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2017.10.22

新潟海岸ワインと台湾料理の会

□■新潟海岸ワインと台湾料理の会

 

 人形町の裏道にある台湾料理の店『錦園』は、たぶん皆さんが道を歩いている時に見かけたとしても通り過ぎてしまうに違いない、古びて質素な外観です。よくある町の日本風中華料理屋さんだと思うでしょう。そこで通り過ぎないのが、食べ物・飲み物に貪欲な私です。ある文字を見て、ここはいける、と思いました。フェイスブックでも紹介したことがありますから、行かれた方もいらっしゃるでしょう。

 いつかここで会をしたいと思ってきましたが、なかなか機会がありませんでした。なぜなら台湾料理に合う、ないし、台湾風の味付けに合うワインは何かについて、明確なビジョンが描けなかったからです。台湾料理は、本土系中国料理のような激しさ、コントラスト、複雑性がありません。そのかわり、ほわっとしたやさしさや軽やかさがあります。こう言っては語弊があるかもしれませんが、九州、沖縄、台湾、中国本土という連続線の中でとらえると、確かにその地理的な位置と味わいには関係があるように思えます。全体に淡く、酸も脂肪もあまり感じないので、ましてスパイスが弱いので、ワインには合わせにくい料理です。海産物が豊富ですから必然的に魚介類料理メインになりますが、大半のワインの質感や構造は魚より肉に近いので、これまた難しい点です。

 
▲畑のある角田浜の風景。(角田浜海水浴場公式ホームぺージから引用)


 私の結論は、新潟海岸ワインです。海のすぐそばにある、砂そのものの土壌から生まれる、水辺系ワイン、砂系ワインの代表です。ここまで極端なキャラクターのワインは、ラングドックのヴァン・ド・サーブルと並び、世界じゅう見渡してもそう多くはありません。新潟海岸ワインは、ほわっとしてやさしく軽く淡い味です。盛り上がるパワーとか逞しい構造といった言葉が最も似合わない味です。そして水平的で重心が低いのです。まさに台湾料理ではありませんか。

 メニューとワインの組み合わせは以下のとおりです。

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1、奶油鮑魚 

& みつばち(シュナン・ブラン)亜硫酸無添加 2015 カーブドッチ

 クリームソースのとろみと鮑の上品なうまみにぴったり。ワインは重心が低く広がりがあり流速が遅い。傑作シュナン・ブランだと思います。亜硫酸無添加ですが、へんなくせや酸化風味はまったくありません。シュナン・ブランは酸がソフトなタイプ(アンジューを含む)は魚料理に大変に重宝するのですが、そのことはあまり知られていないようで、だから見かけることも少ないですね。もったいないと思います。

 

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2、酥炸生豪

& エル・マール(アルバリーニョ) 2016 フェルミエ

 今回のワインと料理の中では唯一重心が高いもの同士です。アルバリーニョは比較的カリッとして垂直的ですが、それでも新潟海岸ですから中はソフト。料理と同じです。ワインがカキの風味を積極的に引き出し、質感に寄り添って、カキをよりおいしく食べることができました。新潟海岸ワイナリーではアルバリーニョ、アルバリーニョと連呼していますが、そして日本ワインファンの方々も揃ってその運動を支持しているようですが、アルバリーニョはくっきりして酸があって重心が高く垂直的で引き締まった味になるからです。西欧ワイン絶対主義(無意識であっても)の方々にとっては、アルバリーニョはもっとも西欧的な意味での“高品質”になる品種ですから、よい品種だと判断されてしまうのでしょう。常々言っていますが、そういう西欧価値観中心主義のお先棒を担いで日本を植民地化しようとしてくれるな。またスペインのアルバリーニョ産地は新潟と同じく海の近くで降水量が大変に多く、花崗岩の砂質で、病害等を考えた場合に、新潟はこの品種の栽培適地なのはよく分かります。しかしそれは生産者サイドの理屈であって、新潟海岸料理文化に軸足を置いた消費者サイドの視点だとは思えません。新潟の海岸にそんな味のものがあるとは思えません。特に重心の高さは決定的に間違いです。佐渡沖のホンマグロとかブリは別として、新潟でとれる魚は重心が高いもののほうが圧倒的に少ない。アルバリーニョはカキに合うとしても、新潟の基幹魚介類はカキではありません。ですからアルバリーニョがあってもいいとは思いますが、新潟海岸ワイン=アルバリーニョでは大いに困ります。しかしポルトガルと同じように、アルバリーニョをブレンド品種のひとつとして使うならばいいと思います。しかしポルトガル品種の中でなにが重心が低くまるい形をしてキメが細かく酸が低いのかはわかりません。

