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2017.04.27

フランス、オクシタン州のワイン試飲会

 2016年1月1日、ラングドック・ルーション地域圏とミディ・ピレネー地域圏が統合し、オクシタニ州が誕生しました。今まではラングドック・ルーションとイコールだったSud de Franceのシンボルは、今では、コート・デュ・ローヌや南西の一部を含むオクシタニ州の農産物すべてに使用されることになりました。オクシタニ州に含まれるブドウ畑は27万3千ヘクタール。世界じゅうのワイン産地の4%、フランスの三分の一を占める世界最大のワイン産地です。

 ボルドーから南は言語学的にはラングドックですから、ラングドック・ルーションと南西が一緒になっても違和感はありません。このエリアは13世紀初頭、ローマ教皇イノケンティウス3世の号令下に行われたアルビジョワ十字軍によって破壊された土地、すなわちキリスト教カタリ派の土地と相当程度重複しています。こうして彼らがアイデンティティを自覚するのはよいことです。南フランスワインのファンとしては、北フランス中心思想を相対化する契機となるこのような運動は歓迎です。

 また、南ローヌの一部も含まれるのもいいことです。北ローヌと南ローヌを一緒に考えるより、南ローヌとラングドックを一緒にするほうが、品種的にも味の傾向的にも、いろいろと分かりやすいのではないでしょうか。

 

 そのSud de Franceつまりオクシタニ州の試飲会に行ってきました。試飲して思ったのは、ラングドックの中でもクリュないしクリュに準ずるポジションの産地はやっぱりおいしいということ。端から飲んでいて印象に残るのは結局、コルビエール・ブートナック、フォージェール、ペズナス、サン・シニアンといった、いつも私が好きだと言っている産地です。スケール感、バランス、存在感、密度感等々が、コルビエールやミネルヴォワといった普通の産地とは違います。

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▲この味で3ユーロなら安いものです。サン・シニアン、さすがです。ちなみにこれは畑の標高が180メートルですから、ベルルーやロックブリュンとは傾向が異なり、優しいタイプのサン・シニアンです。

 コルビエールの繊細さやミネルヴォワの内向性が悪いと言っているのではありません。それはそれで、使用目的がはっきりしていれば使い道がいくらでもあります。しかしワインだけで飲んだ時のインパクトは、クリュにはどうしても太刀打ちできません。

 気づいたのは、コルビエール・ブートナックではなく、ただブートナックとのみ表示してあることです。生産者に聞いてみると、「どちらでもいいのだが、ブートナックのみの表示も増えてきている」。それはよい傾向です。モレ・サン・ドニ・クロ・ド・ラ・ロシュとは言わず、ただクロ・ド・ラ・ロシュと呼ぶのと同じです。


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▲アペラシオン・ブートナック・プロテジェ。ぼんやりしていると産地名の変化についていけません。


しかしそれが意味をなすための前提は、ブートナックがどこにあっていったいなんなのかが分かっているということ。そうでなければ多くの人に「なんだろう、これは」と思われて終わりです。たとえばボージョレを例にとるなら、誰でもボージョレは知っていますが、ブルイイを知る人はごくわずかです。そうラベルに書いてあっても、それがボージョレのクリュだとは、勉強していなければ分かりません。クリュ・ボージョレ・ブルイイという名前のアペラシオンなら分かるでしょうが、ラベルにはボージョレのボの字もありません。つまりは分かる人だけ分かればいい、という名前なのです。

飲んでみると、ブートナックらしい果実の厚みやタンニンの強さとまろやかさの両立が見事。カリニャンが青臭くなったり泥臭くなったりせず、きちんと熟して、なおかつびしっとした芯を形作ります。特にカリニャンのファンなら、フィトゥーと並んでブートナックはしっかり記憶しておかねばなりません。

 

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▲シニャルグのオーガニックの生産者のワイン。完成度はまだまだですが、テロワールのポテンシャルはしっかり感じ取ることができました。


