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2017.12.30

アルザス、ジュラ紀のグラン・クリュ

Dsc05174



 アルザス・グラン・クリュの中からジュラ紀のものを集め、この地質年代ならではの個性を理解するための講座を開催しました。
 ジュラ紀といえば、思い出すのはブルゴーニュです。実際ジュラ紀のアルザスはブルゴーニュの白ワインとどこか似ています。堂々としたスケール感と外向的・積極的な力強さと太くしっかりとした酸とコントラストの大きさと黄色系果実味があるからです。
 ジュラ紀のグラン・クリュはすべて石灰岩・泥灰岩です。そのようなアルカリ性土壌の畑には普通ピノ・グリ、ゲヴュルツトラミネール、ミュスカが植えられます。リースリングは花崗岩や砂岩や片岩に向くとされます。「非・石灰土壌にリースリング」は、ドイツでもオーストラリアでもオーストリアでも該当する基本です。
 確かに第三紀石灰岩・泥灰岩のグラン・クリュでは、リースリングはごつく、泥臭く、香りが重くなりがちです。しかしどういうわけだかジュラ紀ではそうはなりません。たとえばアルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイムは石灰岩にもかかわらずリースリングが主として植えられています。他の品種のワインも素晴らしいとはいえ、確かにリースリングが一番表現力が豊かで説得力があるという印象です。
 私は最近、このグラン・クリュのリースリングが以前にも増して好きです。地球温暖化によって酸がボケたワインが多くなってきた最近では、このグラン・クリュの石灰らしいメリハリのある酸が特に気持ちよく感じます。以前、オリヴィエ・ウンブレヒトに「石灰・リースリング」に関する質問をした時、彼の答えは「確かにリースリングと石灰は合わないとされてきたが、地球温暖化で事情が変化してきた。昔は酸が青かったが、今ではそうではない」。短い時間でずいぶんと事情が変わるものです。それに対応して我々の理解も変化していかねばなりません。     
 気温だけではなく、渇水ストレスの問題もあります。石灰岩は水を含むので、そして泥灰岩土壌のグラン・クリュは粘土が多いので、高温=土壌からの水分蒸散量の増大に対して有利だと考えられます。渇水ストレスはワインをエグくします。リースリングはエグいほうがいいとはさすがに言えないでしょう。

