・ノワールは、まさしく期待通りの冷涼風味を備え、贅肉がなく、緊張感のあるミネラルに支えられた、気品のある味わい。イギリスのワインといえば、すぐにイングランド南東部海沿いサセックス州のスパークリングが語られるが、これは南西部ヘレフォードシャー州の色の薄い赤。サセックスより涼しく雨も多く、それゆえに、イギリス以外の何物でもない個性。2007年創業の新しいワイナリーの若木のワインであってもこの完成度なら、樹齢が高くなればどれほどの質となることか。イギリスのテロワールの素晴らしいポテンシャルを垣間見ることができる。当然ながら日本未輸入。

Photo_2
Conca de Barbera  Coll del Sabater 2017 Escoda-Sanahuja

圧倒的なパワー感。唯一無二といえる陶酔的なうねり感。危険な官能性。全方位的な広がり。底が見えない厚み。嚥下後の肉体の浮遊感。エスコダ・サナフヤは現在世界最高のワイナリーのひとつである。アンフォラ発酵・熟成の自然派ワインの雄として有名だが、このコル・デル・サバテール2017年は、アンフォラであるとかSO2無添加であるとかを超越した奇跡である。完熟して完全発酵できないほどに潜在アルコール度数が上がってしまったこの年のカベルネ・フランと熟しても10度にしかならないパレリャーダ(カバ用の白ブドウとして知られる)を混醸。尋常ではない発想だが、一度経験してしまえば、これこそが正解だと思える。今まで飲んだすべてのワインの中でも最もインパクトが大きなワインのひとつ。ちなみにラベルはオーナーがその場で作ったもので、中身はタンクから直接手詰めの特別版。


2018

Collio Ribolla Gialla 2008 Gravner

西洋で初めてジョージアのワイン製法を己のものとしたグラヴナーの到達点。かつての野心作・実験作然とした過剰なほどの思いをまとった物質性はもはやなく、ただただ完成された美しい形が中空に浮かび上がる、スピリチュアルな抽象性。彼の苦闘はこのワインを我々に与えるためだったのか。涙なくしては飲めない。陳腐な表現ではなく、本当に感謝している。もしこれを飲んで頭を垂れない人がいるなら、それはワインファンではない。少なくとも愛あるイタリアワインファンではない。猫も杓子もオレンジワインと連呼する昨今だが、世に溢れるオレンジワインの過半はしょうもない遊びだ。グラヴナーなくして彼らのオレンジワインもないのは事実だろう。ならばなぜ謙虚にグラヴナーから学ばないのか。彼らが将来グラヴナーの境地に至ることが可能かどうかは甚だ疑わしい。グラヴナーは現在、ただ一種類のワインのみ造る。一所懸命とはこのことだ。人の能力には限りがある。30種類のワインを造る中の一本と、ただ1種類のワインに全精力を注いだ一本と、同じ結果になるだろうか。ましてやその人は、偉大なるヨシュコ・グラヴナーなのだ。生半可なオレンジワイン談義をしている暇があるなら、黙ってこれを飲め。

Photo_3
Alsace  Dionysiuskapele Gewurztraminer  2017  Lissner

アルザス、ヴォルクスハイム村の生産者組合長リスネールの意欲作、ゲヴュルツトラミネールのSO2無添加オレンジワイン(色は茶色っぽいロゼ)。2017年というヴィンテージらしいクリアーさ、おおらかさ、素直さがプラスに働き、見事な作品になった。ゲヴュルツトラミネールのエキゾティックな香りとタンニンとトロミが醸し発酵によって倍加され、SO2無添加のマイナス点は感じられず(アルザスの無添加白ワインで心底おいしいものはあまりない)、プラスの側面であるスケール感や質感の厚みが際立っている。構成力のある味わいは積極的に料理に合わせていきたくなる。このオーガニック生産者はいま世代交代時期で、積極的に新しい試み(特に栽培方法)に挑戦しており、目が離せない。直観力に長けていながら極めて知的なアプローチをとり、ビオディナミはあえて不採用。我々にとっては、ある種の知的ゲームを通じての真理探究という興奮が得られる。日本未輸入。

