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2017.04.26

ニュー・カリフォルニアワインと天ぷらの会

 目覚ましい変化を見せている最近のカリフォルニアワインの素晴らしさを経験していただくべく、人形町の老舗江戸前天ぷら店『天音』で講座を開催しました。

 
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▲空襲を免れた大正時代そのままの店構え。こういうお店はただの飲食店ではなく、文化財です。


 それなりに年を重ねたワインファンの多くは、カリフォルニアワインに関して時
計が止まっていて、ナパやソノマの高価な有名どころの名前を憶えて終わり、になっているようです。さらにひどいパターンでは、完全に思い込みで、カリフォルニアワイン=「アルコールが高くてえぐくて樽が強くて人工的な味のする濃厚なカベルネ・ソーヴィニヨンとシャルドネ」みたいなイメージを持っています。

 今回のワインは、皆さんにとって衝撃的だったようです。「今までと全然違う!」、「カリフォルニアってこんな味だったのか!」という驚きの声を聞きました。

 

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▲巻エビの甘さと温かい力強さをカリニャンが引き立ててくれました。

 カリフォルニアと東京とどちらの料理が好きかと聞かれれば、躊躇することなくカリフォルニアと答えるぐらい、カリフォルニアの食は好きです。カリフォルニアは本来おいしいものが出来るところです。気候がいい。それは皆さん知っているでしょう。野菜もとてもおいしいから、土もいいのでしょう。消費者も味音痴ではありません。オーガニックへの関心も高い。ワインが好きな人の教養レベルはとても高いし、お金がある。そしてアメリカ人は真面目で、やる時はとことんやる。働き者です(アメリカの休日は日本よりずっと少ないのです)。まあ私はカリフォルニアで料理を作っていたのですから、そこらへんの事情については理解しています。ジャンクフードもおいしいけれど、そればかりクローズアップしがちな偏見はよくありません。大別するなら、カリフォルニアの食は、ジャンクフード、スペシャルオケージョンフード(ステーキが代表ですね。超高級レストランも含まれる)、エスニックフード、そしてよりデイリーなナチュラルフードです。この最後のデイリーなナチュラルフードに対応するカリフォルニアワインが今まで欠けていたのだと思います。

 

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▲白魚にもカリニャンが合いました。

 もともと自然条件はいいし、意識が高い真面目な人たちですから、いったん正しい方向とは何かが分かれば、きちんとそちらの方に向かって素晴らしい結果を出してくれます。その方向というのは、言うまでもなく、現在世界的に主流となっている、自然を尊重し、人為的な介入を極力減らした、素直な味のするワインです。

 そういったワインを造る人たちの考えは、Donkey & Goatのホームページにある彼らのマニフェストによく表現されています。低アルコール、クールクライメイト、オーガニック、手作業、木桶使用、自然酵母、SO2極小、補酸なし、無清澄無濾過、等々と書いてあります。別にカリフォルニアだけに限ったことではなく、現在の先端的ワインは皆そういう方向性ですね。カリフォルニアもワイン市場が成熟して、日々の暮らしに本当に必要なワイン、他人に見せるためのワインではなく自分で飲むためのワインとはどうあるべきなのか、分かってきたのでしょう。

 


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▲鱚には、特にその骨には、ヴァルディグイエがよかった。

 では、なぜそのようなワインを天ぷら屋さんで味わったのか。個々の天ぷら種の話以前に、群としての天ぷらはどのような味なのかを少し考えてみましょう。

天ぷらは素材は柔らかいし、水分を抜く料理ですから味は凝縮しています。一部の野菜を除いては基本的に重心は下で、方向性は水平的です。酸は低い。『天音』は、ごま油100%で揚げ、天つゆにつけて食べる、古典的な江戸前天ぷらです。最近主流の、色が白くて塩で食べる類の天ぷらではありません。江戸前天ぷらはパワフルな味なので、そして天つゆが旨みや複雑性や熟成感を加えます。



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▲アナゴの重心が低くてクリーミーかつ力強い味にはグルナッシュです。

