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2017.07.31

オーストリアワイン at 銀座ICONIC

 銀座にあるフランス料理店、ICONICで、オーストリアワインをフランス料理と共に味わう会を開催しました。

Iconic
▲会場はICONICの個室。


 現代のフランス料理は繊細で軽やかで素材感を大事にします。特に日本のフランス料理は、タンニンで流したくなるような過度の脂肪分がないのは当然ですし、酸も少ないと思います。フランス料理は香りも大事ですから、ワインも基本的に香りが華やかなほうがいいでしょう。しかし上質な素材を適切に調理したなら、料理の余韻は長いものです。ところが軽やかでフレッシュなタイプの多くのフランスワインは、余韻の長さに問題があります。

 フランスワインの問題のひとつは、

上級アペラシオン=高価=濃厚=樽=タンニンも酸も多い=長期熟成型=長い余韻

下級アペラシオン=安価=薄弱=タンク=軽い=フレッシュ=短い余韻

という等号が成立する場合が多いことです。アペラシオンががっちりと確立されているフランスワインは、わかりやすいと同時に硬直的になりがちです。

 オーストリアでは、同じ畑で比較的多くの種類の品種を植えたり、同じ畑でタンク発酵熟成版と樽版、薄い版と濃い版を作ったりするのがおもしろく、これが料理との相性を考える上では選択肢の多さにつながるのです。すなわち、いい畑で濃厚・長熟型だけではなく夏向きの軽快なタイプのワインが作られます。この場合、オーストリアではオーガニックやビオディナミのワインがヨーロッパ屈指の比率で生産されることも重要です。余韻の流さは畑と栽培でおおよそ決まりますから、実はオーストリアワインは、夏の軽快で上質なフランス料理にぴったりのものがたくさんあるということになります。こうした観点からして、私はオーストリアワインはフレンチを含むいろいろなレストランで扱えばいいのに、と思っています。

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▲小アユはアイゼンベルク地区レヒニッツ村のソーヴィニヨン・ブランと。


 今回のメニューは、小アユのフライ、車海老とガスパチョ、鰈のムニエル、鴨のロースト、ルバーブのコンポートと紫蘇のソルベ、でした。ワインは、食前酒としてツヴァイゲルトのブラン・ド・ノワールの泡のあと、アユにアイゼンベルクのエリアのソーヴィニヨン・ブラン、車海老に樽なしツヴァイゲルト、鰈にグリューナー・ヴェルトリーナーいろいろ、鴨にアイゼンベルク、デザートにアンセストラル法のグリューナー、リースリング、マスカットの泡を出しました。

 アユにソーヴィニヨンは順当です。アイゼンベルクのシストに植えられたソーヴィニヨンは味わいがタイトでミネラリーで涼しげな香りをもっており、アユにぴったりです。しかし石灰ではないので酸がキツくなりません。硬質な非・石灰の岩の斜面にこの品種が植えられているケースは世界を見渡してもあまりないので、これは非常におもしろいサンプルです。

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▲車海老のガスパチョには、DACノイジードラーゼー。

 ツヴァイゲルトと車海老、というのは、今回のひとつのポイントです。ツヴァイゲルトは赤ワインです。しかし軽くさらっと作っている今回のワインは、樽も使っていませんし、タンニンが少なく、酸もやさしく、柔らかい肉料理だけではなく魚にも合います。ツヴァイゲルトの多くは重心が低いところも使いやすい点です。もちろん海老をはじめとする甲殻類は重心が低いため、重心の低いワインを合わせねばなりません。とはいえ、実際にそのようなワインがどれだけあるかを考えると、意外なほど少ないのです。軽くさらっとした赤ワインの多くは重心が高いものです。グルナッシュやテンプラニーリョからも重心が低く酸が弱くタンニンも少ないワインを造ることができますが、グルナッシュはアルコールが高くボリュームが大きいので、車海老に対して支配的な味になりがち。テンプラニーリョは樽が目立つスタイルが多いので、これもまた茹でた車海老との接点が見出しにくいものとなります。

