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2017年10月の記事

2017.10.23

オーストリアワイン試飲会&セミナー2017

 925日から28日にかけて、東京・名古屋・大阪で、オーストリアワインの試飲会とセミナーが行われました。写真は東京会場の銀座ホテル・モントレー、名古屋会場の中日プラザ、大阪会場の大阪ホテル・モントレーです。まだ早い時間に撮影したので閑散としていますが、実際は盛況で、オーストリアワインに対する関心の高さが分かりました。知る人ぞ知る存在でしかなかった十数年前と比べると隔世の感があります。
 

 私は今回は三都市で、来日したオーストリアワインマーケティング日本担当のミヒャエル・ツィマーマンさんと共にセミナーを行いました。三回はレストラン&ショップ向け、一回は輸入元向けです。プロ相手のセミナーは、ある意味、楽ですし、楽しいものです。皆さんワインについて当然ながら見識・知識が高いので、その上での議論ができて、私も勉強になります。

 
 東京でのメインテーマは、お買い得かつ上質なオーストリアワイン。残りはすべて、グリューナー・ヴェルトリーナーとツヴァイゲルトがテーマです。...
 
 オーストリアワインは意外とお買い得なので、そのこともしっかり理解していただくべく、東京のセミナーはストレートに2000円台中心でいろいろな品種・産地のワインを取り上げましたし、他会場でのセミナーも基本は安価なワインばかりです。さらに試飲会場では2000円以下と3000円以下のブースを作り、コンシエルジュ役としてオーストリアワイン大使の方々にその場に立っていただいて、オーストリアワインについて知らない方々への対応をしました。プロにとってプライスポイントは絶対であって、ある値段でどのようなワインを扱うことができるかを一覧できるのがいい(少なくとも試飲時間の節約になる)と思ったからです。オーストリアワインは、値段と質が比例するわけではありません。むしろ通になればなるほど、概して高いワインより安いワイン(リザーブよりクラシック)のほうがおいしいと思うようになります。私もそうです。安いワインの示すカジュアルながらも気品のある洗練された味が好きなのです
 
 グリューナーとツヴァイゲルトに焦点を絞ったのは、このふたつでオーストリアのブドウ栽培面積の半分弱を占めるからです。つまりこのふたつをしっかり理解しておけば一般的な商売のための知識としては十分です。うろ覚えや勘違いを含む薄い知識で10品種について知っているより、5倍濃い正しい知識で2品種を覚えるほうが使える知識になります。それにこの二つは、オーストリアならではのワインの個性をしっかり体現しているからです。
 
 酸がオーストリアの個性だと考える人が大変に多いのですが、誰がどこでそう教えているのかと思います。グリューナーもツヴァイゲルトも、あまり酸がない品種です。しかし鈍重には決してなりません。すっきりしていて、軽やかで、フルーティーでいながら、まるみと適度な粘りがあって、ミネラリーで余韻が長い。これがいいのです。
 
 グリューナー=白コショウの香り、という人も多いのですが、これも誤解です。白コショウの香りはレス土壌の香りです。ツヴァイゲルトでもクレムスタール等のレス土壌では、まさにその白コショウの香りがします。いろいろな香りになりえますが、すっきりした香りであることに変わりはありません。ですから今回は、ソーヴィニヨン的に始まってシャルドネ的に終わるのがグリューナーの個性だと言いました。それが日本の食材の個性に合うのです。
 
 ツヴァイゲルトは酸がないだけではなくタンニンもあまりありません。しかしボケた味にならないのはミネラルがしっかりしているからです。その大きな理由は、オーストリアではオーガニックが大変に普及していて、ヨーロッパ最大のオーガニック大国だからです。農薬を多用していてはミネラル感が出てこないのは世界じゅうどのワインでも同じです。似たキャラクターを探すならガメイとマスカット・ベイリーAだと思いますが、両者よりツヴァイゲルトのほうがタンニンが細かくて上品な味です。私は日本の料理に最も適応範囲が広いのがツヴァイゲルトだと思っています。

 オーストリアワインは意外とお買い得なので、そのこともしっかり理解していただくべく、東京のセミナーはストレートに2000円台中心でいろいろな品種・産地のワインを取り上げましたし、他会場でのセミナーも基本は安価なワインばかりです。さらに試飲会場では2000円以下と3000円以下のブースを作り、コンシエルジュ役としてオーストリアワイン大使の方々にその場に立っていただいて、オーストリアワインについて知らない方々への対応をしました。プロにとってプライスポイントは絶対であって、ある値段でどのようなワインを扱うことができるかを一覧できるのがいい(少なくとも試飲時間の節約になる)と思ったからです。オーストリアワインは、値段と質が比例するわけではありません。むしろ通になればなるほど、概して高いワインより安いワイン(リザーブよりクラシック)のほうがおいしいと思うようになります。私もそうです。安いワインの示すカジュアルながらも気品のある洗練された味が好きです。

 グリューナーとツヴァイゲルトに焦点を絞ったのは、このふたつでオーストリアのブドウ栽培面積の半分弱を占めるからです。つまりこのふたつをしっかり理解しておけば一般的な商売のための知識としては十分です。うろ覚えや勘違いを含む薄い知識で10品種について知っているより、5倍濃い正しい知識で2品種を覚えるほうが使える知識になります。この二つは、オーストリアならではのワインの個性をしっかり体現しています。

  酸がオーストリアの個性だと考える人が大変に多いのですが、誰がどこでそう教えているのかと思います。グリューナーもツヴァイゲルトも、あまり酸がない品種です。しかし鈍重には決してなりません。すっきりしていて、軽やかで、フルーティーでいながら、まるみと適度な粘りがあって、ミネラリーで余韻が長い。これがいいのです。

 グリューナー=白コショウの香り、という人も多いのですが、これも誤解です。白コショウの香りはレス土壌の香りです。ツヴァイゲルトでもクレムスタール等のレス土壌では、まさにその白コショウの香りがします。いろいろな香りになりえますが、すっきりした香りであることに変わりはありません。ですから今回は、ソーヴィニヨン的に始まってシャルドネ的に終わるのがグリューナーの個性だと言いました。それが日本的な料理の個性に合いやすいと思います。

  ツヴァイゲルトは酸がないだけではなくタンニンもあまりありません。しかしボケた味にならないのはミネラルがしっかりしているからです。その大きな理由は、オーストリアではオーガニックが大変に普及していて、ヨーロッパ最大のオーガニック大国だからです。農薬を多用していてはミネラル感が出てこないのは世界じゅうどのワインでも同じです。似たキャラクターを探すならガメイとマスカット・ベイリーAだと思いますが、両者よりツヴァイゲルトのほうがタンニンが細かくて上品な味です。私は日本の料理に最も適応範囲が広い赤ワイン品種のひとつがツヴァイゲルトだと思っています。

 セミナーでは他に、以下のような視点からお話をしました。そのうちいくつかを挙げると、

1、オーストリアワインは平均所有畑面積が2ヘクタールしかない小規模農家主体の産業であること。つまり、手作り感の強いワインが多いこと。オーストリアには西欧のような壮麗な巨大セラーがあまりなく、写真を見て「おお!」とは思わないかもしれないが、それこそがいい。地元に密着した、地元の農家が自分たちのために造るワインこそがオーストリアの魅力であり、ゆえに誠実な味が必ずするのだ、と。