Dsc07720_2
Bourgogne Aligote  2015  Domaine Marius Delarche

ペルナン・ヴェルジュレス村の名門、ドラルシュの大傑作。ブルゴーニュで好きな白は、と聞かれたら、このアリゴテの名を挙げる。ペルナンのアリゴテがブルゴーニュ全域を見渡しても傑出している事実は、ブルゴーニュの生産者なら、経験上、知らぬ者はいない。多くの生産者との話のなかで、「ペルナンのアリゴテ」と私が答えて{へえー」と言われたことはなく、「そりゃそうだ」という反応である。それはコート・ド・ボーヌの畑地図を見ただけでも一目瞭然だと思う。しかし昔から私が日本で同じことを言っていても常に「へえー」どころか完全スルーである。日本にアリゴテファンはいないようだ。このアリゴテは、コルトン・シャルルマ―ニュの丘の北側、標高の高い南向き緩斜面の畑に植えられた古木から。完全にコルトン・シャルルマ―ニュ・アン・シャルルマーニュと地続きの味で、姿形がグラン・クリュ的に整っており、余韻も地域名ワインとは思えないどころか、グラン・クリュ並み。つまりは、よいテロワールの味がする。ドラルシュのシャルドネ(村名や1級。ここのグラン・クリュ・コルトン・シャルルマ―ニュはアロース村にあり、例外的な、そして注目すべき混植混醸)と比較してもアリゴテのほうが垂直性や質感の緻密さや香りの繊細さに優れている。このワインを飲めば、アリゴテは二流品種なのではなく、ほぼすべての場合において二流テロワールに植えられているから地域名ワイン格付けでしかないのだ、と分かる。このテロワール優勢という観点を獲得することこそ、ブルゴーニュ理解の基本なのではないのか。なぜ日本では、ブルゴーニュというと、口ではテロワールと言いつつ、実質は生産者優勢の考え方が支配的になるのか。だから過去何十年、「好きなアリゴテは?」と聞くと、「だれだれのアリゴテ」という答えしか返ってこない。それがどれほど反ブルゴーニュ的な答えなのかをブルゴーニュファンの方々が自覚していない状況が、それ以上にこの論点(なぜ、だれだれのアリゴテと答えてはまずいのか)さえもが理解されない状況が、「ブルゴーニュとはまずはテロワールを鑑賞するワインなのだ」と20年以上言い続けてきた私としては、自分の力不足を痛感して、情けない。当然ながら日本未輸入。

Dsc07718_2
Niederoesterreich Zweigelt  2015  Stift Altenburg

チャーミングでほんわかフルーティな方向性も大好きだが、ぴしっとした硬質な骨格のあるツヴァイゲルト、つまりブラウフレンキッシュの血筋を色濃く感じるツヴァイゲルトも素晴らしい。チェコ国境に近いヴァインフィアテル、リンベルク(ブラウフレンキッシュのドイツ名レンベルガーの由来という説あり)のアルテンブルク修道院のこのワインは、ペン画のようにくっきりとした酸と清涼感のある伸びやかな香りを備えた、冷涼なオーストリアワインを求めるならば最高の作品。地球温暖化ゆえにほんわかフルーティなワインの比率が高くならざるを得ないオーストリアにあって、この冷涼さはむしろ貴重だ。ヴァインフィアテル=安価なグリューナーという認識にとどまってはいけない。そもそもこの畑は極めて特異な白いダイアトム土壌。他では得られない個性が感じられる、貴重なツヴァイゲルトである。日本ではオーストリアワインといえば、ヴァッハウやカンプタルのような大メジャー産地の大メジャー生産者のものか、それともSO2無添加・アンフォラ・オレンジワインが興味の対象となっているようだが、オーストリアワインの本来のオーストリアらしさは、こうしたワインにこそより感じられると思う。さらに言うなら、このワインの美点が分からない(好きかどうかはまた別の話)人をオーストリアワインファンとは呼びたくないが、当然のごとく日本未輸入。

