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2017.04.12

マルベック・ワールド・デー試飲会

 4月17日はマルベック・デー。それにちなんだ試飲会がこの時期世界じゅうで開催されるようです。

 昨日11日は東京のアルゼンチン大使館でマルベックの試飲会があるとの噂を聞き、潜り込んできました。会場は大盛況。近年のアルゼンチンワインの人気を裏付けています。

 マルベックはアルゼンチンで生産するワインの35%、海外市場で輸入されるアルゼンチンワインの51%を占める、名実ともにアルゼンチンを代表する品種です。カオールが原産でしょうけれど、そしてロワールのマルベックも素晴らしいものですが、フランスの栽培面積は13097ヘクタールなのに対して、アルゼンチンでは76603ヘクタール。マルベックといえば、いまやフランスの品種ではなく、アルゼンチンの品種です。

 マルベックはタンニンが強いのに粒子が細かく、ボディが肉厚で、とろみがあり、角が丸い味の品種です。ボルドー系品種の中で比較するなら、カベルネよりはずっとメルロ的ですが、メルロよりもパワー感があって、ハーブ系の香りが少なく、風味がさらに黒系果実の方向に行くと思います。この分かりやすく力強くクセがない味の品種が人気にならないわけがない。この10年で、ピノやカベルネと並ぶような代表的赤ワイン品種のひとつになったと思います。

 アルゼンチンの主たる産地であるメンドーサ周辺は標高が高く、畑は1000メートル以上の高地にあります。飛行機で上空から見ると分かりますが、アンデス山脈の麓の長大な緩斜面がずっと続いており、地上での見た目はほとんど平地です。土壌は砂や粘土や砂利です。降水量はメンドーサで223・2ミリしかない。ですから灌漑は必須です。チリと同じく、多くのブドウは自根です。

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▲標高低めで粘土の多い土壌。アメリカンオーク。細身で後味に酸が目立つ「エレガント」タイプより、この老舗ワイナリーのふてぶてしい余裕感のある味が、霜降り焼肉にぴったり。しかしワインメーカーはかのポール・ホブスですから、知的なカッコよさもある。私が一本選べと言われたら、明確な使用目的があるという点で、これにします。



マルベックという品種の個性と上記の特徴を演算すれば、まさにアルゼンチンはメンドーサのマルベック独特の味を思い描くことができます。つまり、品種の個性プラス、重心が高い、水平的な方向性が強く流速が遅い、構造が緩い、質感がなめらか、ストレス感がなく若干シンプルでミネラル感は弱い(典型的な灌漑味)、安定して腰がすわっている、です。

 数多くのワインを飲んでも似た味なのは、工業的だから、ではなく、単一品種かつ同一テロワール(もちろんミクロ的には多彩ですが、コート・ドールと同じように、基本的には、という意味で)だからです。それがまた分かりやすくていいわけです。

 しかし使いこなしはけっこう難しいワインです。なぜなら重心が高いからです。

 アルゼンチンといえば、誰でも牛肉を思い出すはずです。マルベックと牛肉。誰でもそう関係づけたくなります。しかしアルゼンチンの牛肉はグラスフェッドなので重心が上ですが、質感が固く、角が四角い味です。ですからアルゼンチンで牛肉のグリルを食べても、合うのはマルベックではなくカベルネ・ソーヴィニヨンです。しかし黒毛和牛ならば逆で、重心の問題さえクリアすれば、カベルネ・ソーヴィニヨンではなく、質感、粘性、形という点で、ハンバーグのデミグラスソース的、霜降り部位の焼肉的です。重心の高いラムやチキンだと、他の項目がなかなか合いません。

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▲このワインはボナルダが少々ブレンドされており、マルベック単体より溌剌感や軽やかさがあります。安価なワインですが、傑作です。メンドーサはイタリア移民の多い町なので(レストランに行けばパスタがあります)、イタリア品種にもっと着目すべきでしょう。ボディーニは高名なワインコンサルタントであり、このワイナリーの当主でもあるスザーナ・バルボの子息、ホセ・ロヴァッリオが作ったブランドだそうです。もともとはアルゼンチンの野生の猫を意味するBudiniという名前だったのに、バドワイザーからクレームが入って改名。へんな話ですね。このワインの売り上げの一部は、地元の子供の教育を助ける基金、Build On Dreams of Individuals, Not Institutions になすそうです。女性醸造家が手掛ける、というのが売り文句ですが、なぜ「女性」を売り物にするのか不思議でなりません。醸造家が女性だろうが男性だろうが関係ないし、このワインのポイントはそこではないだろうに。



 というわけで、私のおすすめするワイン選びのコツは、重心が極力中央にあるかどうかをテイスティング時の主要なチェック項目にせよ、です。この視点からすれば、標高が高すぎず、土壌が軽すぎず、早く収穫しすぎることのないワイン、という具体的な姿が見えてきます。そうすれば最強の「和牛ワイン」としてのマルベックが得られます。しかし高級ワインになるほど標高が上がり、酸を重視する傾向があるようです。ワイン単体で飲めば素晴らしいとしても、具体的な使用状況はなかなか見えてきません。

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▲左の樽発酵赤ワインのしなやかなタンニンときめ細やかなな果実味が特に印象的。


 今回の発見は、パタゴニアのワインです。パタゴニアは涼しいのでピノ・ノワールの産地だと思っていましたが、マルベックも育つのですね。これがくっきりとした構造があって垂直的で、酸が引き締まって、メンドーサの緩さと対極の個性でした。フランスワイン的かも知れません。ソースに酸がある牛肉料理によさそうです。

 アルゼンチンのマルベックは、かつては過剰な樽風味があったと思いますし、高級ワインになるほど樽が強くなるのは世界じゅうどこでも同じ傾向なのですが、今回は樽のバランスがよくなったと感じられました。ただ、アメリカンオークに関しては意見が分かれるところでしょう。フランス料理にはフレンチオークのワイン、バーベキューにはアメリカンオークのワイン、というのがひとつの指針にはなります。アメリカンオークを使ったワインを、焦げのない料理と合わせるのは失敗のもとです。

 

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▲有名なカテナ・ザパタのトップキュヴェです。さすがの気品と精妙さ。ものすごく要素が多く、それが柔らかく組み合わされていて、立体的な味です。スタンドにいらした方が、「デュッセルドルフのプロワインのカテナ・ザパタのブースの後ろに映像が流れていて、そこにあなたが映っていました」と。ここを訪問した時の様子でしょうか。ワイナリーではシャルドネの商品設計について相当つっこんだ議論をしていた記憶があります、映像に音声がついていたら大変です。
 何人かの方に、「五桁になるような高価なワインはどこで売れるのでしょうか」と聞くと、百貨店。ならば家飲み、ということですね。高いワインを高いという事実を楽しむために飲むのではないとすれば、使いこなしに関して意識的にならないと、消費者はせっかくの素晴らしいワインの個性を生かしきれないということになります。ワインは真剣に考えて取り組まないと、お金の無駄になる。アルゼンチンに限ったことではありませんが。

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