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2017.07.20

ディオニーの試飲会

 ディオニー渋谷オフィスで7月19日に開催された試飲会に行ってきました。

 アルザスのデメテール認証ビオディナミ生産者、クラインクネヒトを初めて飲みました。この生産者のワインは他輸入元も扱っていますが、ディオニーのワインは、クラインクネヒトが作る亜硫酸添加量の低いタイプのもの、とのこと。ですからグラン・クリュ・ゾッツェンベルグは扱っていません。

 参考小売2200円(シルヴァネール)から2800円(ゲヴュルツトラミネール)という低い価格で、デメテール認証ワインなのですから、これはずいぶんと安いですね。レストランが3000円未満で売れるようなビオディナミのアルザスなら、今まで工業的農薬ワインを価格的な制約から扱うしかなかったような、より低価格帯の業態にも浸透していけるでしょう。すなわち、今までよりさらに広い層の消費者がビオディナミのワインを飲めるようになるということです。これは、その事実だけで、大変に有意義です。工業的農薬ワインがふさわしいようなレストランというのは、原理的に存在しないと思います。工業的農薬ワインとは、食品で言うなら、缶詰やレトルトや冷凍食品です。レストランとは基本、素材のアッセンブリーと最終調理を消費の場で、消費の寸前に行うシステムです。だから、保存料等の添加物を使用する必要がなく、味に生々しいエネルギーがあります。だからレストランには同じような性質をもつワインがふさわしいのです。

いくらおいしいワインだろうが、ビオディナミだろうが、一本何万円もするようなワインはごく一部の人たちのごく一部の動機にしか対応しません。たとえて言うなら、同一予算で、一か月に一回超高価なオーガニックのお茶を飲み、残り29日は普通の安価な農薬使用のお茶を飲むのと、毎日オーガニックのお茶を飲むのと、地球環境、労働環境、そして消費者にとって、どちらがより推薦されるべき消費様態でしょうか。世の中に最も必要なのは、安価なオーガニックやビオディナミのワインです。

 私は、ディオニーは過去、世の中に大きな貢献をしたと思っています。彼らはオーガニックやビオディナミのワインを、一部の趣味的市場ではなく、広く一般の食卓に広め、それをノーマルなものにした輸入元のひとつだからです。このクラインクネヒトもその流れにあるワインとして、評価されるものでしょう。

 とはいえ、このワインをワインそのものとしてテイスティングすると、違った角度から問題点が浮かび上がってきます。それは近年のナチュラルワイン全体に言える問題点、SO2添加量です。ディオニーはSO2数値が低いワインを近年意識して扱っています。添加量を下げることで確かにワインはよりいきいきとしたエネルギー感を保持することができます。しかし同時にワインは酸化、劣化しやすくなります。SO2添加量を下げても酸化防止効果を維持し、瓶内再発酵を防ぐためには、ワインのpHを低くし、完全発酵させて残糖をゼロに近づけ、さらにはMLFをする必要があります。そのためにはブドウを早く収穫しなければなりません。早く収穫しなければ、現在のアルザスでは、特に2015年のような暑い年ならば、潜在アルコールが高くなり、完全発酵したらアルコール度数13度以上のワインになってしまい、味わいとして市場に受け入れられなくなります。

 早摘みの結果としてブドウが熟していない味、つまり、重心が高く、小さく、風味が単調で、固く、余韻が短いワインになってしまいます。SO2の少ないワインにはそのような味のものが最近多いという印象です。クラインクネヒトも、私にはそのひとつに思えます。それが正しいのかどうかは、優先順位が何かによります。SO2が低ければ低いほどよいという価値観のもとでは、それを実現するためのもろもろの手段は正当的とみなされます。早摘みしてリンゴ酸が多いブドウをMLFして乳酸っぽい味のワインになったとしても、その価値観によれば大した問題ではありません。

完熟したブドウから造るワインは、エネルギー感があり、スケールも大きく、味わいも複雑ですが、辛口ならばアルコールは高くならざるを得ません。アルコールを低めに抑えるなら残糖は不可避です。私は昔のマルセル・ダイスのワインが大好きでしたが、それは残糖と完熟を天秤にかけて後者を選択した味だったからです。ちなみに、ニコラ・ジョリー(21世紀に入ってからの)のサヴニエールやマーク・アンジェリのボンヌゾーは、熟したビオディナミのブドウのエネルギー感がSO2添加量の多さを上回っている好例だと思います。ワインワインは完熟したブドウから造るのが前提です。もしそれで残糖が不可避なら、甘口ワインが自然の命ずるメッセージなのだと、消費者が理解し、受容すべきです。無理して辛口にしたコリウールよりきちんと熟したバニュルスのほうがワインとして正しく、おいしいということです。今回のワインの中ではゲヴュルツトラミネールが一番よいと思いました。それはこのワインだけが完熟したエネルギー感、スケール感、余韻があったからです。そのかわり、もうお分かりのように、残糖があり、結果としてSO2100ミリグラム/リットル(ディオニーの方に説明によれば)という多さです。私はSO2が苦手なので、頭が少し痛くなりました。