 今回は二種類のアルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイムのワインを出しました。どちらも2015年です。ひとつはオーガニック、残糖なし、MLF、無濾過。亜硫酸極小のリスネール、もうひとつは普通の仕事をしている地元消費向け残糖ありのディシュレール。いろんな意味で対極的なワインですが、どう造ろうとアルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイムはアルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイム。類似点のほうが多い。それがフランスのアペラシオンのワインというものですし、グラン・クリュには意味があるということです。
 講座参加者の方々は揃って後者がおいしいと言っていました。私もディシュレールの2015年は奇跡的な傑作だと思います。残糖16グラム、アルコール度数14度、pH2.95!極端です。それが奇形的にはならず、極めてコントラストが大きく、スケール感のある味わいを生み出しているのです。料理は羊のビリヤニを合わせました。考えられないぐらいおいしい相性。参加者の方々がむさぼるように食べ、また飲んでいるのを見て、皆同じことを考えているのだと思いました。だいたい羊のビリヤニにはリースリングを合わせないでしょう。リースリングには魚といった考えが一般的(リースリングにはニシンの酢漬け、とか。本当においしいですか?)だからです。リースリングの表現力の豊かさと多様性を忘れてはいけません。いずれにせよ、羊のビリヤニが合うということから、逆にアルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイムの力強さと逞しさが分かると思います。
 私は通常はオーガニックやビオディナミのワインを買います。アルザスは特にそれらのワインの宝庫です。しかし私は決して原理主義者ではないので、結果がおいしければ普通の農法・製法のワインであっても拒絶はしません。ディシュレールはいたって普通の農法・製法です。もうひとつ、今回の一番人気だったゲットのゴルデールも普通の農法・製法です。
 ご参加の方々はビオディナミに造詣が深く、農薬味がいいとは絶対に言いません。ビオディナミのアルザスなら何十生産者も飲まれています。それでも普通のワインをいいと言うのはなぜか。分からなくはありません。SO2の問題です。日本ではフリーSO2が15ミリグラム以下でないと多くの輸入元や消費者からそっぽを向かれてしまいます。いつのまにか自然な味=おいしい味=SO2無添加ないし瓶詰め時のみ極少量添加という等号ができているかのようです。しかしSO2を少なくするためには、pHを下げるほうがいい。下げるためには収穫を早めないといけない。早くすればスケール感も複雑性も、さらには土地の味も出ない。もちろん残糖は禁物。無濾過にするためにはMLFをする。となると、最近のオーガニック・ビオディナミ系独特の味になってしまうわけです。それがおいしいかどうか、ティピシティがあるかどうかは別の話です。ブレタノミセスや酸化や流通過程での劣化に関しては言うに及ばず、です。
 SO2は必要以上に入れてはいけないのは常識。しかし、入れなければそのまま優れたワイン、自然なワイン、テロワールを表現するワインに自動的・無条件的になるわけではありません。分析表のSO2の数字をまず見てテイスティングする人、ないしテイスティングの時にそこに意識を集中する人が最近多いようです。それは原理主義的アプローチ、手段と目的の転倒です。「黒い猫も白い猫もネズミを捕る猫がよい猫だ」(鄧小平)です。毛沢東による批判は「主義と方針なき実用主義的観点」。いかにも。ようは目的意識が明確で、そのための手段選択が意識的で、その結果でよしあしを判断すればいいだけの話です。私はディシュレールもゲットも最高だとは思いませんが、それぞれきちんと土地の個性を表現しているという点において、つまり目的合理性において、よい結果をうみだしていることは事実です。
 大多数の日本のワインファンにとっては、このような発言=反動的・保守的な添加物好きな味音痴です。実際に言われたこともあります。別に私は私がおいしいと思うものをおいしいと言うだけですから、99・99%の人と違っても構いません。私は未熟なブドウからできる、あの神経質で尖って重心がうわずって土台がなく内向的な味が好きではありません。そもそも私は未熟なブドウのワインを飲むとなぜか頭痛がします。比喩ではなく本当にそうです。SO2だけが頭痛をもたらすのではありません。今回人気だった二つのワインは、残糖と亜硫酸をいとわずに完熟したブドウで造られた、熟した味が大事だと思う生産者のものです。
 アルザス・グラン・クリュの中でも、一流グラン・クリュと二流グラン・クリュがあるのは事実です。シュロスベルグやスポーレンやキルシュベルグ・ド・バールやアイシュベルグやガイズベルグやランゲンを一流グラン・クリュと呼んでも誰も否定はしないでしょう。ゴルデールも一流です。今回もその存在感の強さ、格調高さ、スケール感、姿かたちのきれいさ、余韻の長さが際立っていました。ちなみにゴルデールは丘の上から村のすぐ横までがグラン・クリュです。斜面上と下ではずいぶんキャラクターが違います。ゲットは森のすぐ下、斜面最上部です。かの有名なクロ・サン・ティメールと同じ標高です。ご参加の方々は「今まで思っていたゴルデールの味と違って伸びやか」と言われていました。それは当然で、最上部区画のワインが輸入されない(されているかも知れませんが見たことがない)からです。
 ところで今回のシュタイネールはピエール・フリックのSGN。さきほどSO2の話をしていて、16年も経ったピエール・フリックを出すのはどういう意味かと思われるかも知れません。ワインは濃いほうじ茶みたいな色です。どう見ても劣化していると思うでしょう。しかし味わいはフレッシュで元気いっぱい。不思議というか、さすがというか、ワインは難しいというか。やはり、いいものはいい、悪いものは悪いとしか言えません。

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