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2018年1月の記事

2018.01.28

アルザス、Trimbach

 トリンバックがアルザスワインの代表的存在であることに異論がある人は少ない。しかし私はトリンバックを長らく忌避していた。「青い、すっぱい、薄い、農薬っぽい、SO2っぽい」と思っていた。かの有名なフラッグシップ、クロ・サン・チュンヌに至っては、「これが最高のワインだと思ったらアルザスを皆が誤解してしまう」と。かつて、今のようなスターダムに上り詰める以前のダイスを訪ねた時、その前に訪問したのがトリンバックだった。ジャン・ミシェル・ダイスに「クロ・サン・チュンヌは農薬っぽくておいしいとは思えませんでした」と伝えたら、「そう思うのは普通のことだ」と言われたことを覚えている。

 しかし2009年のグラン・クリュ・ガイズベルグ・リースリングの初ヴィンテージを飲んで、おいしくないどころか、アルザスの頂点に立つワインだと思った。ガイズベルグそのものが最高のグラン・クリュであることを考慮しても、トリンバックそのものの大きな変化をそこに感じた。そもそもこのワインはグラン・クリュ・ガイズベルグとしてリリースされた。それ自体が大きな驚きだった。グラン・クリュ制度を支持する私にとっては困った存在だった、グラン・クリュ制度反対派の先鋒トリンバックは、このワインで宗旨替えしたのだ。

 

 当主にしてワインメーカーであるピエール・トリンバックに会うのは初めてだ。昔と変わらぬ広いが質素なテイスティング・ルームで彼を待つ。現れたピエールは想像より地味な、職人、といった雰囲気の人だった。日本にもよく来る弟にはガイズベルグの発表時に初めて会った。こちらはいかにもマーケティング担当な人で、ボルドーやシャンパーニュの著名生産者とも共通する身のこなしだった。トリンバックの味を決めるのはピエールの技だと言っていた。生真面目な味は、確かにピエールのものなのだと、彼を見て思った。「トリンバックは大企業なのに、建物の外も中も質素ですね」と言うと、開口一番「我々はプロテスタントだからだ」。それを最初に宣言したことに驚いた。と同時に、なるほど、と納得した。平日の昼だというのに、テイスティング・ルームの中は3時間我々だけ。訪れる人がいない。それも不思議だったが、おかげで誰にも邪魔されずに集中した話ができた。

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▲40年ものあいだワインメーカーを務める、トリンバック・スタイルの柱、ピエール・トリンバック氏。



 ともかくも私は、以前のトリンバックが好きではなかったが今は素晴らしいと思っている、と、正直に話した。好きではなかった理由のひとつ、未熟感やエグさは、地球温暖化によって自動的に解決された。農薬っぽさに関しては、「2008年からオーガニックを始めている。あと2、3年で自社畑はすべてオーガニックに転換する予定だ」とのことで、解決された。SO2っぽさに関しては、「以前は20年経たなければ飲めないワインだったが、最近はSO2を減らしたからすぐに楽しめる」とのことで、解決された。グラン・クリュ制度に関する意見の相違に関しては、「2011年の新制度の要点は各グラン・クリュが独立した個々のアペラシオンとなったことであり、それぞれのグラン・クリュの規定を所有者が自ら決めることができるようになったから賛同した」とのことで、解決された。

 万人の脳裏に刷り込まれている黄色ラベルのベーシックなリースリングが出された。まぎれもなく石灰系リースリングの味。まぎれもなく、禁欲的で垂直的な、トリンバックのリースリングの味。今回のアルザス訪問のひとつのテーマは、石灰系リースリングだった。だから私はここに座っている。石灰系リースリングの旗手がトリンバックだからだ。多くの人がアルザス・リースリングの特徴としてとらえる引き締まった構造や硬質な酸は、アルザスやリースリングの特徴というより、トリンバックの特徴、さらに言うなら、トリンバックの畑のテロワールの特徴なのである。当主にしてワインメーカーのピエール・トリンバックも、「畑はリボーヴィレを中心としてベルグハイムからフナヴィールにある。このエリアは基本的に石灰質粘土だ」と言う。

 リボーヴィレは実は涼しいエリアである。オー・ランにありながら、アルザスの村ごとの気温を調べると分かるが、バ・ランのアンドローよりも低い。かつ冷たい土壌である石灰と粘土。だから今より気温が低かった時代には酸が強くて固くて青いワインができて当然だった。しかし今では違う。昔ならもっとも嫌いな有名フランスワインのひとつだった黄色ラベルのリースリングがおいしい。感覚的記憶とそこからの推論による一般化は、定期的な情報インプットと上書きなしには誤解・偏見になってしまう。

 次のグラン・クリュ・シュロスベルグは存在感、スケール感、密度感、余韻の迫力が別格的に違う。シュロスベルグはふくよかさや温度感といった陽の側面と厳格さ、苦み、冷涼感といった陰の側面が絶妙に絡み合って重層的かつ統一的な味わいを生み出すグラン・クリュである。振り子がそのどちらに傾くかは、畑の区画やヴィンテージによって異なる。例えばワインバックは斜面下の区画が多いためにより陽の味となるだろう。トリンバックの区画は「シュロスの周囲」、つまり標高の高い急斜面かつ花崗岩の風化度合いが低い場所だから、より陰になる。トリンバックのスタイルに合致した、また地球温暖化に対応できる、よい区画を入手することができて幸運だった。

しかし酸がどこか緩い。涼しい2014年ヴィンテージにもかかわらず、だ。残留農薬の影響ではないかと思う。ピエール・トリンバック曰く、「2011年に畑を入手したが、前のオーナーは農薬をたくさん使っていたから、2014年になるまで我々が満足できる質のワインにはならず、普通のリースリングにブレンドしていた」。3年では農薬の影響を完全には払しょくできないだろう。それに対しガイズベルグは、2008年に貸与されて直後の2009年にリリースされた。こちらは畑の状態がより優れていたのだろうと想像される。

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▲グラン・クリュ・シュロスベルグ、ガイズベルグ、クロ・サン・チュンヌ。



クロ・サン・チュンヌはリースリングとして例外的であっても決して代表的なワインではない。このワインの畑、グラン・クリュ・ロザケールは、それほどよいグラン・クリュだと思ったことはない。確かにクロ・サン・チュンヌは斜面下部の普通のロザケールよりも水はけがいいとしても、限界はシュロスベルグやガイズベルグより低いところにある。香りの抜けが相対的には悪く、上方垂直性に欠けるのは以前と同じだが、それでも以前のようなぼってりしたおにぎり型の形ではなく、より垂直的になり、ゴリゴリした固さ、うっとうしい重たさ、陰気さ、熟していない酸味といった問題が感じられなくなってきた。近年の気候的・栽培的・醸造的変化がもっとも顕著に質的向上をもたらしたワインだろう。重心が低くて流速が遅くて固いリースリングという特別な個性を楽しめるようになった。とんかつに合うアルザスのリースリングといえばクロ・サン・チュンヌである。

ちなみに、アルザスの試飲会をはじめとしていろいろな機会にいろいろな人と話してきて、私自身の考えと日本のプロや通の評価が大きく異なるグラン・クリュがいくつかあることに気づいた。その代表はモエンチベルグとザーリングとヘングストのリースリングである。個人的にはそれらはピノ・グリのグラン・クリュであっても決してリースリングの土地だとは思わない。しかし三者のリースリングはロザケールに似ている。日本において、アルザス・リースリング観の形成にどれだけクロ・サン・チュンヌの影響が大きく作用しているのかが分かる。

クロ・サン・チュンヌに関して以前から気になっていたことがあったので、ピエール・トリンバックに聞いてみた。「なぜ映画、ハンニバルの、それもあんなにひどいシーンにクロ・サン・チュンヌを登場させたのか。あれを見たらトラウマとなってクロ・サン・チュンヌを飲めなくなる」。「そうなのか、クロ・サン・チュンヌが使われているのか。知らなかった」。「ではトリンバックとは無関係なのか」。「映画が勝手に使っただけだ。なんの連絡もなかった」。ハンニバル・レクターは妙にブランド好きな人物で、趣味のよさを誇示したかったのだろう。いや、ものの分かっている私、という幻想に満足したかったのだろう。しかし、クロ・サン・チュンヌがそれだけブランドとして認知されている証拠でもある。「他にはシャトー・ディケムとか出てきますし、まあそれと並ぶ超高級ワインだということで」と言うと、「シャトー・ディケムね、フン」と、どこか見下しているような表情をした。

そしてグラン・クリュ・ガイズベルグ。この区画は畑の西端、テラス状部分だ。「そこはより石灰の比率が高く表土が薄い。キュヴェ・フレデリック・エミールに使用している区画はより粘土が多い」。だからガイズベルグらしい重厚感はあっても泥臭さやもたつきがない。さすがに修道尼院はよい畑を持っている。圧巻の凝縮度、圧巻のパワー、そして圧巻の気品。別格的なワインである。2009年の初ヴィンテージにも感動したが、2012年はさらにこまやかでさらに抜けがよい。クロ・サン・チュンヌとは異なり、姿かたちが整い、潔いほどに垂直的。かつ気配の広がりもある。それだけ飲んでいるとあまりのバランスのよさゆえに逆に気づかないのだが、ガイズベルグのあとに他のワインを口にすると薄くて単調で飲めない。石灰系リースリングの頂点であり、現在のトリンバックを代表する作品である。

 

ひととおりテイスティングし、以前にも増して明確なトリンバック像が見えてきた。ピエールの最初の言葉に立ち返り、言った。「トリンバックがプロテスタント的なワインだということがよく分かった。あなたは自分自身で自分の信仰をワインに表現しようとしているのか」。「あまり直接は意識していなかったが、そう言われればそうだ」。「ではプロテスタント的なワインとはどのようなものでなければならないか、一緒に考えてみたい。プロテスタントである以上は、信徒ひとりひとりが聖書をしっかり読み、直接的に神と向き合わねばならない。儀式に参列すれば事足れりではない。ワインはキリストの血。カトリックは実体説をとり、聖別されたワインがそのままにしてキリストの血だ。ワインそのものがキリストの血というより、聖別されたワインというのがポイントだと思う。では誰が聖別するのか。聖職者が聖別するからキリストの血になるのか。それともワインの造り手が信仰によってキリストの血の象徴としてふさわしいワインを造るから、それがキリストの血なのか。私は象徴説をとるプロテスタントにあっては聖別の主体は聖職者ではなく、信仰をもつ生産者であり、また消費者であるべきと考える。つまり、生産者はキリストの血の象徴たるにふさわしいワインを造る義務を神に対して負っている。それがどのようなワインでなければならないかを、これからプロテスタントらしく、聖書じたいに即して見きたい」。とはいえ、聖書の用意はなく(成り行き上この話になっただけだ)、うろ覚えの福音書の文言をベースとするほかなかったが、それでも言いたいことは彼に伝わる。私の言っている当該箇所は当然彼も読んで分かっている。だからふたりでトリンバックのワインと聖書との整合性を検証してみることができた。詳細な話はここですべきとは思えないので省くが、トリンバックは正しくプロテスタント的な“宗教的”ワインなのだと確認した。

