« デンマーク、La Violetta | トップページ | スワン・ヴァレー、Harris Organic Wines »

2016.07.29

ペンバートン、Mountford

 マーガレット・リヴァーの名声の影に隠れているが、地球温暖化を考えるとこれからペンバートンはもっと着目すべき産地だと思う。なぜなら畑の標高が150メートルから250メートルと高く、ヒートディグリーデイズの数値は1394しかない。対してマーガレット・リヴァーは1690。生育期降水量はそれぞれ340ミリ、275ミリ。すっきりしっとりしたワインになるということだ。もちろんここは無灌漑、そして自根だから、構造の堅牢さやミネラル感はしっかりある。

 伝統的にはピノ・ノワール、シャルドネ、ソーヴィニヨン、メルロといった品種で定評があるが、最近ではヴェルデホが人気のようだ。SilkwoodSalitageTantemagieBlack Georgeといったワイナリーがこの品種を作っている。どっしりした厚みのある果実味のヴェルデホの可能性は大きく、ステンレスで軽快に造ってもいいが、樽発酵・樽熟成に向く品種。フルボディタイプの白は少ないので、もっと注目されていい。他にはジンファンデルが注目されている。ここでは大変に伸びやかできめ細かい味になり、この品種の一般的イメージよりずっと酸がある。ジンファンデルの知られざる美しさを発見できる。

オーストラリアは本当に多様性があり、あちこちで興奮させられる新発見が続く。しかし日本では知られていない。私はオーストラリアワインのマニアでもなんでもなく(まあ、どの産地に関してもマニアではない)、たまに口にする程度だが、「オーストラリアの白で好きなのは?」と聞かれたら、「ジオグラフのアルネイスとペンバートンのヴェルデホ」と答える。答えたところで「やっぱりそうだよね!」という相槌が返ってくるかどうか。日本にはオーストラリアワインファンが何万人といる。南オーストラリアのシラーズとヴィクトリアのブルゴーニュ品種は素晴らしいだろうが、それで終わってしまってはあまりにもったいない。似たり寄ったりのワインばかりで楽しいのか。狭い範囲の中での優劣競争がオーストラリア的なのか。ペンフォールドのグランジで始まるラングトンの格付けに登場するワインを網羅すればオーストラリアワインがは“アガリ”ではない。むしろそれ以外のところで、どれだけ自分らしい趣味のワインを探し求めることができるかが重要であって、そこが楽しいのだ。ボルドーのような超古典的格付け大好き産地でさえ、格付けシャトーを全部飲めばボルドーが分かるわけではない。まして自由と創造性の国オーストラリアに対して、そういう表層的な貴族趣味を持ち込んでいいのか。

Mountford1

▲マウントフォード・ワイナリーに続く道から、畑を臨む。

ペンバートンで最初の(2003年)認証オーガニックワイナリー、マウントフォードは、貴族趣味とは無縁の、フロンティア・スピリッツに溢れた農民のワインである。アンドリュー・マウントフォードがブドウとリンゴの栽培の最適地を求め、直観でこの地にたどり着いた時には、ペンバートンは完全なる未開の地だったという。電気水道がないのは当たり前。ワイナリーを建てようにも建築資材もなければ建築業者もいない。だから彼は自分で土を掘り、焼いてレンガを作り、森の木を伐採して材木をこしらえ、独力でワイナリーを建てた。今の日本でそんな逞しい人間がどれだけいるだろうか。私がそんな状況に置かれたら数日で死んでしまうだろう。19世紀ならまだしも、現代の話なのだ。この情熱、気概、実行力、そして自主独立の精神がオーストラリアらしい。他産業で富を築いて高名な建築家にワイナリーを建てさせ、高名な栽培家と醸造家を雇い、最先端の技術を用いて、重量級の瓶と木箱に入った超高級ワインを造る人がいてもいいが、ひとりの人間として尊敬できるのはマウントフォード氏のような人物だ。

Mountford3

Mountford4_2
▲オーナー夫妻が自分たちだけで建てたワイナリー。趣味のログハウスといったレベルの仕事ではなく、空恐ろしい執念を感じるほど。二階は現在は訪問客のためのレセプションルームやミュージアムになっている。


品種こそ、ピノ・ノワール、シャルドネ、ソーヴィニヨン、ボルドー基本3品種という伝統的なものだが、それはこのワイナリーが1987年創業というこの地でも最古参のひとつだからだ。当時は入手できるブドウの苗は極めて限られていた。植物検疫に対して非常に神経をとがらすオーストラリア(入国時の検査を知っているだろうか?)では今でも選択肢は少ない。

その中ではSelect Chardonnay 2010の朴訥とした温かみや鷹揚としたスケール感が印象的。不思議なぐらいリンゴっぽい。リンゴのお酒と言われても納得してしまいそう。ブドウ畑とリンゴ畑は隣接しているし、シードルも製造しているのだから、なんらかの影響があるのか。造りじたいは素朴だし、コンテストに出品して高得点を取るたぐいのワインではまったくないと思うが、説得力、存在感がある。ようは自然な味なのだ。

Mountford2
▲一階のテイスティングカウンターでは自家製はちみつ等も売っている。ワインの他にはサイダーが名物。基本的な味の構成はワインとそっくり。畑と人が同じなら果物の種類が異なってもある意味同じ味になるのだとよく分かる。



冷涼産地らしい酸と適度な緊張感を備えたCabernet Sauvignon-Cabernet Franc-Merlot 2009も素晴らしい。このワイナリーには単一品種のワインもあるが、やはりボルドー品種ワインはこの3品種ブレンドが基本だろう。全体の構成力、複雑さ、スケール感が違う。すかした味になりがちなボルドー品種ワインの中にあって、このざっくりとした温かみと自然な質感はむしろ貴重。緩そうに見えてその実、非常に強いミネラル感が全体を底支えする点も評価できる。

オーストラリアワインは、日本で見かけるような、大手大量生産の完成度の高い工業ワインか、それとも狙った感のあるナチュラルワインか、だけではない。Mountfordのような、まっすぐな自然さと人間味に溢れたワインにこそ、私はオーストラリアを最も感じることができる。

 

 

« デンマーク、La Violetta | トップページ | スワン・ヴァレー、Harris Organic Wines »

ワイン産地取材 オーストラリア」カテゴリの記事