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2017.12.30

ペルナン・ヴェルジュレスの講座

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 ペルナン・ヴェルジュレスでの取材をもとに、この村のワインのおもしろさを探求する講座を開催しました。
 ブルゴーニュには「ピュリニー」や「ジュヴレ」といった“メジャー”村と、「サントネイ」や「フィサン」といった“マイナー”村があります。ボルドーやブルゴーニュのような大メジャー産地は、そもそもメジャーが好きな人が好むのか、とりわけメジャー村に人気が集中しているようです。確定した権威に自己投影することで自分を大きく見せることができる、ないし他の人がいいと言っているものをいいと言うことで安心を得ることができる、といった理由からでしょう。
 もちろん自分で考えてそれが本当に好きならなんでもいい。しかしなぜ一部の村に集中してしまうのか。ブルゴーニュのファンなら全村のワインを飲んでいますから、もっと答えがばらけてもいいはずなのです。今までいろいろな人に「ピュリニーのどこがいいの?」、「ジュヴレはどういう特徴なの?」と聞いてきたところでは、「ミネラリーで酸があるから」、「鉄っぽいところ」とか、よく分からない、というか素っ頓狂な答えしか返ってきません。過去20年同じ質問をして同じ答えだというがおもしろい点です。
 さらには、ワイン会によく行く人たちによれば(私は行ったことがないのでわかりません)、メジャー村のメジャー生産者のワイン以外を持っていくと馬鹿にされたり次は呼ばれなかったりするそうです。それが本当ならひどい話です。どんな意味でもです。少なくとも私にはそのような姿勢にワインへの愛を感じることはできません。そういうノリの人たちがブルゴーニュワイン市場・評価を仕切っているのではと想像するとぞっとします。 
 単純に言えば、一般にいいとされるものをいいと言うより、大勢がいいと言わないもののよさを自分の努力で発見してそれを人に伝えるほうが何万倍も難しく、知の深化に貢献する人間的な行為だと思います。そのためには、ブルゴーニュの全村のワインの一通りの理解という議論の前提にまだ立っていないワインファン(私も含め)は、努力していろいろなブルゴーニュをテイスティングし、全村を公平かつ俯瞰的に考える機会を持たないといけない。個人の好き嫌いの前に、それぞれのどこがどういいのかを考えないといけない。
 ペルナン・ヴェルジュレスは明らかに“マイナー”カテゴリーに属する村です。一番好きな村はどこですかと聞いてペルナン・ヴェルジュレスと答えた人は今まででひとりしか知りません。
 ペルナン・ヴェルジュレスは赤と白では大きく性格が異なります。昔はそうではなかったはずです。なぜなら私が子供の頃はペルナン・ヴェルジュレスは圧倒的に赤ワインの産地であり、ピノ・ノワールが谷の北と南のどちらにも(つまりコルトンの丘側とサヴィニーの丘側)植えられていたからです。しかし今では圧倒的に白の産地です。ピノ・ノワールは谷の出口に位置する標高の低い石灰岩土壌の畑(レ・ヴェルジュレスやレ・フィショあたり)に集中しています。白はコルトン・シャルルマーニュのひとつのリューディ、アン・シャルルマーニュを代表として、奥まった標高の高い泥灰岩土壌から主に産出されます。この状況では、白と赤はまるで別のアペラシオンのワインです。
