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2017年5月の記事

2017.05.17

プリオラートの会

 513日に日本橋浜町ワインサロンでプリオラートの会を開催しました。

 

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 プリオラートはリオハと並ぶスペイン最上級格付け、DOQの産地です。両者はずいぶんと異なり、
19世紀以来の名声が連綿として続く産地リオハと比べ、プリオラートは新興産地と言っていい存在です。中世にはスカラ・デイ修道院によるワイン造りが行われていたとはいえ、長らくは協同組合による安価なワインの生産が主流で、国際的に注目されて有名になったのは1990年代以降です。

 それなりに年季の入ったワインファンなら1990年代半ばから終わりごろのプリオラート・ブームは記憶されているでしょう。そしてその頃プリオラートを飲んで、濃くて強くて樽が強い、という印象を持たれ、以来飲んでいないという方も多いようです。今回の会でもプリオラートを飲んだことがあるという方のほうが少数派でしたし、飲んだ方のひとりも決してポジティブではない記憶を持たれていました。正直、私も決していい印象を持っていませんでした。一番好きだったプリオラートは、現代に入ってからの最初のワイナリーの最初の作品、スカラ・デイの1974年だったというぐらいで、皆が騒ぐあれやこれやは、特に値段を思えばいまひとつに思えました。

 スペインに特に興味がなければ、プリオラートを飲む機会は決して多くないでしょう。家庭用に気軽に買える値段ではありませんし、巷のスペインバルで飲むにも高価すぎますし、プリオラートが似合う高級スペイン料理店は極めて数が少ないですし、どんな料理に合わせて飲むものなのか判断できません。というわけでプリオラートという名前を聞いたことがない人はいませんが、名前だけで終わっているのが普通です。しかたないとはいえ、実体がどういうものなのか知らないままに噂が飛び交う状況は健全ではありません。

 確かにプリオラートは高価なワインです。ブドウ畑の値段はヘクタール当たり千数百万円と、リベラ・デル・デュエロと並んでスペインでは最も高いようです。数十年前までは打ち捨てられていたような畑が今では宝の山。それだけ世の中ではプリオラートの人気が高く、高値でも売れるため、次々と外部から投資が進み、新しいワイナリーが多く誕生しています。90年代の一過性ブームかと思いきや、以来ますますステイタスが上がっているようです。

そんなにいいワインなのか。そこでプリオラートに行ってみると、すごくおいしいではありませんか!ちゃんと高いワインに味がします。当たり前だと言われてしまいそうです。私の経験が偏っていたのでしょうか。そこで持ち帰ってきたワインを会にご参加の皆さんに飲んでいただくと、「プリオラートってこんなに甘かったんだ!」、「今まで飲んだワインとは違う!」と。プリオラートは進歩しているのです。

 

 今回お出ししたワイン(どれも未輸入)は4つに区分できます。ひとつは元祖スカラ・デイ。第二は協同組合系。第三は国際品種ブレンド系。第四は地場品種こだわり系です。

 一番人気があったのは、最近オーガニックに転換しはじめて品質が向上したスカラ・デイの、ガルナッチャのロゼです。プリオラートといえば赤ワインが普通ですから、ロゼを飲んだことがある人は少ないでしょう。しかしこれは恐るべき完成度。姿形の美しさ、抜けのよさ、伸び、気品が圧倒的です。スカラ・デイの畑は石灰岩の山モンサンの麓で、一部の畑は例外的に石灰岩土壌です。プリオラート=リコレジャ(粘板岩やシスト)土壌とは言い切れないのです。そしてこのロゼは石灰岩の畑からできています。味の形や気配からして、他のプリオラートは別ジャンルのワイン、完全に方向性の違うワインだと言うしかありません。中世の修道院は“修道院が造るべきワイン”を造っていたのだろうな、やはり彼らは最上の場所からワインを造っていたのだろうな、というのが参加者の方々の感想でした。

 この結論は、ある意味、困ったものです。これが最もいいと言うなら、他のプリオラートはどうなるのか。昔よりは遥かに全体的なレベルが向上しているとはいえ、スカラ・デイとその他のあいだに横たわる根本的な差異はいかんともしがたいのです。それを単一尺度のよしあしで見てしまっていいのか。そもそもこのワインは輸出されません。スカラ・デイのセラードアでしか売っていない、と言われました。それもまた、困ったものです。。。。。