私の重要な論点は、「ワイン造りの完全な世俗化はいけない、それではヨーロッパワインの根幹が崩れ、その高品質を支えてきた信条・道徳・価値観・目的意識が失われてしまう。キリスト教を国教としてきたフランスのワインの優位性は、ワインとキリスト教の密接な関係が与えたものだ。単なるおいしくて売れるアルコール飲料商品はもはやワインではない」ということだ。しかしクロヴィス以来教会の長姉としてカトリック国であり続けたフランスは、1905年の政教分離法によってカトリックが国家予算とは無関係になり、宗教が教育に関与してきた伝統も失われた。それがワインにとってはよかったのかどうか。カトリックのみの特権化は疑問視されてしかるべきだし、当然信教の自由は前提としても、それは“宗教性”の拒絶を意味しないはずだ。そもそも政教分離令は、私のような素人から見たらエミール・コンブ首相率いる当時の政府とローマ教皇ピウス10世が振り上げた拳の落としどころを見失って始めた喧嘩のように映る。組織対組織、権力対権力の話であって、フランス革命時のような理念的・包括的な反キリスト教の話ではない。

1958年に制定されたフランス共和国憲法第一条は、「フランスは、不可分の、非宗教的、民主的かつ社会的な共和国である。フランスは、出自、人種又は宗教の差別なく、すべての市民の法の前の平等を保障する。フランスは、あらゆる信条を保障する。フランスは、地方分権的に組織される」。たしかフランスの教育カリキュラムでは、この条文の解釈を中学二年生で学ぶはずだ。私は具体的な教育の内容を知らないが、これを、宗教的なるものはフランスにあらず、と解釈してしまったら、フランスワインから宗教性が失われてもしかたない。実際、フランスでフランス人がワインとキリスト教を結びつけて話しているのをほとんど聞いたことがない。ライシテ原則はフランス国家の基本理念であることは我々日本人でも知っているが、どうもそれが拡大解釈され、宗教の話が禁忌化されているのではないかと思えてならない。しかしワインのあるべき理想像は、より高次の価値観からのみ生まれる。技術論的各論を積み上げたからといって理想像が浮かび上がるわけではない。伝統的価値観の基盤を与えてきたのがキリスト教であることは事実なのだから、それを客観的にとらえればいいだけのことだ。その点、公認宗教制をとり、実質的にキリスト教国であることを制度的に裏付けし、義務教育の中に宗教教育を含めるドイツのほうが、ワインの精神的な伝統を守る視点からはよいと思う。

2004年のヒジャブ禁止法、2010年のブルカ禁止法、2016年のブルキニ禁止令が、ライシテ原則を根拠としていることに危惧せざるを得ない。私のような日本人から見れば、明らかに反イスラムであって、ライシテ原則にのっとっているばかりか、反している。つまりは、無意識的に、非キリスト教的=反フランスと言っているようなものだ。このような事態がまかりとおるなら、いっそフランスはキリスト教国家であると宣言したほうが筋が通る。自分を、なになにではないもの、という否定を契機に把握するのは不幸であり、いかなるワインを造るべきかという指針は得られない。1958年憲法の「非宗教的」フランスが浸透している若い世代に対して一抹の不安があるとすれば、キリスト教が与えるワインの意味が失われていることだ。幸いアルザスはフランス国内でも特に宗教心をもっている地域であり、他の多くの地域のように日曜日に教会が空席だということはなく、「特にプロテスタントの教会は若い人も多く集まっている」という。プロテスタントであることを最初に明言したピエール・トリンバックが、次の世代(弟の息子が次のワインメーカー)に、プロテスタント的ワインとしてのトリンバックのスタイルをしっかりと伝承していくことを願う。

 

2018.01.26

アルザス、Domaine Leipp-Leinninger

 バールの町の中心部にあるドメーヌ。キルシュベルグ・ド・バール、ゾッツェンベルグ、ウィーベルスベルグのみっつのグラン・クリュを所有する。

 2010年からオーガニックを始めており、自然なワイン造りに対して意識が高い。同じように考える若手生産者との交流も多く、彼らのキルシュベルグ・ド・バールの一部をクライデンヴァイスのウィーベルスベルグの一部と交換したほどだ。「そんなことをした人は我々が初めてではないかな」とジルベール・ライニンガーは言う。「どうせならウィーベルスベルグではなくカステルベルグがいいと提案したらよかったのに」と冗談で言うと、「それは無理に決まっている。カステルベルグは小さいし」。

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▲ドメーヌの中庭。

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▲こじんまりした試飲カウンター。

 ワイン造りは着実で、むしろ古典的と言ってよく、気合が先走った若手オーガニックワイン生産者の一部のように、アンフォラ&SO2無添加のオレンジワイン=自然なワイン、といった短絡的な考え方は持っていない。それだけに地味な性格だとはいえ、低い収量ゆえに十分な凝縮度があるワインは安定感がある味わいだし、酸化しない程度の塩梅をわきまえた低いSO2の添加量ゆえに不快に思うこともない。現時点でのよい落としどころだと思える。

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▲セラーの中には伝統的な大樽が並ぶ。

 キルシュベルグ・ド・バールの畑に行くと、あらためてこのグラン・クリュの特別な性質を確認することになる。畑は相当な急斜面で、雨後だというのに表土がぬるぬるとせず、あまり粘土っぽくない。ゾッツェンベルグと比べて冷風が当たらないので、収穫が早い。だからワインの味は、三畳紀泥灰岩・石灰岩土壌にありがちな重たさが皆無で、抜けがよく、ふっくらとした優美な果実味が備わる。すくすくと育ったかのように平和で、ある意味良家のお嬢さん的な明るい品のよさがある。典型的な“グラン・クリュ味”という点では、1983年認定グラン・クリュと1992年認定グラン・クリュのあいだには平均をとればレベル差があると常々思うが、キルシュベルグ・ド・バールはカステルベルグやウィーベルスベルグやキルシュベルグ・ド・ベルグビーテンと並んでバ・ランでは少数派となる1983年組。この畑がそうでなければいったい何がそうなのだと思う、グラン・クリュらしいグラン・クリュ。ゆとりのある完成された味わいだ。

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▲バールの町に向かって転がり落ちるほど斜度のきついキルシュベルグ・ド・バール。

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▲キルシュベルグからバールの町、そしてその向こうにあるミッテルベルグハイム村のゾッツェンベルグを臨む。

 セラーでみっつのグラン・クリュを比較すると、典型的な個性が正確に描き出されていることが理解できる。ウィーベルスベルグのタイトで直線的な構造となめらかな表面と丸みのある酸とリンゴや洋ナシ的な白っぽい果実味と粒々した芯。ゾッツェンベルグのむっちりとした粘りと重心の低さとグレープフルーツ的果実味と太く強い酸。そしてキルシュベルグの華やかな広がり感とフローラルな香りと見事な垂直性とリズミカルかつしなやかな酸。どれが一番好きかを決めねばならないなら、私はキルシュベルグを選ぶ。ここでも石灰のリースリングが光る。

 ふつう、キルシュベルグ・ド・バールといえばゲヴュルツトラミネールだ。作付け面積中53%がこの品種。もちろん期待してテイスティングしたのだが、このドメーヌでは残糖過多で形状がフラットで気配感が乏しい。他生産者での印象を総合すると、もはやゲヴュルツ最高の畑としてのキルシュベルグという評価は再考せねばならず、リースリングに注目せねばならない時代なのかと思う。その点ピノ・グリはゲヴュルツより空気の通りがよいような印象で、このグラン・クリュに期待したい伸びやかさが感じられた。

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▲キルシュベルグ・ド・バール畑からはリースリング、ピノ・グリ、ゲヴュルツトラミネール、ピノ・ノワールが造られる。



 キルシュベルグ・ド・バールの歴史的評価を決定づけた、フィロキセラ以前にはアルザスで最も高価なワインを産出していた区画、クロ・ツィセールを通りがかった。今では知る人しか知らないので、テロワールは偉大でもワインは安い。2007年や2009年のクロ・ツィセール・ゲヴュルツトラミネールは、栽培醸造上のもろもろの問題点があるとしても、圧倒的な高貴さをふりまいて印象に強く残る。私にとって最も好きな畑。しかし「1年前に売却されて今では銀行所有になった」。なんと。「そうなって投資がなされてかつての栄光を取り戻すことができると思うか」と聞くと、「そうは思わない。機械収穫しているのを見た。時代に逆行している」。困ったものだ。この畑がバール村とは関係ない所有者のものになるのがいいことだとは思えない。このような国宝級の畑はバール村の共有財産にして、皆で畑の手入れを行い、毎年別々のドメーヌに醸造させたらいいのにと思った。

 ライプ・ライニンガーではキルシュベルグの一部をピノ・ノワールに植え替えている。既に稼働している場所もあるし、これから植える場所もある。ピノの畑としてキルシュベルグをとらえなおす動きはこのドメーヌでも見られる。むしろこのドメーヌではピノに未来を賭けていると言えるほど積極的だ。それは正しいことに思える。しかしワインは期待に一歩及ばない。アルザスでは悲しいかな一般的に見られる問題がここにもある。樽のなじみの悪さが顕著で、ミッドが薄く、グラが足りず、腰の安定感に不足する。それは自覚されていることなので、どうすればよいのかは、ライニンガー夫人に作っていただいたランチを食べながら十分に議論した。以降どう進化していくのか楽しみだ。

 このドメーヌは伸びしろが大きいと思われるので、あえてワイン全般に見られる問題点を指摘するなら、垂直性、特に上方への開放感の不足である。もちろん既に十分な品質であるとしても、ポテンシャルはさらに高いはずなのだ。日本のワインファンの多くはビオディナミのスペシャリストだから、上方垂直性を増幅するためにはプレパラシオン501を使えばよい、とアドバイスできるだろう。しかし501は500と相補的な存在であって、オーガニックであってもビオディナミではないライプ・ライニンガ―が501のみ使用しても効果があるか否かは疑問だ。さらに501は成熟促進剤とみなすことができる以上、地球温暖化の中ではアルコール度数の上昇というマイナスの側面もある。私は私なりのアイデアを伝え、その場でできることは実験して見せた。ダメだと言うのは簡単だが、重要なのはどうすれば改善できるかを共に考えることだ。皆さんもこのドメーヌを訪問したら各人のアイデアを伝えて欲しい。ライプ・ライニンガ―は必ずや期待に応えてくれると信じている。よいアイデアを着実に具体的な形へと仕上げてくる、研究熱心で地に足がついた生産者だからだ。

2018.01.25

アルザス、Boeckel

 戦争中に爆撃を免れ、古のアルザスの趣をそのままに残すミッテルベルグハイム村。ここで1853年に創業され、23ヘクタールの畑を有する生産者がボエケルだ。創業時にはネゴシアンであり、「村の人からブドウを買うのが伝統」で、評価の高いクレマンに使用するのは買いブドウである。今回訪問した生産者の中では珍しくも海外市場に力を入れ、輸出比率が7割。2016年ヴィンテージからオーガニック認証を取得している。

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▲趣のある外観と、二階にあるテイスティングルーム。

ミッテルベルグハイム村にあるグラン・クリュはジュラ紀の地質であるゾッツェンベルグ。シルヴァネルを認可品種にもつ唯一のグラン・クリュとして有名だ。当主ジャン・ダニエル・ボエケル曰く、「この畑が1992年にグラン・クリュになるまでは、そのシルヴァネルのワインはゾッツェンベルグの名前を冠して売られていたが、それ以降はシルヴァネル・ヴィエイニュ・ヴィーニュへと改名せざるを得なくなった。それから伝統的なシルヴァネルをグラン・クリュに認可させるべく村を挙げて運動し、2005年に晴れて認められた」。

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▲五代目となるジャン・ダニエル・ボエケルさん。

ゾッツェンベルグは涼しい畑であり、かつ石灰岩ないし泥灰岩なので、早熟かつ石灰を好むシルヴァネルが成功するのは理解できる。もともと酸が低くふっくらとした質感のシルヴァネルはややもするとボケて緩い味になるが、ゾッツェンベルグにおいては、シルヴァネルのもつ柔らかさやボリューム感を保ちつつも適度な緊張感や締まりがもたらされ、素晴らしい結果を生む。土地と品種が合っていることは、余韻の驚嘆すべき長さと伸びやかなスケール感からもうかがい知ることができる。その余韻は同じ畑に植えられたリースリングを上回るほどである。

