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2017.08.03

ペーター・パラダイサー

 オーストリアで一番有名な品種といえばグリューナー・ヴェルトリーナー。ではグリューナー・ヴェルトリーナー最良の産地は? いや、それは難しい質問です。しかし私個人は、一番「らしい」ワインがブレなく得られる産地はヴァグラムだと、過去十数年グリューナーをいろいろと飲んできた結果として言うことができます。

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▲Fels村にある見晴らし台から、ドナウ渓谷方向を臨む。遠くに見える山の手前にドナウ河が流れている。ヴァグラムはこのように全体として平坦な産地。



 グリューナー・ヴェルトリーナーの特徴といえば、誰しもスパイシーな香り、ソフトな果実味、すっきりくっきりした酸、と言うでしょう。そしてそれはレス土壌に植えられた時に最も顕著に表現されます。レス土壌からは、多くの人がグリューナーらしいと思えるグリューナーが出来るのです。

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▲ヴァグラムではどこでもこのようにレス(風成砂)がうずたかく堆積しています。

 レス土壌はヴァッハウにもカンプタルにもクレムスタルにもあります。しかしヴァグラムはエリア全体がレス土壌。ここがポイントです。また、ヴァグラムの多くの畑は川から距離があり、ゆえに他のグリューナー産地と比べて内陸型の味になります。つまり、ソフトになりやすいレス土壌の中では逞しく、メリハリが効いて、肉付きがよいと同時に堅牢です。

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▲レスは氷河がアルプスを削ってできた細かい砂が風で運ばれたものです。灰のように細かいさらさらした土。石灰質を多く含み、アルカリ性で、活性石灰分は8から10パーセントだそうです。

 もうひとつ忘れてはいけない点があります。ヴァグラムは無灌漑です。降水量は少ない年で250ミリしかないと聞きますが、それでも灌漑が不要なのは、保水性のあるレスが20メートルも堆積しているからです。新世界ワインが好きな方は、その多くは灌漑の味なので、オーストリアにも新世界的なボリューム感とアルコール感のある果実を求め、灌漑している産地(ヴァッハウや、カンプタルの北側)のワインを評価します。日本では概してその傾向にあるように見受けられます。それはそれでひとつの個性です。しかし私のようにオーストリアワインにミネラル感を求めるならば、無灌漑は重要なキーワードです。

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▲ペーター・パラダイサーさん。親から引き継いだ1800平方メートルの小さな土地からブドウ栽培を始めた。



 好きな産地でありながらここ何年か訪ねていませんでしたので、もう一度ヴァグラムを身体感覚的に理解したいと思いました。どこに行こうかな、とネットを調べていると、日焼けして逞しく歳を重ねた顔を見つけました。それがたった18ヘクタールの小さな生産者、ペーター・パラダイサーです。長年オーガニックワインを造っています。「この人なら畑でしっかり仕事をしている。彼ならヴァグラムの土地のことを身体で理解しているはず」。歴史のことも詳しそうです。

彼が言うところでは、ヴァグラムをフィロキセラが襲った1872年以前も、この地ではグリューナーが多く植えられていたようです。フィロキセラ以降もヴァグラムにおけるブドウ栽培の歴史は平坦ではなく、1929年には175年ぶりの最低気温、氷点下30度になってブドウが死滅し、そのあとも1940年には氷点下21度、42年には氷点下39度を記録して再びブドウが死滅。53年には大規模な雹害があって生産量が2割減、翌年も4割減、しかしそのあとブドウが大豊作となって需給法則から価格が大幅に下落してブドウ農家の多くが廃業に追いやられたそうです。ヴァグラムは厳しい気候なのだということが分かります。

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▲雹よけのネットが張られた畑。



畑に行くと、周囲の畑よりもコルドンの位置が低いことに気づきます。生産性を追求して「レンツ・モーザー・システムが生まれたのは1951年、うちでは1963年に採用した。それはコルドンが15メートルの高さだったが、近年は徐々に低くしており、現在は80センチ」。15メートルだと腰をかがめずとも収穫できますが、ブドウの質という点では劣ります。

畑ではブロワーを使用してエフォイヤージュをしている最中でした。黒ブドウにはエフォイヤージュは必須でしょうし、逆にリースリングに行うと果皮が焦げてしまって繊細な風味がなくなります。「リースリングは直射日光に弱いが、グリューナーは逞しい品種で、太陽に当てても当てなくても風味が変わらない。さすがに収穫前に太陽光線が強すぎればワインが苦くなってしまうが」。ならばなぜエフォイヤージュするかといえば、風通しをよくしてカビ害を防止するためだそうです。

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▲トラクターに取り付けたブロワーの風で果房周辺の葉を吹き飛ばす。



 ペーター・パラダイサーのワインは決して評価本で高い点数を取るようなタイプではありません。落ち着いて、飲み飽きない、地味な地酒です。グリューナー・アルテ・レーベは、とろみ、丸み、甘味があって、重心が下で酸が穏やかな、いかにもグリューナーな個性。ヴァグラムのもうひとつの代表品種、ローター・ヴェルトリーナーはオレンジやビワやスパイスの、グリューナーより暖かい風味で、リッチな味わい。2015年が初となるPIWI品種ヨハニターは、銅や硫黄さえ使わずに済む耐病性に優れた品種ですから、ワインも病気知らずののびのびした味です。いずれにせよ、頑張り感のない、自然体のオーガニック。この普通さが、オーストリアの田舎な感じで、好ましく思えます。

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▲グリューナー・ヴェルトリーナー・アルテ・レーベ2016

ところで、安価なグリューナーJodelgrüsse von Franziska の瓶が置かれているのに試飲に出されなかったのはなぜかと聞くと、「飲まないほうがいい。失敗した」。試しに飲んでみると、早く収穫しすぎたのか、大変にピーマンっぽい味です。1981年が初ヴィンテージの経験豊富な生産者でも、こうしてとんでもない失敗をするものなのかと、むしろ親しみを感じました。

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