 今回のツヴァイゲルトは、ひとつはノイジードラーゼーの砂質土壌から、もうひとつはミッテルブルゲンラントの粘土質土壌からのワインです。どちらも岩ではないことが大事です。岩のワインは堅牢な構造がありますから、今回のような柔らかい車海老+ガスパチョには合いません。そのふたつの中では、粘土質土壌のほうは相当高密度な味わいなので、やはり予想どおり砂質土壌のツヴァイゲルトのほうが合いました。

 繰り返しになりますが、ツヴァイゲルトは、基本的に、

1、低タンニン。

2、低酸。

3、低重心。

4、緩構造。

の、おだやかな赤ワインです。しかし余韻が短いのかといえばそうではありません。低脂肪、低酸、低重心、緩構造の料理が多い日本にあってはとりわけ、料理とワインの相性を考える上で、これが大変に使いやすい特徴となるわけです。

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▲鰈には、クレムスタルの石灰質礫岩土壌の少しMLFをしたグリューナーを。

 鰈のムニエル、ケッパーソース(エイだと古典的なパリビストロ料理です)にグリューナー・ヴェルトリーナーも大変においしい組み合わせです。しかしこの場合のグリューナーは、グリューナーの典型的土壌であるレス土壌ではいけません。重心が高くなるからです。今回はレス土壌と石灰質土壌のグリューナーを試してみましたが、やはり重心の低い石灰質でなければ合いません。グリューナー自体、重心が低くなる品種です。それは同じ土壌で他品種のワインと比べてみれば分かります。ですからグリューナーは、基本的に、豚や海老や白身魚や帆立に合う品種なのです。

 ところが世の中、誰もが以下のようなロジックでグリューナーをとらえます。

1、グリューナー=白コショウ的なスパイシーな香り。

2、ワインと料理は香りで合わせる。

3、ゆえにグリューナーはスパイシーな料理に合う。

 実際に検証してそうだと思うのでしょうか。オーストリアワイン大使コンテストの口頭試問でも皆さんそう答えます。困ったものです。もちろんスパイシーな香りがするグリューナーも多いですし、それが魅力だとはいえ、うな重の山椒にワインを合わせるのではなくウナギに合わせねば意味がないのであって、スパイシーさは最後に考えればいいことです。

 もうひとつのグリューナーの特徴は、流速が遅いこと=粘りがあることです。これがメインディッシュのボリューム感に合わせやすいポイントです。そして質感が柔らかく形の角が丸いことです。もう一度まとめると、グリューナー・ヴェルトリーナーは、

1、重心が低い。

2、流速が遅い。

3、質感が柔らかく形の角が丸い。

4、スパイシーな香り。

 鰈のムニエル、ケッパーソースもまた

1、鰈は海の底にいる魚だから重心が低い。

2、バターソースがしみ込んで流速が遅い。

1、西洋料理の魚は基本、質感が柔らかく形の角が丸い(メザシのような固いものはない)。

2、ケッパーを使っているからスパイシーな香りがする。

 というわけで、順当に合うのです。

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▲鴨には、重心の高い、標高の高い畑のブラウフレンキッシュ、DACアイゼンベルク。

 ICONICでもこうしたワインを使えばいいのに、と思いますが、ひらまつグループは自社輸入ワインの縛りがきつく、全店一元的に管理されているようで、店舗ごとの自由があまりないようです。さらにはそのワインが30年前みたいな超がつくほどの古典リスト。昔はホテルってこんな感じだったよな、と思わせる、ボルドーとブルゴーニュの羅列。料理はがんばっているのに、接客もいいのに、ワインリストは、正直、見ていて恥ずかしくなりますし、お店のスタッフに申し訳なく思います。現状ならワイン持ち込みしかないと、皆さん思うでしょうけれど、抜栓料は懲罰的に高いのです。

 話がそれてしまいました。925日には東京、26日に名古屋、28日に大阪でオーストリアワインマーケティングがセミナー&試飲会をします。名古屋と大阪のセミナーでは私がグリューナーとツヴァイゲルトについてお話します。オーストリアワインはいろいろな産地といろいろな品種があって楽しいのですが、それら全産地と全品種の知識を暗記するほど深くはのめりこんでいない方にとっては、まずはグリューナーとツヴァイゲルトのことを知っていただくのが大事だと思うからです。そして「知る」とは、栽培面積やアペラシオンの最低アルコール度数を覚えるといった資格試験的な知識ではありません。有用性を知る、ということです。

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