 協同組合系ワインは、Maritxell ParrejaNita。これは協同組合のブランドではなく、中身は実はグラタヨップス協同組合のワインを買ってきてうまくブレンドしたものです。標高が低いところから高いところまで(だいたい200メートル台から600メートル台だと思います)の畑のブレンドですから、味わいに多面性と垂直的な構築性があります。ひとつの畑のひとつの品種からだけでは、なかなかこのような垂直性は表現できません。

 このワインも人気でした。クオリティーは明らかに高く、上品ですが、肩肘張ったところがなく、普段の食卓に違和感なく溶け込む節度がある。そして生産者のセンスのよさが伝わるバランスのよさとチャーミングさがあり、飲み飽きしません。積極的な意味で“普通のワイン”のハイセンス版といった趣です。

 1990年代にプリオラートを再発見、再定義したかの“4人組”以前のプリオラートは協同組合ワインが主流でした。以降協同組合は崩壊したと言われていますが、このNitaのような素晴らしいワインが出来るなら、協同組合を無条件的に否定するわけにはいきません。

 ちなみに以前このブログでプリオラートのバルの写真を載せました。バーカウンターの端に写っているグラスワイン用の瓶の一番左にあるのが、このNitaです。地元消費用としてふさわしい性質と価格であることの証明です。

 国際品種ブレンド系は、Hidalgo Albertです。セカンドワインであるFinaはガルナッチャ50%、シラー30%、メルロとカベルネ・ソーヴィニヨン計15%、カベルネ・フラン5%1270 A Vuitはガルナッチャ40%、カリニェーナ10%、カベルネ・ソーヴィニヨン20%、シラー20%、メルロ10%と、地場品種比率は半分でしかありません。アンダルシア出身のオーナーはもともとタラゴナのワイン商で、自分でもワインを造りたくなってプリオラートに移り住み、ブドウを自ら植えました(ですからすべての樹は若木)。つまり彼の理想とする味を表現するための品種構成だと言えます。

クオリティーは見事です。オーガニックのよさが出ています。特にこれだけ多くの品種を使っていながら、味の形に凹凸がなく、垂直的な階層のあいだに密度や大きさのギャップを感じさせない統一性をつくりだしている点は見事です。これはそう簡単に実現できる特性ではありません。個人的にはFina2014年のクロ・ドラに、1270は往年のベガ・シシリアに似ていると思います。彼はワイン商としての経験からいろいろなグラン・ヴァンを飲んでいるわけで、そこに共通する特性をしっかりと理解しているのでしょう。それにしても、実際に実現できてしまうのは天才の技です。

これはプリオラートではない、という意見も出されました。地場品種の個性という側面から観察すれば、確かにプリオラートらしくはありません。しかしこの完成度の高い味わいはプリオラートだからこそ、偉大なテロワールだからこそ実現できたのではないかとも言えます。新興産地としてプリオラートを見るなら、ここではこの品種でなければならない、と、あまりに原理主義的に拘束するのは将来の発展の芽を摘むことにもなります。

思い出していただきたいのは、プロヴァンス最初のAOCになったカシーです。カシーはプロヴァンス最上の白ワインのひとつだということに異論がある人は少ないでしょう。しかしカシーはフィロキセラ前にはミュスカの甘口の産地であり、いったん滅んだあと、どんな品種を植えればいいかを考え直したわけです。だからカシーでは、ソーヴィニヨン・ブランとかコロンバールとかマルサンヌとか、プロヴァンスの伝統とは関係のない品種が植えられています。それが成功したから、現在に続く名声があるのです。それはベガ・シシリアに対しても言えることです。リベラ・デル・デュエロの地場品種は本来はカベルネではないからダメだと言ってしまえば、ベガ・シシリアそのものが存在できません。それでいいでしょうか。誰がなんと言おうとベガ・シシリアは世界最高のワインのひとつです。結果がいいものが正しいものである、というフレキシブルな視点は重要です。

