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2016.07.30

スワン・ヴァレー、Harris Organic Wines

 パース郊外のスワン・ヴァレーのブドウ栽培の歴史は長い。1829年に最初のブドウが植えられてから長らく、西オーストラリア唯一のブドウ産地として発展を遂げてきた。今でこそデンマークやマウント・ベイカーといった産地に着目されるが、それはここ何十年かの話でしかない。

 相当に暑く、1月の平均気温は24度超。年間降水量は167ミリ。前記したグレート・サザン各地のデータと比べて欲しい。土壌は新しい時代の肥沃な沖積土。つまり、フルーティで厚みがあってアルコールが高いワインができる土地だ。伝統的には酒精強化甘口ワインが多く造られてきたのも納得できる。

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▲ハリス・オーガニック・ワインの畑。スワン・ヴァレーは平地にブドウ畑が続く。



 スワン・ヴァレーのワインを日本で飲む機会は少ない。アルコールが高くてジャミーで緩いワインをあえて飲みたい人が今どれだけいるか。個人的にはそれもまた“らしさ”のひとつであっていいものだと思うが、最近の冷涼産地流行りとは逆行する。そもそも輸出する必要がない。オーストラリアは巨大な生産量がありながらも国内消費は4割もある。ましてスワン・ヴァレーのように、パースから30分で到着してしまう産地なら、パースの住民(都市圏人口200万人、州全体で250万人しかいないのに!)は近所のスーパーに行くかのようにワイナリーに直接ワインを買いに行く。スワン・ヴァレーは典型的地元消費ワインである。飲みたい理由があるなら、まさにそれゆえだ。海外向け上質ワインのきれいごと感、よそゆき感、冷淡さ等々が気になるなら、スワン・ヴァレーの海外無視の味は救いである。

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▲ダンカン・ハリスさん。

 ハリスはタスマニア出身のダンカン・ハリスが1993年にパースに移住し、1998年にスワン・ヴァレーに土地を買って創業したワイナリーだ。2006年にはこの地唯一のオーガニック認証ワイナリーとして現在の社名、ハリス・オーガニック・ワインとなった。畑じたいは1923年に植栽された古木である。

 ダンカン・ハリスの話は勉強になる。彼の言葉をそのまま引用しよう。「スワン・ヴァレーではシュナン・ブランとシラーズが多く植えられてきた。シュナン・ブランは1950年代まではセミヨンだと思われていた。この産地が発展したのはホートンのおかげ。昔ホートンはバーガンディーという名前のワインを大量に生産し、それはオーストラリアで最も売れていたワインだった」。「しかし最近はどこも販売が振るわない。90年代には隣のワイナリーの駐車場には週末は40台の車が停まっていたが、今では多くて5台。さらにはお客さんも昔は1ケース買っていったが、今では1本だけ。ロードサイドの酒屋やスーパーマーケットで買うようになったし、選択肢が多くなったし、情報が増えてワインファンはいろいろなワインを試すのが楽しみになったからだ」。「輸出するにはライセンスも必要だし、費用がかかるし、さらには官能検査を受けねばならず、それにも膨大な費用がかかる。その手間とお金を考えたら我々のような小さなワイナリーは輸出しても儲からない。セラードアかネットで自分で売ったほうがいい」。「地球温暖化によって過去30年で1度気温が上昇した。雨も850ミリから650ミリに減少した。2015年は500ミリしか降らなかった。しかし灌漑は不要だ」。

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▲2001年にオープンした小さなセラードアに並ぶワイン。日本に輸出はしていないが、個人客に発送はしている。



 想像どおり、辛口ワインより甘口ワインのほうが遥かにおいしい。白桃、ハニーサックルの香りのソフトなヴェルデホ、レモンとリンゴの香りのなかなか構造が堅牢で存在感のあるシャルドネ、赤系果実味のさらっとしたシラーズ、くっきりとしてフレッシュでかつ広がりがあるミュスカ・ア・プティ・グランといった辛口も、もちろん悪いわけではないが、全体に淡泊で弱い。スワン・ヴァレーの沖積土壌の限界か。

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▲酒精強化ワイン熟成中。



 しかし甘口は、特に酒精強化ワインは、これが同じ生産者の同じ畑のワインかと思うぐらいにエネルギー感があり、スケールが大きく、余韻が長く、圧巻の出来だ。ビビッドな果実味と垂直的な構造とやさしい包容力のある、ペドロ・ヒメネス・オーガニック・シェリー(08年と09年のブレンド)は、本家シェリーより軽快なリズム感があるように感じられる(私はオーガニックの本家ペドロ・ヒメネスを飲んだことがないのでうかつなことは言えないが)ほどだ。ヴィンテージ・ポート(ヴィンテージ・シラーズ)2014の滑らかでしっとりとして深い味わいは陶酔的なおいしさであり、ポート製法と同じく蒸留度の低いアルコールを使っていながら、本家ポートの最大の問題点である出自の不確かなアルコールによるえぐみがなく、上品で、かつ果実味がビビッドに立ち上がる。スケールは大変に大きく、余韻は大変に長い。ポートが好きならば、自家蒸留のオーガニックアルコールによる酒精強化がどれほどの品質をもたらすかを知る上でこれは必須のワインであり、ましてオーストラリアのポートが好きなら、逞しいバロッサのポートや鷹揚としたラザグレンのポートだけではなく、スワン・ヴァレーの柔和な(しかし自根ゆえの垂直性のある)ポートも選択肢に入れなければならないと実感するだろう。

 それにしても日本では酒精強化ワインの人気はないに等しい。なぜかシェリーだけは別のようだが、リヴザルトやモーリーやバニュルスのような酒精強化発祥の地のワインでさえ見かけない。オーストラリアのポートに至っては、、、、昔からオーストラリアのポートが最高だと言い続けている私は常に孤独な思いをしている。

 

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