さあ、どうすればよいのでしょう。アルコール度数が上がらなくなるクローンを開発する、とか、ワイナリーをホイリゲにしてもらってできたばかりのSO2無添加のワインをその場で飲む、とかの非現実的な話を除外し、できることの中で考えねばなりません。少なくとも、エネルギー感を保持しようとしてSO2添加量を減らし、そのために早く収穫してエネルギー感のないワインを造る、というのは論理的に矛盾した行為です。まずはエネルギー感のあるワインを造り、結果としてSO2が増えたなら、フリーSO2が無視できる数値になるまで数年間熟成させてから飲む、というのが一番簡単な解決だと思います。SO2の悪影響を相殺するビオディナミ的なプレパラシオンをグラスの外側に吹き付けてからワインを飲むことも考えられます。ディオニーもビオディナミにこれほど深く傾倒しているなら、瓶内のSO2を無力化する祈祷文なりプレパラシオンなりを自分で開発できるはずなので、分析値に拘泥せずとも大丈夫な気がします。

もうひとつの現実的な方法は、涼しい産地のワインを買う、です。つまり、アルザス品種のワインを、アルザスより涼しい土地から選べばいいではありませんか。試飲会で、アルザスのあとに、なんとドイツ(ディオニーはドイツワインを始めました)が置かれていたのには驚くとともに、その内在的なロジックに感心させられました。ドイツに着目するのはよいことです。そして実際に素晴らしいワインでした。ハルプトロッケンで2700円、村名トロッケンで3300円。品質を思えば大変に安いと思います。これが現在のドイツの実力です。正直、アルザスのワインよりエネルギー感、スケール感があって、いいと思いました。

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しかしこれまた話は簡単ではありません。まず、そのワインはラインガウのリースリングだったことです。ラインガウはもはや暑い産地ではないでしょうか。ザクセンとかのほうが論理的に正しくはないでしょうか。また、どうしてリースリングなのでしょうか。リースリングは料理に合わせるのが大変に難しい、という問題はさておき、リースリングは残糖ゼロにはなかなかならない品種です。ドイツではそうするつもりもないでしょう。そしてドイツは基本的にMLFをしませんし、無清澄無濾過のリースリングも大変に少ないものです。彼らが扱うビボ&ルンゲも、オーガニック栽培ではありますが、醸造に関してはコンヴェンショナルで、結果として普通のおいしいドイツワインです。SO2も当然ながら多いでしょう。それでOKなら、フランスのワインでもそれでOKとしなければ矛盾した態度です。ドイツならば、リースリング以外の、完全発酵・MLF・無清澄無濾過のワインが造りやすい品種を選ぶほうが筋が通っていると思えます。

そのあとフランスワインのいくつかを飲んで、思ったことがあります。少なくともディオニーが扱う最近のフランスの若手のナチュラルワイン全体の傾向としては、そつなく上品できれいですが、予想通りの味というか、予定調和的で、デーモニッシュな情念の部分があまり感じられないのではないか、と。基本的に知的で、ワインを飲んで下半身に来ないのです。頭のよい人が造り、頭のよい人が買い、頭のよい人が飲む、という商売の構図にとってはそれで正しいのですが、私のような頭が足らずに感覚で生きているはぐれものには、正直、優等生っぽすぎるのです。私はスリル、心地よい裏切り感、感情的高揚、お笑い、揺さぶられ感といったものをワインから得るほうが、知的な完成度や嫌われることのないバランス感を眺めて感心するよりもいい。

周囲から変人扱いされる中で孤軍奮闘して道を切り開いてきた第一世代のワインのほうが、私は好きです。だから今回のフランスワインの中で一番気に入ったのは、第一世代であるドメーヌ・ミランのパピヨン・サンスフル・ロゼでした。粗っぽく凹凸があるかもしれませんが、とにかくエネルギーにあふれ、気合が感じられます。まあ、これは好みの問題です。手間をかけたきれいな盛り付けの日本料理のおひたしより、中国料理の強火野菜炒めをバンと皿にのせて「ハイ、一丁あがり!」のほうが好き、という人ならば。

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最後に、最もお勧めしたいワインは、イタリアの協同組合が造るデメテール認証ビオディナミBIB、ルナーリアのチェラズオーロ・ダブルッツォとモンテプルチアーノ・ダブルッツォです。3リットルで4300円。モンテプルチアーノはまるく、重心が低く、酸が低く、概して日本の料理(和食という意味ではなく)には最も合わせやすい品種なので、これは日本の数多くの飲食店にグラスワイン用として置いてもらいたいと思いました。容量が大きいことは味の伸びやかさにつながっています。飲んでゆったりとした気分になれましたし、ストレス感、抵抗感がない味わいで、ポジティブな明るさがあり、飲食店にはノリとしてもぴったりだと思います。しかめつらして飲むようなワインや、有名産地で内実の伴わない悪しきブランド信仰ワインは、特にカジュアルな飲食店には不要です。

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