もちろん、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロをリコレージャの斜面に植えたら渇水ストレスが大きすぎて灌漑するはめになるでしょう。実際に灌漑している畑もよく見かけます。しかしプリオラートには土が深い谷間もあります。そういう畑にガルナッチャを植えてもよい結果は出ません。これはキャンティの例えが分かりやすいでしょう。キャンティの丘にも粘土質の平地は存在するわけで、そこにサンジョベーゼを植えて薄くてまずいワインを造るのと、そこにボルドー品種を植えて素晴らしいワインを造るのと、どちらが自然の生かし方として正しいか(商売としては言うまでもなく)。「地所の中のふさわしい場所にふさわしい品種を植えるのが正しい」。かのカルロ・フェリーニの言葉を思い出します。

 

地場品種こだわり系は、Nin-Ortizです。ニコラ・ジョリー率いるルネサンス・デ・ザペラシオンに加わっている生産者です。これは典型的・理念的な現代プリオラートだと言えるでしょう。品種はカリニェーナ、ガルナッチャ、ガルナッチャ・ペルーダ。標高の高い畑でのビオディナミ栽培。低アルコールと高めの酸。ひとつのキュヴェはアンフォラ発酵、亜硫酸無添加。いかにも。

パワー感は素晴らしい。凝縮度の高さもすごい。気合十分です。しかし形がいびつ。味の飛翔感、ほぐれ感がなく、力がまだ混沌の中にうごめいていて、どこにフォーカスしていいのか分からないような状態。新興産地の新進ワインならではのドラマです。そこを味わうものです。それでも、何かが違う、というもどかしさから脱することができません。

Nin-Ortizは白ワインを造っています。アペラシオンはプリオラートですが、実は中身は非認可品種カリニェーナ・ブランカです。このダークで強引な味は大変におもしろいものがあります。このワインを、彼らのプレステージキュヴェである赤ワインNit de Ninに1%ほど加えると、両者に共通する強引さや圧迫感や閉塞感が一気に解消され、バイブレーションと広がりと抜けが表現されるようになりました。参加者全員が、そのほうがずっとおいしいと思いました。

これまた困ったことです。そもそもカリニェーナ・ブランカは認可されていませんし、白と赤を混ぜたほうがいいなどとは誰も言いませんし、ワインは実際にはほとんど存在しません。白が最初から含まれているプリオラートの赤ワインはFredi TorresのClassicぐらいしか知りません。

ようするに、プリオラートはこれからの伸びしろが大きい、未完の偉大な産地なのです。プリオラートはこうあるべし、と一義的に規定し、よしあしの判断をするのはまだ早い。だからプリオラートをいろいろと味わい、いろいろと考えることが楽しいのです。

 

2017.05.12

Wineplat11社合同試飲会

 インポーター約30社と契約してワインの検索から発注までを一貫して行うことができるワインの総合プラットフォーム、Wineplatがサービスを開始し、11社のインポーターのワインを集めた合同試飲会が銀座で行われました。まずはB to Bサービスから始めたようです。11社の商品を試飲するために各社ごとの試飲会に行くには時間的に大変ですし、そもそもそれぞれの会社から案内が来なければ試飲会があることさえ分からなかったのですから、このワンストップショッピングはとても便利だと思います。卸値が会社をとわず一律というのもいいですね。ちなみに出展者は、会場で配られたカタログのページ順に記すと、BMO、JSRトレーディング、イーストライン、いろはわいん、ヴァンクール、ヴァンクロス、ラフィネ、布袋ワインズ、オルヴォー、和泉屋、ディオニーでした。

年内には一般消費者向けサービスも始まるようです。どういう形になるかは分かりませんが、Wineplatの試飲会に消費者が参加してインポーターからその場で購入できるなら、買ってみて失敗した、ということがなくなります。インポーターにとっても小売価格で消費者に直接販売するなら利幅倍増です。試飲せずに正しいワインを選ぶためには尋常ではない経験と知識が要求されるので、試飲販売は常にありがたい機会です。

パリやリールやリヨンやストラスブールで行われているヴィニュロン・アンデパンダンのサロンを思い出します。生産者が何百人も集まって直接消費者に試飲販売する場です。数千本のワインを試飲してそこから必要なワインを打率10割で選ぶことができる。Wineplatも将来は東京ドームやビッグサイト借り切りで、日本の数百のインポーターの数千種類のワインを直接試飲販売するイベントを秋冬に開催し、数万人のワインファンがそこでワインを買うような仕組みになるかも知れません。まあそうなった時は、普通の人は酔っ払いますから、8時間連続で1000本のワインを飲んだらとんでもない醜態が繰り広げられる心配がありますね!