Dsc07723_2
Maranges Le Saugeot  2016  Domaine Edmond Monnot

陰影の濃さ、逞しさ、地酒っぽい朴訥感といった、通常ブルゴーニュワインには求めない特質を備えるマランジェは、よい意味で時代の流れに乗らない産地である。口あたりのよさ、分かりやすい華やかさ、といった「きれい」さが最重要評価ポイントになっている状況では、マランジェは二流どころか三流ワイン。単一の評価基準しかなければ、最上のグラン・クリュ以外はすべて一・五流が関の山であり、結局は高いものがいいワイン、という、どうしようもない結論に縛られることになる。しかしテロワールに即した複数の評価基準を獲得すれば、マランジェは「他と違うからいい」産地になる。地質年代的にはマランジェはコート・ド・ボーヌの中で最も古い。ブルゴーニュ=ジュラ紀という了解で基本的にはいいのだが、このワインの畑のあるマランジェの西端の丘は三畳紀。性格的にはジュラ紀の派手さとは逆に、内向的で暗く、標高300メートルえ台後半という高さにもかかわらず重心が下。ゆえに通常のブルゴーニュとは異なる用途で魅力を発揮することができる。こうしたユニークな個性を発見するのがワイン趣味のひとつのおもしろさだと思うが、もちろん日本未輸入。

Dsc07721_2
Vin de France  Benjamin de Meric  2016  Chateau Meric

1964年にオーガニックを始めた、ボルドーで最初の認証オーガニック生産者、シャトー・メリック。ビジネスのにおいが強すぎ、何がやりたいのかではなく、何が売れるのか、を考えすぎに思えるボルドーにあって、プリムールや英米評論家の点数とは無縁の、オーガニックワインが好きな顧客に直接売ってきた、実直な生産者である。ワインの味も実直の極み。これほどスタイルではなくテロワールとしてのボルドー、グラーヴを感じさせてくれる機会は少ない。彼らが造るロゼ(クレーレと呼ぶべき色の濃さだが)がこれ。品種は、なんと、マスカット・ハンブルグ主体にメルロのブレンド。当然INAOは非認可品種であるマスカット・ハンブルグを引き抜けと言ったが、昔から植えられているブドウを引き抜くわけにはいかないと拒否。スタイリッシュでそっけなく冷たい最近のロゼとは異なり、朴訥で寛容な個性。マスカット・ハンブルグ(マスカット・ベイリーAの親)ならではのざっくりとして土着的な色気。現在の肩肘張った輸出用ボルドーとは無関係の、地元消費用な味。いい感じの緩さ。土地の個性を考えれば、こちらのほうが本来のボルドーではないかとさえ思う。もちろん日本未輸入。日本人はボルドー大好き、オーガニック大好きではなかったか。オーガニックワインの支持者なら、周囲から疎外されつつオーガニックを独力で始め、長年貫いてきたこの生産者に対する敬意を払ってしかるべきだ。

2018_2
Württemberg Korber Sommerhalde Trollinger  2015  Schmalzried 

ドイツで最も好きな品種のひとつがトロリンガー。酸もタンニンもない、自己抑制のきいた、押しつけがましい主張もない、典型的なヴュルテンベルクの地元消費用ワイン品種。普通なら、柔らかくて飲みやすい軽い味というだけで終わってしまうだろうが、これは認証ビオディナミワインだ。繊細なディティールと豊富なミネラルに、頭の後ろまで回り込むスケールの大きさがあり、自然な滲み感がってもボケや緩さにつながらない。見事だ。それだけではない。この生産者は養護学校の教師をしながらワインを造る。それがどうした、と言うか?まさにそういう味が、献身と愛と純粋さの味がする。ゆえにこのワインは、自然と人間が最も高貴な形で融合した、理想的なビオディナミワインの一本である。SO2がどうした、アンフォラがどうした、といった些末な技術論ばかりが横行して目的を忘れているかのような現状では理解されようもないのか、当然のように未輸入。