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▲地質地図中央上端の丸い形のところがゾッツェンベルグ。ボエケルの区画は南向き斜面のジュラ紀の泥灰岩部分。

ボエケルはアンドロー村のグラン・クリュのひとつ、ウィーベルスベルグ最大の所有者(3ヘクタール)でもある。この三畳紀砂岩のリースリングとゾッツェンベルグのリースリングを比較すると面白い。楚々として細身で洋ナシ的で芯に粒々感のある重心が上の前者と、こってりねっとりして酸が高く黄桃・白桃的で重心が下の後者。昔ならリースリングにとって最良の畑のひとつであるウィーベルスベルグのほうが単純に優れたワインであり、ゾッツェンベルグのリースリングはすっぱくて足取りが重たく野暮ったい印象だったが、今では両者はそれぞれに魅力的に思える。石灰系リースリングの質的向上はここでも顕著である。

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▲左のピノ・ノワールはゾッツェンベルグ下部から。中央のピノ・ノワールはキルシュベルグ・ド・バールから。右は代表作ゾッツェンベルグ・シルヴァネル。

ボエケルには隠れた傑作がある。ピノ・ノワール・Kである。Kはグラン・クリュ・キルシュベルグ・ド・バールの略。7年前にゲヴュルツトラミネールをピノ・ノワールに改植したものだ。これもまた土地と品種が適合した味がする。既に多くの生産者がキルシュベルグ・ド・バールにピノ・ノワールを植え始めており、この品種をグラン・クリュ認可品種にすべく申請中である。このKSO2無添加だけあってピュアでなめらか、すーっとストレス感なく広がる心地よさがある。かつてのSO2無添加ワインは香りが汚かったり酸化していたりと、よい点もあれば悪い点もあるとしか言いようがないものも多かったが、Kはそうと知らねば無添加だと分からないほど。近年の進化がよく分かる。

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▲発酵はステンレス、熟成は古典的な大樽で。

輸出に積極的な生産者、つまりは世界各国の味の嗜好を聞くにふさわしい。「ベルギーは酸がないものが好き。北欧は辛口で酸が好き。リースリングはドイツ、スカンジナビア、東欧でよく売れる。中国はリースリングかゲヴュルツを好むが特にゲヴュルツ。日本はリースリングとゲヴュルツの安価なワインだけを買う」。品質を思えばアルザス・グラン・クリュは世界屈指のお買い得ワイン。ゾッツェンベルグのシルヴァネルとウィーベルスベルグのリースリングを買わないならボエケルの存在意義は希薄になると思うのだが、日本の消費者はアルザスにそれほど興味がないのだろう。

 

2018.01.14

アルザス Domaine Schlegel Boeglin

 フォルブルグは南向きから東向きへとL字型をしている、7361ヘクタールの大きなグラン・クリュである。アルザス委員会のホームページでフォルブルグを検索するとその写真が出てくる。ちょうど写真中央に見える部分、クロ・サン・ランドランの右隣、つまり南東向きの素晴らしい区画を所有しているのが、ドメーヌ・シュレーゲル=ベーグランである。

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▲なだらかなフォルブルグの丘。フォルブルグ2ha、ツィンコッフレ2haのグラン・クリュを含む、計13haを所有。



 ワイナリーに直接ワインを買いに来る人たちで混雑している。地元消費に支えられている、いかにも地酒なワインである。輸出比率は、なんとゼロ。適度に流した味がいい。フォルブルグは自分にとっては、ざっくりとして寛大で親しみやすい、腰のすわった、中肉中背の中年男性のような個性のグラン・クリュだ。そこでは神経を研ぎ澄まして一分の隙も見せないパリの三ツ星レストラン向け作品を造るより、地元のビストロや家庭での普通の食卓に合う実直でお買い得なワインを造るほうが、方向性としては正しいと思う。フォーマル系グラン・クリュとインフォーマル系グラン・クリュに分けるなら、フォルブルグは後者なのだ。

 この生産者の基本的なスタンスは、当主ジャン・ポール・シュレーゲルさん曰く、「熟したブドウの味が好き」だ。私と同じく、最近の流行りの未熟のブドウで造るワインがおいしいとは思えないようだ。「熟してから摘むから、ワインを欧州諸国に持っていくと、甘すぎる、と言われてしまう」。輸出比率ゼロの理由のひとつは、現在輸出市場で望まれているスタイルではないからだ。しかしフォルブルグのような南部アルザスは温暖なのだから、そして特に標高が320メートルと低いフォルブルグにおいては、もともとシャープな酸とタイトな構造を求めるほうがおかしい。「暖かいから畑には緑色のトカゲがいる」。オーストリアのヴァッハウでおなじみのスマラクト!それは暖かさの象徴だろう。どうしてもこのエリアでぴしっとしたワインが欲しいなら、標高428メートルと高くて谷に面して冷風が当たる急斜面のツィンコッフレ(収穫はフォルブルグより2週間遅い)を買えばよい。それぞれのクリュにふさわしい味、スタイルを見極めなければいけない。京都の高級和食店の吸い物だけを日本のスープの基準としていたら、江戸味噌を使った古典的な東京下町のどじょう汁など甘いくどいと言われて終わってしまう。そんなことを言われたら東京下町の住人である私は激怒だ。それはそれ、これはこれ、である。「だから私は有名な隣人の最近のスタイルが理解できない」。アルザスに詳しい方なら、彼が言いたいことはよく分かるはずだ。

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▲フォルブルグの土。色が濃く、石灰の礫が多数含まれ、いかにも赤ワイン用の畑に見える。



 フォルブルグはジュラ紀の石灰岩地質で、温暖で、かつ降水量がアルザスの中でも特に少ないのだから、ピノ・ノワールがいいとされるのは順当だ。200年前は赤が90%を占めていたそうだ。ヘングストと並び、アルザスでピノ・ノワールの畑として知られるのがここ。グラン・クリュ認可品種の中にピノ・ノワールを含める申請をINAOに提出している。

 このドメーヌでもピノ・ノワールがよい。「父親の代から村の人たちが買うワインを造っているから値段を上げられない」ため、コストを下げるべく収量は70hl/haと大変に多く、正直薄い。しかしそれでもフォルブルグのテロワール(畑はグラン・クリュ・フォルブルグの中にある)の秀逸性は明確で、余韻が長いし、スケールが大きい。これで45hl/ha程度に下げたらどれほど品質が向上するかと思う。とはいえ、私はこの古典的なアルザスの薄い赤ワインが嫌いではない。濃いピノ・ノワールなら他の国にもある。ブルゴーニュと競ってもしかたない。ここではマセラシオンはたったの45日だから抽出も軽く、オークを使わないからすっきりとフルーティ。そういったスタイルのワインはたいがいのところシンプルでフラットになりがちだが、さすがに畑はグラン・クリュ。よいテロワールと軽い造りの合体が生み出す、フランスの他産地では得られないピノ・ノワールの個性がいい。ちなみにここでは樽発酵・熟成バージョンのピノ・ノワールもある。薄いピノにたっぷり樽をかけたらどういう悲惨な事態を引き起こすか説明するまでもないだろう。

しかし問題はセニエしてロゼを造ることだ。腰が据わって余韻が長いロゼはそれ自体としては見事だが、フローラルな香りやしっとりした滑らかさがロゼのほうに取られてしまい、結果として赤ワインのバランスが崩れる。赤ワインは色が濃くなければいけないという強迫観念は捨てねばならない。いまどきセニエした赤ワインは流行らない。そこで私は15%ほどのロゼを赤ワインにブレンドしてみた。つまりセニエした分をもとに戻した。もちろんワインの品位が向上し、香りが華やかになった。皆さんも是非セニエのロゼを赤ワインに戻して飲んでみて欲しい。これで古典的なシュペートブルグンダーのように若干の残糖があればなおよいが、今度は赤ワインは完全に辛口でなければいけないというフランス独特の強迫観念が邪魔するだろう。レモンスカッシュにもエスプレッソにも砂糖が入ったほうがおいしいなら、アルザスのピノも同じだ。

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▲ツィンコッフレの畑を車内から見る。標高が高く、涼しく、急斜面で、いかにもリースリング向けのグラン・クリュだ。



 このドメーヌでピノ・ノワールがフォルブルグのピノ・グリやゲヴュルツトラミネールより優れている明らかな理由はひとつある。斜面上部にある白品種と異なり、斜面下部にあるピノ・ノワールの区画は非常に緩やかな斜面。トラクターによる仕事が簡単で、除草剤を使用していないからだ。3年前には斜面上部でもトラクターを入れたところ土壌流出を引き起こしてしまったという。すべて人力で鎌で雑草を刈り取れと理想を言うのはたやすいが、コストがかかって売価に反映せざるを得ない。しかし「売価を上げれば、既存の顧客を失う」。現状では畑の6割で除草剤不使用。残り4割の過半は困ったことにグラン・クリュ。彼らの造るフォルブルグとツィンコッフレは前者のボリューム感と後者のスピード感という土地の個性がよく分かる素直な造りで、ポテンシャルの高さが分かるだけに、惜しいところだ。

 

2018.01.11

アルザス Domaine Heywang

 他の村のある生産者が、「おいしくもないのに誰もが最近欲しがるから商売のためにしかたなく買いブドウで作っている」と苦々しく語っていた、クレヴネル・ド・ハイリゲンシュタイン。おいしくないばかりか、個人的には昔からおいしいと思っているし、人気があるのはいいことだ。サヴァニャン・ロゼ(ドイツやオーストリアではそこそこ見かける、ゲヴュルツトラミネールではないトラミネール)のような、フランスではここにしかない(ジュラにあるのはサヴァニャン・ブラン)マイナーなブドウ品種に世間の関心がしっかりと向いているということ。世界じゅうで見られる地場品種尊重トレンドのアルザス版だ。

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▲ハイリゲンシュタイン村の中にあるドメーヌ・ヘイワングの外観。


その本拠地ハイリゲンシュタイン村の9軒のワイナリーのうち、オーガニックは2軒(もう1軒は家庭の事情でやめてしまったそうだ)。ドメーヌ・ヘイワングはそのひとつで、2008年からオーガニックを始め、2011年に認証を取得している。現在は7ヘクタールのブドウ畑を所有するが、100年前はたった05ヘクタール。当主ユベール・ヘイワングは「祖父の代まではブドウよりリンゴのほうが儲かった」と言う。「祖父は牛や鶏も飼っていた複合農家。父が9歳の時になくなった。現在のドメーヌを作り上げたのは父のジャンだ」。

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▲ユベール・ヘイワングさん。

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▲セラーには伝統的な大樽が並ぶ。ワインは大樽発酵・熟成ならではの厚みのある質感を備える。


ユベールさんは歴史に詳しい。彼によれば、「ハイリゲンシュタインは17世紀から18世紀にはストラスブール大司教の所有地で、もともとは牧草地だった。そこに大司教は高品質のブドウを植えることを薦め、それがサヴァニャン・ロゼだった」。500年以上歴史をさかのぼることができるこの品種は、当時はアルザス全域で植えられていたようだ。

