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2017.06.17

福岡でのオーストリアワインセミナー

 先週の名古屋に続いて、今回は福岡の中心地、西日本新聞社内にある天神スカイホールでオーストリアワインのセミナーを行いました。

 

 空港から天神に着いたのは正午前でしたので、まずは昼ごはん。天神の裏の路地にある行列のできるカレー店、Tikiに行ってみました。今まで見たすべての飲食店の中でも最も分かりにくい場所にある店です。噂にたがわず素晴らしいお店。雰囲気がよいし、もちろんカレーは見事。はつらつとした力強さがあっても軽やかで、複雑で個性的でも混濁感がなく、胃にはもたれず口中での余韻は大変に長い。福岡に行かれたら是非試してください。


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 福岡でオーストリアワインのお話をさせていただくのは初めてです。どんなマーケットなのですかと聞いてみると、福岡はボルドーの姉妹都市でボルドーがよく売れる、とか。男性はがっつりパワフル赤ワインが好きで、白ワインは女性のほうが支持する、とか。オーストリアワインはまだまだといった感じで、セミナーにご参加の方々の半数は、「まだ扱っていないが興味がある」という答えでした。

 オーストリアワイン、もしくはオーストリアのファンの方々向けですと、オーストリアが文化大国であり、ヨーロッパ史の中でどれほど重要だったのかは自明の前提として話をします。一般の方、特に世界史や美術史やクラシック音楽に興味がない方向けですと、やはり「オーストリア」そのものから話をしたほうがいいと思います。

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 今回、冒頭に私が言ったことは、以下のような内容です。

商品の価値は、実体的な内容の価値と、それを取り巻く、ないしその前提となる象徴的な価値の合体である。ワインの経済的な効用は、味からのみ生じるものではなく、どれだけいい文化的イメージをその国に持っているかによっても決まる。ワインに多大な価値を与えることができる国の代表はフランスである。イタリアもそうだ。ではルーマニアは?スロヴァキアは?日本ではそれらの国に、ワインの価値を増大するようなポジティブな文化的イメージはない。オーストリアは、日本人が「よい文化的イメージ」を明確に持っている数少ないヨーロッパの国のひとつだ。

参加者のおひとりは、オーストリアワインをなぜ売るのかという問いに、「音楽好きな方へのプレゼントを探している方向けに」と答えました。それだけでは極めて小さな需要ですが、そのような答えができる国は数少ないのは事実です。それだけオーストリア=音楽の国というイメージ、文化的大国としてのイメージが確固としてあるということです。それを積極的強み、訴求点としていかねばなりません。名古屋でのセミナーでも言いましたが、酸があるとか、すっきりしている、とかの、ワインの実体的内容だけを求めるなら、別にオーストリアでなくとも、世の中に選択肢は有り余っているのです。

 

今回ご参加の方々に質問してみると、やはり皆さんのあいだにも、オーストリア=酸&すっきりの冷涼味=グリューナー・ヴェルトリーナーの等号が形成されているようです。果たしてその等号は正しいかが問われねばなりません。答えから言うなら、その等号が正しい場合もあれば、そうではない場合もある、ということです。

グリューナーは決して酸が高くて硬質なミネラルのある品種ではありません。オーストリア品種全体から見ると、それはロートギプフラーやノイブルガーと並ぶソフト型フルーティ型粘り型品種であって、他国の品種に譬えるならヴェルメンティーノやヴィオニエ的であり、リースリング、アルバリーニョ、フルミント、ヴェルディッキオ的ではありません。

高価格ワイン=高格付けワイン=より典型的なワイン=よりおいしいワインといったフランスワイン的認識を踏襲してしまうと、グリューナーでもエアステ・ラーゲのリザーブタイプのワインが「らしい」のだろうと思って飲んでみます。しかしそれらのワインの味は、リッチで酸が低く、予想しているものとは異なるはずです。

ですから、この等号をアレンジしていく必要があります。方法としては、

1、酸やミネラル感を求めるなら、ツィアファンドラーやウェルシュリースリングにも目を向ける。

2、オーストリアは酸があるものもあればないものもあると考える。

3、グリューナーならば、涼しい産地、涼しい畑を選ぶ。

4、造りとして、クラシックタイプのグリューナーを選ぶ。

 現実的に、オーストリア=グリューナーという認識があるのは、何もないよりいいとみなすなら、そしてグリューナーを積極的に訴求していこうと思うなら、3、4の方法をとるべきでしょう。例えば今回お出ししたグリューナーは安価なものです。土壌はレスです。日当たりのよい南向き斜面ではありません。それが「らしい」グリューナーを選ぶコツです。斜面信仰、岩(つまり片麻岩、花崗岩、片岩、石灰岩等々)信仰、格付け信仰は、フランスワインにとっては正しいアプローチであっても、オーストリアワインにとっては正しいとは限りません。

 もうひとつ気づいたのは、「オーストリアの銘醸地=ヴァッハウ、オーストリアの代表品種=グリューナー・ヴェルトリーナー、ゆえに、オーストリアの典型的なワイン=ヴァッハウのグリューナー・ヴェルトリーナー」と考える人の多いことです。これを読まれている方ならご存知のとおり、ヴァッハウの片麻岩の斜面は基本的にリースリングの畑であって、グリューナーの大半はドナウ川沿いの比較的平地の、ローム質の畑にあります。ヴァッハウの名声は何よりリースリングによって得られたものであり、実際にそのリースリングは素晴らしいものでしょう。しかしグリューナーは、その立地からして、必ずしもヴァッハウに期待するキャラクターが得られるわけではありません。この等式と、「岩の南向き斜面=よいワイン、高価なワイン=よいワイン、高格付けワイン=よいワイン、リザーブタイプ=よいワイン」という等式の連立方程式から得られるワインの味わいはどういうものかはお分かりになるでしょう。それがおいしいかまずいかと言っているのではありません。それが「酸の高いすっきりした味のワイン」という一般的な期待とは逆になる、ゆえに顧客不満足の原因になりうる、と言っているのです。とにかくワインの知識が固有名詞の暗記と同列になってしまっている状況下では、固有名詞を適当に組み合わせたストーリーが勝手に生まれてしまいがちです。勉強するならとことん追求し、そうでないなら、頭ではなく舌で飲んで判断する、というのが迷路に入らずに済む道だと思います。

 

 

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