2、オーストリア独特のあ グリューナー=白コショウの香り、という人も多いのですが、これも誤解です。白コショウの香りはレス土壌の香りです。ツヴァイゲルトでもクレムスタール等のレス土壌では、まさにその白コショウの香りがします。いろいろな香りになりえますが、すっきりした香りであることに変わりはありません。ですから今回は、ソーヴィニヨン的に始まってシャルドネ的に終わるのがグリューナーの個性だと言いました。それが日本の食材の個性に合うのです。
 
 ツヴァイゲルトは酸がないだけではなくタンニンもあまりありません。しかしボケた味にならないのはミネラルがしっかりしているからです。その大きな理由は、オーストリアではオーガニックが大変に普及していて、ヨーロッパ最大のオーガニック大国だからです。農薬を多用していてはミネラル感が出てこないのは世界じゅうどのワインでも同じです。似たキャラクターを探すならガメイとマスカット・ベイリーAだと思いますが、両者よりツヴァイゲルトのほうがタンニンが細かくて上品な味です。私は日本の料理に最も適応範囲が広いのがツヴァイゲルトだと思っています。続くホイリゲやブッシェンシャンクという業態は、レストランとワイナ  リーが一体化しているということであり、オーストリアワインはもともと料理と合わないわけがないこと。どういう特性のワインなら料理を引き立てるかは、ワインの商品設計のうちに無意識にも組み込まれていること。

3、オーストリアは歴史的に西洋文化の中心地のひとつであり、強大なハプスブルク帝国の本拠地として文化的洗練がなされ、それは現代にあってもオーストリアのすべての側面に継承されていること。ゆえにオーストリアワインは、ある意味地酒であっても、朴訥な田舎ワインではなく、極めて洗練された味を備えていること。他人の目とおしゃれそれ自体を意識しておしゃれになっているのではなく、普通がそのままおしゃれだということ。

 セミナーへの反応は、というと、これが大変におもしろいことに、「今まで参加したワインセミナーの中で一番心にぐっときた」という方もいらっしゃれば、「ひどい話で、もうオーストリアワインを飲みたくなくなった」という方まで。私の話はいつもそうです。好きな人はとても好き、嫌いな人は嫌い、です。それだけ自分自身をさらけ出しているということです。おほめの言葉はありがたいですが、どこがどうして「オーストリアワインを飲みたくなくなった」のかを特に知りたいものです。その方にとってのオーストリアワインが、自分にとってのオーストリアワインと異なるものなら、それはしかたありません。私は私が思わないことを話すことはできません。できたなら嘘つきになってしまいます。大事なのは個々人が主体的に独自の視点や認識の枠組みをもつことです。私の話など絶対ではありません。

 私は極力個別論を語らないようにしています。テイスティングしているワインのコメントなどどうでもいいことですし、使用ステンレスタンクのメーカー名と容量も、オーストリアワイン全体の本質規定とは関係ありません。もちろん、生産本数が何本で、輸出先は何か国で、といった個別の事実を語っていれば、事実にいいも悪いもないのですから、聞いてくださる方は価値判断的美意識的な反応はしません。そんなデータをメモしていても、あとからなんの役にたつのか。私はそれがいいとは思えません。なぜならワインは価値判断的美意識的な反応をすべきものだと思うからです。価値観を共有し、美意識を理解する人たちが、そのワインを売り、買うべきです。そうでなければ、ワインは金額という形で平準化されるだけの、単なる物です。

 イベントが終わったあと、関係者と、ある高級なワインバーに行きました。そこはオーストリアワインを扱っています。何を提供しているのかを尋ねると、ヴァッハウのスマラクトや、ワイン・アドヴォケイトが高得点をつける、超高価な、遅摘みブドウで造る高アルコールの辛口リースリング。「オーストリアワインの頂点を見せれば、そこから下に降りてきて客層が広がる」とおっしゃっていました。確かに他の国のワインに対しては有効な手段です。ベガ・シシリアがあるからリベラ・デル・デュエロがあり、モンフォルティーノがあるからバローロがある。しかしそれはオーストリアにふさわしい戦略ではないと思います。そしてせっかくオーストリアワインに興味をもっていただいた方に、間違ったイメージを与えてしまう。モンラッシェがあるからピュリニー村名があり、前者の威光によって後者に価値が付与されて、ありがたくおいしく飲む、というワイン評価・鑑賞の一般的な方法を、私は問題視しているのです。そのような縦の序列でワインを見るのは極めてフランス的です。しかしヴァッハウのスマラクトのリースリングのありがたいブランド価値を下におろしてきたところに、ホイリゲのゲミシュター・サッツの消費意味があるわけではない。ここまで読まれてきた方なら、この点に同意をいただけるでしょう。そうだとしたら、オーストリアワインの大切な点をしっかり理解されたということです。

 

 ところで来年は久しぶりにオーストリアワイン大使コンテストが行われます。意図するところは、ワイン業界、飲食業界に従事し、オーストリアワインに関心を持っている方、また貢献があった方へのサポート体制です。試飲会やセミナーに参加していただいた方々には是非応募していただきたいと思います。将来にわたって、オーストリアワイン大使の方々には、オーストリア本国サイドからサポートがあるはずです。

 オーストリアワイン大使コンテストほど楽なコンテストはありません。バカみたいに簡単な問題です。しかし問うているのはワインの蘊蓄ではありません。ここが重要です。オーストリア、そしてオーストリアワインへの愛情、情熱、主体的な関与、日ごろどれだけオーストリアワインについて考えているのか、を問うているだけです。その点で嘘をついてもバレるものです。バレるような問題が出るからです。

 例えばヴァッハウについての問題が出るとします。ヴァッハウのフェーダーシュピールの最高アルコール度数、みたいな質問はありません。ヴァッハウ渓谷の文化的景観は世界遺産です。ヴァッハウに興味があるなら、文化的景観を構成する重要なものについて少しは知っているはず。だから以前の質問は、「ヴァッハウで有名な果物はブドウ以外になんでしょう」だったわけです。1996年にEUの原産地呼称となったヴァッハウのアプリコットは有名です。紀州の梅、岡山のマスカットみたいに有名です。オーストリアに興味があれば常識、そうではないワイン蘊蓄マニアには分からないだけです。簡単でしょう?

 

2017.10.22

南チリのワイン at 薩摩焼肉 黒桜

 チリワインの理解の前には「南北問題」が横たわります。首都サンチャゴがあるマイポを中心として、アコンカグアやコルチャグアあたりを本拠とする北系大手生産者系輸出向けワインと、マウレ以南の小規模生産者系さらに言うなら自家消費・地元消費系ワインです。基本品種で言うなら、前者はボルドー品種やシャルドネでしょうし、後者はパイス、カリニャン、サンソー、モスカテル等です。そして前者は少雨ゆえに灌漑あり、後者は多雨ゆえに灌漑なし、です。

Dsc04246▲コルチャグアの高級ワイナリー、VIK.。まるで美術館のような建築です。

Dsc04288▲マウレの道端のワイナリー、というか、農家。リアリティのあるチリワインを求めるなら、こういう生産者を訪ねてみてください。

 両者は相当異なります。根本的に異なっているとさえ言えます。ただし、どちらもチリらしさは当然あります。のんびりしておおらかでやさしい性格のところでしょうか。

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▲日本橋蛎殻町『黒桜』の個室で会を開催しました。広い店なので、こういった用途にはぴったりです。