「ハイリゲンシュタインに初めて植えられたのは1742年。そのあとドイツ領になってサヴャニャン・ロゼは引き抜かれてしまった。これは南チロルのトラミンの原産だと長年言われていたが、最近ではアルプスの北から運ばれてきたという説が有力だ(いずれにせよオーストリアだろうが)。しかし昔のことはフランス革命のあいだに記録が失われてしまったため、はっきりとは分からない。ゲヴュルツトラミネールの歴史は新しく、1920年頃にクレヴネルの中から香りが強いものが選抜されて流通することとなった」。アルザス委員会によればそれは1850年頃だと言う。いずれにせよゲヴュルツはそれほど古い品種ではない。

「サヴァニャン・ロゼとゲヴュルツトラミネールの外観は同じで、見ただけでは区別できない。栽培上の違いは、開花時の悪天候に対してゲヴュルツよりサヴァニャン・ロゼのほうが強く、また良年における潜在アルコール度数はゲヴュルツのほうが少し高い、ということだ。AOCアルザスが発足した1962年には、認可品種の中にサヴァニャン・ロゼが含まれていなかった。制度設計したコルマールの人たちに忘れられていたからだ。それからハイリゲンシュタインの農家による持続的な運動が功をなして、1971年にはグラン・クリュに先がけ、ヴァン・ダルザス・クレヴネル・ド・ハイリゲンシュタインというデノミナシオンが誕生した。この地ではリースリングは一般的ではない。母はずっとリースリングを口にしなかった。最近はずいぶんと年をとったからか、リースリングを飲んで、これもおいしいじゃないの、と言うが」。
 なぜハイリゲンシュタイン村とその周辺(AOCによる栽培地はBourgheim, Gertwiller, Goxwiller, Heiligenstein and Obernai1852年の記録ではHeiligenstein, Gertwiller, Goxwiller and Mittelbergheim.)にだけサヴァニャン・ロゼが残ったのかはよく分からない。しかしこの品種のしなやかでソフトな質感やふわっとした上品な香りを、ハイリゲンシュタイン村の土壌がよく生かすのは事実だ。ここには岩がなく、氷河期に堆積した砂岩由来の礫や砂や粘土の土壌。絶対にグラン・クリュにはならない。堅牢なミネラル感や透徹した酸は得られるはずもない。しかしそれらの特性だけがアルザスワインの魅力ではないはずだ。最近では消費者もそのことを理解するようになってきたから、クレヴネル・ド・ハイリゲンシュタインの個性を、グラン・クリュ的な価値基準から自由に、評価することができるのだと思う。実際、ガストロノミー的観点からしても、クレヴネル・ド・ハイリゲンシュタインは貴重な存在だ。上品で、ソフトで、酸がやさしく、香りが華やかでいてゲヴュルツほど強烈でも支配的でもなく、またゲヴュルツのように苦みがないからだ。高級レストランの繊細な料理にぴったりだろうし、例えば秋田比内地鶏のきりたんぽにもよさそうだ。以前、ある生産者が「リースリングとゲヴュルツの中間」と称していたが、初心者にはわかりやすい表現だろう。リースリングの繊細さは欲しいが強い酸や硬質さは不要で、ゲヴュルツの華やかさは欲しいがケバさやクドさは不要だと思ったら、まずはクレヴネル・ド・ハイリゲンシュタインを思い出して欲しい。ただし酸が低いクレヴネル・ド・ハイリゲンシュタインは、自分の経験では、旅疲れしやすいし、瓶熟成も他品種ほどはしないように思える。

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▲クレヴネル・ド・ハイリゲンシュタインの畑。なだらかな地形。

クレヴネル・ド・ハイリゲンシュタインのひとつの問題は、法規上、甘口であってもヴァンダンジュ・タルディーヴと表記できないことだ。裏ラベルに甘辛表記があれば簡単だが、そうでなければ飲むまでどのぐらいの甘さか分からないかも知れない。このドメーヌでも3種類のクレヴネル・ド・ハイリゲンシュタインを仕込み、ひとつはノーマルの辛口(2016年は残糖8.6グラム、TA5.5グラム)、ひとつは単一区画の中辛口、そして最後は実質的なVT2015年はアルコール度数13.9度、残糖20グラム、TA4・9グラム)の、キュヴェ・パルティキュリエールだ。

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▲ドメーヌ・ヘイワングを代表するふたつのワイン。クレヴネル・ド・ハイリゲンシュタインとキリシュベルグ・ド・バール。

クレヴネル・ド・ハイリゲンシュタインがどの程度の残糖であるべきなのか悩む。ユベールさんによれば、「30年前は甘くなかった」という。ソフトなリースリングのような方向性を望むなら辛口がいいだろうし、軽快なゲヴルツのような方向性を望むなら中甘口だろう。どちらも甲乙つけがたい。ただ、現在の気候で暑い年に辛口にすると、例によって早摘み味になりがちだ。それでは魅惑的な香りが出ない。一番印象に残ったのは2015年のキュヴェ・パルティキュリエール。この年は「アルコール発酵とMLFが同時に起こったからどうしようもなく」MLF。クレヴネル・ド・ハイリゲンシュタインのMLFは珍しいと思うし、明らかな乳酸的香りは嫌いな人は嫌いだろうが、コクがあって逞しく、香りの強度があり(それでもケバくならない)、このワインのあまり見ることができない側面を教えてくれる。辛口2016年の収量45hl/haに対してこちらは30hl/haだというのは味わいの上からも明白で、飲みごたえがある。

涼しい年と暖かい年の比較では、後者のほうが成功していると思う。クレヴネル・ド・ハイリゲンシュタインに強い酸や涼しい香りは期待していない。また、言うまでもないことだが、オーガニック以前のヴィンテージは現在のものよりフラットで余韻が短い。

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▲キルシュベルグ・ド・バールの畑。こちらは標高が高く、斜度が急だ。

ヘイワングは最上のグラン・クリュのひとつ、キルシュベルグ・ド・バールも所有する。当然、すごい。リースリングは堅牢で、しっかりと舌の内部へと食い込むパワーがあり、それでいてとろみやコクも備わる。泥灰岩・石灰岩のリースリングでよくぞここまで気品があると思う。ユベールさん自身はリースリングのファンで、このグラン・クリュに1995年という早い時期にリースリングを植えた。そしてこのグラン・クリュの定番、ゲヴュルツトラミネール。クレヴネル・ド・ハイリゲンシュタインと比べて重心が下で、下半身の安定感に優れることに気づく。そして余韻はより長い。ただし試飲したゲヴュルツは2014年ヴィンテージ。「ゲヴュルツは香りが出てくるまで12年かかるからリリースが他より遅い」。2014年はゲヴュルツにとってはいいヴィンテージとは言えないと思うが、それでもこの高品質。きっと2015年は偉大なワインだろう。

グラン・クリュのあとにクレヴネル・ド・ハイリゲンシュタインを飲みなおしてみる。普通、ヴィラージュをグラン・クリュのあとに飲んだら水みたいに味がない。しかしクレヴネル・ド・ハイリゲンシュタインは確固とした別の個性をさりげなく表現して、一見ふわふわとしているようでいて、グラン・クリュの余韻に打ち消されることがない。やはりこれは特別なワインなのだ。

 

 

2018.01.10

アルザス Maison Lissner

 アルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイムのリーダーと言っていいドメーヌである。実際、当主ブルーノ・シュローゲルさんはヴォルクスハイム村の栽培家組合会長だ。オーガニック栽培を実践するアグロノミストにして公認会計士でもある彼ほど、その立場にふさわしい人もいないだろう。

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▲ピアノを弾く当主のブルーノ・シュローゲルさん。


 ワイナリーに行くと、ずいぶんと広い部屋に通された。テイスティング・ルームなのだが、まるで100人収容の宴会場のようだ。壁にはいろいろな写真や絵がかけられている。ブルーノさんは「ここはワインのためだけに作ったのではない。文化プラスワインのためだ」。ふと見ると、部屋に置かれたグランド・ピアノはベヒシュタインだ。かつてリストやドビュッシーが絶賛したドイツ最高のピアノ、それも19世紀末に作られた黄金時代のものである。「ベヒシュタインではないですか!」と驚くと、さらっと弾いてみせてくれた。私のような完全な門外漢にはベヒシュタインのキーを叩く機会などない。恐る恐る、しかし興奮して音を出してみると、衝撃的なほどタッチが軽い。かつ高音域がチェンバロのようにくっきりして、スピーカーの表現に譬えるなら、音離れがいい。弦の振動をフレームに響かせずに、音量を犠牲にしても透明度、立ち上がり、純粋性を求めたのがベヒシュタインだとされるが、こういうことだったのか、と初めて経験させてもらった。

 リスネールのアルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイム・リースリングは、まさにベヒシュタインの音色のようなものである。極めて辛口に仕上げられたワインは、硬質な輝きとアタックのスピード感があり、オーガニック栽培される畑の個性をそのまま提示し、ミニマルなSO2添加と無濾過によって自然の複雑さやエネルギー感が保たれている。ベヒシュタインの音とリースリングの味の同一性を見て、このドメーヌの精神を確認した。すべてが透徹した彼の思想・美学のもとにコントロールされている。恐ろしく完成度が高い、知的なワイン。時に息が詰まるほどだ。

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▲以前は村の中心部にワイナリーがあったが、3年ほど前に村はずれに移転。


そこで私はブルーノさんに言った、「客観的には非の打ちどころのないワインです。しかしどこか人間の意志が自然を制御しようとしすぎているかのように感じなくもない。問題の所在がどこにあるかを考えていたのですが、それは栽培ではないのか。ワイヤー整枝法はブドウの磔刑のようです。現在の方法では自然なのびのび感と寛ぎ感は出ない。私はチリのマウレで通常通りに栽培されたパイスと林の中に自生するパイスのワインを比較試飲して以来、それが気になってしかたない。普通ならその点に気づかされないが、あなたのワインは徹底的に磨き上げられているがゆえに、わずかな問題的でもその所在が浮き彫りになってしまう」。普通ならこんなことを言ったら、バッカじゃねえの、と笑われて終わりですが、ブルーノさんの答えは意外なものだった。

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▲棒仕立てにする新しく植えた畑。自然の生態系をそのまま維持し、一見畑だか空き地だか分からない。

 「私もそう思っている。実際、新しく植栽した畑では棒仕立てにするつもりだし、さらには実験として所有地の中にある木立のすみにブドウを植えて、木にブドウを這わせてそのまま伸ばそうと思う。その木はオリーヴのように背が低いからブドウもひたすら上へと育つわけでもないし、日陰にもならない。まあINAOが許可するかどうか」。私だけがこの問題を考えているわけではないと知って嬉しかった。私は、「それは実験で、木立は畑ではないのだから、庭に観賞用のブドウを植えたという形にすればINAO対策になるはず。実験をそうして弁解している生産者は他にもいます」。

 現状でもこの問題には意識的に取り組んでいる。夏に撮影された畑の写真を見ると、枝を伸ばしっぱなしにしている。樹高はびっくりするぐらい高い。「みな夏季剪定をするから熟度が上がりすぎてしまう。そうすると辛口ワインに仕上げれば未熟な味がするし、完熟させれば甘口になるという、今のアルザスに一般的なジレンマに陥る」。ブドウの実に直射日光があまり当たらなければ香りの清冽さも得られるはずだ。「夏に樹が大きく育てばブドウの房は日陰になる。野生ブドウの育ち方を見て考えればいい。他の人たちは葉を落としすぎだ。なぜ葉を落とさねばならないかといえば、収量が多すぎてカビが生えやすくなるからだ」。リスネールのブドウのように実が小さく、数も少なければ、確かにカビの生えようがないだろう。