 

会場には一時間しかいなかったので残念ながら入って左側にブースを設けていた会社のワインしか試飲できなかったのですが、気に入ったワイン、興味深いワインのいくつかを紹介します。

 

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Sylvin Raspaut
 Tangerine 2015
          希望小売価格(以下同)3400

 ルーション、カラマニーの造り手です。シャルドネ75%、ソーヴィニヨン・ブラン25%。温かい果実味と、やさしい酸と、明るいミネラル感。カラマニーのシャルドネ・ソーヴィニヨンなど今まで選択肢の中にありませんでしたが、そして飲む前までは期待もしていませんでしたが、飲んでみてびっくりの素直においしいワインです。ルーションらしいスケールの大きさが印象的です。

 

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▲Un Pas de Coteの薄い色あい。

 


Le Temps des Cerises
 Un Pas de Cote 2015 3780

 ラングドック、オート・ヴァレ・ド・ロルブ(サンシニャンのあたり)の造り手。グルナッシュ100%、MC法、ピジャージュもルモンタージュもナシ、低温発酵、SO2無添加。想像できる通りの薄い色とふわーんとした酸とかわいらしいストロベリー風味とたっぷりとした旨み。同時にくっきりとしたミネラル感と適度な緊張感があって、サンシニャンあたりの内陸で標高が高めの個性も備わっています。スタイル的には流行りのヴァン・ナチュールといえばそれまでですが、完成度が高く、スタイル先行のワインになっていません。写真左のルーションの2本を飲んだあとだと特に、内陸ラングドックらしいタイトな骨格がよく分かります。

 

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▲Ferdinand Ablarino。写真は生産者のホームページから

 


Ferdinand
 Albarino 2015 
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初めての収穫体験が2006年フランス、ルーションのモーリー、という若きEvan Frazier2010年に創立したワイナリー。彼はアルバリーニョ、カリニャン&グルナッシュ、テンプラニーリョの、計3種類のワインだけを造ります。モーリーからスペインはすぐですし、ルーションはカタルーニャの一部ですから、当主がスペイン品種に興味をもつのは自然な流れだったようです。

ブドウはカリフォルニア、ローダイにあるMarkus BokischVista Luna畑産です。この畑にはヴェルデホやグルナッシュ・ブランもあります。カリフォルニアの気候を考えてもシャルドネやカベルネを栽培するよりそれらスペイン品種のほうが理にかなっていると思います。実際ナパのイングルヌックでも19世紀にはパロミノが植えられていたと聞いたことがありますし、何がふさわしい品種なのかを再考すべきなのです。とはいえ生産者だけで議論しても市場がなければ売れません。消費者のほうでも、クール・クライメイトを意識して海岸沿いか山の上の畑のワインを追い求めるだけでなく、既存産地でどうすればいいのかの議論を進めるべきです。

ローダイはさらさらの砂質土壌が多いはずですが、Vista Luna畑は砂利質ローム。このワインも軽快感と同時になかなかがっちりとした芯があります。アルバリーニョらしい垂直性と明快なエッジ(芯はソフト)とタイトな酸。鮮やかなレモンやミントの香り。後味は意外とふわんとしているのがカリフォルニアらしいところ。ローダイのような暑いところですから、収穫は730日と8月1日という早さ。7月収穫とはすごいですね。    

ローダイの生産者組織が制定したLodi Rules(見てみると総ページ数141ページ!)を遵守してCertified Greenの認証を取得しています。オーガニックではありませんが、この認証を取得するためには人的物的側面を含めて、負荷がかからないナチュラルな方向の造りしかありません。醸造も自然酵母で温度調整なしにニュートラルオーク発酵。新世代カリフォルニアらしい意識の高いワインです。