 赤は、ですから、相対的にはごりっとした重たい味。白はくっきりシャープな上昇的な味です。今回はアン・カラドゥー(昔は赤の畑、最近は半分づつ)の赤と白を出して、赤と白どちらがいいか議論しました。私は赤はよくある泥臭いコート・ド・ボーヌ味でおもしろくないと思っています。白はペルナン・ヴェルジュレス的というより新世界的な解放感とフルーティさがあって評価が分かれますが、それでも赤よりは飲んでいて楽しく、裏表のない性格が落ち着くので、いいと思います。抜けのよいワインが出来るほうが基本的には正しい品種です。アン・カラドゥーにせよ、レ・ヴェルジュレスにせよ、悪いテロワールだとは言いません。問題はむしろ、ピノ・ノワール100%にあります。シャンドン・ド・ブリアイユの混植混醸の赤を飲んで皆さんもピノ・ノワール100%の問題点に気づかれたはずです。しかし今ではピノ・ノワールの畑にピノ・グリやピノ・ブランを混植しないので、どうしようもありません。とはいえ、これはあくまでマイノリティーな意見ですし、日本の主流派ブルゴーニュファンの方々にそんなことを言ったら馬鹿にされるでしょう。
 赤は石灰岩土壌と泥灰岩土壌がブレンドされているのがいいのです。ロマネ・コンティやシャンベルタンがまさにそうです。しかし先述のように、圧倒的多数の一級の赤は石灰岩土壌。だからペルナン・ヴェルジュレスの赤はむしろヴィラージュに可能性があります。お出ししたワインは石灰岩主体に泥灰岩をプラス。ちょうどいいバランスです。逆の比率ではいけません。
 白は赤よりずっとあか抜けています。笑われるのを承知で譬えるなら、コート・ドールのシャブリです。泥灰岩土壌と冷涼気候の味。フェンネルっぽさとさらりとしたオイリーさと青りんご的酸。同じ生産者・同じヴィンテージのアン・カラドゥーとスー・フレティーユの比較はおもしろいものでした。しかしこの場合でも両者をブレンドしたほうがおいしい。ただし赤とは逆に、石灰岩3割に泥灰岩7割ぐらいの比率だと思います。
 ペルナンのサンディカ会長のワインは樹齢100年のアリゴテ。たった一年のみ少量造られました。アリゴテの畑を買ってシャルドネに植え替えてしまったからです。その前のヴィンテージ一回だけの作品です。もったいない話です。この生産者のベストワインです。日本にも輸入されているので飲まれた方も多いと思います。ものすごいパワー感です。しかし質感はこまやか。そこがアリゴテのよさです。
 このジャニアールのアリゴテはスー・フレティーユの裏側の畑です。ドラルシュのアリゴテはコルトン・シャルルマーニュの延長線上、コルトンの丘の北側からできます。これは圧倒的な完成度です。どのシャルドネより素晴らしい。そしてコルトンの丘が優れたテロワールだとよく分かります。もし「君の好きなブルゴーニュの白は?」と聞かれたら、私は「コルトンの丘の裏側にあるアリゴテ」と答えたいぐらいです。
 同じ生産者のコルトン・シャルルマーニュはアリゴテとほぼ同じ味です。質感や形がそっくりです。二つを飲むと、コルトンの丘の味がしっかり理解できます。そしてテロワールは品種に優先するという意味も分かります。このコルトン・シャルルマーニュはシャルドネ、ピノ・ブラン、ピノ・グリ混植混醸なので(ペルナンにはまだ混植混醸のコルトン・シャルルマーニュが残っています)、よくあるコルトン・シャルルマーニュよりずっと複雑で垂直性があり、かつこまやかです。それでもアリゴテの気品には勝てません。余計なざらつき(シャルドネの質感はきめが粗いものです)やぜい肉がなく、何か抽象的なものがすーっと伸び上がるのがアリゴテです。コルトン・シャルルマーニュは分かりやすいとも言えますが、世俗的だとも言えます。ペルナンの丘の森の中にはシトー派修道院の遺跡があります(今回はじめて知りました。私有地なので入ることはできません)。アリゴテの方がシャルドネよりシトー派的な味です。シャルドネに禁欲や清貧は似合いません。もちろん中世にはシャルドネという品種じたい植えられていなかったはずです。コルトン・シャルルマーニュのグレード・アップ版の味が十分の一の値段で入手できるのだからアリゴテでいいではないですか。とはいえこのワインは日本に輸入されません。これがいいと皆が思えば輸入もされるでしょうが、当然このアリゴテを評価する人は超マイノリティーです。こうしてどんどんアリゴテが引き抜かれていきます。蛮行の極致です。しかし皆がそれでいいと思うのだからしかたありません。そして多くの人は、コルトン・シャルルマーニュの味ではなく、コルトン・シャルルマーニュの名前でワインを買うからでしょう。