 今回の会では、まず、国内や欧米で評価の高いアコンカグアのカベルネ・ブレンド(日本には入ってきません。高いです)をテイスティングし、いままでなじんできた北系の個性を確認し、そのあとマウレ、イタタ、ビオビオのワインをテイスティングしました。...
 ミネラル感と複雑性に関して、南系の自根・無灌漑の優位性は顕著です。北系が新世界味なら、南系はヨーロッパ的です。それ以上に、しっとりとして、さらっと入ってきて、そのあととてつもなく強い味になり、どすんと胃袋に入ってくるあたりは、自根・無灌漑の本領発揮としか言いようがありません。しかし日本には南系ワインがあまり輸入されないので(つまり知らないから需要もない)、これを経験する機会は少ない。ご参加の方々もチリの別の顔を発見して驚かれていましたし、その魅力にほれ込むことになりました。

20171020at▲今回テイスティングしたワイン

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▲日本で買えないワインばかりではありません。このイタタのサンソーは普通に入手できます。もちろん自根、無灌漑、不耕起栽培、基本的にビオディナミです。南チリの特徴がよくわかるワインです。


 イタタのモスカテル・アレハンドリアの、マスカットとしては例外的な逞しさ。イタタのサンソーの繊細なミネラル感と後半のパワー感。ビオビオのパイスのチャーミングでひっそりとした味わいの中にある芯の強さ。デザートワインのマウレのトロンテル(地場品種のひとつ、トロンテスではありません)のおだやかでゆったりとしたエネルギー感。どれも素晴らしいものでした。

Dsc04291▲今回お出ししたマウレのカベルネ・ソーヴィニヨンが造られる醸造所

 しかしなんといっても圧巻だったのは、マウレの道端にある農家で買ってきた半ば自家消費用のカベルネ・ソーヴィニヨンとパイス。5リットルのペットボトルふたつをスーツケースに入れて運んできたものです。こればかりは行かないと買えない、サンチャゴあたりで飲みたくとも飲めないワイン。とてつもないパワ―と堂々たる風格。分析的視点を超越する完成度。地酒の究極でありながら、よくある地酒っぽい粗末さなど皆無。どうしてこんなにクリーンでいてこんなに躍動的なのか。どうしてこんなに飲みやすいのにこんなにパワフルなのか。現代的醸造設備などなく、お世辞にも衛生的とは言えないセラーの古びた木桶にブドウを入れて足で踏むだけなのに、そしてもちろん造り手は普通の農家で、醸造学とは無縁で、祖父から親、親から子へと伝わる方法をそのまま踏襲しているだけなのに、どうしてこんなにすごいワインができるのか。何百億円と投資した畑と現代的セラーで高名なワインメーカーが造る、壮麗なストーリーに満ちた高価なアイコンワインでさえ、これらの農民ワインの前では虚栄の祝宴のための空疎な工業製品に見えてしまうかも知れません。私は誇張しているわけではなく、じっさい飲んだ瞬間に、「おいしい!」と皆が言っていました。私も現地で試飲した時、細かいことなど考える余裕もその必要もなく、「おいしい!」と叫びました。本物は、直接心に訴えてきて、身体にしみわたっていくのです。

Dsc04283▲今回お出ししたパイスのピペーニョの生産者。

 この会にお見えの方々は、ワインを名前で飲むような下劣な“ワインファンもどき”ではなく、他人の評価をもとにしなければ、そしてそれをかさに着なければ自分の意見を言えない臆病な高慢ちきでもなく、世間的にまっとうだとされる評価を踏襲してさも自分がものが分かっているように見せかける鈍感な尊大さとは無縁な、自分の感覚でものをとらえ、自分の言葉でものを表現する方々でした。そういう方々ならば、南チリの地酒ピペーニョが体現するワインのひとつの究極的な真理、つまり自然がワインへと付与するマジカルにして崇高な力を理解していただけます。しかし世の中、そのような人は少数派のようです。そうでなければ、チリワインがこれほどポピュラーなのに、なぜ南チリのワインがここまでマイナーな地位に甘んじなければならないのか、説明できません。

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▲小さな谷底から他の樹に絡みついて伸び上がるパイス。黒い樹皮の樹がブドウです。


 もうひとつすごいワイン、それは林の中に自生するパイスの巨木からブドウを採集してきて造るワインです。農業前の、狩猟採集経済だったころのワインのスタイルです。当然ながら、剪定や誘引といった人がブドウを抑制し手なずけるための作業は皆無で、ブドウはただひたすら自然のままに伸び、実るだけです。それは「農業」では得られないおおらかな伸びやかさを備えたワインです。口に入れると、さらーっと広がり、さらに広がり、だんだんと静かにきれいに消えていって、最後は巨大な空気感を身体の周辺に漂わせます。それを飲むと、通常の「栽培」を行ったブドウが、どれほど枠にはめられた味なのかが、衝撃をもって理解されます。人類の農業1万年の歴史とは何かを考えてしまいます。中世では農業は農業は機織り、鍛冶、戦争、航海、狩猟、医療と並ぶ七つの機械技術のひとつとみなされたそうです。農業が即、自然そのものの享受や自然の鑑賞を帰結するわけではありません。そのこともまた、このパイス・サルバヘを飲むと、わかるような気がします。


 ちなみにこの会ではワインが大量にあったので(なんといっても5リットルボトルですから!)、そしてワインがあまりに自然で飲みやすかったので、皆さんひたすらおかわりの連続。しかしへんな酔い方はしません。ワインは正直です。

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 これは『薩摩焼肉 黒桜』で行われた会です。本来ならペアリングじたいを語らねばならないでしょう。実際いろいろとお料理が出てきましたし、どれもおいしいものですが、いかんせんワインの力が強くて、そしてスケールが大きすぎて、料理の印象が消えてしまいました。しかし料理と合わせるからこそ確認できたこともあります。たとえばサンソーがいかに流速が早く、パイスがいかに流速が遅いか、といったことです。ですからサンソーは牛もも肉のローストに合い、パイスはもつ煮や魚介のトマト煮込みに合いました。でも、それはどうでもいい感じ。とにかく、ワインが、すごすぎです!

新潟海岸ワインと台湾料理の会

□■新潟海岸ワインと台湾料理の会

 

 人形町の裏道にある台湾料理の店『錦園』は、たぶん皆さんが道を歩いている時に見かけたとしても通り過ぎてしまうに違いない、古びて質素な外観です。よくある町の日本風中華料理屋さんだと思うでしょう。そこで通り過ぎないのが、食べ物・飲み物に貪欲な私です。ある文字を見て、ここはいける、と思いました。フェイスブックでも紹介したことがありますから、行かれた方もいらっしゃるでしょう。

 いつかここで会をしたいと思ってきましたが、なかなか機会がありませんでした。なぜなら台湾料理に合う、ないし、台湾風の味付けに合うワインは何かについて、明確なビジョンが描けなかったからです。台湾料理は、本土系中国料理のような激しさ、コントラスト、複雑性がありません。そのかわり、ほわっとしたやさしさや軽やかさがあります。こう言っては語弊があるかもしれませんが、九州、沖縄、台湾、中国本土という連続線の中でとらえると、確かにその地理的な位置と味わいには関係があるように思えます。全体に淡く、酸も脂肪もあまり感じないので、ましてスパイスが弱いので、ワインには合わせにくい料理です。海産物が豊富ですから必然的に魚介類料理メインになりますが、大半のワインの質感や構造は魚より肉に近いので、これまた難しい点です。