 

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Sebastien Riffault
 Sancerre Akmenine 2012 
  3800

 メインストリームのサンセールはくっきりはっきりしたソーヴィニヨン・ブラン品種の個性を前面に出したワインです。しかしこのワインは10月半ばに収穫して貴腐が少しついたブドウを樽発酵した、相当に酸化的な味。無濾過無清澄SO2無添加で、色は濁った薄茶色です。これでINAOの検査が通ってサンセールのアペラシオンが取得できたことが不思議なぐらいです。2007年からビオディナミ。かのルネッサンス・デ・ザペラシオンのメンバーでもありますから、既に親しんでいる方も多いでしょう。

 これを飲んで思ったのは、パスカル・コタにも似ているな、です。コタは古典中の古典ですね。貴腐のサンセールも実はそんなにアブノーマルではなく、コタの95年を思い出します。伝統の味という側面もあるのです。50年前のサンセールを継承しているだけだと生産者は言っているそうですが、それは理解できます。とはいえさすがに酸化しすぎだとは思います。同じワインを樽熟成させずに、つまりホイリゲの形で飲めば、どんなにおいしいことかと想像してしまいます。ミネラルの高密度感に関しては、収量30hl/haということもあって、圧倒的ですから。

 大事なのは、サンセールは「サンセール」であって、「ソーヴィニヨン・ブランのひとつ」ではないと前提すること。そのあと、「ではサンセールとはいったいどんな味のワインであるべきなのか」を考えねばなりません。

 

 

Dsc02801 Mas de L’Escarida  Sote Mon Soleu Merlot 2015   2800

  Fai Virar Gamey 2015 3500

 

 2012年に創業、2014年に醸造所を建造したばかりという新しい注目の生産者です。産地はローヌですが、有名アペラシオンの居並ぶ場所からは遠く、モンテリマールの西側、標高500メートルのモンダルデッシュ自然公園の南にあります。ポジティブなエネルギーが感じられ、柔らかく広がる果実味のピュアさが素晴らしく、酸もソフトかつビビッドで、かつ能天気にならない陰影感もあります。標高の高い三畳紀の砂岩土壌、という味です。

 無清澄無濾過SO2無添加ですが、不安定さや混濁感はまったくありません。当主のローラン・フェルはオーガニック農業コンサルタントとしてキャリアをスタートさせただけあって、知性に裏付けられた情熱が感じられます。20年前にSO2無添加というと相当アヤシイものもありましたが、今ではほんとうにクリーンで安定したものが多くなりました。もはやSO2無添加は特殊動機用珍品ではなく、普通です。

 メルロは全房でMC法で発酵。ガメイもMC法で、フリーラン果汁を別のタンクに移して7か月かけて発酵し、残糖15g/lの時点で瓶詰めして発酵を進めた、最終残糖5g/lの弱発泡ワイン。特にメルロは構造がはっきりして凝縮度も高く、余韻も長く、高品位です。テロワールのポテンシャルが高いことが分かります。アルデッシュのワインに近年注目が集まっているのも当然だと思いました。

 

 

Mure Cremant d’Alsace Cuvee Prestige NV   3100

 ルファック村の老舗、デメテール認証ビオディナミ生産者ルネ・ミューレは既に確たる地位を築いています。彼らが造ったワインでおいしくないものを飲んだことがありません。

これは彼らが買いブドウで造るクレマンです。クレマン・ダルザスは案外とぺたっとした味のシンプルなものが多く、肩透かしになりがちですが、これは大変に複雑で、味に立体感があり、なおかつクレマン・ダルザスに期待したい抜けのよさと緊密なミネラル感があります。香りや酸等々いろいろな要素のバランスがよく、うまい造り手なんだな、と改めて思います。

輸入元オルヴォーの資料をそのまま引用させていただくと、

“キュヴェ プレステージ”は、平均樹齢30年の5種類のブドウを小樽と大樽を使用して、18ヶ月熟成させ、その後”ソレラ”のような方法で貯蔵したワインを加えてボトリング。2次発酵に移り、さらに18ヶ月の熟成を経て出荷されます。5種類のブドウをブレンドする事で、複雑な香りと味わいになり、シャンパンとは一味違うスパークリングワインに仕上げています。 ブドウ品種:ピノ ブラン(25%)ピノ オーセロワ(25%)リースリング(20%)ピノ グリ(10%)ピノ・ノワール(20%)