 ところで今回のワインのほとんどは2015年です。2015年は補糖していません。当然こんな暑い年に補糖する必要はありません。それがいいのです。比較のために2014年も出しました。圧倒的大多数の人は2014年は白にとってのグレート・ヴィンテージだと言います。酸がいいとか言います。それはイメージです。2014年は寒暖差が意外と少なかった年です。昼は涼しく夜はそれほど気温が下がらなかった。逆に2015年は寒暖差が極端に大きかった。そして秋には平均より気温が下がったぐらいです。だから2015年は酸があります。それはともかく、2014年は補糖をそれなりにしています。だからアルコールのボリューム感が果実じたいのボリューム感より上回っています。いったん気づけばそれが大変におかしな味に思えて後戻りできません。ブルゴーニュ最大の問題のひとつは、補糖があまりに習慣化して、あのアルコールっぽい味がいいと思われてしまっていることです。補糖してしまえばヴィンテージのキャラクターが失われます。それで何が自然な味なのか。涼しい年は涼しい年らしい味がするべきです。ブルゴーニュ以外の南の島でとれた砂糖を入れるのは倫理的にもおかしい。しかし多くのワイン好きは結局のところアルコール好きなのでしょう。だからアルコールの味がするほうがおいしいと思うのでしょう。しかし2015年は果実のボリューム感とアルコールのボリューム感が等しいので(ないし前者が後者を上回るので)、アルコール好きには物足りないのかも知れません。ドイツワインで、残糖があるシュペトレーゼと残糖がないシュペトレーゼ・トロッケン(GGを含む)を同一ヴィンテージで比較すると、原料が同じだけに、このボリューム感の意味がよく分かっていただけると思います。前者は果実のボリューム感が確実にアルコール感を上回っています。GGが好きではない、古典的なシュペトレーゼがいいと言う方は多いと思いますが、それは甘さの話ではなく、ワインらしいワインのあるべきバランスの話をしているのだと解釈できます。
 2014年のペルナンの白は日本酒の大吟醸に似た味がします。私は大吟醸も嫌いです。その理由はたくさんありますが、ひとつの理由は過剰なアルコール感です。米を磨いてでんぷんばかりにして、でんぷんを糖化して発酵させたら、アルコールの味ばかりになるのは当然です。しかし皆アルコール好きなので、それがおかしいとは誰も言いません。
 ワインによそから来た混ぜ物をしない、というのは、ワインの宗教的な意味を考えても、大変に重要なことです。シトー派の聖ベルナール・ド・クレアヴォーは、ワインに香料をいれていることを挙げてベネディクト派を批判しています。この点において聖ベルナールは完全に正しい。香料を入れたら、もはやワインはキリストの血ではなく、ただの人間的な飲料になってしまいます。香料を入れたらおいしくなったかも知れませんが、ブルゴーニュワインの本義に反する。その精神は今でも尊重しなければブルゴーニュではない。だから補糖はだめなのです。この点で私は2003年、2009年、2015年といった補糖しなかった年を支持します。


 講座の最後に、ペルナンで造られるビールを出しました。ホップや麦はペルナン産ではありませんが、水はペルナンの地下水です。不思議なぐらい、ペルナンの水で造られるビールはペルナンのワインの味に似ています。それもコルトン側の丘の味です。似る理由がよく分かりません。水はペルナンの岩を通り抜けていますから、その水にペルナンの泥灰岩のキャラクターが投影されているとしか考えられません。テロワールの味を、ワイン以外のものとワインの共通分母としてとらえるおもしろさ。それはともかく、ペルナンの4Bは驚異的においしいビールです。普段ビールを飲まずそれをおいしいとも思わない私でさえ、これは珍しく心の底から感激。皆さんもペルナンに行ったらビールを買うのを忘れずに。特にIPAが秀逸です。結論は、「ペルナンでおいしいのはアリゴテとビール」です。

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