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2017.08.06

オーストリアワインと、とんかつ atかつ好

 日本らしいトンカツを究め、尋常ではないセンスと技術をもって高級料理へと高め、トンカツ史上特筆すべき貢献をした名店『かつ好』で、オーストリアワインの会を開催しました。

 いうまでもなくオーストリアはトンカツの元祖であるウィーナー・シュニッツェルの国。オーストリアに行けば二日に一回は食べることになるぐらい主要な料理です。それでもまったく飽きることがなく、胃もたれもすることがないのは、その軽やかさゆえです。

 『かつ好』のトンカツもまた、凝縮していながら、極めて軽い食べごこちであり、軽快な余韻があります。ずどんとした太い安定感やざっくりとしたカジュアルさや温かみが特徴となる一般のトンカツと比べて、ここではすっとした伸びやかさや緻密な品位やクールな整い方を感じることになります。

 ですから前回はこのお店でアンジューの会を開催しました。ロワールワインの個性と相通じるものがあるからです。その時のメインは、ロースカツでした。ねっとりした質感や厚みがシスト土壌のシュナン・ブランと共通するからです。

 しかし今回はオーストリアワイン。アンジューよりすっきりとしてソフトな味です。ですからメインは、この店の名物、薄切りのロースを大根おろしとレモンとわさびとしょうゆで食べる「かろみ」と、脂肪のないヒレにしました。

 もちろんトンカツにせよ、他のあらゆるサイドディッシュにせよ、重心が低く酸が弱いことには変わりありません。オーストリアワインならなんでもいいわけではなく、やはり重心が低いワインを揃えねばなりません。

 オーストリアの場合、レス土壌のクラシックタイプ以外のグリューナー・ヴェルトリーナーは概して重心が低く、酸が弱く、丸みのある味です。まさにトンカツ向きです。そしてツヴァイゲルトもまた重心が低く、酸が弱く、丸みのある味です。これらがオーストリアの白と赤を代表する品種でなければ、オーストリアとトンカツというテーマは現実味がなくなるでしょう。

 それら以外に重心が低い品種として、ハーシュレヴェリュ、シャルドネ、ノイブルガーを揃え、品種以外に重心を下げる要素である粘土質土壌に着目して、ミッテルブルゲンラントのブラウフレンキッシュを加えました。

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 ワインリストは以下のとおりです。

1, Zweigelt Secco (ツヴァイゲルトのブラン・ド・ノワールの泡) Hagar Matthias

2, Rot Secco  (ツヴァイゲルトとブラウブルガーの赤の泡) Hagar Matthias

3, Harshlevelu 2014 Meinklang

4, Rulander 2015 Andert

5, Leithaberg Neuburger 2014 Koppitsch

6, Leithaberg Chardonnay 2015 Birgit Braunstein

7, Neusiedlersee Zweigelt 2014 Thomas Lehner

8, Zwigelt ( Mittelburgenland ) 2014 Moritz

9, Blaufrankisch Granga ( Mittelburgenland ) 2014 Moritz

10, Wiener Gemischter Satz Mittelberg 2015 Uhler

11, Gruner Veltliner ( Kremstal ) 2016 Peter & Paul

12, Gruner Veltliner ( Wachau ) 2014 Rainer Wess

13, Pet Nat Peter & Paul

 

 ICONICで開催した「オーストリアワインとフランス料理」の会と重複しているワインが多く登場しています。その時も「車海老と鰈は重心が下、だからツヴァイゲルトとグリューナー」と言っていました。今回も車海老と豚肉ですから重心が下。必然的に同じタイプのワインが多くなります。そもそも日本で食べる料理の8割は重心が下です。しかし日本で売られているワインの過半数は重心が上です。だから役に立たないワインが多くなるのです。

 メニューごとに合うワインのポイントを要約すると、

1、玉ねぎとかつを節のサラダ

玉ねぎはシャキシャキしていますから、この中でも石灰っぽい芯の硬さが特徴的な、しかし重心が低いノイブルガー。

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2、和風豚肉リエット

柔らかく甘いので、ルーレンダーやロット・セッコ。しかし、ただ柔らかいだけではなく、どちらのワインもどこか繊維を感じさせるのがポイント。

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3、豚角煮

基本はリエットと同じですが、よりしょうゆ味が強く、グラがあるので、赤のノイジードラーゼー・ツヴァイゲルト。

4、車海老フライ

ツヴァイゲルトならなんでも合いましたが、ミッテルブルゲンラントの重い土のほうがより合います。海老は相当高密度な、筋肉質な性格です。

5、キャベツサラダ

シャキシャキして酸があり、幅がなく垂直的な味なので、ウィーナー・ゲミシュター・サッツ。

6、かろみカツ(ロース薄切り)

シンプルに塩で食べてハーシュレヴェリュの柔らかさとフルーティさもいいし、わさび大根おろししょうゆで食べてグリューナーと。ソースをつければノイジードラーゼー・ツヴァイゲルトもよい。

7、ひれカツ

総体的にはグラがなく肉厚なので、塩で食べればシャルドネ。シャルドネのボリューム感と逞しい構造と流速の遅さはいかにもひれ。適度な樽風味も衣部分との接点をつくります。ソースを下につけ、上にからしをつけて垂直的な形をつくれば、ブラウフレンキッシュ。どちらのワインも粘土の多い土壌。これが厚みや流速の遅さを生み出します。

8、すっぽんカレー

カレーは液体なので、さらっとした質感の、ツヴァイゲルト・セッコ。レス土壌ならではの香りの軽やかな上昇力がカレーのスパイシーさと合います。

9、抹茶シャーベット

ICONICの時に経験したとおり、このペット・ナットは辛口なのにデザートと合わせても痩せたり酸が突出したりせず、後味をさっぱりさせると同時に、抹茶の香りを高めてくれます。

 

 参加された方々も、ツヴァイゲルトの実力に感心していました。単体で飲んだら、色は薄い、タンニンは少ない、酸も弱い、香りも弱い。印象に残りにくく、点数の低いタイプです。しかしそれだからいいのです。なぜツヴァイゲルトがオーストリアで最もポピュラーな赤ワインなのかがよく分かります。実際の食事と合わせると、予想を超える力を発揮し、料理をうまく支え、いろいろな要素を整え、美点をより引き立て、心地よく軽やかな食後感を生み出すからです。自己主張の強い、派手なワイン、強いワインは、ワイン単体で飲むぶんにはインパクトがあっておいしいかもしれません。しかし世の中の大半のワインは、鑑賞を目的として造られているのか、それとも食卓の楽しみを増進するために造られているのか。単体で飲んでおいしいワインを、試飲会で選ぶのは、素人でもできることです。実際の料理との関係性をふまえ、どのようなワインの特性が料理をよりおいしくするのかを、テイスティングの時に見極めないといけません。

 それは簡単ではありません。なぜなら前提となる思想が間違っている場合が多いからです。多くの人は、とんかつは油っぽい、ゆえに油を切りたい、ゆえにタンニンと酸の強いワインを合わせる、という、まるでとんかつがまずいと前提するかのような、そして素材ではなく調理法を優先させる発想で相性を考えます。しかしとんかつは豚肉の料理なのであって、豚肉の個性とはなんなのかを基準に考えねばなりません。タンニンと酸の強いワイン(たとえばオーストラリア、クナワラのカベルネ)を合わせたことがあるのでしょうか。豚肉のおいしさをぶち壊しにします。料理と反対の性格のワインを合わせるという間違った考えが、どれほど消費者をワイン嫌いにさせていることかと思います。

 

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