 南ローヌの中では、コート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ・シニャルグに興味を持ちました。これは世界遺産ポン・デュ・ガールとアヴィニョンのあいだにある土地です。IGPポン・デュ・ガールでおいしいワインは飲んだことがないので期待していなかったのですが、こちらはさすがに上級アペラシオンらしいポテンシャルを感じました。すぐ南にはニームがあるのでコスティエール・ド・ニームのさらっとした軽い味(すべて、とは言いませんが)と似ているかと思いきや、シニャルグはおおらかな南国味を基本としつつ複雑性や締まりもあって、なかなか見事。生産者の方に、「ニームのような砂ではないのですね」と聞くと、「砂も一部にあるが、粘土石灰質土壌」だと。この名前は記憶しておこうと思いました。

 

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▲Domaine de Venusの創立者のひとりで、マネージャーをつとめるジャン・フランソワ・ネグルさん。マカブー主体にグルナッシュ・ブラン&グリ、ヴェルメンティーノをブレンドした白がおいしい。



 ルーションからは、ヴィニュロン・アンデパンダンのサロンでおなじみのおドメーヌ・ド・べニュスが来ていました。2003年にサン・ポール・ド・フヌイエットで設立されたドメーヌです。私は2004年ヴィンテージからちょくちょく飲んでいますが、最近は力がいい感じに抜けて、質感が細かくなり、なおかつ樽もバリックからドゥミ・ミュイに換わったことで味が素直になり、ずいぶんおいしくなったと思います。これはフランスの普通のレストランで普通に飲むとぴったりなタイプの、やさしく、でしゃばらないワイン。さほど余韻は長くはないのですが、なにより性格がよい味なのが魅力です。ここの白が昔から気に入っています。ドメーヌにはモーリーの白もあるそうです。最近モーリーの赤の畑も買ったとか。ランシオ的な酸化は嫌いみたいですから(ボルドー人ならそうでしょうね)、このドメーヌからはチャーミングなモーリーが登場しそうです。

 しかしながら、全体を見て感じた問題は、ラベルのデザインがダサすぎなこと。スペインを見習うべきです。いつからフランスはこんなにセンスが悪いデザインで満足するようになったのでしょうか。

 猪のシチューだからブートナックにしよう、鹿のポワレだからサン・シニャン・ロックブリュンにしよう、魚介類の煮込みだから樽なしのグレ・ド・モンペリエにしよう、等々と考えてきちんと南仏ワインを選べる人は、きっと日本では少数派でしょう。分かっている人なら、ラベルは関係なく欲しいものを買うでしょう。ないし、ダサいラベルも味わいのうちだと思うでしょう。しかしそれを前提としていては敷居が高すぎ。思わず手を伸ばしたくなる魅力的なラベルにしたら、初心者でも買ってみたくなり、試してみておいしければそのあとが続くではありませんか。

 私はけっこうフランスワインの将来について不安に思っているのです。今までは「人はフランスワインを買うものだ」という前提がありました。DRCだラフィットだという最高級フランスワインの御威光が全世界のワインファン全員に通用するとみなし、その「フランス」なる傘の下で商売をしていれば客が来ると思っていたのかもしれません。しかし今ではフランスはワン・オブ・ゼムです。「別にラフィットに20万円も払いたくないし、そんなもの飲まなくても困らない、私は私の好きなワインを好きなように飲む」と考える人のほうが健全でしょう。だからフランスワインは、「フランス」に安住しているのではなく、魅力的なワインを造り、消費者に伝える努力を、他の国と同じようにしていかないといけない。日本におけるフランスワインの緩慢なシェア喪失傾向にいかに対処するか。フランス大使館の方々の力の見せ所だと思っています。大使館のある方は、「今までと同じことを同じようにやっているだけでは通用しなくなっているのかも知れないですね」とおっしゃっていました。その通りです!

 

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