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3、干貝蝦球

& おうむ(ツヴァイゲルト)亜硫酸無添加 2015 カーヴドッチ

 干貝柱と海老すり身ですから、リッチなうまみがあり、重心が低く、流速が大変に遅い。このツヴァイゲルトはロゼのような淡い色で、タンニンや酸もなく、質感の厚み、ボリューム感、広がり、粘り、余韻の長さが見事です。日本の多くのツヴァイゲルト(そんなにたくさん飲んだことはありませんが)はどうも“赤ワイン”を意識しすぎて、90年代のオーストリアのツヴァイゲルトのように、エグく泥臭くなっていると思います。ツヴァイゲルトはオーストリアの品種であって、オーストリアらしい軽妙で優美なセンスを忘れてはまともな味になりません。その点、このツヴァイゲルトは、水辺&砂地であるノイジードラーゼーDACをさらに軽快にしたような傾向で、期待したい個性が極めて美しい形で表現されている大傑作です。強さや緊張感を求めるアングロ・サクソン評価をうのみにする人やフランスかぶれの人なら、これはただ薄いワインでしかないかもしれません。しかし私にとっては、日本の赤ワインの中で、理想形に近い味のひとつだと思いましたし、ツヴァイゲルトとしては、オーストリアを含めても最上のひとつだと思いました。えび、ほたて、きんめだいが好きな人なら、ないしそれらの料理を出す店なら、このワインは必携です。

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4、清蒸鮮魚

& アルバリーニョ・マセラシオン 2014 フェルミエ

鯛の蒸し物です。調味じたいは極めて端麗です。しかし鯛は逞しい味ですし、噛み応えがあり、脂肪ものっていて、後味にある種の苦みがあります。だからふやけた味のワインでは太刀打ちできません。その点、このアルバリーニョ・マセラシオンは、適度な逞しさやコクや苦みがあり、酸がおだやかで、質感に厚みがあり、まるで山田錦&硬水系の日本酒のよう。重心も下で、まさに鯛向けのワインです。マセラシオンの白ワインは流行りとはいえ、へんなくせっぽいワインや泥臭いワインや酸化したワインもそれなりに多く見かけます。しかしこのワインはマセラシオンのよい部分だけを生かしたかのような見事な造りです。フェルミエさんは本当にセンスがよく技術力のあるワイナリーだというのが分かります。

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5、葱姜墨魚

  & エルマール・デュオ(アルバリーニョ&シャルドネ混醸) 2016 フェルミエ

 粘りがあって重心が下で力強いイカと、すっきりしたネギとショウガを炒めた料理。この料理だけ醤油味で、比較的濃厚な味わいです。ワインは、シャルドネの強さ、濃さ、重心が下にある粘りけと、くっきりしたアルバリーニョの清涼感がうまくとけあっています。さすがにブレンドではなく、混醸ならではの調和です。こうして飲むと、シャルドネがどれだけしつこい味の品種かよく分かります。しかし醤油みりん系の味の魚には、樽っぽくないことを前提とするなら、やはりシャルドネは重宝するのだと思いました。

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 正直、料理だけ食べていたら台湾料理はあまり好きとは言えません。なぜならごはんのおかずにならないからです。しかし新潟海岸料理もごはんが進まない味です。ところが新潟海岸ワインといっしょだと、その淡味がおいしさへと変わりました。同じく新潟海岸ワインだけ飲んでいると、どうしても薄さや軽さが目立ってしまうものです。ところが台湾料理といっしょだと、その個性が完璧な美点、他に代替物がない特別な味だと思え、ワインがとてもおいしく感じます。今回の料理とワインの組み合わせは、ペアリングとはこういうことを言うのだ、と実感させられました。

 新潟海岸ワインの生産者さんが東京にいらしたときには、この錦園でイベントをされるといいと思います。

 

〈田中克幸〉

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