Dsc07728_2_3
Alsace Grand Cru Geisberg   Riesling  2012  Trimbach

ガイズベルグ、それもリボヴィレ修道尼院の所有する西側の区画は、アルザス・グラン・クリュの中でも最上の畑である。それを否定する人がいようか。村ごとの気温を調べると、オー・ランにおいてリボヴィレは涼しい土地だと分かる。地球温暖化の中で、それが辛口リースリングには圧倒的な優位性を生み出す。ガイズベルク西側区画は谷から吹き降ろす風の出口にあり、三畳紀の石灰岩土壌がもたらす冷たく硬質な酸とあいまって、リースリングに求めたい緊張感とトリンバックに求めたいプロテスタント的自己抑制・禁欲性を表現する。反グラン・クリュ派最先鋒だったトリンバックが宗旨替えをして登場させた「グラン・クリュ・ガイズベルグ」は、2009年の初ヴィンテージ以来、その評価は既に確定しているが、2012年ヴィンテージはさらに一皮むけた印象。なぜなら2008年に彼らが栽培を請け負ってからオーガニックに転換した効果が明らかになっているからだ。現時点においてアルザスの頂点である。クロ・サン・チュンヌは足元にも及ばない。誰もが知るようにガイズベルグはガイズベルグなのであって、かつてはその真価が表に出ることがなかっただけなのだ。

Dsc07730_2_2
Savennieres Coulée de Serrant  2016  Nicolas Joly

誰もが知っているクーレ・ド・セラン。以前のヴィンテージ、特に20世紀のあいだのニコラ・ジョリーの造ったワインを飲んで、クーレ・ド・セランを知っているつもりになっているなら、それは人生にとって大きな損失だ。2015年以降のクーレ・ド・セランは別物である。かつての知性優位の味はもはやない。理屈は分かるが実質が伴わないなどという批判ももはや該当しない。特に2016年は桁外れのエネルギー感があってリッチ。昔の味しか知らない人は、クーレ・ド・セランにリッチという言葉は決して使わない。しかし今やニコラ・ジョリーはサヴニエール全体で最後に収穫するのだ。陰と陽、緊張と弛緩、禁欲と官能、覚醒と陶酔の驚異的なコントラストの大きさと、それらすべてを包み込む慈愛。何が変わったのかと聞けば、娘ヴィルジニーは「何も変えていない。ただ、子供ができた」と。ワインとはかくも不思議なものだ。


Dsc07731_2_4
Clairette du Languedoc Rancio Sec    S.C.V. La Clairette d'Adissan

以前から最も気になっているラングドックのアペラシオンであるクレーレット・デュ・ラングドック。好きなラングドックの白は、と聞かれれば、ほぼ常にその名を挙げる。歴史的には最重要ワインのひとつだ。紀元前1世紀、ローマで有名だったAminum品種のブドウがこの地に持ち込まれたのだが、近年そのブドウがローマ時代の井戸の底から発見され、解析の結果、それが現代のクレーレットだと分かったのだという。18世紀までは高価なワインとして有名でも、現代にあってはよほどのラングドックワイン通以外には知られることもない。辛口、中甘口、酒精強化甘口、ランシオとあるが、これはアペラシオンを構成する11村のひとつであるアディサン村の協同組合が造る辛口ランシオ。樽ではなくタンクで十年熟成させるのがポイントで、ランシオながら香り味わいともに極めてクリーンでクリアー。そしてランシオならではの別次元の力強さと贅肉をそぎ落とした抽象的でミネラリーな味わい。もともとのテロワールと品種の素晴らしさがストレートに出ている。姿形の美しさ、見晴らしのよさ、余韻の長さ等々、あらゆる項目でここがグラン・ヴァンの土地だということを示す。ついに見つけた究極のラングドック白ワインの一本である。他のランシオをいろいろと飲んでいればいるほど、このワインの高貴さが見えてくるだろう。もちろんのことながら日本未輸入。日本では協同組合ワインなど誰も歯牙にもかけないし、ランシオ好きも皆無に近いのだからしかたない。ランシオ嫌いなラングドックワインファンとは、八丁味噌嫌いな名古屋料理ファンと同じく、奇異に思えるが。



