« ブルガリでのドン・ペリニヨン・ディナー | トップページ | FIC試飲会で見つけたおいしいワイン »

2017.04.21

イタリアワインと熟成肉 at 小松屋人形町本店

 地元、人形町はいつのまにか大ミートタウンになっています。歩けば焼肉屋さんをはじめとする肉系飲食店だらけ。もともと今半と日山という超有名老舗すき焼き店がある町ですから、順当な発展とも言えますが。

 

Dsc02567


 その中でも人気の店のひとつが、小松屋人形町本店です。肉屋さんがイタリアのステーキに魅せられて始めた、肉イタリアン。いいコンセプトです。そしておいしい。ビステッカ・フィオレンティーナやフランスのコート・ド・ブフが好きなら、ここはおすすめです。



Dsc02578


 先週末はこの店で、イタリアワインと料理の相性を探る会を開催しました。メニューはこの店のベーシックなコースをオーダー。

*彩り野菜スティック(=バーニャ・カウダ)
*前菜(ツナと豆、カポナータ、レバーペースト、タコのマリネ、パンチェッタ、ズッキーニのマリネなど)
*アグー豚のサルシッチャ ローズマリー瞬間スモーク
*インサラータミスタ
*Lボーンのタリアータ
*ドルチェ
*コーヒー

Dsc02588


 ワインは以下のアイテムを飲みました。

野菜用     Mont‘ Albano Valpolicella 2013

前菜用     Fino Riccardo Cinque Terre Bianco I Magneti 2015

サルシッチャ用 Abmani Primitivo Manduria 2013

タリアータ用  Casal Taulero Montepulciano d’Abruzzo Thale 2005

 Sandrone Barolo Le Vigne 1996

 Molettieri Taurasi Vigna Cinque Querce 1999

  すべてのワインは蔵元から手持ちまたは空輸です。

 

 野菜スティックはタイトな味ですから、同じくタイトなワインが必要です。それと同時に、ニンジンのような重心の低いものからセロリのような重心の高いものまで出てきますから、ワインは垂直的で上から下までカバーするものが必要です。普通ならドルチェットと言われますが、ドルチェットはそれほどタイトではなく、けっこう濃厚な味がして、野菜の味じたいが相当に力強くないと、野菜の甘さがワインに打ち消されてしまいます。

Dsc02580


こういう時の出番は、私は複数品種ゆえに上下をカバーできるヴァルポリチェッラ。余分な味がしないし、硬質な芯がありつつ軽やかなので、いかにも野菜スティックな味。最近はあまり見かけませんが、役にたつワインです。さらっと軽く流してくれるところがヴェネトらしくてかっこいい。

ヴァルポリチェッラでも濃厚なタイプもあります。もちろんワインだけでテイスティングしたらそういうタイプがおいしく感じるでしょう。でも一番、「らしい」のは、色が薄くてアルコールが低くてタンニンが弱い、古典的な日常ワインのヴァルポリチェッラ。このモンタルバーノのオーガニックワインは、自らの立ち位置をよくわかっていて、その上で質(抽象的な質ではなく、目的意識のある質)を高めたものです。ヴェローナ人の美意識を熱心に語っていたオーナーを思い出します。日本には輸入されない類のワインでしょう。ちなみに同じ品種で同じような造りだとしてもバルドリーノは比較的水平的ですから合いません。

Dsc02581


前菜用ワインとは何か。これは圧倒的大多数のイタリア料理店にとって肝心なテーマです。

多くのカジュアルな店で「前菜盛り合わせ」がメニューに載ります。店側で盛り合わせていなくとも、複数の皿が同時にテーブルに載り、お客はそれら複数の料理を食べるのが普通です。ではそのような前菜にどんなワインを飲めばいいのでしょうか。

ひとつの料理だけに合わせたら、その他3つ4つの料理は犠牲になります。全部にそれなりに合うワインを探さねばなりません。ひとつだけに合わせるなら、ノジオーラだろうがエルバルーチェだろうがカタラットだろうが、日本には何百品種ものイタリアワインがあるのですから、ある個別の前菜っぽいワインをピンポイントで選ぶこともできるでしょう。しかしそれではリストランテ的フランス的(ないし近代ロシアンサービス的)思想であって、トラットリア的思想ではありません。「とりわけ」の象徴性=コンヴィヴィアリティを、本来その場である飲食店はもっと本質的なものとして真剣に考えなければいけません。

