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2016.07.27

デンマーク、Rising Star

 野心的な名前のワイナリーである。その含意は、自分自身がライジング・スターになること、冷涼産地デンマークがシャンパーニュ品種による発泡酒のライジング・スターになること、そしてワイナリー創業者ポール・ハイアットが幼少の頃に多大な影響を受けたという祖母がアメリカ合衆国テキサス州イーストランド郡ライジング・スター町の出身であること、だと言う。

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▲まるで普通の家のような小さなワイナリー。人物は、オーナーのポール・ハイアットさん。3年前まではパースに住んでデンマークまで通っていたそうだ。



 ハイアットさんはもともとはテキサスの石油産業に従事し、豊かな暮らしをしていたそうだ。その時に飲んだクリュッグ等数々のシャンパーニュの名品に触発され、自分でもシャンパーニュ製法のワインを造ってみたくなった。しかしカリフォルニアのブドウ畑は法外に高くて買えない。そこで冷涼なデンマークの地を見出し、アメリカから移住した。20059月のことである。買ったのは1989年にパースの医師イーン・マグリュー氏が植えた畑。これは1986年のティングルウッドに続き、デンマークで最も古い畑のひとつだ。もともとはリンゴ畑と牧草地だったという。

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▲畑の南側から撮影。土壌はKarry Loam (ケリー・ローム)、オレンジ色をしたロームだという。デンマークらしく、特徴的な褐色の鉄鉱石を含む。



 畑は家のすぐ前にある。当初はライラ仕立てだったが、べとかび病になるし、機械収穫ができないので、現在はVSPに仕立て直している。基本となるシャルドネは2007年に植えたクローン7。酸が出るクローンである。

 そのシャルドネがすごい。スティルの2012年でも、スパークリングの2010年でも、だ。とにかくスケールが大きい。ゆったりとした質感の厚みがあり、奥からもりもりと力が湧きだしてくるかのよう。逞しい構造や垂直性や力強い酸も見事だ。そもそも私はめったに新世界のシャルドネに心惹かれない。くっきりとした神経質な方向性もぼってりとした緩い方向性も(だいたいはどちらかに傾く)いいとは思わないからだ。しかしライジング・スターのシャルドネは堅牢でいて豊満、大きくともディティールに富み、陽気な性格の中に多彩な要素を内包している。驚くべきことに、スティルでもMLFなし。それがビビッドな酸とリッチな果実味の大きなコントラストと心地よくリズミカルな動きを生み出す。まだまだ改良の余地はあるとしても(オーガニックしてほしい)、既に驚嘆すべきレベルである。

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▲ラベルにはシャルドネと書いてあるが、実際はシャルドネ92%、ピノ・ノワール8%。それは正しい方法で、世界じゅうどこでもそうなのだが、なぜ多くの人はすぐに100%にしたがるのか。そこに自己満足以外なんの意味があるのか。ピノ・ノワールは斜面上に2007年に植えられているが、病気に弱く、10年のうち3年しか収穫できないそうだ。ピノ・ムニエも300株植え、2013年は3品種のブレンドになるという。

 初ヴィンテージは2009年。つまり、素人が新天地に移住してすぐに造ったワインがこの圧巻の出来だということ。ハイアットさんの情熱とそれまで隠れていた才能のおかげだとしても、なんでこんなことが可能なのか。これが可能だとしたら、熟練のワインメーカーが長年取り組んでもたいしたワインにはならないあまたのシャルドネをどう考えればいいのか。これはもう、デンマークのテロワールが別格的に優れているとしか説明のしようがない。

 それにしても、だ。オーストラリアのシャルドネ、いや新世界のシャルドネの最高レベルの産地としてデンマークの名前が挙がるのを聞いたことがない。西オーストラリアといえばマーガレット・リヴァーどまり。オーストラリア全体でもいまだにヤラ・ヴァレーとか言われる。その程度で「アガリ」でいいのか。オーストラリアには偉大なポテンシャルが未発見なまま残されている事実だけは認識してほしい。

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