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2017.12.08

オルトレポ・パヴェーゼ

 最近けっこう名前を聞くイタリアワインがオルトレポ・パヴェーゼ。生産者の方に話を聞く機会がありました。
 オルトレポ・パヴェーゼはDOCGひとつ、DOC7つ、IGTひとつからなる複雑怪奇な産地。クロアティーナ、バルベーラ、ピノ・ネロ、リースリング、モスカートをはじめ、栽培品種はたくさん。いくつあるのかと聞いても、20超、とあいまいな答え。まあ、なんでもあり、な感じでしょうか。
 伝統的にロンバルディアの典型的・代表的な地酒です。ミラノのトラットリアに行ってこのワインを飲まないことはありえません。ロンバルディアのワイン生産量の、なんと62%を占め、栽培面積は13500ヘクタール、ワイナリー軒数は1700もあります。しかしいつもミラノで思うのですが、そこそこ高級レストランに行ってリストを見たりお客さんが飲んでいるワインを観察(トイレに立つ時にあえて回り道をして店内を歩いたりしてます)すると、ピエモンテのほうが目立ちます。いかにも。...
 戦略的には瓶内二次発酵スパークリングワインをプッシュしたいようです。ロンバルディアのスパークリングワインといえば、もちろん名高いフランチャコルタがあります。「当然フランチャコルタは素晴らしいワインだが、二千ヘクタール超程度と小さな産地で供給量には限界がある。そして高い。まあ最近フランチャコルタはずいぶんディスカウントして売られているものも多いにせよ、オルトレポ・パヴェーゼは価格対品質において強みがある」。確かにフランチャコルタは25ユーロ程度、プロセッコは10ユーロ程度、そしてオルトレポ・パヴェーゼは10ユーロ台後半ぐらいですから、瓶内二次発酵スパークリングワインという成長ポテンシャルが大きく見込まれるカテゴリーにおいて、いい感じのプライスポイントだと思います。プロセッコでは気軽すぎ、しかしフランチャコルタでは高すぎ、というレストランは多いはずです。
 ミラノの南、ピアチェンツァの西、ポー河の南の丘陵地帯にあるオルトレポ・パヴェーゼの畑は「石灰質を含むが石がなく、粘土質土壌。だからミネラリーなワインにはならず、ソフトなフルーティさが魅力となる」。ワイン通は概してミネラリーなワインが好きですが、一般の人にとってはふわっとやわらかくまろやかなオルトレポ・パヴェーゼは“飲みやすい”と言われる類のワイン。フランチャコルタに関する投稿で、産地西側のモレーンのところのフルーティさの魅力について私は述べましたが、その延長線上でとらえると、非シャンパーニュ的な味のシャンパーニュ製法ワイン(うがった言い方をするなら素人向けワイン)というポジションをしっかりおさえることができるのがオルトレポ・パヴェーゼです。料理との相性を考えても、こうしたタイプのワインが飲まれるのはコースの前半、プリモまででしょう。イタリア料理の前菜やパスタ・リゾット類に固い味のものはありませんね。
 瓶内二次発酵用品種に関しては、圧倒的にピノ・ネロ主体。DOCGのMetodo Classicoのピノ・ネロのロゼに関してはCruaseという特別な呼称まであります。シャルドネ主体のフランチャコルタに対する適切な差別化です。ピノ・ネロのほうが酸がなく質感がソフトですから、なおさらです。今回試飲したワインもピノ・ネロばかりでした。「オルトレポ・パヴェーゼは伝統的にはクロアティーナやバルベーラの産地ではないのですか。DOCにはそれらの品種の泡もあります。個人的にはバルベーラの泡は大変においしいと思います。なぜそれらの品種ではなくピノ・ネロをそこまでプッシュするのですか」と聞くと、「君みたいなプロはそれら地場品種が好きだが、一般消費者はどうかな。瓶内二次発酵ワインにとってピノ・ネロのステイタスと知名度は圧倒的だ」。ロンバルディアらしいというべきか、実利追及の怜悧な視点からのワイン産地形成がされているのです。「売れないものを造ってもしかたない。長期的・戦略的にどのような品種のどのようなワインを造っていかねばならないかを考える必要がある。各農家は目の前の農作物が今売れればそれでいいのであって、産地全体を俯瞰する視点、戦略的な視点などない」とのこと。私も、仮に産地経済に責任がある立場ならピノ・ネロ押しになるでしょう。経済学的観点からすれば、大変に興味深い産地です。
 では、おいしいか。これは微妙です。まずいわけではありません。さらっとよくできています。スティルは地酒としての割り切りがあればまだいいとは思いますが、それでも味のタイプとしては好きではありません。焦点が定まらずに垂直性がなく味が薄い印象です。メトード・クラシコはあまりに“設計”されすぎで、優秀な商品であって深淵をのぞき込む芸術だとは思えません。しかし中ではCruaseは成功していると思います。品種・スタイル・テロワールが最も合致しており、まろやかにフルーティで、適度に洗練されていて、適度にカジュアルで、これが飲まれるシチュエーションが明確にイメージできます。

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 オルトレポ・パヴェーゼの泡はそれなりの予算を使って日本市場への浸透を図りたいようですから、これから皆さんもますますこの名前を耳にすることになるでしょうし、飲む機会も増えるでしょう。その時は、何を期待すべきなのか、何を期待してはいけないのか、をしっかり理解して消費行動をとるべきです。設計されたワインですから、設計時の使用条件・目的と異なる用途に使っては満足度が減じられることになります。どんなワインでもそうですが、無条件的・絶対的によいワインはないのであって、特にオルトレポ・パヴェーゼに関しては、特に文脈適合型の発想をしないといけません。
 ちなみに、関係ない話ですが、個人的にはロンバルディアの泡はランブルスコ・マントヴァーノが好きです。

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