Dsc07742_2
Luzern Le Petit Mousseux  Ottiger

スイス、ルツェルン湖のほとりに建つワイナリーの、炭酸ガス注入方式のカジュアルな泡。炭酸ガス注入方式は完熟ブドウを用いることができるため、私はシャンパーニュ方式の未熟ブドウのワインよりこちらのほうが往々にして好きなぐらいだ。リースリング・ジルヴァーナー(=ミュラー・トゥルガウ)とソーヴィニヨン・ブランを用いた、まさにドイツ語圏スイスの清涼感、清潔感、ゆとり感があるワイン。適度に力を抜いた気軽さ、ほぼすべてが小商圏で売れてしまうスイスワインならではの地元密着感・自給自足感。夏のバカンス、澄んだ空気、アルプスの山並み、透明な湖水、湖畔に点在する瀟洒な別荘といったビジュアル(実際にその通りだ)を思い描いてほしい。そこにふさわしいワインは、樽臭くて泥臭い赤ではありえず、近年どうも迷走しているヴォー州のシャスラーでもなく、より冷涼な地域のこのスパークリングということになるだろうが、スイス=シャスラーという理解でとまっている(それでも、なんの理解もなかった十年前よりはましだ)日本には未輸入。

Dsc07747_2
Valdobbiadene Prosecco Superiore   Col di Manzo   2017   Perlage

ビオディナミ栽培されるグレラで造られたプロセッコ。ヴァルドッビアーデネならではの流れのスムースさがありつつ、畑が斜面下部に位置することもあって、そっけなくならず、適度な厚みを備え、重心は真ん中にあって安定した長い余韻へと続く。味わいの複雑さ、立体感、スケール感、ダイナミズムは通常のプロセッコとは別次元であり、一度これを経験してしまうと、農薬まみれのフラット&スタティックなプロセッコに戻ることはできない。繊細さ、酸の穏やかさ、香りのやさしさ、といった点においてプロセッコの食中酒としての可能性は極めて高い。スタイルではなく、既成観念でもなく、ヴァルドッビアーデネのテロワールと絶対的な品質に着目してワインをテイスティングするなら、プロセッコとしては例外的に高価なこのワインでさえお買い得だと思えるだろう。このワインが高級日本料理店での定番になってほしいが、日本未輸入。

Dsc07753



IGP Pays d’Hérault Collines de la Moure Parpagnas 2015  Mas De La Pleine Haute

フロンティニャンのエリアに植えられたムールヴェードル、シラー、グルナッシュのブレンド。現代ではすっかり忘れられているが、近世までは高級ワインとして人気のあったフロンティニャンのミュスカ。その名声は偉大なテロワールに由来するのであり、ミュスカという品種や酒精強化甘口というスタイルによるものではないと、この非ミュスカの赤ワインを飲むと理解できる。姿形の美しさが違う、伸びやかな品位が違う。ラングドックワインに詳しければ詳しいほど、この小さな地元消費ワイン生産者の、地味で一見どこにでもある品種構成のワインがさりげなく備える“グラン・クリュ”性の前にひれ伏すことになる。ラングドック各アペラシオンのAOC認定年を調べて欲しい。フロンティニャンは1936年5月と最初である。そこには重要な意味があると考えるべきだ。繊細さや優美さがダイナミズムと融合して立体的で美しい形をとり、余韻が長いというこのワインの特徴は、オーガニック(フロンティニャンには二軒しかない)栽培に由来するという点も忘れてはならない。通常のクリュさえ理解されず、ラングドック=安価な国際品種ワイン、という単一の観念(というか誤解)にとらわれている日本には、当然のごとく未輸入。フロンティニャンのオーガニックなど、本来なら真っ先に輸入しなければならないものだろうに。とはいえ、そう思うのは私だけかも知れない。なぜならフロンティニャンは偉大なテロワールだ、偉大なワインだと言って、「その通り!」と同意されたことは、実は過去一度たりともない。

Dsc07754



Pessac-Leognan  Cuvee Paul   2015    Chateau Haut-Bergey

ミュージシャンでもあるオーナー家の息子が戻り、あまりに時代錯誤的・ビジネス優先的・人工的なボルドー的ワイン造りを見て憤慨し、スタッフ全員を解雇してビオディナミ栽培に即座に切り替えたのが2015年。その劇的な変化は既に明らかで、とりわけ自分自身の名を冠したこのタンク熟成のワインの鮮烈なエネルギー感と厚みとヴェルヴェットのような滑らかさとピュアさを見れば、ボルドーが新しい時代に入ったのだと喜びつつ痛感する。現在最も注目すべきボルドーだろう。ちなみに通常の樽熟成版はおすすめしない。素材がよくなった今、樽は余分なフレーバーであり過剰なタンニンでしかなく、しなやかでおだやかなグラーヴ地域のテロワールの個性を減じてしまうからである。