 
▲畑のある角田浜の風景。(角田浜海水浴場公式ホームぺージから引用)


 私の結論は、新潟海岸ワインです。海のすぐそばにある、砂そのものの土壌から生まれる、水辺系ワイン、砂系ワインの代表です。ここまで極端なキャラクターのワインは、ラングドックのヴァン・ド・サーブルと並び、世界じゅう見渡してもそう多くはありません。新潟海岸ワインは、ほわっとしてやさしく軽く淡い味です。盛り上がるパワーとか逞しい構造といった言葉が最も似合わない味です。そして水平的で重心が低いのです。まさに台湾料理ではありませんか。

 メニューとワインの組み合わせは以下のとおりです。

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1、奶油鮑魚 

& みつばち(シュナン・ブラン)亜硫酸無添加 2015 カーブドッチ

 クリームソースのとろみと鮑の上品なうまみにぴったり。ワインは重心が低く広がりがあり流速が遅い。傑作シュナン・ブランだと思います。亜硫酸無添加ですが、へんなくせや酸化風味はまったくありません。シュナン・ブランは酸がソフトなタイプ(アンジューを含む)は魚料理に大変に重宝するのですが、そのことはあまり知られていないようで、だから見かけることも少ないですね。もったいないと思います。

 

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2、酥炸生豪

& エル・マール(アルバリーニョ) 2016 フェルミエ

 今回のワインと料理の中では唯一重心が高いもの同士です。アルバリーニョは比較的カリッとして垂直的ですが、それでも新潟海岸ですから中はソフト。料理と同じです。ワインがカキの風味を積極的に引き出し、質感に寄り添って、カキをよりおいしく食べることができました。新潟海岸ワイナリーではアルバリーニョ、アルバリーニョと連呼していますが、そして日本ワインファンの方々も揃ってその運動を支持しているようですが、アルバリーニョはくっきりして酸があって重心が高く垂直的で引き締まった味になるからです。西欧ワイン絶対主義(無意識であっても)の方々にとっては、アルバリーニョはもっとも西欧的な意味での“高品質”になる品種ですから、よい品種だと判断されてしまうのでしょう。常々言っていますが、そういう西欧価値観中心主義のお先棒を担いで日本を植民地化しようとしてくれるな。またスペインのアルバリーニョ産地は新潟と同じく海の近くで降水量が大変に多く、花崗岩の砂質で、病害等を考えた場合に、新潟はこの品種の栽培適地なのはよく分かります。しかしそれは生産者サイドの理屈であって、新潟海岸料理文化に軸足を置いた消費者サイドの視点だとは思えません。新潟の海岸にそんな味のものがあるとは思えません。特に重心の高さは決定的に間違いです。佐渡沖のホンマグロとかブリは別として、新潟でとれる魚は重心が高いもののほうが圧倒的に少ない。アルバリーニョはカキに合うとしても、新潟の基幹魚介類はカキではありません。ですからアルバリーニョがあってもいいとは思いますが、新潟海岸ワイン=アルバリーニョでは大いに困ります。しかしポルトガルと同じように、アルバリーニョをブレンド品種のひとつとして使うならばいいと思います。しかしポルトガル品種の中でなにが重心が低くまるい形をしてキメが細かく酸が低いのかはわかりません。

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3、干貝蝦球

& おうむ(ツヴァイゲルト)亜硫酸無添加 2015 カーヴドッチ

 干貝柱と海老すり身ですから、リッチなうまみがあり、重心が低く、流速が大変に遅い。このツヴァイゲルトはロゼのような淡い色で、タンニンや酸もなく、質感の厚み、ボリューム感、広がり、粘り、余韻の長さが見事です。日本の多くのツヴァイゲルト(そんなにたくさん飲んだことはありませんが)はどうも“赤ワイン”を意識しすぎて、90年代のオーストリアのツヴァイゲルトのように、エグく泥臭くなっていると思います。ツヴァイゲルトはオーストリアの品種であって、オーストリアらしい軽妙で優美なセンスを忘れてはまともな味になりません。その点、このツヴァイゲルトは、水辺&砂地であるノイジードラーゼーDACをさらに軽快にしたような傾向で、期待したい個性が極めて美しい形で表現されている大傑作です。強さや緊張感を求めるアングロ・サクソン評価をうのみにする人やフランスかぶれの人なら、これはただ薄いワインでしかないかもしれません。しかし私にとっては、日本の赤ワインの中で、理想形に近い味のひとつだと思いましたし、ツヴァイゲルトとしては、オーストリアを含めても最上のひとつだと思いました。えび、ほたて、きんめだいが好きな人なら、ないしそれらの料理を出す店なら、このワインは必携です。

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4、清蒸鮮魚

& アルバリーニョ・マセラシオン 2014 フェルミエ

鯛の蒸し物です。調味じたいは極めて端麗です。しかし鯛は逞しい味ですし、噛み応えがあり、脂肪ものっていて、後味にある種の苦みがあります。だからふやけた味のワインでは太刀打ちできません。その点、このアルバリーニョ・マセラシオンは、適度な逞しさやコクや苦みがあり、酸がおだやかで、質感に厚みがあり、まるで山田錦&硬水系の日本酒のよう。重心も下で、まさに鯛向けのワインです。マセラシオンの白ワインは流行りとはいえ、へんなくせっぽいワインや泥臭いワインや酸化したワインもそれなりに多く見かけます。しかしこのワインはマセラシオンのよい部分だけを生かしたかのような見事な造りです。フェルミエさんは本当にセンスがよく技術力のあるワイナリーだというのが分かります。

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5、葱姜墨魚

  & エルマール・デュオ(アルバリーニョ&シャルドネ混醸) 2016 フェルミエ

 粘りがあって重心が下で力強いイカと、すっきりしたネギとショウガを炒めた料理。この料理だけ醤油味で、比較的濃厚な味わいです。ワインは、シャルドネの強さ、濃さ、重心が下にある粘りけと、くっきりしたアルバリーニョの清涼感がうまくとけあっています。さすがにブレンドではなく、混醸ならではの調和です。こうして飲むと、シャルドネがどれだけしつこい味の品種かよく分かります。しかし醤油みりん系の味の魚には、樽っぽくないことを前提とするなら、やはりシャルドネは重宝するのだと思いました。

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 正直、料理だけ食べていたら台湾料理はあまり好きとは言えません。なぜならごはんのおかずにならないからです。しかし新潟海岸料理もごはんが進まない味です。ところが新潟海岸ワインといっしょだと、その淡味がおいしさへと変わりました。同じく新潟海岸ワインだけ飲んでいると、どうしても薄さや軽さが目立ってしまうものです。ところが台湾料理といっしょだと、その個性が完璧な美点、他に代替物がない特別な味だと思え、ワインがとてもおいしく感じます。今回の料理とワインの組み合わせは、ペアリングとはこういうことを言うのだ、と実感させられました。

 新潟海岸ワインの生産者さんが東京にいらしたときには、この錦園でイベントをされるといいと思います。

 

〈田中克幸〉

2017.10.21

チリのビオディナミ生産者、コイレのセミナー

 1885年創業の老舗大手ワイナリー、ウンドラーガのオーナー一族が2006年に創業したビオディナミのワイナリーがコイレ。そのワインメーカーであるクリストバル・ウンドラーガが来日して、セミナーが行われました。

