« 日本―チリ修好120周年、日本―チリ経済連携協定締結10周年記念イベント | トップページ | 新潟海岸ワインと台湾料理の会 »

2017.10.21

チリのビオディナミ生産者、コイレのセミナー

 1885年創業の老舗大手ワイナリー、ウンドラーガのオーナー一族が2006年に創業したビオディナミのワイナリーがコイレ。そのワインメーカーであるクリストバル・ウンドラーガが来日して、セミナーが行われました。

 コイレの本拠地はコルチャグアの中でも最も標高の高い(500メートルから650メートル)ロス・リンゲス。斜面の下、表土が厚いところでベーシックなグラン・レゼルバ・ライン、中間地点でロヤール・ライン、山の近くの表土10センチから30センチの場所で、セロ・バサルト、そして特に母岩が表土近くまで盛り上がっているいくつかのスポットのブドウを集めてアイコン・ワインであるアウマを造ります。表土の厚みと株密度は反比例、そして収量は比例しています。

Dsc04616
▲アウマの区画(地図上のスポット)を示しながら解説するクリストバル・ウンドラーガさん。


 つまり、より岩の味がするもの=高品質、より土の味がするもの=低品質、という考え方だと分かります。それは伝統的なヨーロッパ的考え方です。しかし、フランスやイタリアの“クリュ”とそうではない畑の違いとは異なり、アウマとロヤールに余韻の長さの違いはありません。それがチリらしいところで、畑のすべてがよいテロワールなのです。ただ味わいの方向性が異なるだけです。すっきりして繊細な料理には高価なワイン、ざっくりとした塊肉のシンプルな料理には安価なワイン、といった違いです。

表土が厚いほうが保水性があって灌漑の量が少ないのではないかと思いましたが、実はその逆だそうです。母岩が適度に柔らかく、根が母岩の中にまで深く入り込むからです。コルチャグアらしく砂礫質の土壌ですから、表土じたいの保水力はないようです。

Dsc04620


最近の高品質志向ワイナリーらしく、酸とフレッシュさを求めて収穫は早めに行います。標高が高いこともあって、ワインの重心は上になります。カベルネ・ソーヴィニヨンでは必ずしもそれがプラスに働いているとは思えません。正直、青いと思います。アウマも私にとっては神経質すぎます。私はコルチャグアにとってカベルネが正しい選択だとは思いません。その点、モナストレル、ガルナッチャ、カリニェナ、シラーという地中海品種ブレンドであるセロは、土地と品種が合っているようで、フォーカスのしっかりしてバランスが整っている安心できる味がします。

Dsc04619

コルチャグアといえば、常識として、カルメネールです。適度な粘土が好きな品種ですから、ロス・リンゲスでも粘土が多い区画に植えられています。とはいえボッテリ感はなく、コイレらしくこれも明らかに意図して早摘みし、すっきりとした方向性にふっています。香りも若干ハーブっぽいと思いますし、カベルネ・フランを加えることでなおさらそうなっています。それでもカルメネールならではの太さ、腰の据わり、黒系果実の実体感のある力強さは健在で、粘土の粘りも効果的に寄与し、神経質さのない味わいになっています。私はやはり、ロヤール・カルメネールが、特に値段を考えた場合、一番よいと思いました。もちろん、高価なセロやアウマのような緻密さ、流麗さはありません。しかしその方向性なら他にも、それこそフランスにも、選択肢はたくさんあるのです。高級レストランでのハレの場にふさわしい味だとしても、そこでチリワインをあえて飲む機会は極めて限られるでしょう。カルメネールのざっくり感と細かいことにこだわらないおおらかな包容力は、チリならではの美点です。これなら、値段を考えても、カジュアルな場で大いに楽しめます。グラス・フェッドの熟成牛肉の焼肉にぴったりでしょう。

 

今回のうれしい発見は、コイレがイタタにある契約畑、ドン・カンデで造るマスカットとサンソーです。イタタのマスカットはミュスカ・ブラン・ア・プティ・グランではなく、アレハンドリアです。香りはもちろんマスカット系とはいえ、より太い重たい香りで、逞しい骨格とタンニンっぽい苦みをもっており、香りの高いシャルドネといっても過言でもないような味わいです。マスカット=食前酒ないし甘口、といったイメージが強いと思いますが、これは明らかに食中酒です。先日訪問したイタタでモスカテル・アレハンドロの魅力を発見したばかり。東京で再び体験できるとは思いませんでした。

Dsc04618

そしてサンソー。イタタ名物の品種です。1939年の大震災以降、経済復興の過程で収量が多くとれる品種として植えられたようです。しかし今では古木となり、収量は自然と抑制され、極めてミネラリーで、自然の酸が生き生きとした、上品なワインとなっています。最初は野イチゴ的なチャーミングな香りによってかわいらしいフレンドリーなワインかと思います。ところがあとから驚くほど逞しい骨格と、どこか暴力性を秘めたタンニンが顔をのぞかせ、ぐいいいっと食道を押し広げて胃袋に入っていく感覚です。フランスには自根のサンソーなどもう存在しないでしょうから、プロヴァンスのロゼ用品種という位置づけに甘んじています。しかしイタタのサンソーは自根です。土にどっしり根を生やしているかのような、ぶれない力強さがあります。ワインを通して自然の力を得ることができます。それがワインの意味です。ただし曇った風味の、若干酸化気味のロゼは失敗作だと思います。

イタタは無灌漑です。コルチャグアの灌漑ワインとは、自然さのレベルが異なります。灌漑すれば結局は、より表面的で、下支えが弱い、よくある「新世界味」にならざるを得ません。そしてイタタは涼しいため、早く収穫する必要なく、完熟していても酸がしっかりあります。ドン・カンデ・サンソーは最も安価なワイン(2000円)にもかかわらず、より高価なワインとは比較にならないほど、本物な味がします。今日本で買うべきベストのチリワインのひとつです。

 

« 日本―チリ修好120周年、日本―チリ経済連携協定締結10周年記念イベント | トップページ | 新潟海岸ワインと台湾料理の会 »

ワインセミナー」カテゴリの記事