明らかにクレマン・ダルザスを代表する一本だと思います。

 

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La Maison Romanee
 Gevrey-Chambertin Le Justice 2013 12000

 ヴォーヌ・ロマネの異端児、パリ出身のオロンス・ド・ベレールが創立したネゴシアン。彼は同時にビオディナミに欠かせない馬による耕作のスペシャリストとして、ブルゴーニュの錚々たるドメーヌを顧客にもっています。

 インポーターの方に「彼は豚を飼っているでしょう」と聞くと、「この前訪問した時にその豚を食べさせてくれたのですよ!すごくおいしかったです。村の人にオロンスさんについて聞くと、『ああ、あの豚を飼っている人ね』と言っていました」。彼の豚は山の斜面の自然環境の中で(柵の中ではありますが)放し飼いです。狭い小屋に押し込められて死を待つかわいそうな豚ではありません。おいしいに決まっていますね!

 彼のワインはいかにも現代のスタイル。自然酵母による全房発酵で、抽出は極めて軽く、無清澄無濾過でSO2添加は極小。樽の存在を感じない、ふわんとした上品な香りと柔らかい旨みののった立体的な味わい。腰の強い地酒的温かみを感じないところが、昔からのブルゴーニュファンにとってはひっかかるところかも知れませんが、センスは抜群で、ポジティブな趣味性に溢れ、パリっぽい生まれ育ちのよい都会人の味ですから(それは例えばDujacにも言えることです)、高級現代フランス料理店のテーブルに似合いそう。

 久しぶりに飲みましたが、以前よりずっと完成度が上がっている印象。味のフォーカスが定まり、濁りが少なくなり、アイデア先行で実質が伴わない危うさが払拭されたと思います。特に畑を考えれば、この味は見事と言う他ありません。ジュヴレ・シャンベルタンの有名なヴィラージュのリューディ、ル・ジュスティスは、確かに悪い味ではありませんが、普通はもっとぼんやりとして水平的でタンニンの粒が大きく酸が緩く、果実味のタイプは黒系に偏ります。ところがこのル・ジュスティスは到底国道に接する平地の畑とは思えず、もっと上のほう、例えばフォントニーに近い畑かと思うような垂直性とくっきり感があります。ただ、余韻の長さそのものはヴィラージュの限界はいかんともしがたく、そこだけに着目するなら今のブルゴーニュの値段は高すぎます。それはインポーターの責任ではありません。世の中に素晴らしいワインは山のようにあるのに、ブルゴーニュのようなブランド産地、それもジュヴレやヴォーヌといった有名な名前しか覚えようとせず、そればかり買おうとする消費者の責任です。いい加減目を覚ませと言いたい。

 とはいえ、実は消費者を責めるわけにはいかない。世界数十か国の全アペラシオン全生産者全品種全ヴィンテージの味を記憶している人など原理的にいるはずもない。自分の好みのワインを世界から選ぶのは難しいばかりか不可能なのです。だから知っている範囲から選ぶ。他の商品を考えても、それはむしろ普通の消費行動です。

 ですから実際に試飲して買える機会は本当に大事だと思っています。それでも欲を言わせていただくなら、ブースに立つ人がより広く深い知識を持っていてほしい。ヴィニュロン・アンデパンダンのブースの何がよいかといえば、そこでワインを販売している人は実際にそのワインを造っている人だからです。質問には即答です。しかし今回の実例で言うなら、「これらのワインの中で畑で除草剤を使っていないのはどれですか」、「分かりません」、「では、これらのワインの中でドライファームはどれですか」、「分かりません」。これでは単なるワインの注ぎ屋さんになってしまい、生産者の代理人になりえませんね。

 あるワインがステンレスタンク熟成か否か、といった情報はネットで調べようと思えば調べられます。最近はワインショップで買い物をするときにスマホでワインを調べている人が多いですね。しかし「この20本の中で除草剤を使っていないワインはどれですか」という質問には答えてくれません。これを解決してくれる人がそこにいて、はじめてワインが選べる基盤ができてくると思います。

