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2017.07.08

モルドバワイン

 ついにモルドバワインの総本山とでも言うべき大規模な品揃えの店が、広尾の愛育病院の前に今日7月7日開店しました。その名もストレートにモルドバワインショップです。そのオープニングセレモニーに行ってきました。

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ここ2、3年、日本では不思議なぐらいのモルドバワインブームです。会う人会う人、モルドバの話をしています。その前は皆がジョージアのワインの話をしていたのが、今ではモルドバがその地位を奪ったかのような。黒海ワインが大好きな私としては大いに興味があるところです。

 日本のワインファンが大挙してモルドバに行ったから、とは思えません。モルドバ観光といっても何があるのか。世界遺産は2005年に認定された『シュトゥールヴェの三角点アーチ観測地点群』だけです。19世紀前半に地球の子午線を計測した場所。マイナーの極致です。あとはプーシキンがロシアから追放されていた時期に住んで、かの大失恋ドラマ『エヴゲーニイ・オネーギン』を書いた家とか。これもマイナーですね。日本人がモルドバを自ら発見したというより、モルドバ側からのプロモーションが功をなしているのです。

かつてソ連の一部だったモルドバ(昔はルーマニアと同じ国)は、駐日モルドバ大使ブマコフ・ヴァシレさんによれば、「かつてソ連で消費されるワインの60%を生産する世界9位のワイン大国」。ソ連時代は構成国に主要産品を振り分けていたわけで、ワイン担当はモルドバとジョージアだったのです。「モルドバがブドウ栽培に最適な場所だったから」。私は、「しかし昔のモルドバワインは正直どうしようもない品質だったではありませんか」と言うと、「それはソ連がモルドバの国内での瓶詰を禁止していたから。当時はロシアへとバルクで運ばれ、彼らがモルドバワインに水と砂糖とアルコールを添加し、質を下げ、そこで彼らの利益を出していた」。それは初めて聞いた話です。それではまずくなるに決まっています。

ソ連崩壊後も輸出先の9割をソ連圏が占めていました。しかし2006年にロシアが政治的な理由から(表向きは低品質だからと言うことになっていますが、ありえない話です)モルドバワインの輸入を禁止。それ以降も復活したり禁輸したりと振り回されてきたので、モルドバは輸出先の多様化を図って西側諸国への働きかけを強めたわけです。最近のニュースによると、首都キシナウ国際空港の名称を公募したところ、なんと、ワイン・オブ・モルドバ空港に決まったそうです。英語で「ワイン・オブ・モルドバ」と呼ぶあたりも含め、国をあげてのワインPRを感じます。

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ヴァシレ大使は第二次ヴラド・フィラト政権(2011年1月から20135月)における農業大臣であり、それ以前も農業食品省第一副大臣を長く務め、モルドバワインの改革やマーケティングを主導してきた人です。「Valul lui TraianStefan Voda Codru Balti という四産地区分を決めたのは私だ」。彼が言うには、「ロシアはワインに関して特殊な味覚をもつ国。つまり甘口が好き。だからかつてのモルドバワインは甘口が多かった。しかし現代のモルドバワインは辛口へと変化した」。品種も現代ではカベルネ、ピノ、シャルドネ、ソーヴィニヨンといった国際品種が73%を占めます。西側諸国の嗜好に適合するようなワインを積極的に造ろうとしているのが現代のモルドバです。栽培面積的には7割が白ですが、輸出は55%が赤というのも、市場に合わせた状況です。ちなみに瓶詰めワインの9割は輸出されます。その数字を大使から聞いて、「おかしい数字ですね、ワイン造り数千年の歴史がありながら地元消費がないとは」と言うと、「統計にのぼらない自家製造自家消費ワインを国民は飲んでいるから」。それはジョージアやブルガリアと同じ状況です。さすが歴史あるワイン大国。いい話です。その比率は、というと、「計算が難しいが、たぶん5割」だそうです。

モルドバは全体に平坦かつ肥沃なローム土壌なので、西欧的な観点からすればグランヴァンの産地ではありません。フランスやイタリアのクリュは、斜面で痩せた土、というのが基本的な考え方ですね。同じ黒海ワインといっても隣国ルーマニアの産地の多くは丘陵地にありますし、標高が高いですし、石灰岩があったりと、より西欧的です。大使も「ルーマニアとは違う。あちらは山、こちらは平地」と言います。ジョージアでもフヴァンチカラやツヴィシは石灰の斜面です。

もちろん「平坦で肥沃となれば、凝縮したブドウができるとは思いません」という疑問は湧きますが、大使は「確かにその通りで、だから収量制限は大事。しかし肥沃な土壌ゆえのリッチなフルーティさが生まれる。また、とても肥沃な黒土の北部ではブドウは栽培されない。南部では砂が混じった軽めの土になる。降水量は北部では400ミリ、南部では300ミリしかない」。それだけ雨が少ないなら、それなりに保水性の高い土壌が必要です。

モルドバワインは質感の厚み、ボディ感、柔らかさがあります。私はモルドバには行ったことがありませんが、ルーマニア北部モルドバ地方の国境付近には行ったことがあります。モルドバに向かって見渡す限り黒いロームが広がっていました。ワインの味もまさにそういう感じです。西欧的なきりっとした酸や堅牢な構造を求める方向性とは逆の味わいが、つまりオリエンタルな寛容な味わいが、すべてのモルドバワインに感じられるのが魅力なのです。

しかし、手放しでほめるわけにはいきません。国際品種ワインばかりを造って輸出していたら価格競争になってしまいます。モルドバワインらしさも打ち出しにくい。たとえばトゥーレーヌのソーヴィニヨン・ブランとモルドバのソーヴィニヨン・ブランの値段は同じです。常識的に、本家フランス・ロワールのソーヴィニヨン・ブランのほうを多くの人は選ぶでしょう。対照的にジョージアの何がおもしろいかと言えば、数百もの地場品種がある点です。大使は「ジョージアワインの質はしょうもない」と言っていましたが、客観的に言ってそれは偏見です。だからルーマニア・モルドバ系品種であるフェテアスカ3種やララ・ネアグラ、プラヴァイ、ヴィオリカ等のワインの質を高め、それを訴求しなければいけません。「ジョージアはマーケティングがうまいがモルドバは下手」といった傍観者的な発言をしている場合ではありません。

ルーマニアやブルガリアやクロアチアと同じく、輸出向けのワイナリー製品だけ飲んでいても本当のところは分かりません。道端で売っているようなどぶろく系ワインにこそモルドバの本当のすごさが隠されているのではないかと、過去の東欧ワインの経験から想像します。こればかりは、実際に行って飲んでみるしかないでしょう。

 

〈田中克幸〉

 

 

 

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