 一緒に畑に行くと、さすがに栽培者組合会長らしく、他の人たちの畑の状態が気になってしかたないようすだ。「ほら、見てみろ、12月になってもいないのに剪定を終えてしまっている。樹液が下りないうちに剪定するのは間違っている」。「それはアルザスだけの話でもブドウだけの話でもなく、ある種の常識でしょう?」。「その常識が分からない人が多い。なぜなにをするのかわかっていないまま仕事している。しかし村の隣人に面と向かって、お前は間違っているとは言えない。小さな村だから皆と仲良くしないといけない。相手を立てながら、あなたはどうして今剪定するのですか、と聞かないと。すると答えは、セラーの仕事もひと段落してクリスマス休暇前にすることがないから、と。することがないって、いったいなんだ。本でも読めばいい。ひどい話だろう?」。「ええ、早く剪定しすぎれば病気になりやすくなる。病気になれば他の人の畑にも蔓延する。自分だけの話ではないのですから、会長としてはここはびしっと言わないと皆が迷惑します」。

 彼の畑にはまだ収穫しないリースリングが残っていた。「これは甘口ワイン用に置いてある」。食べてみると、酸もなければミネラルもなければ甘さもない。まるで廉価スーパーのブドウのように水みたいな味だ。思わず「これはダメだ」と言うと、「ああ、ダメかもね。辛口用のブドウを収穫したあとひたすら雨が降り続いてすっかり薄まってしまった。このあと天候が回復するかも知れないからちょっと待ってみるよ」。どれだけ優れた農学者であっても天気までは制御できない。賭けが当たる時もあれば外れる時もある。大変な仕事だ。それにしてもリスネールは辛口ワインで有名な生産者なのに、やはりアルザスではSGNを造りたくなるものなのだろうか。

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▲畑を見て回るブルーノさん。11月末は毎日雨が降っていた。


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▲右はジュラ紀のグラン・クリュ、アルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイム。左は三畳紀石灰岩のヴィラージュの畑。

 セラーに戻って試飲する。「リスネールのポリシーは、1、ひとつのブドウで複数の地質ごとのワインを造る。2、ひとつの畑で複数のブドウのワインを造る」。例えば同じヴォルクスハイム村の中でも、リースリングは三畳紀砂岩地質のロートシュタイン、三畳紀石灰岩地質のヴォルクスハイム、そしてジュラ紀石灰岩地質のグラン・クリュ・アルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイムである。同一の2015年ヴィンテージで比較すると、ロートシュタインは細身で垂直的で酸が固いが滑らかでクリアーで、青りんごの香りがする、いかにも典型的なリースリングだ。ヴォルクスハイムはロートシュタインより大きめで、硬質な粒々感が口中を全面的に覆いつつもとろみがあり、、色合いに譬えるならダークで、複雑で後味に苦みがあり、石灰岩らしくハーブ、スモーク、スパイス、柑橘系の香りがする。アルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイムは他よりスケール感がはるかに大きく、頬にまで味が広がり、奥から強い力が湧き出てくるが乱れず、ガッチリとした酸が舌を掴みつつ、果実の凝縮度から来る甘さがほのかに残り、コクと気品があって、余韻はずっと長い。「熟しているがドライ」というのはこういうことかと思う。熟していなければリースリングは味が頬を押し広げる感覚を生み出さない。もちろん収穫日の決定は厳密で、「葉が黄色に変わってから23日後」だという。

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▲リスネールの区画は、右上のジュラ紀石灰岩、左上の三畳紀石灰岩、左下の三畳紀砂岩のみっつの基本テロワールに広がる。

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▲みっつの地質ごとにワインをテイスティングする。それぞれが明確な個性を発揮する、ディフィニションに優れたワインだ。

 次にアルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイムの品種違い。「アルテンベルグは現在はリースリング主体の畑ですが、石灰岩である以上、昔からそうなわけがありませんね」と聞くと、「昔はミュスカで有名な畑だった」と。それは理解できる話だ。リスネールでもミュスカを造る。そして石灰岩には定番のゲヴュルツトラミネール。ゲヴュルツは珍しくも極辛口なのに重心が下で広がりが大きく、つまりはきちんと熟している味。リスネールならではの技ありのワインだ。しかし密度は高いとはいえ、垂直性が感じられない。ミュスカは、困ったことに香りが汚い。SO2が少なすぎたか。ポテンシャルは大きそうで、ミュスカのアルテンベルグというのは追求する価値があるとは思う。結論としては、いつも同じ結論になってしまうのだが、アルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイムはリースリングが圧倒的によい。フィロキセラ以降のヴォルクスハイム村のヴィニュロンたちは、実に正しい品種を選択したのだと納得した。

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▲ゲヴュルツトラミネールを用いて、最近はやりのSO2無添加オレンジワインも造る。ゲヴュルツとオレンジワインの相性は常にいい。妙な酸化風味もなく、クリアーな伸びのある味わい。優れた造りだ。

 

2018.01.09

アルザス、Domaine de l'Envol

 20168月に誕生したばかりの新しいドメーヌ。ドメーヌ・ヒルジンガーの娘カトリーヌ・ヒルジンガーが、メゾン・フロイデンライヒの息子ラフェエル・マルシャルと結婚し、そこにカトリーヌの弟ダニエルが栽培担当として加わり、両家が合体してドメーヌ・ド・ランヴォルとなった。ヒルジンガーはもともとオーガニック栽培をしており、2010年にオーガニック認証、2011年にビオディナミ認証を取得している。

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▲ドメーヌを切り盛りする若いオーナー、左からラファエル(31歳)、カトリーヌ(28歳)、ダニエル(25歳)。

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▲カトリーヌは以前アルザスのワインプリンセスに選ばれた。その時の油彩肖像画がテイスティングルームの壁に掛けられている。

 これほど出来たてのドメーヌを訪問するのは珍しい。ワイナリーの建物は2017年に完成したばかりで光り輝き、まだ訪問する人も少ないので対応は初々しい。両親まで登場して、クグロフを焼きました、と試飲中に持ってきてくださった。そこかしこにポジティブな気持ちが溢れ、ワインもまた、経験不足からか出来不出来はそれなりにあるにせよ、すべて若々しくも明るいエネルギー感に満ちている。

 畑は20ヘクタールとずいぶんと広い面積を所有する。すべて自社瓶詰めで販売するのは無理なのは確かで、生産本数は「霜の影響で収量が通常55hl/haのところ28hl/haになってしまった2017年は25000本」。そこから計算すると三分の二のブドウはネゴスに販売しているようだ。「ブドウ販売価格は、オーガニックだと通常のものより25%増し、ビオディナミだと35%増し」だという。これだけの価格差があれば産地全体のオーガニック化に対して有効な動機付けとなる。またオーガニックやビオディナミのブドウに対する高い需要の証左である。

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▲真新しいセラーの内部。

 グラン・クリュは、シュタイネール、フロリモン、ヴィネック・シュロスベルグの3つを所有する。しかしドメーヌのホームページに掲載された生産ワインリストにグラン・クリュは見当たらない。すべて2017年が初ヴィンテージで、まだタンクの中だからだ。いろいろ試飲すると、ヴィネック・シュロスベルグだけがビオディナミの味がしない。この畑は誰が造っても安定して一貫した味のするグラン・クリュだという印象があるだけに、他のワインとはまるで別人が造ったかのように、水平的で淡々として短いのが不思議だ。聞けば「カトリーヌの友人の畑2区画50アールを昨年売ってもらったばかりでビオではない」。やはり農薬の影響は飲めば明白に分かってしまうものだ。

 フロリモンは第三紀泥灰岩・石灰岩地質で、柔らかい厚みのある果実味とゆったりした緊張感のない性格が特徴だと思う。彼らはここに「ゲヴュルツトラミネール60から70a、ピノ・グリ20a、リースリング50aを所有する」。ジュラ紀グラン・クリュと明らかに違うのは、前2者のワインの出来がリースリングよりはるかに優れていることだ。これは第三紀では普通。ゲヴュルツやピノ・グリではやさしさ、丸み、厚みとしてプラスに感じられるフロリモンの特徴が、リースリングでは水平的な緩さへと若干傾いてしまう。本来ならフロリモンは混植混醸したらずっとよいワインになると思う。

 シュタイネールではグラン・クリュのワインを造っていないようだ。このグラン・クリュの畑から造られるのはピノ・ノワールとシルヴァネル。前者は固いタンニンが軸となる剛直な性格で、炭やスモークやチェリーの重たい香り。若気の至り的な力の入りすぎたところがある。立体感や余韻を見ると、さすがにジュラ紀石灰岩とピノ・ノワールという黄金の組み合わせだと感心させられるだけに、もったいない。アルザスでは完熟したブドウを軽く抽出し、樽をかけず、ドイツで言うところのミルト程度の甘さを残せばベストだと思っている。ブルゴーニュの方向を向くのではなく、昔のドイツのスタイルを現代的な視点で復活させればいい。もちろん、そのようなワインに市場性はないため、夢でしかない。

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▲グラン・クリュ畑から造られる、Sylvaner Manala 2016。

 最後に、今回の訪問の主眼、シュタイネールから造られる(ホームページには書いていないが)、シルヴァネール・マナラ。これは既に瓶詰めされて売られている。ジュラ紀のグラン・クリュのシルヴァネルと言えば、そう、ゾッツェンベルグである。こちらが泥灰岩土壌なのに対して、シュタイネールは魚卵状石灰岩。この差が大変におもしろい。高名なゾッツェンベルグはとろりとしたチーズフォンデュ的な、ないしMLFをしたシャスラー的な質感だと思うが、このシュタイネール畑のシルヴァネルはより堅牢でリズム感があり、のびのびとしている。重心が下でコクがあり、豚肉料理によさそうだ。こうしたグラン・クリュに植えられたシルヴァネルを飲むと、この品種の高いポテンシャルが分かる。味わいは明らかにグラン・クリュなのに、アペラシオンはグラン・クリュではないからか、値付けはグラン・クリュの半分以下。これはお買い得なワインだ。

 

 

アルザス、Domaine Louis Scherb

 グベルシュヴィール村からゴルデールの丘を見上げると、右上に大きな家が見える。それがルイ・シェルブのドメーヌだ。訪問中もひっきりなしにお客さんが入ってくる。オフシーズンでこれなら、ヴァカンス時期ならさぞ人気のワイナリーなのだろう。輸出はわずかなようだが、輸出する必要がないと言うべきなのか。


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▲遠くからでも目立つドメーヌの外観。



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▲数多い訪問客に解説するアントワーヌ・シェルブさん。

ゴルデールが好きで、お買い得な認証オーガニックを欲するなら、クロード・ウンブレヒトと並んでルイ・シェルブの名が挙がる、はずだ。両者とも2013年に認証を取得している。しかし後者は日本には輸入されない。ものすごく安く、ワインはおいしいのに、日本人はゴルデールが好きではないのかと訝しく思うほどだ。

ルイ・シェルブは現当主アントワーヌの妻の祖父の名前。1690年から続く農家だったシェルブ家はルイの代に複合農業からブドウ栽培に専業化したそうだ。12ヘクタールの所有畑からアルザスの例に漏れず数多くのワインを造るが、ゴルデール以外は、まあ、普通のワイン。アルザス・リースリングとアルザス・グラン・クリュ・ゴルデール・リースリングの価格差は二倍弱なのに、その品質差は二倍どころではない。比較しようもないほど違う。逆に、こうして飲むと、いかにアルザス・グラン・クリュがお買い得かが分かるし、どれほどゴルデールが優れたテロワールかを思い知る。

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▲テイスティング・ルームに置かれた価格表。ゴルデールの質を思えば安すぎると思える。

