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2017.06.13

ドイツ、ラインヘッセン、フックス醸造所

 ラインヘッセンで1626年から続く老舗ワイナリー、フックス醸造所の当主ハンス=ヤコブ・フックスさんが輸入元探しに来日。二年前のフーデックスで出会った縁で、ドイツ農業省主催の商談会に顔を出してきました。



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 彼は何度も来日しているのですが、あるレストランにごく少量輸出している以外に日本では売り先が見つけられていません。

「試飲会で日本人に飲ませると、みな口を揃えて『おいしい、おいしい、これは好き』と言うのだけれど、それから誰もコンタクトしてきたことがない」。

 ・・・自分からもメールしてみたのですか。

「してみたけれど、返信もない。日本は不思議だ」。

 ・・・日本人はその場では相手を喜ばそうとして相手が期待していることを言うものですよ。それは日本語の特性でもあります。だから言葉の裏にある気配を読み取らないといけない。そのことに戸惑うのはあなただけではないですよ。

「どうすればいいのだろう」。

 ・・・日本人の多くが求めるドイツワインはリースリングですよね。そしてリースリングとは堅牢で硬質なワインだと思っている。ないしは甘口か。ラインヘッセンは、特にあなたのエリア(ヴォルムスの西10キロ弱)は、リースリングの産地でもなければ、堅牢で硬質な味わいの産地でも、甘口の産地でもない。安ければいいかもしれないが。

「うちはそういう廉価大量生産ワインの作り手ではない」。

 ・・・ポジション的にはミドルクラスでしょう。ドイツの普通のワイン好きな消費者が支持する品ぞろえだと思いますし、価格ですし、味わいだと思うのですが、日本では確かに売れにくいとは思います。

「ある有名ドイツワイン輸入元に売り込みに行ったが門前払い」。

 ・・・VDPとか、売り文句があるといいのでしょうけれどね。私個人はVDP信仰など一切ありませんがね。そもそもそちらは大変な老舗なのだし、VDPメンバーにだってなれるでしょうに。

VDPは生産の8割がリースリングがシルヴァーナーかシュペートブルグンダーでなければいけないという」。

 ・・・ああ、いかにもVDP。そりゃVDPが間違っていますよ。ラインヘッセンはそういう産地ではない。いろいろな品種があってどれもいい、というのが特徴なのに。彼らのリースリング至上主義はモーゼルやラインガウでは成功しても、ラインヘッセンやファルツではおかしな話になる。

「その通りだ。ピノ・ブランとかムスカテラーとかシャルドネとか、どれもいい。そしてラインヘッセンはチャーミングな果実味が魅力の、明るい性格の楽しいワインだ」。

 ・・・そこがまた理解されにくいところなんですよね。私もドイツワインの大きな魅力はクリーンでクリアーでチャーミングな果実味だと思っていますし、大変にフードフレンドリーなワインなのですが、前にも言ったように、日本ではドイツワインをそのようにとらえる人は少ない。プロでさえ、です。ドイツは広いのだし、ひとつのスタイルや味わいのワインだけがあるのではなく、多様性が楽しいのですがね。しかしそれをプライベートなひとつの企業で伝えていくのは無理です。あなたのワインのよさを理解するには、その前に消費者のドイツワイン観を複眼化しないといけないし、そのためには教育が必要だし、それには公的機関の助けが必要です。また、ラインヘッセンの生産者全体として独自の魅力を訴求していかないと。それは大変ですよ。なぜならチャーミングでフルーティで楽しいワインを求めるなら、普通消費者はドイツではなく新世界産地に目を向けてしまうでしょうし、そういうワインは競合が激しいでしょうから。

「ドイツワイン、という大きな傘の下ではだめなのか」。

 ・・・ドイツワインと個々の企業のあいだに、ラインヘッセンという別個のカテゴリーが必要なんです。ドイツワインそのもののイメージが一元的である以上は、ラインヘッセンのワインを飲んでも、期待している味ではない、という結論にしかならない。現状のイメージはモーゼル、ラインガウ、ナーエ等にはプラスだとしてもラインヘッセンにはマイナスです。だから国に帰ったらDWIに相談して、ラインヘッセンをテーマにしたプロモーションを提案してみてください。それで利益を得るのはラインヘッセンのみんなですから。


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 フックスさんのワインのよさを、逆説的諧謔的に言うなら、なんのへんてつもないところ、です。目立つ特徴がないワイン。完全な地元消費用の味です。汎用性の高い、商店街の豆腐屋の木綿豆腐みたいものです。どこぞの特別な大豆を使った、とか、特殊な製法だ、とか、古来の伝統を再現した、とか、パッケージングがかっこいい、とか、ではない。ならばそういう普通の木綿豆腐は間違った商品なのかといえば、もちろんそうではなく、世の中の役にたっている。豆腐に限らず、横丁にあるいろいろな食べ物、例えば蕎麦屋のカレー南蛮とか、肉屋のコロッケとか、中華料理店の普通の焼き餃子みたいなものがなくなったら、やはりそれはへんな社会です。

 問題は、そういうワインを海外で売らねばならないことです。

「以前は地元の常連客がひとり60本づつ買っていってくれた。しかしそういう世代は70歳代になってしまった。30代、40代の消費者は6本、いや3,4本しか買ってくれない。ならば外で新しい顧客を探すしかない。だから現在では輸出比率が50%」。

 スタイルや味を変えて輸出向けにするのがいいのか。それとも規模を縮小するのか。それとも今のスタイルや味のよさを伝えていくのか。

 いや、これはドイツワインだけの話ではないです。ミシュラン系寿司屋か回転寿司だけになってしまって町場の普通の寿司屋がなくなっていく状況。でも私は、そういうSNS映えしない、話題にもならず記事にしようもないような普通の食のありがたみや美しさが好きなのです。そういうワインがなくなったら、この世はシュミラークルで覆いつくされてしまうではありませんか。

 

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