Dsc07722_2
Südsteirmark  Riesling Ried Gaisriegl  K   2016   Schauer

オーストリア、ズュートシュタイヤーマルクのSausal in Kitzeck村は、標高が500メートル以上と大変に高く、冷涼で、なおかつ土壌が例外的なシスト。オーストリアにおける知る人ぞ知るリースリング最上のエリアである。そこでブッシェンシャンクを営み、オーガニック転換中のこの生産者のワインは、頭の中でオーストリア、ズュートシュタイヤーマルク、リースリングという単語を結び付けて生まれるイメージどおりの、鮮やかで気品があって無駄なくかっこよくポジティブに明るい味わい。ニーダーエスタライヒの高名なリースリングは過剰な灌漑の味がして好きにはなれない場合がほとんどだが、シュタイヤーマルクは十分な降水量があるため、急斜面の水はけのよい畑でも無灌漑。それがミネラル感や余韻の表現に直接的に結びつくのは当然である。通常は辛口に仕上げるところ、2016年はオーストリアでは例外的なカビネット(微甘口タイプ)になった。これがいい。いいと言っても一期一会。20年前ならともかく、現在のオーストリアでは辛口しか好まれず、こうした伝統的ドイツ的リースリングは皆無に近い。生産者も造るつもりはないと言う。このワインには圧倒的な完成度と無欠のバランスのよさがあるゆえに、二度と経験できないのかと思うと悲しい。

Dsc07751
Costa Toscana  CiFRA  Cabernet Franc   2017   Duemani

90年代から20世紀末ごろまで、数々のスーパータスカンの名品を送り出したコンサルタント、ルカ・ダットーマがたどり着いた、カベルネ・フランにとって最良の地、モンテスクダイオ。海を臨む標高の高い粘土石灰質の斜面の畑は見るからに素晴らしく、ビオディナミ栽培によってポテンシャルを十全に引き出す。樽を使わずにコンクリートタンクで熟成させたこのチフラは、樽を使ったグラン・ヴァン、デュエマーニよりむしろ素直な味で抜けがよく、カベルネ・フランのきめ細かさ、酸の軽やかさ、清楚な気品をよく表現する。2017年は壊滅的に収量が減ったヴィンテージだが、それゆえの凝縮度の高さというプラスの結果をもたらしている。かつての力任せな迫力は影を潜め、静かな充実度として、また内面への沈降の形をとってエネルギーが感じられる、大人の味。それでもダットーマ独特のきらめき、冴えは健在であり、つくづく天才的なセンスだと感じ入る。世界のカベルネ・フランの中でも屈指の作品である。以前は日本に輸入されていたのだが。。。


Dsc07732_2

Vermouth Erborista     2017    Pianora

ロンバルディア、コッカリオ村の丘の上にある小さなオーガニック生産者の作品。フランチャコルタ域内にありつつも彼らはフランチャコルタを造らず、メルロの赤ワインを主として造る。それがフランチャコルタ以前のこの地のワインだからである。さらに時代を遡って、ワイナリーのすぐ近くにある『聖なる受胎告知修道尼院』がかつて造っていたワインを再現したのが、このハーブ入りのメルロの甘口。飲めば忘れられないおいしさ。いや、おいしいだけではなく、飲むと体の内側から力が湧いてくるかのようで、飲めば飲むほど体がもっと欲する。ここまで直接に作用するワインは初めてだ。修道院が同時に病院であり、ワインが同時に薬だったことを思い出す。そして凡百のフランチャコルタが足元にも及ばない完成度の高い美しさ。フランチャコルタ域内は、地球温暖化もあって、いまやメルロやカベルネ・フランの栽培適地なのではないかと思うし、昔そうだったのは正しいと思う。もちろんこんな徹底してイレギュラーなワイン(伝統的であっても、そんな伝統は誰も知らない)を高い金額で買うインポーターはいるはずもなく、日本未輸入。(ラベルには2018年と書かれているが、中身は2017年。もう2017年のラベルがなくなってしまって、翌年分として印刷が上がってきたラベルを貼ってもらった)

«カリフォルニアワインと上海料理