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2016.07.27

デンマーク、La Violetta

 センスのよいワイン、そしてなんともキャッチーなネーミング。新世代オーストラリアワインらしい自由な精神が横溢するワイナリーである。

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▲デンマークの中心にあるワインショップで待ち合わせ、町はずれにある彼の家でテイスティング。



カステリ社のセカンド・ワイン・メーカーを2008年から2014年まで務めていたアンドリュー・ホードリーが2008年にデンマークの地でたちあげた会社。ブドウ畑は所有せず、畑のコンサルタントとしての豊富な情報をもとに優れた畑のブドウを買って14種類のワインを仕込む。ひとつひとつは少量生産であり、総生産本数は2万5千本しかない。

すべてが先鋭的実験ともいえるワインなだけに、すべてが毎年成功するとは限らない。リースリング、ゲヴュルツ、ヴィオニエのブレンド、Ye-Ye Blanc 2016は統一感がないし、ゲヴュルツ、リースリング、グラウブルグンダーのブレンド、Ü 2017は香りが焦げていて抜けが悪い。シュナン・ブランとカベルネ・フランのブレンドによるロゼの弱発泡酒Frank Nat 2015は、フランク・シナトラの名曲、Strangers in the Nightのエンディングから採られた有名なフレーズ、( do be do be do ) を副題としてラベルに記しているぐらいだから、大人の色気的なくすぐりを期待していなのだが、味は真面目で、妙に意識が覚める。デビュー作として2010年に登場して以来評価の高いシラーズ、La Ciorniaは1エーカーあたり05トンの収量しかない凝縮したブドウでできるだけあって、内容の濃い味ではある。デンマークらしい鉄鉱石土壌が高密度なミネラル感をもたらし、まるでコート・ロティ的なスモーキーなベーコンとスパイスの香りを表現する。しかしそのロシア語のワイン名(濃い色、ないし比ゆ的に魅力的な女性)から連想する味とは異なり、どこか知性優位の表面性を漂わせてしまう。頭脳明晰で技術に優れた人が目的意識をもってワインならではの負の側面だろうか、謎がなく、淡々として、客観的には非の打ちどころがないのに、興奮しない味なのだ。

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▲どのワインも個性的ながら、見事にその土地らしさを伝えてくれる。独創性と普遍性のバランスのとり方に、知性と技術力を感じる。



しかし成功する時には驚異的な成功を見せる。どう考えても正攻法のピュアなワインのほうが向いているのではないか。その代表的な例がリースリング100%を樽発酵して無清澄無濾過で瓶詰めしたDas Sekling 2015 だ。自根ならではの悠然とした構えと大地に根をおろした堂々としたミネラル感。飲むとのけぞるような桁外れのエネルギー感。厳格な酸と絶妙な甘さのバランスも素晴らしく、余韻は大変に長く、フォーカスがにじまない。すごいワインである。オーストラリアのリースリングの中で最上の一本だろう。よくあるステレオタイプなオーストラリアリースリングの固くて小さくて酸っぱいスタイル重視、品種の個性重視の味ではなく、唯一無二の世界を表出しているという点で、最上なる表現よりも別格、別次元と形容すべきなのかも知れない。

リースリングとシラーズの出来はオーストラリアじゅうで優れているのが普通だから、両者のブレンドである弱発泡酒Spunk Nat 2016のおいしさは想像どおりかも知れない。しかし実際は想像を超えるものがある。イチゴとライムの合わさった爽快かつチャーミングな香りの、良質な、良質すぎるほどに良質なワイン。伸びやかさ、余韻の長さ、味わいの躍動感、ミッドの充実感は、こうしたペットナットにありがちな、飲みやすいカジュアルなランチ用ワインの範疇を気持ちよく逸脱する。素材の出来が違うという印象だ。

ジオグラフの砂質土壌に植えられたガルナッチャ、マタロ、テンプラニーリョのブレンド、Almirante y Obispo GMT 2012 も素晴らしい。ダークチェリー、ハーブ、ドライフラワー、黒いスパイスの香りと、なめらかな質感と厚みのある果実味の、ゆったりしたうねりと軽快かつ長い余韻のワイン。テンプラニーリョの硬質なタンニンがガルナッチャのソフトなタンニンをかき乱さないよう、前者はたった4日間のマセラシオンを行ったマストのみをブレンドする。これは常人には思いつかない冴えたアイデアだ。

そしてマウント・ベーカー、Forest HillColline-Foret畑のカベルネ・ソーヴィニヨンに少量のマルベックをブレンドしたLe Rayon V 2013。見事な垂直性と整然とした形。なめらかでいて強く、酸はしっかりしてボケず、パワフルであっても前のめりにならず、品位が高い。

こうした成功例にすべて共通するのは、透明感のある果実味、緻密なミネラル感、細かく躍動感のある酸、卓越した下方垂直性、極めてなめらかな質感、そして伸びのあるしなやかな香りである。それらはまさに西オーストラリアの美点であり、この地の偉大なテロワールの力を示すものである。

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