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2017.04.03

スペイン、リオハ4 マルケス・デ・ムリエタ

 古典リオハを語るなら、リオハ・アルタという産地じたいの先駆けであるマルケス・デ・ムリエタの最上級キュヴェ、カスティーリョ・イガイを忘れてはいけません。ムリエタ侯爵の先見の明なくして現在のリオハはないのですから、なぜ彼がこの地(イガイというのは土地の名です)を選んだのかという問題意識を含め、誰もが飲んでみるべきワインです。

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▲ルチアーノ・デ・ムリエタ侯爵の時代から変わらぬ場所にあるワイナリー。外観はクラシックだが、内部は新しい。

 

 とはいえ大変に高いワインですし、そう簡単には飲めません。私自身の記憶をたどるなら、だいたい30年前と20年前に飲んだだけです。ヴィンテージは憶えています。78年と89年です。生産された全ヴィンテージのラベルが並ぶ部屋で、案内してくださった方に言いました、「78年は本当に偉大なワインだった。厚みがあってスケールが大きく、完璧なバランスだと思った。余韻の広がりがすごかった。89年はなぜカスティーリョ・イガイを作ったのか正直分からない。フルーティではあったがシンプルで薄かった」。その方が言うには、「私も同感ですね。94年と95年も傑作ですよ。個人的には95年が好きです」。私はカスティーリョ・イガイの両ヴィンテージは飲んだことがありませんが、マルケス・デ・ムリエタのリゼルバのほうは飲みました。「95年は力強くてスケール感がありましたね。94年はより繊細でしたが私はこの年のフォーカスといきいきした酸が好きで、どちらかといえば94年派です」。「ええ、そういう味です。それにしても、あなたはよく昔のことを憶えていますねえ」。「私は美味しいワインについては味を忘れたりはしません。この商売をする以上はワインの味を忘れては話になりません。それに私はそのぐらいしか能がない」。
 というわけで、今回試飲した2007年は本当に久しぶりのカスティーリョ・イガイ。これは大傑作です。カスティーリョ・イガイならではのクリーミーな分厚い果実味と積極性。そしてぴしっとしたフォーカスと気品。しかし以前と比べて質感が緻密で、はるかにビビッドな味になっている印象。現代的な古典、という感じです。

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▲カスティーリョ・イガイ2007年は、9月27日に収穫されたテンプラニーリョ86%と10月13日に収穫されたマズエロ14%のブレンド。テンプラニーリョはアメリカンオーク樽で、マズエロはフレンチオーク樽で28か月熟成されたのち、ブレンド。最初の10か月は新樽で熟成されるのが興味深い。

 レゼルバ2011年も値段を思えば素晴らしいワインです。マルケス・デ・ムリエタは、レゼルバとグラン・レゼルバのみを造り、クリアンサはありません。「レゼルバの品質がワイナリーの評価を決定づける」と言っていました。しかしまだ若くて質感が暴れています。酸もエッジがあります。これは数年間は瓶熟成させないといけません。イガイのほうは既に飲みごろですし、これから十年でも二十年でも熟成するでしょう。

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▲北、すなわちシエラ・カンタブリアを遠く臨む。山の麓から造られる北のワインとは対極的な個性。

 マルケス・デ・ムリエタの300へクタールの畑はワイナリーの周囲に連続的に広がっています。高台にあるワイナリーから眺めると、見渡す限りの自社畑。この「シャトー・コンセプト」が、ムリエタ侯爵がボルドーから持ち帰ってきた考え方です。だから彼自身がデザインした最初期のラベルは、「シャトー・イガイ」と書いてあります。19世紀後半には「リオハ」という産地名はなく、近くの都市であるログローニョの名が記されているのも時代を感じさせます。

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▲博物館には、長い歴史を物語る興味深いさまざまな陳列物がある。創業時のラベルデザインを現代でも継承しているのが素晴らしい。

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▲陳列品のひとつ、ラ・リオハ紙一面にのる、ムリエタ侯爵の死亡記事。リオハにとって彼がどれほど重要な人物だったのかが分かる。


 この地はリオハ・アルタの最南東部です。ですからリオハ・アルタとしては乾燥して温暖で、降水量は400ミリ程度と少なく、収穫は9月半ばに始まります。これはリオハ・アラヴェサよりゆうに半月以上早い。
土壌は砂礫質で、シエラ・カンタブリアに近いエリアのような石灰石は表土にはありません。石灰岩は地下4メートルの深さにあります。これがマルケス・デ・ムリエタ独特の高密度で力強いフルーティな味わいを生み出すわけです。80%が輸出され、そのうち40%がアメリカ行き、というのは分かります。ナパのカベルネを連想するような柔らかさとたくましさと甘い果実味があるからです。カステッロ・イガイの畑は標高500メートルの台地にあり、平均樹齢は現在89年で、テンプラニーリョはヘクタール当たり4キロ、マズエロは2・5キロしか収穫できません。リゼルバと比べてカステッロ・イガイのほうがさらに濃厚でいながら、はるかにすっきりとしている理由が分かりました。ただし、近年はあまりに乾燥が激しく、2010年からは灌漑を行っています。カステッロ・イガイの現行ヴィンテージは無灌漑時代のものですが、将来はどういう味になるのか。

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▲畑の土壌の断面。大きな砂利が沢山含まれる。

 ワイナリーの建物は創業時のものを7年かけて石ひとつひとつ積みなおして再建したものです。今ではミュージアム兼イベントやセミナー用のスペースとして使われています。ほとんどマルケス・デ・ムリエタ訪問専用と言っていいような高速出口まであって交通の便もよく、ショップも入りやすく、従業員の方々も親切。皆さんもリオハに行かれる時には是非訪問していただきたいワイナリーです。

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▲この建物自体は創業時からある最も古い部分らしいが、2007年から始められたリノベーションによって見違える姿に。横にはプライベートダイニングルームやきれいなオープンキッチンがあり、ちょうどこの日の夜の輸入元接待の準備がされていた。

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▲正面玄関を入ってすぐが、ワインショップ。どこもかしこもきれいで、スペインを代表するワイナリーであるという自負を感じる。

 

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