 今回お出ししたカリフォルニアは、まさに上記の特質を備えています。そもそもカリフォルニアワインは柔らかいことが特徴です。なぜなら、フランスのように丘の斜面の岩の上に畑があるのではなく、比較的平地の柔らかい土に畑があるからです。フランスのように雨が多いところでは水はけのよい土地がよく、カリフォルニアのように(多くの新世界産地も同じですが)夏に雨が降らないところでは保水性のよい土地がよい。特に無灌漑栽培(今回の少なくとも三つのワインがそうでした)ではこれは最重要事項です。そして平地のワインは水平的な形になります。

しかし過去の多くのカリフォルニアワインがふっくらと優しい味とは言えなかったのは、アルコール高すぎ、樽使いすぎ、抽出しすぎで、なおかつ補酸していたからです。新しいナチュラルなカリフォルニアワインは逆です。特に重要な点は、補酸しないことです。だからものすごく酸が穏やかで低い。日本の料理の大半と同じく天ぷらに酸はほとんどないので、酸が低いワインが合います。酸が高いワインは沢山あっても、酸が低くて上質なワインはめったにありません。

 

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▲野菜の多くは重心が上ですから、ピノ・ノワールやシュナン・ブランやカベルネ・フランのように重心が上のワインの出番です。垂直的な白ワインもいろいろと出番があります。今回は出されませんでしたが、アスパラガスのように固めで細い形の野菜ならば、フランスやイタリアのワインも活躍するでしょう。

一般には天ぷらには白ワインと言われます。しかし私は合うとは思いません。なぜなら白ワインのほうが酸が強く(もちろん例外もありますが)、その酸はMLFをしていないことのほうが多いから性格が固く、海老や貝柱等の甘みを切ってしまうからです。そして質感も硬質なものが多く、合いません。質感の柔らかさ固さに関しては、料理の外部と内部に分けて考えねばなりません。赤ワインはタンニンと樽のせいで、外部が固くなりがちで、ゆえに赤ワインのほうが固い味と思われがちですが、内部に関しては白のほうが固いことが多いと思います。天ぷらは外部が相対的には固くとも内部は絶対に柔らかいので、この点からしても赤が合います。白の中でもシャルドネならMLFをしているとはいえ、シャルドネは相当ごつくて逞しい、質感が粗い味の品種ですから、違う意味で合わないことが多いと思います。

ですから天ぷらには、基本、重心が低く柔らかい味で樽が強くない赤、なのです。ずっとそう言い続けているのですが、いまだに天ぷら屋さんではシャブリだサンセールだシャンパーニュだ、と、最も天ぷらに合わないワインばかりが並んでいます。それらを飲んでおいしいと思うのでしょうか。天ぷらが実は嫌いなのに接待とかでいやいや天ぷら屋さんに行くからでしょうか。嫌いだからなんとか天ぷらの味を切ってしまいたくなるのでしょう。油っぽさをなんとかしようと思って酸の強い白ワインを合わせると、逆に天ぷらの油が目立つとなぜ気づかないのでしょう。そもそも油っぽい天ぷらは、調理じたいに問題があるのです。どうしても揚げ物が嫌いだというなら、なぜ天ぷらを食べるのでしょうか。

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▲貝柱のかき揚げ。貝柱といっても親指の爪ぐらい大きな大星です。貝柱一個で200円もするそうです。その濃密な甘みがジンファンデルにぴったり。

 個別のタネと個別のワインの組み合わせに関して特に印象的だったものは以下のとおりです。

 巻エビとカリニャン。アナゴとグルナッシュ。キスの中骨とヴァルディグイエ。椎茸とピノ・ノワール。大根とシュナン・ブラン。生姜とマルヴァジアのペティアン。甘とうがらしとカベルネ・フラン。小柱かき揚げとジンファンデル。

 天ぷら屋さんがこういったワインを揃える時代は、たぶんそうすぐには来ないでしょう。だとすれば、困ったことですが、天ぷら屋さんにはワインを持ち込むか、それともワインは飲まないか、です。合わないワインを、合わないと分かって飲むのは、自然にも、歴史文化にも、ワインにも、農家・漁師・ワイン醸造家・調理人にも失礼です。

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▲ワインは、ビリキーノのマルヴァジア泡とグルナッシュ、レッド・カーのエステート・ピノ・ノワール、ローファイのシュナンとカベルネ・フラン、ブロック・セラーズのジンファンデル、ヴェルディグイエ、カリニャン、そしてドンキー&ゴートの遅摘みルーサンヌ・マルサンヌ。

 

 

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