 

2017.05.02

ニューワールド・リースリング

 アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドの優れた白ワインといえば、シャルドネとソーヴィニヨン・ブランだけ、という時代ではもはやありません。英語圏での近年のリースリング・ブームを反映し、リースリングの質がどんどんと向上している印象です。

 暑苦しいとか甘ったるいとか想像したら大間違い。彼らが望むスタイルは、とことん辛口。この品種の重要な美点であるびしっとした緊張感や引き締まった酸を求めるなら、ヨーロッパよりニューワールドのほうが期待に応えてくれるのではないかとさえ思います。

 さらには自根のリースリングが場所によっては生き残っているのが魅力。垂直性や深々としたパワー感という点で、接ぎ木がほとんどのヨーロッパのワインに対する差別化は十分です。ニューワールドのリースリングを飲んだあとにヨーロッパのリースリングを飲むと、上品な整い方はさすがだと思いますが、同時に薄くて頼りなく感じられるほどです。

 「ニューワールド」といえばパワフルな果実味、「リースリング」といえば繊細さ、という先入観を持っている人が多いと思います。だからそのふたつの単語が組み合わさると、イメージが難しいかも知れません。

 しかしニューワールド=パワフルな果実味、リースリング=繊細、なのか。ニューワールドに詳しい人もリースリングに詳しい人もそこには疑問をもつでしょう。特にリースリングに関しては戯画的単純化であるばかりか、根本的誤解なのではないか、と。

私にとってリースリングは白い色をしていても中身は赤的な構造を持っている品種です。一言で言ってごつい。ニューワールドのリースリングの多くは、そのごつさをしっかり感じられる点がいいのです。

 

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かの有名なワシントン州のエロイカと、ノーマルなシャトー・サン・ミッシェルのリースリング(できればLimited Release Waussie Riesling)と、どちらがいいと思うかで相当程度嗜好(というより思考)が分かるでしょう。エロイカは大変に完成度の高いワインですが、これがいいならモーゼルがいいということですし、それならアメリカのリースリングを選ぶ意味が薄くなります。譬えて言うなら、天ぷらを食べるのにリスボンから有名シェフを呼んできて作ってもらう必要はなく、そのほうがいいと考えてしまうと、日本の天ぷらの健全な発展はないはずです。作ってもらうのは結構ですが、そのほうが優れているわけではないということです。

残念ながらリミテッド・リリースは日本で見かけませんが、ノーマルなリースリングでも、そのざっくり・無骨・素朴な趣が、いかにも。私はこの産地であるコロンビア川の対岸に住んでいたので(つまりオレゴン)、これを飲むと地元感が伝わってきて落ち着きます。“おしゃれ”にしない、かっこつけない、あえて洗練しすぎない、しかし誠実に、常識とトンガリ具合の絶妙なバランスをおさえて作り、地元の人の暮らしの中で生かす、という感じ。土着感のワインなのに、泥臭くもならずぼんやりもしないのがまたいい。バサルト土壌の上昇力と緊密さ、そして自根の腰の強さはさすがあるからです。これで価格は2000円程度なのですから、お買い得です。

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恐るべきミネラル感と透徹した意思力と強烈な酸で印象を残したのが、カリフォルニアのScribe。収穫日は8月13日から25日という早さ。アルコール11・5%、TA10・1、pH2・99、そして残糖0・0です。この数字から、どれだけ過激な味かが分かるでしょう。特に残糖0・0というのは初めての経験でした。甘さを完全に消去すると、リースリングはここまで厳格で苛烈な味になるのだと分かります。ワインとは「人間と自然の健全な関係の結果」であるとホームページで謳うこの生産者はナチュラルな造りで、いかにもニュー・カリフォルニアな個性。私は初めて試飲しましたが、周囲の方に「スクライブも知らないのか、もう何年も前から有名で、人気のリースリングだ」と言われました。これを読まれている方にはすでにおなじみのワインなのかも知れませんが、まだ飲まれていない方は是非試していただきたいと思います。