となると、複数品種、それも3つ以上の品種がブレンドないし混醸され、いろいろな料理に合う多面的な味と重心の上中下に対応する垂直性を備えたワインが必要だと分かります。圧倒的マジョリティを占める品種に若干の補助品種を加えたワイン(キャンティ、ソアーヴェ、プロセッコ等)も悪くはないでしょうが、本来なら、ひとつの品種が表に出すぎることのないワインを選ぶほうが、より複数の料理に対する汎用性や平等性があります。

そのようなワインのほうが単一品種(ないし、ほぼ単一品種)ワインより少ないのがイタリアワインそのものの問題点です。困ったらオーストリア南部(ブルゲンラントやシュタイヤーマルク)のゲミシュター・サッツのほうがいいかも(多くはウェルシュリースリング=トレッビアーノが入っていますしね)とさえ思ってしまいます。

少ない中から何を選ぶかといえば、私のような低い知識レベルでは、フラスカティ、オルヴィエート、チンクエ・テッレ、コスタ・ダマルフィ程度しかすぐには思いつきません。これらのワインはメジャーな存在ですから、イタリア好きな方々なら自宅でイタリア料理を作る時のために買ってあるのではないかと思います。そうでない人にはここで強く言っておきたい、買っておけ、と。とはいえ私自身はそれらのワインを多く品揃えしているお店を知りませんから、講座で「どこで買えるのですか」と聞かれ、「ワイナリー」という情けない答えになってしまいました。というわけで、今回はチンクエ・テッレ。昨年リオマッジョーレで買ったものです。チンクエ・テッレは駐車場探しが大変です。アマルフィもそうですが、ワインのためならオフシーズンに行きましょう。

当然ながら、タコだろうがズッキーニだろうがレバーペーストだろうが、何が来てもそつなく合いました。チンクエ・テッレは海が目の前にありますが、畑じたいは急斜面の山ですから、不思議なぐらい海と山の要素を兼ね備えているのが特徴です。それが料理との相性に関しての圧倒的な優位点です。しなやかながらも垂直性もあるのです。驚くべきはレバーペーストとの相性です。チンクエ・テッレが海の幸に合うのは予想がつくにせよ、そして実際そうなのですが、レバーペーストと合わせるとワインの内側から甘さが出てきて、レバーの旨みと柔らかさが際立ちました。

Dsc02583


 サルシッチャ(ソーセージ)は、豚肉ですから重心が低く、ひき肉ですから構造が緩く、外はグリルしてあるので外側の質感は固めです。豚肉ソーセージは我々にとってメジャーな食品のひとつですから、それに合うワインとは何かという議論は、ヴォークルーズの黒トリュフやカオールのジロール等何年かに一度しか食べないものとの針に糸を通すような相性についての議論より一般人には有益です。ワイン通やワインのプロは世界じゅうを食べ歩く食通の方が多いので、どうしてもそういう議論になってしまいがち。注意が必要ですね。

 私が今回お出ししたのは、プリミティーヴォ・ディ・マンデュリアです。タンニンが柔らかく、重心は低く、比較的水平的な形で、甘み、厚み、とろみがあります。しかし外殻はあります。酸はとても低い。どう見ても豚肉ソーセージ的な味です。プリミティーヴォ・ディ・マンデュリアは、それだけ飲むと、アルコールが高い、酸が低い、と言われがちです。しかし、それだからこそ使い勝手がはっきりしていて、役に立つのです。日本の家庭料理の多くには(煮魚や肉じゃが等が思いつきます)、サンジョベーゼやバルベーラよりはるかに役に立ちます。しかしあまり売っていません。ワインだけテイスティングして酸だタンニンだと言っているような人が多いからでしょうか。私にとってプリミティーヴォは、スパイスラックの中のオレガノやクローヴのように、ワインセラーになくてはならないワインです。