 コイレの本拠地はコルチャグアの中でも最も標高の高い(500メートルから650メートル)ロス・リンゲス。斜面の下、表土が厚いところでベーシックなグラン・レゼルバ・ライン、中間地点でロヤール・ライン、山の近くの表土10センチから30センチの場所で、セロ・バサルト、そして特に母岩が表土近くまで盛り上がっているいくつかのスポットのブドウを集めてアイコン・ワインであるアウマを造ります。表土の厚みと株密度は反比例、そして収量は比例しています。

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▲アウマの区画(地図上のスポット)を示しながら解説するクリストバル・ウンドラーガさん。


 つまり、より岩の味がするもの=高品質、より土の味がするもの=低品質、という考え方だと分かります。それは伝統的なヨーロッパ的考え方です。しかし、フランスやイタリアの“クリュ”とそうではない畑の違いとは異なり、アウマとロヤールに余韻の長さの違いはありません。それがチリらしいところで、畑のすべてがよいテロワールなのです。ただ味わいの方向性が異なるだけです。すっきりして繊細な料理には高価なワイン、ざっくりとした塊肉のシンプルな料理には安価なワイン、といった違いです。

表土が厚いほうが保水性があって灌漑の量が少ないのではないかと思いましたが、実はその逆だそうです。母岩が適度に柔らかく、根が母岩の中にまで深く入り込むからです。コルチャグアらしく砂礫質の土壌ですから、表土じたいの保水力はないようです。

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最近の高品質志向ワイナリーらしく、酸とフレッシュさを求めて収穫は早めに行います。標高が高いこともあって、ワインの重心は上になります。カベルネ・ソーヴィニヨンでは必ずしもそれがプラスに働いているとは思えません。正直、青いと思います。アウマも私にとっては神経質すぎます。私はコルチャグアにとってカベルネが正しい選択だとは思いません。その点、モナストレル、ガルナッチャ、カリニェナ、シラーという地中海品種ブレンドであるセロは、土地と品種が合っているようで、フォーカスのしっかりしてバランスが整っている安心できる味がします。

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コルチャグアといえば、常識として、カルメネールです。適度な粘土が好きな品種ですから、ロス・リンゲスでも粘土が多い区画に植えられています。とはいえボッテリ感はなく、コイレらしくこれも明らかに意図して早摘みし、すっきりとした方向性にふっています。香りも若干ハーブっぽいと思いますし、カベルネ・フランを加えることでなおさらそうなっています。それでもカルメネールならではの太さ、腰の据わり、黒系果実の実体感のある力強さは健在で、粘土の粘りも効果的に寄与し、神経質さのない味わいになっています。私はやはり、ロヤール・カルメネールが、特に値段を考えた場合、一番よいと思いました。もちろん、高価なセロやアウマのような緻密さ、流麗さはありません。しかしその方向性なら他にも、それこそフランスにも、選択肢はたくさんあるのです。高級レストランでのハレの場にふさわしい味だとしても、そこでチリワインをあえて飲む機会は極めて限られるでしょう。カルメネールのざっくり感と細かいことにこだわらないおおらかな包容力は、チリならではの美点です。これなら、値段を考えても、カジュアルな場で大いに楽しめます。グラス・フェッドの熟成牛肉の焼肉にぴったりでしょう。

 

今回のうれしい発見は、コイレがイタタにある契約畑、ドン・カンデで造るマスカットとサンソーです。イタタのマスカットはミュスカ・ブラン・ア・プティ・グランではなく、アレハンドリアです。香りはもちろんマスカット系とはいえ、より太い重たい香りで、逞しい骨格とタンニンっぽい苦みをもっており、香りの高いシャルドネといっても過言でもないような味わいです。マスカット=食前酒ないし甘口、といったイメージが強いと思いますが、これは明らかに食中酒です。先日訪問したイタタでモスカテル・アレハンドロの魅力を発見したばかり。東京で再び体験できるとは思いませんでした。

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そしてサンソー。イタタ名物の品種です。1939年の大震災以降、経済復興の過程で収量が多くとれる品種として植えられたようです。しかし今では古木となり、収量は自然と抑制され、極めてミネラリーで、自然の酸が生き生きとした、上品なワインとなっています。最初は野イチゴ的なチャーミングな香りによってかわいらしいフレンドリーなワインかと思います。ところがあとから驚くほど逞しい骨格と、どこか暴力性を秘めたタンニンが顔をのぞかせ、ぐいいいっと食道を押し広げて胃袋に入っていく感覚です。フランスには自根のサンソーなどもう存在しないでしょうから、プロヴァンスのロゼ用品種という位置づけに甘んじています。しかしイタタのサンソーは自根です。土にどっしり根を生やしているかのような、ぶれない力強さがあります。ワインを通して自然の力を得ることができます。それがワインの意味です。ただし曇った風味の、若干酸化気味のロゼは失敗作だと思います。

イタタは無灌漑です。コルチャグアの灌漑ワインとは、自然さのレベルが異なります。灌漑すれば結局は、より表面的で、下支えが弱い、よくある「新世界味」にならざるを得ません。そしてイタタは涼しいため、早く収穫する必要なく、完熟していても酸がしっかりあります。ドン・カンデ・サンソーは最も安価なワイン(2000円)にもかかわらず、より高価なワインとは比較にならないほど、本物な味がします。今日本で買うべきベストのチリワインのひとつです。

 

2017.10.20

日本―チリ修好120周年、日本―チリ経済連携協定締結10周年記念イベント

 チリワイン抜きの日本のワイン消費も、チリの海産物なき食卓(特にサーモン!)ももはや考えられないほど、そして直接目には見えませんが、チリの銅なしにはどんな電気系産業も成り立たないほど、日本とチリの関係は密接です。

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エドワルド・フレイ元大統領(32代、上写真)もお見えになってのイベントでは、チリのすばらしさを再確認することになりました。
 もちろんワインもたくさん陳列されていました。印象的なものをかいつまんでお伝えすると、
1、オチャガヴィアのカベルネ・ソーヴィニヨン

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 1851年にソーヴィニヨン・ブラン、セミヨン、リースリング、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、マルベック、ピノ・ノワールを植え、チリをボルドー品種の大産地へと変革していく道筋を開いた最初のワイナリー、オチャガヴィア。その歴史的な功績についてはよく知られていることなので詳しくは触れません。味わいの安定感に、老舗の風格を感じます。

2、ミゲル・トーレスのパイスのスパークリング

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 これからチリはスパークリングワインに注力するそうです。昨日も著名ワインジャーナリストを集めてスパークリングワインのイベントが開催されたようですから、いろいろな情報がこれから伝わっていくことでしょう。私はあまりシャンパーニュもどき系スパークリングには興味がありません。それはどの国でもそうです。しかしスパークリングというスタイルじたいには多いに可能性があります。それが理解できるのが、オーガニックのパイスのスパークリングです。穏やかな品種の個性と洗練されたトーレスのスタイルのバランスが絶妙です。

3、トレオン・デ・パレデスのレイダのソーヴィニヨン・ブラン

 レイダの清涼感、塩辛さ、キレのよさ、そして強烈な香りの表現力がよく分かる品種は、なんといってもソーヴィニヨン・ブランです。海岸から7キロという畑から生まれるこのワインはレイダの個性の塊。新世界のソーヴィニヨン・ブランとしては最高峰のひとつでしょう。

