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2017.06.04

南仏「クリュ」のロゼの会

 東はイタリア国境に近いニースのベレから、西はスペイン国境に近いバニュルスまで、フランス地中海沿いの銘醸地のロゼワインを集めてテイスティングする会を開催しました。

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 南仏ロゼと言えば、現在主流の色の薄い直接圧搾法のプロヴァンス・ロゼを連想するのが普通でしょう。特に若い方なら、15年前ほど前までのプロヴァンスの色が濃かった時代のロゼをご存知ないでしょうから、なおさらロゼ=直接圧搾法というイメージだと思います。

 それはそれで悪いものではありませんが、最近はどれもこれも同じ味のような気がして、若干食傷気味です。どうもロゼというのは「スタイル」のワインになってしまっているようです。とりわけ南仏では、期待される125度程度から13度のアルコールをグルナッシュ等のメジャー南仏品種を用いて実現するためには相当早く収穫するほかなく、結果として熟していない青さと硬さと小ささと単調さが気になってしまいます。皆で酸、酸、酸と連呼する風潮にはうんざりです。総酸量が多ければいいのではなく、熟した良質な酸があることがワインの味わいには大事なのです。

だから私は一般的な「海辺のテラスにふさわしいおしゃれなアペリティフ的ロゼ」は好きではありません。私がワインに望むのはスタイルではなく、しっかり土地を感じることができる力です。ロゼはその目的には好適なワインだと思っています。なぜならロゼは酸もタンニンも弱いので、ストラクチャーを作る要素はミネラルしかなく、土地のミネラルを味わうためには、換言するならテロワールに触れるためには、ロゼが一番わかりやすいからです。逆の視点から言うなら、良質なロゼの前提はよいミネラルをたっぷりと感じさせてくれる畑であり、それはつまりは、化学薬品に毒されていない「クリュ」です。

この会でお出ししたロゼは、すべて「クリュ」の畑のワインです。プロヴァンスはベレとパレット、南ローヌはタヴェル、ラングドックはテラス・デュ・ラルザック、コルビエール・ブートナック、ラ・クラープ、ルーションはモーリーとバニュルスです。もちろん、それらは畑が属するアペラシオンであり、ラベルに表記されたワインのアペラシオンではありません。ブートナックAOPやモーリーAOPの規定にロゼはありません。

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ロゼを買うときのひとつの目安は、それが「クリュ」なのか否かです。よいテロワールのロゼはスケール感があり、姿かたちが整って、余韻が長いものです。例えばAOPの赤ワインとAOPの畑からできるロゼワインを比較すると、当然ながら似た味がします。しかし赤よりロゼのほうが、タンニンに邪魔されない分、その土地らしさがすっと見えてくる感じさえします。このような視点から見えるロゼは、ピンク色をした白ワインではなく、色の薄い赤ワインとしてのロゼです。

野太く逞しいベレ、ガッツと高密度感のあるテラス・デュ・ラルザックのシストのロゼ、微粒子感と上昇力のあるテラス・デュ・ラルザックの火山性土壌のロゼ、まるみがあって穏やかでとろりとしたコルビエール・ブートナックのロゼ、キリリとして水平的で重心の高いラ・クラープのロゼ、肉厚で安定感のある温かい風味のモーリーのロゼ。クリュの魅力がよくわかる味わいです。個人的には、圧倒的な高貴さと顕著な垂直性とほのかな色気のアクセントで魅せるパレット、堂々としたスケール感と濃密さがありながら、白ブドウが相当の比率で入っているために軽快さもあるタヴェル、そして繊細で華やかで伸びやかなバニュルスが大変に気に入りました。シャトー・クレマードのパレット・ロゼは毎度毎度圧巻です。今回お出ししたタヴェルはピクプールが入っていることがポイントです。色が濃いのにエグさがなく(昔のタヴェルはエグかったですね)、酸も伸びやか。大手はともかく、最近の小規模生産者のタヴェルはどれもこれも本当においしいと思います。ワインはすべてブラインドで出したのですが、いったいどんな料理と合わせたいかを参加者に聞くと、タヴェルに関しては中華料理の名前が多く挙がりました。おもしろいですね。昔から言われている中華にはタヴェルというルールは嘘ではありません。ひとつの理由は重心が低くてトロみがあるからです。そのようなロゼは貴重です。

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しかしパレットとタヴェルが素晴らしいのは予想どおり。今回初めてテイスティングして驚いたのが、バニュルスのロゼです。そもそもバニュルスにロゼがあるとは知りませんでした。タイプとしてはリマージュですが、タンニンがない分、そして樽熟成の要素がない分、バニュルスの独特の結晶片岩がもたらすツルっとして引き締まった質感がさらに前面に出てくる感じがします。そういえばこの3者は混醸産地ですね。それがいいのかもしれません。

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今回お出ししたワインの多くは日本未輸入です。日本ではロゼが売れないので、しかたありません。プロヴァンスのロゼはよく見かけるにせよ、それらはスタイルのワインであることが多く、消費者もそれを望んでいるのか、低価格のものばかりです。ようするに「お花見用」とか「女子会用」とか言われるタイプです。それにしても、ある種のワインに対して使われる「女子会用」という表現が理解できません。私は男性ですからもともと理解できるわけがないとも言えますが、どのようなタイプのワインにその表現が与えられるかを意識して見ていると、なんとなく表層的な飲みやすさを求めているように感じざるを得ません。それでは女性が自らを卑下しているかのように映ります。ワインの味わいのタイプを女性と男性で区分しようとする姿勢じたいも時代錯誤的だと思いますし、それを女性の側から行おうとする思想はなおさら理解不能です。そのような表層的な味のロゼばかりが氾濫すると、ロゼが売れなくなるのも当然だと思います。しかしそれは不幸です。消費者が勝手にロゼを狭いカテゴリーに押し込め、自分自身でロゼを飲まないようにさせているからです。そんなことをするメリットがどこにあるのでしょう。

私自身の話をするなら、日本でよく売っている類のロゼを自分が買うかといえば、たいがいはNOです。しかしクリュのロゼを買うかといえば、おおいにYESです。皆さんも海外産地に出かけた際には是非クリュ畑のロゼに注目してテイスティングしてみてください。そして同じ畑のAOPの赤よりはるかに安い。これに気付けば、買いたくなって当然です。

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