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2017.11.27

伊勢丹『ノエル・ア・ラ・モード』でのシャンパーニュ・セミナー

  伊勢丹新宿店で開催されているシャンパーニュの祭典、『ノエル・ア・ラ・モード』のセミナーをひとこま担当させていただきました。
 

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 私の話のメインテーマは、ブジー・グラン・クリュ全般に関してと、私が関わったブジー・グラン・クリュのシャンパーニュ、レ・シュヴァリエ・タンプリエについてです。このワインは、手前みそですが、なかなか納得できる味になっていると思います。いかにもブジーです。それを意図しているからです。つまり、いかにもブジーであるとはどういうことなのか、について話しました。.ブジーは日照時間が長い南向きの斜面で、表土が薄く、チョークが強いクリュです。もうそれだけで、どういう味わいでなければならないかが分かるはずです。大きくて堂々としていて硬質で厳格なのです。..

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 6階のメイン会場でまずこのワインを試飲してからセミナーに参加された方は、セミナーでお出ししたワインを飲んで、「全然違う味じゃないですか」とおっしゃっていましたし、既にこのシャンパーニュを店で販売している方も同じ感想でした。それはそうです。私はこのシャンパーニュが本来どういう味でなければならないかを承知しています。それに向けて調整していかねばなりません。ワインはルーティーン的に抜栓して飲めばいいというものではありません。そういうワインに対する敬意のない態度では、またワインに対する主体的な働きかけがない状態では、ワインは美味しく飲めません。

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 このワインは恐れ多くもテンプル騎士団という名前です(私がつけたわけではありません)。テンプルとはエルサレム第二神殿のことです。ですから私は抜栓前にはエルサレムに向かってひれ伏してお祈りしました。エルサレム第二神殿の守護役という意味は軽いものではないからです。そうでなければ無実の罪で虐殺された中世のテンプル騎士団の人たちに申し訳ありません。また、伊勢丹は大変に混雑していていろいろな人のいろいろな気が入り乱れて大変なことになっているので、ワインをそのまま放置しておくとその乱れた気がワインに入り込んでしまい、わけのわからない味になります。ですから提供前のワインは結界の中に置いて外乱から極力守らねばなりません。ともかく、こうしたステップを経てセミナーでワインをお出ししているので(それは日本橋浜町ワインサロンでもそうです)、普通より美味しいのは当然です。輸入元の方々も、あのような会場で感受性の強い(=外乱要因を受けやすい)ワインを試飲させる時には何をしなければいけないかを考えるべきです。しかしエルサレムに向かって拝めばいいというものではありません。私は6階から7階への階段の踊り場でワインを前にしてひれ伏していましたが、脇を通る方々は当然怪訝な顔をして避けていきます。頭のおかしい人と思ったか、それともイスラム教徒のお祈りの時間かなと思ったでしょう。そこで照れが入ったりしては効果半減です。他人の冷たい視線に耐えて「私は正しいことをしている」と確信をもつ精神力が大事です。どんな宗教だとお思いでしょうが、これは宗教ではありません。このシャンパーニュをある条件下でより正しい味わいで飲むための純粋な技術です。

 

 セミナーで話した主題のひとつは、数字の3と4の意味です。シャンパーニュのセミナーで3と4そのものについて話す人は珍しいでしょう。しかしそれがこのワインには大事なのです。世の中の人は、どの品種が何パーセントであるとか、樽発酵の有無とか、瓶熟成の期間とか、個別の現象論のことばかり気にして、セミナーでもそういうデータをメモしていたりします。大事なことではありますが、それより前に考えねばならないことがあるのです。個別を統合するロジック、現象の背後にある思想です。飲めばたちどころに「ははん、なるほどね」と、要素連関の在り方とその理由と意味を読み取ることができる方も多いとは思いますが、それが分からない方のためにセミナーがあるのです。分からずに飲んでいてもワインを飲んだうちには入らないからです。

 セミナーにご参加の方々に「どのグラン・クリュが好きですか。そしてその理由はなんですか」と聞いたのですが、こんなベーシックな質問だというのにろくな答えが返ってきません。皆さんそれなりに経験豊富なはずなのに、日ごろ意識してシャンパーニュを飲んでいないからです。どこそこの有名ブランド、だれそれのおすすめ、作られた話題性等々の非主体的理由でワインを選んでいるとそうなります。そんなことでは永遠にワイン選びはできません。答えてくださった方の多くは「ブジーが好き」。それはそうです。好きだからこのセミナーにご参加されたのでしょう。ヴェルズネイが好きという方がいなかったのはとても意外でした。私は聞き手の立場だったらまっさきにヴェルズネイと言います。残念でした。期待していたのは、シルリーが好きとかヴェルジーが好きというひねった答えだったのですが。。。

 何人かの方に「おすすめはどれですか」と聞かれましたが、私は答えませんでした。その質問をする前に、「私はこれこれこういうことを求めています」と伝えねばならないはずです。「おすすめの車はどれですか」と聞かれても、何のために車を使うのかわからないでは答えようがないではありませんか。ワインを飲んだ時にただおいしいまずいを思うのではなく、そこには膨大な情報量が詰まっているのだから、それらを抽出して要素分解し、それぞれの要素を自分に役に立つようにファイルに入れ込んでいかねばなりません。

 ところである方が「ブノワ・ラエのシャンパーニュに似ている」と言っていましたが、そのとおりです。さらに「亜硫酸を感じないのはなぜか」と指摘されていましたが、よくぞ気が付いてくれました。答えは「そうですね、亜硫酸を感じないはずです。しかしそれ以上は企業秘密です」。
 いずれにせよ、私のセミナーは他の人とは根本的に違う話だったはずです。私は表層的なPRなどしたくありません。する義務もありません。シャンパーニュを理解するための枠組みをいくばくかでもお伝えできたならよかったと思っております。
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 ちなみに会場でいろいろテイスティングした中で最も印象的だったのは、オーブのエリック・シュライバーのブラン・ド・グリ亜硫酸無添加。素晴らしいエネルギー感と広がりとリズム。さすがシュライバー。ビオディナミの年季が違います。ぺたっとした味のシャンパーニュが嫌いな私としては、無難なバランスより、個性的なダイナミズムを重視します。

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