ゴルデールの丘のあちこちに数多くの小区画を所有する。ゆえに味わいに多面性があり、ゴルデールの全体像をとらえるには有益なワインだ。シェルブはここからリースリング、ピノ・グリ、ゲヴュルツトラミネールを造る。必ずしもリースリング向きの土壌ではないのになぜ、と聞くと、「アルザスではゲヴュルツトラミネールが成功する畑はどの品種でもうまくいくものだ。ゲヴュルツトラミネールの栽培が一番難しい」。それは大変に興味深い意見だ。アイシュベルグやフュルステンタムやキルシュベルグ・ド・バールのように最上のゲヴュルツトラミネールが出来る畑は、石灰質土壌でも確かにリースリングも素晴らしい。

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▲ドメーヌの前のリースリングの区画。


実際、シェルブのゴルデール・リースリング2015年は、今回の取材のひとつのテーマである“石灰のリースリング”の魅力を最大限伝える傑作である。引き締まって堅牢でいながら外向的なパワーがあり、垂直的で下半身が安定し、クリーミーな果実の滑らかさと芯の粒々したミネラルの固さが調和して、スケールの大きな、飲みごたえのあるワインになっている。リンゴ、レモンのコンフィ、グレープフルーツといった塩辛さのある清涼系果実の香りはいかにも石灰のリースリングで、そこにアプリコット的な快楽的で豊満な香りが加わり、香りの面からもスケールが大きい。余裕の力がもたらすある種のふてぶてしさはジュラ紀のグラン・クリュに期待するとおりのものだ。とはいえ、毎年がこれほどの完成度ではない。天候に恵まれた2015年はブドウの状態がよく自生酵母で発酵されたのに対して、翌2016年は培養酵母での発酵。自生酵母での発酵はやはり複雑性が違う。

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▲セラー内部。写真左に見えるパイプに水を流して温度調整する。

ワインの質はオーガニックになってから明確に向上している。オーガニック転換中の2011年を飲むと、それ自体では大変によいワインだとしても、2015年と比較すると余韻が短く、焦点が緩く、下半身が弱いと思えてしまう。もう誰でもわかっているとおり、オーガニック栽培(認証の有無はともかく)は現代の高品質ワインにとって前提条件なのだ。

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▲ゲヴュルツトラミネールはゴルデールに期待する通りの安心の味。リースリングは、石灰系グラン・クリュにおけるリースリングの可能性を知る興奮の味。


ゴルデール・ゲヴュルツトラミネール2015年は想像どおりの素晴らしさだ。すっきりと伸び上がる美しい香り。凹凸のない球状の形。空気感があるのに密度が高く、46グラムと多めの残糖だが酸がしっかりしていてバランスがよい。あまりの完成度ゆえに逆におもしろくないと思ってしまうほどだが、そのようなワインは最上のグラン・クリュでしか得られない。ゴルデール恐るべし、としか言いようがない。

 

 

2018.01.08

アルザス Domaine Gueth

 ジュラ紀石灰岩地質のグラン・クリュ、ゴルデールの丘最上部に区画を有するドメーヌである。現当主ジャン・クロード・ゲットの父親は、1982年にアルザスで最初にステンレスタンクによる発酵・熟成を行ったひとり。また空気圧圧搾機の導入も最も早かったと、ジャン・クロードの娘で共に醸造を行うミュリエルさんは言う。なかなか野心的なドメーヌかと思うが、ワインはいたって普通。地に足のついた、国内市場向けの味。輸出はまったく行わず、すべてフランス国内のみで販売される。それなのにどうしてうちに来たのかと聞かれた。もちろん、地元でしっかり支持される類の味だから、だ。

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▲ドメーヌ・ゲットの醸造所外観と、内部のステンレスタンク


 「ワインは自分の好きなように生産するものではなく、自然の声を聞いて、自然が望む方向性を変えないように、自然を再現するもの」とミュリエルさんは言う。正直、誰でも同じことを言うものだ。言うのは簡単だが、実際に結果がそうなっているかが重要だ。栽培も醸造も特別変わったことがないゲットは、上記の発言のあとに普通なら続くだろうオーガニック栽培でもSO2無添加でもない。それでもゲットのワインは、自分にとっては最上のグラン・クリュのひとつであるゴルデールそのものの味がする。もちろんオーガニックだったら今よりよくなると信じるが、それでも非オーガニックでゴルデールらしいワインとオーガニックでゴルデールらしくないワインのどちらかを選ばなければいけないなら、私は前者を選ぶ。

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▲ミュリエル・ゲットさん。村をはるか下にみおろす標高の高い畑の前で。


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▲ゲットの区画の北隣にクロ・サン・ティメールが見える。


 この際、オーガニックかつ最上部というチョイスがない以上はしかたない。ゴルデールは最上部が特別な味がする。誰も否定しないゴルデール最上の区画はクロ・サン・ティメールであり(それはオーガニックではない)、その南側の同標高地点にゲットの区画がある。丘の頂上部には森があり、その地質はジュラ紀の石灰岩ではなく砂岩である。実際に森の中に転がる石を観察すると、確かに砂岩だった。「砂岩が風化して崩落し、その下の畑の土に混じる。砂岩が含まれる部分のゴルデールは塩味がある」。クロ・サン・ティメールの話をいまさらしてもしかたないが、砂岩が含まれると聞いて、なるほど、と思った。ゴルデールはミュスカで有名で、クロ・サン・ティメールのミュスカはアルザスを代表する一本。そしてミュスカは重い土に植えてはあのミュスカならではの軽やかな香りが出ないものだ。さらにゴルデールの石灰岩は魚卵状石灰岩であり、ワインの味わいには適度なメリハリと硬質な芯が備わる。また同じ魚卵状石灰岩でもフォルブルグより硬いという。石灰岩も粘土もありながらゴルデールの味わいに過剰な粘りや重たさがない理由が今回はじめてはっきりと見えてきた。

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▲ゴルデールの固い石灰岩。

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▲ゴルデールの上にある森は砂岩。これが風化、崩落して、ゴルデールの土壌に含まれる。

 さらなるゴルデールの魅力は、ジュラ紀ならではのパワー感やスケール感と共に、涼しげな風味や細やかで軽やかな質感が備わっているところにある。「ゴルデールは東向きで、朝早くから日光を浴び、夕方の強い光は受けない。そこが隣のハッチブールのように真南を向いていて夕方まで暑い畑と違う点だ」。その東向きのエレガンスが、砂岩の礫の含有と標高の高さ(最高地点で330メートル)によってさらに強められる。ゲットのワインが好きな理由である。

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▲ゴルデール ピノ・グリ。メリハリがあるが少し薄く、ボトリティス風味の強い2010年。開放的でスケールが大きく躍動感のある2011年。おとなしくフルーティーな2012年。極めてパワフルでいてバランスのとれた2015年。基本的にはゴルデールは涼しい年より暖かい年のほうが成功する。2014年は生産されなかった。


ゲットの考えは、「早摘みをしない。早摘みしてはフレーバーが出ない。2017年の収穫は、他の人たちは9月初旬から12日ぐらいだったが、うちでは926日だった」。だからたとえばゴルデール・ピノ・グリ2011年でアルコールは137度と高く、残糖は574グラムもある。涼しい2010年でもアルコールは1379度、残糖は284グラムである。それでいいのだ。完熟しなければ、ゴルダールの金色な感じの味、ゴージャス感が出ない。そして完熟しても、先ほど理解したように、ゲットの区画ではワインの味わいが鈍重にならない。

ゲットはゴルダールにピノ・グリを植えている。ゴルダール全体の栽培面積比率を見ると、ミュスカ3ヘクタール、リースリング4ヘクタール、ゲヴュルツトラミネール11ヘクタール、そしてピノ・グリ3ヘクタール。マイナーな存在である。ピノ・グリは通常どっしりと重めの、酸の冴えがあまりない、重心の低い味になるものだ。しかしゲットのゴルダールは、この品種として例外的なほど華やかで軽やかで重心が高めのワインとなる。いかにもピノ・グリらしい温厚で骨太な包容力をもちつつ、くっきりとしたエッジの効いたミネラル感も備わり、さらにここまで上品なたたずまいになるところに、ゴルダールのゴルダールらしいゆえんがある。そして国内向けワインの例に漏れず、破格の安さ。なぜ輸入されないのかと思うほどだ。

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▲もともとの醸造所は村の中にあり、今はテイスティングルームになっている。



このような造りならばさぞSO2の含有量が多いのかと思うだろう。ところが2015年(まだリリースされていない。大傑作だ)のラボ分析数値を見ると、残糖444グラム、pH3.25に対してフリーで18ミリグラムだけ。これは低い。「なぜならCO2を活用して酸素との接触を防ぐから。それにはCO2を逃さないステンレスタンクの使用が前提だし、そのために導入したステンレスタンクだ」。さらに言うなら、ゲットは一切輸出されないからだ。家の前の豆腐屋で買う豆腐が気密パックされている必要はないのと同じく、近隣の人たちがドメーヌに来て買うワインに、SO2によって長旅のあいだの品質の安定性へ保険をかける必要はない。

アルザス Domaine Dischler

 アルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイムの生産者である。所有畑面積は115ヘクタールと、ある程度大きなドメーヌだが、別に有名でもなんでもない。特別なこともしていない。栽培も普通のリュット・レゾネだし、収量は50hl/haと多くもなく少なくもなくだし、収穫も全体の4割は機械で行う(さすがにグラン・クリュは手摘み)。ウリになるものがないから、日本には輸入されないだろう。そもそも輸出が極めて少なく、生産量の7,8%のみ。「リヨン、パリ、メッツが大きな市場」と、オーナーのナタリー・ディシュレールさんは言う。

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▲ドメーヌ・ディシュレールの外観。いたって普通の農家。

国内市場向けワインの味である。それがいいのだ。海外メディアに頻繁に登場するようなワインは素晴らしいものの、高級感がありすぎて恐れ多さが先に立つし、そもそも高い。ないし、風変りな味のワインで、話としては興味深くとも実際に買いたいとは思えない。野心的なビオディナミ系若手ワイナリーの作品は、最近では揃ってSO2無添加傾向で、その多くはバランスを崩しているか気持ちが空回りしているか。ヴィニュロン・アンデパンダンでも、昔はビオディナミのマークは信頼の証であり、そういったワインだけを試飲していたら打率が高かったのに、アルザスに関しては最近では逆に要注意の印になってしまっている。昔からビオディナミのワインが好きだった私としては極めて憂慮すべき事態である。その点、ディシュレールのような、ある意味なにも考えていないワインは、逆に余計な雑念が入り込まず、素直にテロワールの味がする。自然自然と理屈をこねるワインより、自然への直結感のある味だと思う。自然への直結感こそワインの大目的である。

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▲生産量の半分はネゴスに売られ、それはコンクリートタンクで発酵熟成。ドメーヌワインはステンレスタンクで発酵熟成。2015年ヴィンテージは2016年3月末に瓶詰めされた。

譬えて言うなら、山の手のミシュラン星付きそば店でカルト日本酒大吟醸もしくは流行りの自然派ワインと共に味わうそば懐石と、地元住民が通う旧江戸八百八町内の老舗そば店で灘の純米酒を飲みながら味わう普通の天ぷらそばと、どちらが江戸情緒に直結するかといえば、私にとっては後者なのであり、味の方向性、たたずまい、温度感、距離感はむろん、値段を思えばなおさら、実際に消費するのは後者である。しかし後者はメディアは取り上げず、食べログで高い点数は取らず、インスタ映えもしない。これから滅ぶ一方であろう。それでいいのか。

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▲アルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイム リースリング 2015年。ラベルのあか抜けない地酒っぽさがいい。ジャケ買いでおいしいワインに出会えると思っているような人は、これを買わないだろう。


ディシュレールのアルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイムは素晴らしいワインだ。しかし無条件的に素晴らしいものなどない。たわごとと思われるそばの話をしているのは、どのような立ち位置からものを言っているのかを明確にしないまま、いい悪い、好き嫌いの話をしても本当の意味は伝わらないからだ。前者のそばを期待してディシュレールに接すれば(ラベルが死ぬほどダサく、飲まずとも見ればノリが違うとわかる)、たぶんあか抜けない地酒だとネガティブに思うだろう。対して後者のそばを期待して接すれば、まさに期待通りの、普通の、ゆえに安心できて飲み飽きないアルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイムであるとして好意的にとらえるだろう。語る対象、見せびらかす対象と実際に日常で消費する対象は異なる。むしろ重要なのは、そして読者の方々を含めて経験豊かなワインファンが自己の責務として意識すべきは、インスタ映えしないがよいワイン、普通に“らしい”ワインである。

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▲アルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイムの畑。樹齢30年。(ドメーヌのホームページから借用)


アルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイムは不思議なグラン・クリュである。なぜならジュラ紀石灰岩地質にもかかわらず、312ヘクタールのうち18ヘクタールをリースリングが占め、リースリングの畑として名高いからである。それは正しい。常識的にはゲヴュルツトラミネールの畑かと思うが、自分の限られた経験では、アルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイムのゲヴュルツや他の品種は悪くはないとはいえ、リースリングほどの表現力、スケール感、存在感、個性はない。アルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイムといえばリースリングに限る。石灰の味がするが、粘土の味がしない、というのがポイントである。ジュラ紀ならではの開放性と豊かな果実味がリースリング品種のタイトなミネラル感と酸とあいまって、コントラストの大きな、かつ抜けのよい(粘土が多くてはそうはならない)1プラス1が3になるような見事な結果をもたらす。実際、まずいアルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイムのリースリングを飲んだことがない。ジュラ紀グラン・クリュの中で好きなリースリングはどこかと聞かれたら、私はこれを選ぶ。
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▲アルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイムの中のディシュレールの区画を指で示すナタリー・ディシュレールさん。

ディシュレールはこのグラン・クリュからリースリングのみを生産する。このグラン・クリュ自体が無名で、かつ生産者も無名で、いかなるブランド力もないため、値段は恐ろしく安い。有名生産者のベーシックなワインよりも安い。ブルゴーニュの有名生産者の村名と無名生産者のグラン・クリュは同じ値段だが、私なら絶対に後者を買う。アルザスでも同じことである。アルザス・グラン・クリュは、その個性とそこにふさわしい品種を分かった上で買うなら(この前提条件ゆえにブルゴーニュよりハードルが高い)、すべてのフランスワインの中で、いやすべてのワインの中でも、最高のお買い得である。ある他の生産者にディシュレールの値付けを伝えたら「グラン・クリュに対する侮辱だ。グラン・クリュの価値を下げ、ひいてはアルザス全体の価値を棄損する」と怒っていた。その理屈は理解するが、消費者としては安くておいしいワインに文句はつけられない。

普通、普通と先ほど言っていたが、それは凡庸とも常識的とも異なる。2015年のアルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイムは、このグラン・クリュの魅力が一回り大きなスケールで表現された傑作なのだが、数値が尋常ではない。アルコール度数14%!残糖16g!pH2.93!しかし、ここまでアルコールが高くとも凝縮度が高いためにバランスがとれ、残糖が多くとも酸も多いためこれまたバランスがとれている。聞けば収穫日は929日。2015年のグラン・クリュの公式収穫開始日は9月7日だから、相当遅い。早摘み指向の最近のワインとは異なり、完熟したブドウならではの湧き上がる自然な力と安定感と包み込むような広がりがある。アルコールと残糖の数値に過剰にとらわれるべきではない。地球温暖化の中では、こういったワインが現実の条件下での“普通”であり、アルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイム“らしい”のだ、と私は言いたい。タンクから試飲した2017年もまた大いに興味を惹かれる。公式収穫開始日が830日(ああ、地球温暖化!)なのに対して、ここでは1020日。ものすごいパワーと酸。若干甘さが強めだが、前に出てくる表現力は気持ちがよいものだ。

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▲アルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイム リースリング 2017年。実質的にこれはVTというべき味だが、未熟で辛口より完熟で中甘口のほうがずっとテロワールの個性が分かると思う。

 

2018.01.07

コルシカ 

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 コルシカのビオディナミ生産者ペロ・ロンゴの当主、ピエール・リシャルムが来日し、彼のワインをテイスティングする機会がありました。彼のワインを初めて意識したのは十年ほど前になるでしょうか、アンジェのルネッサンス・デ・ザペラシオンにおいて。ドメーヌ・アバトゥッチの隣のブースだったか、と。その時のワインは、会場前のパン屋でバケットを買って食べたら小臼歯がポロっと欠けてしまってあとから相当痛い思いをしたので(いまなお治療中です)、その記憶とセットになって、もの覚えの悪い私でも味を覚えています。むっちりとした南コルシカらしい厚みのある質感と黒系果実の風味が印象的な、自然体のワインでした。

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▲コルス・サルテーヌの風景

 二度コルシカを訪問する機会があり、そのたびにペロ・ロンゴの玄関までは行ったのですが、誰もいない。そもそも冬のコルシカは人があまりいないのです。近くの村のスーパーマーケットの奥の棚にペロ・ロンゴが並んでいるので、それを買って日本で飲み、やはりたいしたものだと確認しました。彼の畑はサルテーヌにあります。風化した花崗岩土壌らしいスケールの大き...さ、やわらかい果実味、低い酸、そしてさりげなく硬質な芯の部分のミネラルがあります。
 ペロ・ロンゴは横置きコンクリート・エッグを使用している珍しい生産者です。私は長年、「コンクリート・エッグはそれほどおいしくない、理屈はいいが、結果が伴わない。その理由はコンクリート・エッグは縦置きだからだ」と言ってきました。ものごとをよく考えれば縦置きがおかしいことぐらいわかるはずです。ペロ・ロンゴが横置きだとは後で知りましたが、どうりで縦置きエッグ独特の内向性・小ささがないわけだと思いました。

Dsc05140▲ペロ・ロンゴ コルス・サルテーヌ エクリブル 2014年

 今回試飲したヴィンテージは2014年。この年のヨーロッパのワインは概して同じ傾向だと思いますが、ペロ・ロンゴも今までの印象よりタイトで赤系果実の風味に振られています。シャカレロ40%、ニエルチオ40%、グルナッシュ20%のエキリブルは、グルナッシュが南コルシカらしさを強化する働きをしているようで、いつも好きです。しかし今年は若干小ぶりです。2014年には典型的なグルナッシュの個性を求めるべきではないといのはラングドックでも同じことです。いつもは最も好きではないニエルチオ80%のエスプリ・ド・ラ・テールの出来が良く、初めておいしいと思ったのも、タイトで硬質な冷涼系なニエルチオの個性がヴィンテージの方向性と合っているからでしょう。アルコール感も少なく、さらっとして、こまやかで、コルシカを飲みなれていないフランスワインファンに受容されやすい味でしょう。
 今回テイスティングしたコルシカの赤ワインはすべて、ペロ・ロンゴを含めて重心が高い。コルシカワインは例年ならもっと重心が下にあります。ですからイカやタコや豚やイノシシに合わせて楽しむのが通常年の南コルシカなら、2014年は鳥向きです。

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▲ドメーヌ・ア・ペラチアの畑

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▲ドメーヌ・ア・ペラチア アジャクシオ プレステージ 2014年


 いろいろと試飲した中でベストは、ドメーヌ・ア・ペラチアのプレステージ、2014年。さすがにアジャクシオ。コルス村名付きアペラシオンより、当然といえば当然ながら、余韻が長い。もちろんア・ペラチアは私が最も好きな生産者のひとりですが(以前雑誌で書いたとおり)、別にア・ペラチアだけがすごいわけではなく、アジャクシオが特別な場所なのだと思います。ストレス感のなさ、香りののびやかさとハーブ的な涼しげな気配、きめの細かさも評価すべき点。またア・ペラチアのワインは垂直性があります。香りの伸びがワインの形を上に引っ張ると同時に、他のどんなワインよりもしっかりとした下方垂直性を示します。つまりは、いいテロワールの味です。
 プレステージは以前は樽が目立って数年瓶熟成させないと暴れた味でした。しかし2014年はもう既に完成された味で、樽っぽさが浮足だちません。造りがうまくなってきたと思います。
 それにしても2014年には、多くの人がコルシカにいだくワイルドな印象はありません。ワインはワインであって、かつてのコルシカ独立運動の暴力性とは関係なく、そもそもそんなにワイルドな性格にはならない土地だと思います。畑は海のすぐ前なのですから、優しく穏やかな性格を備えてしかるべきです。そして2014年は、そのキュっとした、ある種ポジティブにこまっしゃくれ感のある酸を含めて、明らかに“フランス”な性質の味。コルシカワインの本質について考えるためのよい機会となるヴィンテージです。
 コルシカのフランス性について考えざるを得ないのは、ご存知のとおり、昨年12月に行われたコルシカ州議会選挙(その時からコルシカは二つの県ではなく、州です)でコルシカ独立派・自治権拡大派が45%強の得票率で勝利し、全議席の3分の2を占めるようになったからです。タラモン議長率いる与党はコルシカ語を第一公用語にするかも知れません。言語は思考を司る文化の基本ですから、それが影響を与えないはずがない。フランス国家にとって、またヨーロッパにとっていいことかどうかは別としても、ワインの個性のさらなる明確化という観点からすれば、この選挙結果はプラスに働くと思います。ワインはすべてが中央集権的なものではいけません。特にフランスワインは今まで帝国宮廷晩餐会的グラン・ヴァンへの指向性が強すぎたことが、現在のつまらなさを生み出しているのですから、コルシカワインがこれから風穴を開けてくれることを期待しています。

アルザス考 2017年冬の取材



 

2017年の冬、アルザス・グラン・クリュに対する理解を深め、最新の状況を知り、また偉大な2015年ヴィンテージのワインをテイスティングするべく、アルザスでいくつかのワイナリーを訪ねてきた。

 

よく言われるように、アルザスは複雑な産地である。品種とテロワールとスタイルが多岐にわたるからである。しかし同時に、アルザスは簡単な産地である。解釈の方法が比較的確立しているからであり、物理的事実と感覚的結果のあいだに明確な関係性が見て取れるからであり、ゆえにワインの味が飲む前から予測可能だからである。その解釈の方法を提示したという点で、私は過去に相当な貢献をしたと自負している。

 

アルザスワインを解釈するための、既に一般的と言ってよい前提的理解は以下の通りであろう。

 

1、アルザスワインの味わいは、主として地質と品種の相関関係から規定される。

2、アルザス・グラン・クリュは、確かに“グラン・クリュ”であり、すなわちそうではないものと比較した時に確実に品質的優位に立つ。

3、アルザス・グラン・クリュは基本的精神として、単一の地質的特徴から成り立つ。

4、アルザス・グラン・クリュは、石灰系地質と非石灰系地質のふたつに大別される。

5、石灰系にはピノ系品種、ゲヴュルツトラミネール、ミュスカが向き、非石灰系にはリースリングが向く。

6、土壌には軽重があり、重い土壌すなわち粘土含有の多い土壌にはピノ系品種とゲヴュルツトラミネールが向く。

7、石灰系アルザス・グラン・クリュには、三畳紀、ジュラ紀、第三紀のみっつの地質年代が存在し、それぞれ特徴的な個性をもつため、地質年代でワインを選ぶことが重要である。

 

 

 

石灰系地質のリースリング

 

 