4、アラス・デ・ピルケのカルメネール

 チリ最古のサラブレッド飼育場として始まったアラス・デ・ピルケは2002年にアンティノーリ侯爵家と組み、かのレンツォ・コタレッラを醸造家として、素晴らしく洗練されたオーガニック・ワインを作りだしています。畑はマイポのピルケにあります。ピルケ独特のさらっとした味わいと細かくソフトなタンニンと酸。コンチャ・イ・トロやサンタ・リタもピルケにあることからも分かるとおり、ここはチリのグラン・クリュです。頼りないといえば頼りないのがピルケですが、しかし抜けのよさ、しっとり感、スムース感、タンニンの細かさ、酸のしなやかさ、香りのエレガンスは特筆すべきものがあります。本来ならカベルネ・ソーヴィニヨンのためのテロワールだと思いますが、ピルケの個性はカルメネールでも明確です。マクールやプエンテ・アルトのような実体感のある逞しい構造とはまた違うマイポの個性が楽しめます。ブースにいたエノテカの方は「レストランのハウスワインとしてよく売れています」と言っていましたが、それはうなずけます。普通、これ以上の品質は必要ありませんし、1200円のカルメネールとして、どこから見ても非のうちどころのない完成度です。

5、ヴィーニャ・アキタニア
 チリで作るフランスワインそのものだと思います。ものすごく知的に洗練されたワインです。ポール・ポンタリエやブルーノ・プラッツが創業したワイナリーです。彼らのことを思い出します。
 今飲むと、時代錯誤的だと思います。そういうボルドー格付けシャトーの有名人のご意向をウリにしてチリワインを語ることじたい、もはやカッコ悪いことです。フランスかぶれのワインファンには通用するのかもしれませんが、チリワインへの愛情が感じられません。ブースにいた徳岡の方とこんな会話をしていました。
田中「うーむ、味が冷たい。チリっぽくない」。
徳岡「チリっぽくないというのは分かります」。
田中「ボルドーがボルドーを飲めばいいのであって、こういうのは時代遅れでしょう」。
徳岡「だめでしょうか」。
田中「だめじゃないですか。ワインとしてだめなのではなく、まず思想的に間違い。どこぞの国ではあるまいし、日本ではこういう発想は胡散臭いとしか思われない。さらには徳岡さんらしいとも思わない。他のワインはけっこう包容力があってやさしさがあると思うのですよ。先日徳岡さんの銀座のお店でいろいろ試したのですけど、これだけが違和感があった。仕事帰りにこういう冷たいタイプを飲んでも癒されないでしょう」。

6、プルソのマルベック

 宮城県のプエンモストは、チリに住んでいたという社長の箱崎舞さんが選ぶ、チリ最先端の高級ワインばかりを扱うユニークなインポーターです。いろいろとテイスティングしましたが、どれも基本的に、サンチャゴ中心地の高級レストランでサービスされるにふさわしい味。サンチャゴでよい暮らしをしていた一流企業駐在員なら、懐かしい、と思われるかも知れません。全体にさらっとして、ちょっと早摘み系ですから、そういう方向性のワインが好きな人にはお勧めです。このプルソは年間4千本しか生産されません。日本にも90本のみの入荷です。バリックとコンクリートエッグ熟成というのがいかにも今風。コルチャグアはカルメネールで有名ですが、実はマルベックの出来もよく、これから注目です。アルゼンチンより標高がずっと低く降水量もあるので、チリのマルベックのほうが神経質さがありません。それがよく分かります。しかし値段は10500円です。相当ニッチですね。高級ワインバーのオルタナティヴ動機(受け狙いとも言えます)ワインとしては最高かも知れません。

2017.10.17

ルイ・ジャド

 いろいろ聞きたいこともあり、来日したルイ・ジャドの輸出部長オリヴィエ・マスモンデさんに会いに行きました。
 詳しくはまたお伝えしますが、2017年は7年ぶりに通常の収量と品質が確保できた年だそうです。しばらく低収量ヴィンテージが続き、7年で4年半ぶんのワインしか生産できなかったそうですから、生産者にとっては朗報です。
 私が興味があるのは2016年。どうみてもよさそうなヴィンテージです。陽性の朗らかな味という印象があります。マスモンデさんによれば、「ヴェルヴェット的な質感と2017年をずっと上回る凝縮度が特徴で、97年や99年に近い味」とのこと。ちなみに普通なら97年と99年は相当異なる味わいですけれど、ルイ・ジャドの97年のほうが例外的で、表面的で実体感のない飲みやすさに走りがちなワインが多い中、開放的なフルーティさと凝縮度と構造を兼ね備えていましたね。

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▲オリヴィエ・マスモンデさん


 ワインは数十種類テイスティング。同一生産者でこれだけいりいろなワインがあると、村ごとの違いが明快に分かり、ブルゴーニュの勉強ないし復習にはもってこいです。個人的にはルイ・ジャドは昔から赤より白のほうが好きなのですが、今回も同じ印象です。ヴィンテージは2013年や14年が主体でした。特に2014年は白にとっては文句なく素晴らしいヴィンテージ。ぴしっとしたフォーカス、抜けのよさ、疾走感、流麗さ、見晴らしのよさ、清涼感、ぜい肉のなさ、余韻に至るまでの乱れのなさ、といった特徴が、白にとっては特に効果的に働いています。2013年は凝縮度はあるのですが、そしてごりっとした実体感もいいとは思いますが、残念ながらスケール感と気品といった点では2014年が隣にあると見劣りしてしまいます。

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 試飲した中で特筆すべきは、写真の3本、Ladoix Le Clou d'Orge 2014, Pernand-Vergelesses Blanc Clos de La Croix de Pierre 2014, Savigny-les-Beaune Blanc 1er Cru Clos des Guettesです。どれもそのほか大勢とは異なるミネラル感と堅牢さと酸のビビッドさと余韻の安定感。これらの畑は農薬散布が少ないか、実質オーガニックなのかも知れません。そういう味がします。ムルソー、ピュリニー、シャサーニュよりも、今日はこのマイナーな村のワインがいいと思いました。
 Ladoix Le Clos d'Orgeは、ラドワ村の中では珍しく南向きでパワフル。同一名リューディで一級と村名のふたつがありますが、見た目では単に地続きです。昔、畑のオーナーとこのリューディを歩きましたが、彼も「何が違うのだろう、よくわからない」と言っていたのを覚えています。味も通常の村名のレベルを超えています。場所はコルトン・ロニェの目と鼻の先で、むしろ特級より日当たりがよいのですから当然かもしれません。 
 Pernand-Vergelesses Clos de La Croix de Pierreは赤は一級、白は村名のイレギュラーなワイン。先のラドワの畑は特級コルトンの北端の向こう斜面でしたが、こちらは西端であるアン・シャルルマーニュの目と鼻の先。これはペルナンとしては肉付きもあり(やはり赤の畑の白)、ハードコアなペルナンファンにとっては厳しさに欠けると言えるかもしれませんが、むしろ使いやすいバランスだともいえ、それでもペルナンですからびしっとタイトで、かっこいい味です。このワインも素晴らしいコストパフォーマンスです。

