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2017.06.10

カパフォンス・オソ醸造所

 プリオラートの端にあるファルセット町の畑は、一部プリオラート、一部モンサンのアペラシオンです。この地で五代続く老舗カパフォンス・オソを訪れ、当主フランチェスコ・カパフォンスさんにテロワールや栽培についていろいろと教えていただきました。

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▲手前がモンサンの畑。山にあるのがプリオラートの畑。

 ファルセットの町に続く平地部分がモンサンです。モンサンの土壌は石灰岩、砂利、粘土といろいろあるようです。カパフォンスさん曰く、「すべては花崗岩の上にあり、基本は花崗岩が風化した砂。モンサンの地質年代はカタルーニャで最も古い」とのことです。実際彼のモンサンのワイナリー、マシア・エスプラネスの前にある畑を見ると、まるでビーチのような砂です。表土だけ見ると灌漑が必要だと思いますが、花崗岩が風化していれば下には粘土があるはずで、ここでも無灌漑。以前からモンサンといえばふっくらフルーティな味だと思っていました。花崗岩だと聞いて納得です。そして平地なのですから、プリオラートとは対照的。ワインの味の形も、垂直的なプリオラートに対してモンサンは水平的ですし、流速もプリオラートが早くてモンサンは遅い。品種的には類似点が多いにしても、とても隣どうしのアペラシオンとは思えません。

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▲モンサンの表土。風化した花崗岩。

 モンサンはプリオラートと比べて半分以下の値段です。カパフォンス・オソでも、マシア・エスプラネスが17.99ユーロなのに対して、プリオラートのマス・デ・マソスが39.99ユーロ。ちろん急斜面のプリオラートは収量が低く(樹の大きさが相当違います)、栽培も大変ですから、プリオラートが法外な値付けをしているという批判もあるとはいえ、実際に畑を見れば倍の値段はしかたないと思います。

ではモンサンの質が半分かといえばそうではありません。ようは、何を求めるか、です。ワインにやさしさを求めるのか、厳しさを求めるのか。いわばプリオラートが基本的には修道院的な観賞用ワインだとすれば、モンサンはもっと使いやすく親しみやすいワイン。最近皆が注目しているのも分かります。多くの飲食店で料理との相性が見出しやすいのは、モンサンです。

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▲地層が露出している崖に車を停めて熱弁をふるうフランチェスコさん。

 

モンサンのエリアからプリオラート方向に行くと、家々の石垣が急に変わります。モンサンでは建築用石材は花崗岩。プリオラートに入ると片岩です。家を建てる時に掘り出した石で石垣を作っているのでしょう。

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▲プリオラートを特徴づけるリコレージャ。

プリオラートの地層が露出しているいろいろな箇所に連れていっていただきました。ひとくちにリコレージャと言っても、比較的柔らかい粘板岩もあれば、硬質な雲母片岩もありますし、珪岩もあります。掘り出してみると、石と石のあいだには粘土があります。「これがブドウに水分とミネラルを与えている」と言います。



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▲外から来た投資家がこうしてテラスを作ってもともとの土壌を破壊してしまう、とカパフォンスさんは憤る。


カパフォンスさんは急斜面にテラスを作ることに反対です。以前にニン・オルティスでも聞いたこととおり、やはり「伝統的には急斜面にそのまま植栽した」そうです。テラスを作ると「土壌を破壊し、ブドウの生育に必要な有機物が取り除かれて、段々畑のエッジの部分に集まってしまう。ブドウが植わっている部分には石だけで何もない」。

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▲カパフォンスさんが描いた、テラスに植えた樹(左)と、斜面そのままに植えた樹(右)の違い。


「急斜面にはブドウを斜めに植えていき、畝を斜めにするのが伝統」だとも聞きました。水が斜面上から下まで直線的に流れ落ちませんから土壌流出も防げるでしょうし、雨がそんなに多くない土地ですから水をためやすいでしょうし、また、「斜めにしなければ耕作用のロバが斜面を登っていけない」。確かに垂直方向では急すぎて人もロバも登れませんし、水平方向に進みたくとも横に傾いてしまってロバは立っていられません。トラクター耕作や除草剤使用を前提とした畝づくりに慣れてしまっているから、方向が縦か横しかないと思ってしまうので、よくよく考えてみればこの斜め植えは理にかなっています。

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▲斜面に対して斜めに畝が作られているのがわかる。


 畑を遠くから見ると、樹勢が強いところも弱いところもあります。森の下や大木の横は樹勢が弱かったり枯れたりしています。「地下に木の根が張っていてブドウに十分な水がいかない」そうです。といっても「森林は保護されているから、邪魔だからといって勝手に切り倒すことはできない」。こうして観察していると、“生命”を感じることができますね。

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▲同じ品種、同じ斜面といえども樹勢は株によってずいぶん違うもの。

認証はないとはいえ栽培は実質オーガニックですから、ワインの味は素直です。老舗ならではのこなれた安心感もあります。しかしカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロやシラーといったフランス品種の影響が大きすぎます。それはモンサンでもプリオラートでも同じです。何度も言っているとおり、ワインが熟成してもカベルネ・ソーヴィニヨンは特にそのままの味がずっと残り、時間を経るほどむしろ違和感が出てきます。30%も入れてはいけません。

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▲テイスティングしたワインの数々。

昔はカベルネをほとんど入れていなかったようです。その時代のワインを飲むと、きれいに熟成していて、すっきりとした抜けのよさがあります。当人もそれはわかっています。しかし私以外のいろいろな人が今までテイスティングして、誰もフランス品種の害について指摘しなかったらしい。考えられません。その程度のテイスティング能力だと言っているのではない。問題点がわかっていてもその場では社交辞令的コメントだけ言って場をとりもつ態度は、本当にプリオラートやモンサンが好きな人の態度なのか、そこに本当のワイン愛があるのか。カパフォンス・オソの問題は、素晴らしい栽培をしていながら、国際市場の顔色を窺ったワイン醸造がせっかくのテロワールのポテンシャルと自然の美しさと人のよさを減じている、ということです。つまり、あれこれ余計なことを考えずに伝統を守り、自分の味覚に素直になれば、ずっとよいワインになる。ですから私はフランチェスコさんに、「カベルネを入れてアングロサクソン市場でのウケを狙う時代はとうに終わった。早く方向性を切りかえてガルナッチャ、ガルナッチャ・ペルーダ、カリニェナのブレンドにしてください。とはいえ今までの顧客もいるから、それを次の新商品としてください」と言いました。

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▲上がガルナッチャ・ペルーダ。葉の裏に毛が生えている。下はガルナッチャの葉の裏。



 その点では、フランス品種ワインと割り切った
CSMVessantsSy&CSRoigencのほうがずっと完成度が高いと思います。特に前者は亜硫酸無添加で、モンサンのふっくらした広がり感がよく表現されています。しかし亜硫酸無添加だとは積極的に謳っていません。最近では亜硫酸無添加じたいが目的となっているようなワイン生産とワイン消費が目立ちますが、入れる必要がない場合は入れない、それだけであってあえてそれを売り文句にしない、といった姿勢のほうが正しいと思います。

 

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