 この中で、最近不確かになっていることがある。それは、「非石灰=リースリング」の妥当性である。ドイツでは基本、ラインヘッセン、フランケン、ファルツ等で例外があるとしても、リースリングは多く非石灰地質である粘板岩や砂岩に植えられる。オーストリアのリースリング産地であるヴァッハウも非石灰であり、またオーストラリアのイーデン・ヴァレーもそうだ。石灰にリースリングを植えると、青く、ゴツく、酸がきつく固い味になるのが普通である。いや、普通であった。

 

 ところがここ数年、アルザスの伝統的なリースリング向き非石灰グラン・クリュのワインを飲んでも、20年前のような感動がない。すべてとは言わないが、概して以前よりどこか緩く、力がない。最も気になる点は、酸のボケだ。リースリング品種のもつ高い酸が和らぐような土壌がよいとされていた常識を疑わねばならない。その理由は明らかだろう。地球温暖化である。アルザスでは、平均気温10度以上の日が年1.1日づつ増え、最高気温は年006度づつ(ブドウ成熟期に限ればその倍)上昇している出典Eric Duchêne, Christophe Schneider. Grapevine and climatic changes: a glance at the situation in Alsace. Agronomy for Sustainable Development, Springer Verlag/EDP Sciences/INRA, 2005, 25 (1), pp.93-99. )。すさまじい変化である。ドイツと比較するなら、1970年代のアルザスは現在のザクセンであり、現在のアルザスはバーデンである。この状況では年ごとに008度づつ上昇するアルコールに対して逆に酸は低下し、味がボケないわけがない。4月から8月の最高気温が0・1度上がれば収穫日は一日早まる出典Température et dates de vendanges en France, Valérie DAUX, Pascal YIOU, Emmanuel LE ROY LADURIE, Olivier MESTRE, Jean-Michel CHEVET et l’équipe d’OPHELIE )。以前なら涼しい秋に収穫していたものが、今ならまだ暑い夏の終わりに収穫するようなものだ。アルコールをおさえて酸を保とうとすれば早摘みせざるを得ない。しかし往々にしてそのようなワインの味は単純になる。

 

                             

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(出典:Réchauffement climatique : évolution du climat mondial et en France - Météo-France

 

 気候は人間の手ですぐには変えられないのだから、できる方法は限られている。品種を変えるべきだろうが、アルザスがリースリング等北方系品種の産地として訴求している以上、シラーの産地になっても市場があるかどうか。いまアルザスではピノ・ノワールを将来的な主軸のひとつにしようという議論が、動きが遅すぎる。ピノ・ノワールの産地になる頃にはアルザスの気候はカベルネ向きになっているだろう。

 

 そしてもうひとつの簡単な(しかし短期的な)方法は、リースリングを酸が強くなる土壌に植えることである。アルザスでは、しかし、これから植える必要はない。かつてピノ・ブランやシルヴァネルが多く植えられ、数十年前はリースリングがマイナーな存在だったアルザスでは、いまやリースリングの栽培比率が21.8%(2014年度)とトップ。伝統的にはリースリングを植えるべきではないような粘土質の畑や石灰岩・泥灰岩の畑(アルザスはそれらが多い)にリースリングが進出している。今ではむしろそれがよかったと言えるぐらいだ。以前は「石灰質土壌にリースリングを植えてはいけない」と強く主張していたオリヴィエ・ウンブレヒトが、リースリングに最もふさわしくないグラン・クリュのひとつに思えたヘングストにリースリングを植える時代なのである。

 

 これはリースリングの本質論になるので、少々追記したい。ヘングストのリースリングといえば、そのワインをフラッグシップとするジョスメイヤーの名が挙がる。リースリングの本質が酸だとみなしていた人にとって、往年の(つまり先代の)ジョスメイヤーは、トリンバックと並んで、理想的なスタイルであったろう。しかし私は「辛口で酸がなければ料理に合わない。アルザスはガストロノミックなワインだ」と言っていたジョスメイヤー氏の意見にも完全に同意したわけではなかった。あの、ヘングストの赤く鉄分の多い粘土石灰質土壌がもたらすゴリゴリ感、酸のごつさ、暴力性を、単純に「ミネラルが強い」、「酸がいい」と呼ぶことはできなかった。私にとってよいリースリングは、しなやかさや細やかさの“中に”、堅牢な芯があるワイン(ゴルトトロプシェンやドクトールやシュロスベルグやカステルベルグはまさにそうだろう)であって、暴力的な酸や表面の強引さとは直接的な関係がないものだ。しかし今のヘングストのリースリングに、あの90年代の暴力性はない。適度なメリハリがある重厚なワイン、としてポジティブにとらえられるべきだろう。

 

 

 

 

ジュラ紀のグラン・クリュ

 

 

 今まで積極的に「石灰のリースリング」を飲んでこなかったならば(私もそのひとりだ)、これからは意識して石灰のグラン・クリュを再検証していく必要がある。といっても石灰のグラン・クリュは多い。全体の約三分の二はそうだ。そこで今回は、まずはジュラ紀の石灰岩・泥灰岩のグラン・クリュを重点的に訪ねてみることとした。

 

 まず、ジュラ紀のグラン・クリュを北から列挙してみよう。エンゲルベルグ、アルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイム、ゾッツェンベルグ、アルテンベルグ・ド・ベルグハイム、フルシュテンタム、フローエン、ゴルデール、シュタイネール、フォルブルグである。こうして名前を見るだけでも、いくつかの共通する特性が脳裏に浮かび上がってくるはずだ。それは味わいの開放性、積極性、スケールの大きさであり、腰の強さと太さを細やかさやと両立していることである。

 

 同じ石灰系地質とはいえ、三畳紀は繊細であっても閉鎖的で暗く、第三紀は積極的であっても精緻さはない。果実に譬えるなら、三畳紀はレモンやナシであり、ジュラ紀はオレンジやパイナップルであり、第三紀はマンゴや柿である。こう言っては乱暴かも知れないが、ジュラ紀のアルザス・グラン・クリュの味わいは、品種が違っても、同じジュラ紀の代表的な産地であるブルゴーニュのシャルドネと似ている。スケールが大きなふてぶてしいパワー感と気品の両立である。

 

 アルザス・グラン・クリュは、認可年によって、1983年グラン・クリュと1992年グラン・クリュのふたつに大別できる(1975年のシュロスベルグと2007年のケッフェルコフは例外)。概して1983年グラン・クリュのほうが著名な畑(ランゲンやガイズベルグやアイシュベルグ)が並び、平均をとれば質がよいように思われる。ジュラ紀の1983年グラン・クリュはアルテンベルグ・ド・ベルグハイムとゴルデールである。私個人の極めて限られた経験から言えば、二大ジュラ紀グラン・クリュはゴルデールとフルシュテンタムとなる。フルシュテンタムの所有者は高名な生産者ばかり(ワインバック、マン、ブランク、テンペ)であり、ワインの質が高いからそう思うのかも知れないとすれば、マイナー生産者ばかりでいながら質が極めて高いゴルデールを私はジュラ紀グラン・クリュの代表としたい。

 

 またアルザス・グラン・クリュは畑の方位によって南向き系と東向き系に分けることができる。純粋に東向き系はフロリモン、シュピーゲル、ゴルデール、シュタイネールの4つしかなく、後者ふたつがジュラ紀である。東向きは西日が当たらないために日照時間が短く、午前中の柔らかい日差しを受けるため、ワインはより清涼感があり上品なものとなる。

 

 ジュラ紀石灰岩にもいろいろな種類があり、今回はじめて魚卵状石灰岩の存在を意識させられた。なぜ今まで畑に転がっている石が魚卵状だと気づかなかったのかと恥じる。世のアルザスワインファンからは「常識だろう!」と言われてしまうほど基本的な事実であると後になって知った。ひとつの産地でさえ基本を知るのに何十年もかかってしまうものだ。他にもあるのかも知れないが、エンゲルベルグ、アルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイム、ゴルデール、シュタイネール、フォルブルグは確実に魚卵状石灰岩である。ゾッツェンベルグやフローエンと比べると、より芯があって堅牢で、粒々した硬質なミネラル感(まさに石の見た目と同じ)、メリハリ感がある。魚卵状か否か、というのは、ブルゴーニュワインを選ぶ時と同じく、アルザスのジュラ紀のグラン・クリュを選ぶにあたって重要な指標となる。料理に譬えて言うなら、若鶏胸肉ポシェなら非魚卵状、地鶏もも肉グリルなら魚卵状ということである。

 

 

 

 

 

2015年ヴィンテージ

 

 

  フランスの他産地と同じく2015年ヴィンテージはアルザスでも傑出した品質である。5月の雨が地中に十分な水分を蓄えたあと、暑くて乾燥した(時に乾燥しすぎるほど=ゆえに保水性の高い土壌がよい)夏を経て、好天のもとの収穫を迎えた。熟度は空前のレベルで、そのボリューム感やスケール感は1990年や2000年を思い出せ、小さめの味だった2013年や2014年のあとだけになおさら印象的である。この年にはアルザス委員会は2003年以来となる補酸の許可を下したほどであるが、少なくとも石灰系の畑のワインに関しては、実際にはそれほど酸が低い印象はない。そもそも暑い暑いと言われる2015年は、7月には酷暑となったが8月は2009年より涼しく、そのまま気温は低下し続け、9月と10月の気温に関しては涼しい涼しいと言われる2014年や2013年をも下回った。それが2015年のワインに酸が意外なほど保たれる理由であろう。気温グラフを見ると、2015年はモンブランのような三角形をしている。春から秋までずっと“微高温”が続いてグラフがキリマンジャロのような台形をしている2007年とは好対照で、後者がほんわかの代表なら、前者はメリハリの代表である。

 

重要なのはカビ・貴腐がつかなかったことであり、ここ何年かのヴィンテージよりクリーンでクリアーな風味を備える。保水性の高い石灰系地質では、特に粘土が多い泥灰岩地質では、アルザスでは往々にして貴腐風味がのる。それはそれで魅力的だとはいえ、2015年のように気温が高い年でいながら直截・清冽な表現力の大きな香りのワインが出来る年はそれほど多くはない。

 

繊細なタイプのワインを好むなら2015年を評価しないだろうが、もとよりアルザスは逞しさが魅力なのであり、食中酒としてメインディッシュに拮抗しうる構造と密度をもつ点が素晴らしいのだと考えるなら、2015年は空前のヴィンテージである。ただし、完熟させれば必然的にアルコールか残糖が高めになる。

 

現状の気候ではアルザスワインのスタイルは、VTSGNを除くなら、原理的に、1、辛口で未熟で高酸・低アルコール。2、辛口で完熟で低酸・高アルコール。3、やや甘口で完熟で低酸・低アルコール。ということにならざるを得ない。SO2添加量の極小化がトレンドであるアルザスでは、それが可能となる1のスタイルが人気である。アルザス=ナチュラル、ナチュラル=アンチSO2、という定式が有効なマーケティング手法として確立している以上、多くの消費者の関心もまたSO2であり、その数値を見て判断するようになっているからである。しかし明らかに2015年は1のスタイルには不向きである以上、消費者としては亜硫酸添加量に対して原理主義的態度をとらないようにしたほうがよい結果が得られるだろう。もちろん私のスタンスは、極めて単純に、おいしいワインがよいワイン、である。SO2は少ないほうがいいのは当然だとしても、SO2が少なければそれでいいわけではない。おいしいと思う人間の直観は、瞬時にしてSO2を含む多岐にわたる要素の総体的バランスを判断しているに違いなく、私はその直観を信じる。そして経験上、完熟でおいしいワインの確率は未熟でおいしいワインの確率より圧倒的に高い。

 

 

 

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