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 Savigny-les-Beaune 1er Cru Clos des Guettesは、村名サヴィニーとはまったく異なる引き締まり感が素晴らしいワインです。いかにもブルゴーニュの高級白ワインを飲んでる!といった満足感が得られるでしょう。しかし大変にお買い得(それでも6100円です。他が高すぎるとも言えます)です。とにかく、なんども言いますが、いい加減、昔の名前(ピュリニーとか)で飲むのはやめましょう。まあこの話をしていると長くなるので。


 しかし今回あらためて思ったのは、大半の白ワインの重心が高いことです。つまり、多くの魚介類には合いません。青魚ならいいと思いますが、その場合はもっとよさそうなワイン(ロワールとか)がたくさんあります。つまりは鶏肉用のワインばかりだということです。これでいいのでしょうか。いったいレストランでは何と合わせているのでしょうか。
 重心のみに着目してテイスティングするなら、今回の試飲ワインの中で、大半の魚介類と同じく下に位置するのは、ピュリニーのルフェールとクロ・ドラ・ガレンヌ、ムルソー・シャルム、シャサーニュ・モルジョだけです。標高を考えれば順当な結果です。身はふっくら皮はパリッと仕上げた鯛に白ワインソースを添えたものにルフェールとか、おいしそうですね!といってもこれらは13000円、15000円といった値段です。最近ブルゴーニュを買うのは千円と一万円の区別がつかない人でしょうから問題がないのかも知れませんが、常識的に考えるなら高いワインです(ルイ・ジャドはまだお買い得だと思います)。家庭では言うに及ばず、多くのレストランでもそうです。

 純粋に料理との相性のみから希望を言えば、千円台前半で重心の低い白ワインが必要なのです。それがないと、用途が極めて限られてしまいます。ブルゴーニュの底辺を広げるべく比較的安価なワイン、たとえばスティール・シャルドネ(樽を使わない低コストワイン)やソンジュ・バッカス(一級をブレンドした日本特別キュヴェ)を投入しようとも、使い途が少ないような味では効果が薄い。世の中、ソーヴィニヨンでもリースリングでもなくシャルドネに求めている個性とは辛口のリッチさであり、ボディ感であり、実体感なのではないかと思います。

 どうしてこうも重心が高いワインばかりになるのか。オートコートやボージョレのシャルドネなら標高の高さが理由と言えるでしょうけれど、明らかに標高が低い畑のワインでさえそうなってしまうひとつの理由は、収穫が早すぎることです。しかたありません。温暖化の中で常識的なアルコールと好ましいとされる酸度を得るには収穫を早めるしかない。どこもかしこも同じ問題ですね。消費者が、特にプロが、酸だ酸だとうるさいからこうなるのです。そのくせブルゴーニュのシャルドネを魚料理と合わせる。。。バカも休み休みに言え、と、ブルゴーニュファンのはしくれ(誰も認めてくれないでしょうけれど)としては、思いたくもなります。私はコルトン・シャルルマーニュのちょっとヴァンダンジュ・タルディーヴが飲みたい!

 ところでラドワやペルナンの畑の位置を確認すべくブースに立っている方に聞きました。すると、ブルゴーニュの全体図を見せて「ラドワはここにあります」と。うーむ、ラドワがどこにあるのか知らない人はここには来ないでしょうに。「いえ、ラドワの位置ではなく、このワインの畑の位置です」。「わかりません」。ブルゴーニュは何百もの畑違いでワインを造るわけです。品種は限られているし、つくり方も同じようなものです。遠くから見たら、どれもこれも似たようなもの。つまり畑違いの微細な差を商品価値に転化していかねばならないし、的確に個々の顧客のニーズに結びつけていかねばならない。ブルゴーニュは何百、何千もの畑別ワインの個性をしっかり理解しておかねば、ブランド価値、みせびらかし価値以外の、本来の食中酒としての実用価値が発揮されません。・・・・・というのは分かりますが、では私が理解しているのかといえば、もちろんそうありたいと思ってはいますが、記憶力の悪さがいかんともしがたく。しかし実際に売っているプロならば、少なくとも自社製品に関しては、完璧な知識と応用力が要求されるのが、ブルゴーニュだと思います。そうでなくては売れるべきものも売れません。

2017.10.12

チリ 前文

 チリワインほど「何がチリワインなのか」、「チリらしいワインとは何か」について議論が尽きないワインはありません。

 しかし議論したい人がそれほど多いかどうか。チリワイン=スーパーマーケットで売っているような低価格大量生産カベルネ・ソーヴィニヨン、以上、で終わってしまうかも知れません。

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▲イタタのパイスの古木。無灌漑・自根です。


 チリがワイン生産の楽園だということは誰もが理解しています。気候がよい、害虫・病害が少ない、何よりフィロキセラがいない。自根というのは圧倒的な、ほんとうに圧倒的な優位点であって、接ぎ木なしではワインが造れないヨーロッパがどれだけ逆立ちしてもこればかりはもはやどうにもなりません。自根の味が好きならばチリワインです。しかし「自根の味が好き」という一般消費者はどれだけいるでしょうか。これを読まれている方々なら自根の味は理解されているはずです。本当にそれが好きならば、そしてそういう人が多いならば、チリの高級ワインがもっと市場で見かけるような状況になるはずです。

 そうならないのは、チリには国としてのポジティブなイメージがないからです。今回のサッカーワールドカップ予選で善戦していることぐらいしか情報がありません。世界中の大ワイン産出国の中で、チリほどどんな国なのか知られていないところはありません。

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▲コルチャグワの風景。アンデス山脈を臨む。


 ワインは瓶の中身を消費するだけではなく、瓶の外側にある、ワインにまつわるもろもろのストーリーを消費するものです。フランスやイタリアやオーストリアのワインを消費するとは、同時にフランスやイタリアやオーストリアという言葉が表徴するすべてを消費するということです。それらの国の文化の厚みを消費するのです。それらの国がもたらすポジティブな価値を、食卓の上に招聘することで、その場を豊かにすることができるのです。

 チリは1550年代からワイン生産が行われている、それなりに歴史のある国です。しかしそれはスペインの侵略と分かちがたく結びついた歴史であり、虐殺された原住民と同じモンゴロイド系の我々としてはなおさらポジティブなイメージにはなりません。1850年にフランス系品種が導入されて現在のチリワインの形ができるわけですが、あくまで基本はGNP114%を占める重要産品にして、生産量の72%が輸出されるという輸出用産品という位置づけであって、チリの文化とはあまり関係がありません。産出国文化のシンボルとしてのワイン、という、他国と同じようなストーリーはチリには求めようがない。

 国民一人あたりのワイン消費量は17リットル。フランス43、イタリア34、スイス37、オーストリア29、モルドヴァ31、ルーマニア27、ウルグワイ28、アルゼンチン24と比較すると、南アフリカやニュージーランドやアメリカよりは多いとはいえ、あまりふるわない数字です。チリのビール消費は40リットルですから、明らかにビールの国です。

しかし問題は数字というより、ワインを含めた食文化の欠如です。貧富の差は激しく、経済成長率は16%と低く、第一次産業の国ですから、近い将来の文化的洗練や底辺に至るまでの食文化の豊かな発展は残念ながら望み薄。人口の4割が集中する首都サンチアゴの発展は顕著で、高級レストランは予約しないと入れないほどだとはいえ、それはごく一部の現象のようです。