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アメリカのリースリング産地として注目を集めるのが、ニューヨーク。頁岩土壌が基本みたいですから、それもメリットですね。カナダ国境近く、フィンガー・レイクスのAnthony RoseのArt Seriesは、緻密なミネラル感としなやかな味わいで、ニューワールドの中では相当ヨーロッパ型の上品さ。あか抜け感・淡々とした気配・知的なおすまし具合が、私にとってはいかにも東海岸味だと思えます。

ニューヨークのリースリングの中ではこれが姿形が最も整っており、余韻も長い。特筆すべきは香りで、多くのワインが似たり寄ったりの培養酵母のぬるっとした香りになってしまいがちなところ、これは天然酵母だけあって、まともなワインの香り、つまりミネラリーで複雑な香りがしました。ニューヨークのワインは最近相当レベルが高いようですし、これからますます人気になるでしょう。地域の資金力と需要を考えれば、やる気になったらまずいものが出来るわけもない。日本からニューヨークに行く人は何十万何百万といるわけで、その方々にとっての地酒として飲んでいただくだけで、将来にわたって巨大な需要が続くはずです。

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オーストラリアのリースリングとしてGrossetは欠かせません。ポリッシュ・ヒルは世界最高のリースリングの一本として、リースリングファンのセラーに不可欠な一本です。もちろん青色粘板岩土壌のポリッシュ・ヒルの冷たく硬質で人を寄せ付けない磨き上げられた味は、誰も否定する人がいないほど素晴らしいのですが、より厚みがあって流速が遅い、表土が厚くて石灰岩土壌のスプリング・ヴェイルは、緊密なミネラルがありながら料理との融和性に優れ、とても使いやすいワインです。値段もはるかに安いですし、この認証オーガニックの自根ワインは広く勧められるアイテムだと思います。

西オーストラリアの老舗(1974年初ヴィンテージ)、Plantagenetは、相変わらずの出来のよさ。値段も安いのがいいですね。普段使いの西オーストラリア・リースリングとしておすすめです。どこでも売っているポピュラーな存在ですから。産地はMount Barkerですから、鉄鉱石。独特のゴツさと粘りと厚みがあって、やはりMount Barkerは好きだななと思いました。輸入元の方に、「この前マウント・バーカーに行ったらお昼ご飯食べるところがなくて難儀しました」と言ったら、「あそこはなんにもないところですよ、よく行きましたね」と。そのなんにもなさ(トリップアドバイザーでマウント・バーカーを調べてみてください。愕然とします)が、ワインにとってはいいわけです。人の手あかがつかない、おおらかな自然の味がします。そしてフィロキセラもいない。グレート・サザンはどこも無灌漑・自根。これは巨大なアドヴァンテージです。

 

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 ニュージーランドのピラミッド・ヴァレーは、自社畑ピノ・ノワールの圧倒的な品質(世界のトップレベルです!)については皆さんご存知だと思いますが、契約畑のブドウで造るRose Family Vineyard Rieslingも素晴らしい出来です。アルコールは14・8%と、リースリングとして最高と言っていいぐらいの高さですが、アルコール臭くありません。温度調整もせず、リースリングとしては珍しく無清澄・無濾過。ヨーロッパのリースリングは、意識の高いところでさえ濾過するのが普通ですから、きれいですが、どうしてもパワー感や厚みが抜けてしまう。それに対してこのリースリングは、きれいとは言えない味ですが、生々しい力が横溢していますし、噛みごたえがあり、余韻も極めて長く、かつ立体的な構造を最後まで失いません。すごいワインです。

 

 ニューワールドのリースリングの忘れてはいけない魅力は、値段の安さ。赤ワインやシャルドネと比べてずっと安い。収量が多いわけでもないし(というか、リースリングは低収量です)、質が悪いわけでもないのに、なぜこんなに安いのか。ひとつの理由は、樽を使っていないからですが、その生産コストの差を考えても安い。ある生産者が「需給関係が理由で安い値付け」と言っていました。ワイナリーは他の万人受けするワインで儲けていただいて、ものが分かる人がリースリングを安く買う、という図式。大変にけっこうなことです!

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