Dsc02585


 さて、メインのタリアータ(炭火焼ステーキ)。小松屋のセットメニューは、当日食べるまで、いったいどこの部位が出てくるかが分かりません。今回は、リブロースのような柔らかい部位からランプや内もものように固い部位まで、常識的に出てくるであろう部位を想定して、モンテプルチアーノ・ダブルッツォ、バローロ、タウラージを持っていきました。

 出てきたのはLボーン、つまりTボーンからヒレ肉部分を取った、ストリップロインの部分です。もちろんここはステーキらしいパワーのある最上の部位なのでラッキーでした。

 炭火焼ステーキは外は相当に固く、焦げ風味があるので、ワインの樽は強めのほうが合います。ステーキですから味は集中的です。分厚く切っているので中も柔らかいというよりは適度な噛みごたえがあります。脂肪交雑度合はだいたいアメリカのアンガスのプライムぐらいですから、和牛としては相当にリーンだとはいえ、しかし黒毛和牛ですからイタリアの肉とは異なり、噛むと脂肪のじんわり感が出てきます。そして、黒毛和牛ならではの口の中でのスケールの大きさ・ゆったりとした広がり感があり、余韻は大変に長い。ステーキは味が大きいので、ワインも大きくなければいけません。大きいワインは、普通、高級産地のよくできたワイン、つまりは往々にして高価なワインです。これが難しいところで、現実には大きくて値段が適度なワインを探すことが大事になってきます。

 Lボーンのタリアータに一番合ったのは、ワインの固さ柔らかさにおいては中間の、モンテプルチアーノ・ダブルッツォでした。バローロは柔らかすぎ、繊細すぎで、タウラージは固すぎ、格調高すぎ、そしてパワフルすぎ。ワインとしてはどれも超絶的においしかったのですが(当然です!)、モンテプルチアーノはワイン単体より肉といっしょに味わったほうがずっと魅力的でした。モンテプルチアーノ・ダブルッツォは安価なものから高価なものまでいろいろあって、一般的なものは早飲みのフルーティなタイプ。高いものでも熟成するとローストチキン的な味になるヴァレンティーニやマシャレッリもあります。今回のワインは堅牢で筋肉質で長期熟成タイプの、大変に凝縮度が高い、ステーキ向きの味のワインです。タンニンは強く、かつ粒々していて、そのがっしり感が肉の構造とまっすぐに対峙していました。酸が低めなのもよく、脂肪の甘さを消すことがありませんでした。

 さらに、モンテプルチアーノ・ダブルッツォの何がよかったかといえば、適度にラフで、気取りがないところです。ラフ&カジュアル=低質ではありません。バローロとタウラージは、このようなトラットリアなのりの場で、ワイルドな方向性のステーキと合わせると、町内スポーツ大会にシルクの高級Tシャツを着て参加するみたいな場違い感があります。服じたいの質に問題はなく、ドレスではないので服の用途的にも不適正ではない。それでもなんとなく場違いですよね。パン食い障害物競争にはコットンのTシャツでしょう。ワインはエレガントなら常に優れているわけではありません。そこが皆間違ってしまうところです。エレガンスが要求される食のほうが、そうではない食よりも、われわれの生活においては少ない、というのは事実でしょう(特別な立場の方は除いて)。スペシャルオケージョンワインばかりを称揚することになる現在一般に流布している価値基準は、ワインを永遠に記念日用アイテムに押し込めてしまう原因かも知れぬと意識せねばなりません。

 それはそれとして、バローロ村のバローロらしいしなやかさ、標高が高い石灰岩土壌のタウラージらしい引き締まった構造は大変に見事。後者は1999年ヴィンテージだというのにまだまだ紫色で、ワイン単体としての飲み頃は10年以上あとだとさえ思いました。

 いつもながら、料理とワインがぴったり合うと、料理も軽々と食べ進められますし、ワインもたくさん飲めます。そして、胃もたれもせず、変に酔っ払いません。小松屋の魅力を堪能することができました。

 

 

 

« ブルガリでのドン・ペリニヨン・ディナー | トップページ | FIC試飲会で見つけたおいしいワイン »

ワインと料理」カテゴリの記事