 チリに行けば、料理が極めてシンプルだと分かります。日本の食卓に不可欠なサーモンの最大の供給元がチリであり、世界の中でも第二位の漁獲高を誇るとはいえ、その調理法はただ焼くだけです。ある家庭で夕食をごちそうになった時、生のサーモンを切っただけの皿が出てきて、どうしたらいいのか戸惑いました。生のサーモンは苦手ですし、もろもろ懸念もあり、自分でオリーブオイルと塩と胡椒で焼いて食べました。タイムやディル風味にしたいなと思い、何かハーブはあるのかと聞いたのですが、ない、と。

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▲チリ料理の基本、牛ひき肉と玉ねぎとゆで卵入りパイ、エンパナーダ


チリは大量に牛肉を食べるところで、チリ人の多くは「アルゼンチンよりチリのほうが食べる。しかしアルゼンチンは宣伝がうまいから、牛肉=アルゼンチンというイメージが世界じゅうに定着している」と言います。確かにアルゼンチンやブラジルは日本でも牛肉料理が知られているのに対して、誰もチリの牛肉料理を知りません。もちろんステーキはあります。赤身が好きなら、なかなかおいしい牛肉です。しかし、ただ焼いただけです。

サーモンにせよ、牛肉にせよ、そのほかパステル・デ・チョクロやカスエラ・デ・アベのような伝統料理にせよ、チリ料理に多くみられる共通点は、シンプル、塩味しかない、酸がない、香りが弱い、アサド(ステーキ)以外は柔らかい、です。

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▲あるワイナリーの昼ごはん、アヴォカドと青菜入りトルティーヤ


そこでお分かりのとおり、現代のパワフルなカベルネ・ソーヴィニヨンを軸とするチリワインはチリ料理と合いません。過去4回の訪問でいろいろなチリ料理とチリワインを試しましたが、結論は、残酷な言い方をするなら、何一つ合っていない。チリ料理じたいはおいしいし、チリワインじたいはおいしくとも、です。ワインが料理の風味を覆い隠し、なおかつワインの樽が目立ち、酸とタンニンが暴れるような相性ばかりです。香りも、タンニンも、酸も、樽風味も、果実味の濃厚さも、すべてが料理に鑑みれば過剰なのです。

結局、チリワインは自国の料理のために発展したわけではないということ。では誰のためにチリワインがあるのか。チリワインはイギリス、アメリカ、中国、ブラジル、日本等に大量に輸出されます。それぞれまったく異なる食文化をもつ国です。それぞれの国で、チリ料理文化とは無縁なところで、チリワインならではの個性がいかにそれぞれの国の料理のおいしさに貢献するのかを確として自覚されることなく、なんとなく、ただおいしくてお買い得なワインとして、消費されているとしか思えません。

ではその問題がチリに起因するのか。そうではありません。第一次産業国としてチリは原料としてのワインを輸出しているだけです。望まれる特性のワインを造っているのです。ではどのような特性が望まれているのか。それは、香り、タンニン、酸、樽風味、果実味それぞれが強いワインです。現在世界で一般的となっているワイン評価基準(=アングロ・サクソン的基準)を見れば、そのようなワインが必然的に高得点を獲得します。高得点=望まれるワイン、高得点をとるような味わい=おいしい、ないし優秀だと思われる味わい、である以上は、輸出産品であるチリワイン(金額ベースで27%程度がイギリスとアメリカ向けです)はそういう特性に仕上げられざるを得ない。いい加減、画一的なワイン評価基準の盲目的信奉から我々が卒業しなければ、さらに言うなら多様な対象に即した多様な鑑賞法・分析法・評価法を個々人が創出していかねば、チリワインの根本問題は永遠に解決されません。

 高品質ワインを造ればWA誌やWS誌やデカンター誌が評価し、生産者のブランドだけではなくチリワインのイメージも向上し、平均売価も上昇する、というシナリオをチリの生産者の誰もが思い描き、「アイコンワイン」なる超高価ワインを連発しています。ナイーヴすぎるほどナイーヴな発想です。しかし「アイコンワイン」の味わいは、現在の我々からすれば、時代遅れな新樽風味と高濃度を特徴としています。確かに高い点がつけられやすい仕上がりです。しかしそのような高得点=高品質という神話は、同じ価値観を共有していないならば(我々の多くがそうでしょう)通用しません。アイコンワインに特徴的な重量瓶と特別の木箱も「価値」を高めるための仕掛けです。しかし我々はそんなにうぶではありません。

 輸出用産品としてのワインは商売のためと割り切り、まったく関係のない地元消費用ワインのスタイルが確立しているならば、私としては気が楽です。しかしチリの生産者たちが言うには、「チリの消費者はとても保守的で、ワインといえばカベルネ・ソーヴィニヨンばかり飲む」。「7割がカベルネ・ソーヴィニヨンではないか」(作付け面積は36・2%です)。「外国がいいと言ったものがいいと思う。自分たちのワイン文化が弱いからだ」。輸出産品=国内消費用産品であり、経済的にもスタイル的にも前者の優位というスキームは動かないようです。これが日本酒の話だとしたらどうでしょう。日本酒のスタイルを我々日本人ではなくアングロサクソン諸国が決定し、我々がそれをありがたく享受するという状況は、想像しただけでぞっとします。最近、若干その傾向があるようで危惧していますが。

 状況はむしろ悪化しています。豊かな果実味が特徴だった以前のスタイルは、近年の世界的な傾向に従い、早摘みにして酸を高めたタイトな味わいへと変化しています。ある生産者は、「最近のチリのワインファンは酸、酸、とばかり言っている。すっぱければいいと思っている」と言います。チリ料理の味とはさらに逆方向に進んでしまったということです。チリ料理は酸がありません。日本料理と同じようなものです。チリ料理の中で明らかにすっぱいのはセヴィッチェぐらいでしょう(ペルーの人はそれをチリ料理と言ったら怒るはず)。早摘みしたら香りの要素の中にハーブ等すっきりした成分が増えるでしょうが、もともとハーブを使わない料理にとってそれは必ずしもプラスにはなりません。タンニンは硬質になり、一見構造がしっかりするように感じますが、ワインの固さと堅さは別ものです。さらに早摘みするとワインの重心が上がります。チリの料理は、日本の料理と同じく、重心が低めです。重心が高いワインは合いません。

この傾向に批判的な他の生産者は「早摘みしたら複雑性がなくなる」。その通りです。私は熟したブドウからワインを造るのが基本中の基本だと思っています。酸が必要なら、より涼しい産地に行くのか、よりふさわしい品種を植えるのか、が正当な手段なのです。冷涼産地用ブドウを温暖産地に植えて早摘みした酸と、適材適所の熟したブドウの酸は、仮に総酸量が同じ数値だとしても、酸の質が異なります。私は高い酸が嫌いなのではありません。シャンパーニュもシャブリもナーエの辛口も好きです。熟していないブドウのワインが嫌いなのです。ワインの正しい構造は、刺激的な固さとして感じられる青い酸とタンニンから生まれるのではなく、ミネラル感からもたらされるものです。ゆえに、早く収穫するのではなく、オーガニック栽培をするのが正しい方向です。

こうした問題意識をもとに、今回チリを訪問しました。テーマは、1、オーガニック。2、マウレやイタタの冷涼無灌漑産地。3、スペインが最初に運んできた地場品種パイス(タンニンも酸もアルコールも低い軽い地元消費用ワインとなる)です。

 

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