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2018.01.07

コルシカ 

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 コルシカのビオディナミ生産者ペロ・ロンゴの当主、ピエール・リシャルムが来日し、彼のワインをテイスティングする機会がありました。彼のワインを初めて意識したのは十年ほど前になるでしょうか、アンジェのルネッサンス・デ・ザペラシオンにおいて。ドメーヌ・アバトゥッチの隣のブースだったか、と。その時のワインは、会場前のパン屋でバケットを買って食べたら小臼歯がポロっと欠けてしまってあとから相当痛い思いをしたので(いまなお治療中です)、その記憶とセットになって、もの覚えの悪い私でも味を覚えています。むっちりとした南コルシカらしい厚みのある質感と黒系果実の風味が印象的な、自然体のワインでした。

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▲コルス・サルテーヌの風景

 二度コルシカを訪問する機会があり、そのたびにペロ・ロンゴの玄関までは行ったのですが、誰もいない。そもそも冬のコルシカは人があまりいないのです。近くの村のスーパーマーケットの奥の棚にペロ・ロンゴが並んでいるので、それを買って日本で飲み、やはりたいしたものだと確認しました。彼の畑はサルテーヌにあります。風化した花崗岩土壌らしいスケールの大き...さ、やわらかい果実味、低い酸、そしてさりげなく硬質な芯の部分のミネラルがあります。
 ペロ・ロンゴは横置きコンクリート・エッグを使用している珍しい生産者です。私は長年、「コンクリート・エッグはそれほどおいしくない、理屈はいいが、結果が伴わない。その理由はコンクリート・エッグは縦置きだからだ」と言ってきました。ものごとをよく考えれば縦置きがおかしいことぐらいわかるはずです。ペロ・ロンゴが横置きだとは後で知りましたが、どうりで縦置きエッグ独特の内向性・小ささがないわけだと思いました。

Dsc05140▲ペロ・ロンゴ コルス・サルテーヌ エクリブル 2014年

 今回試飲したヴィンテージは2014年。この年のヨーロッパのワインは概して同じ傾向だと思いますが、ペロ・ロンゴも今までの印象よりタイトで赤系果実の風味に振られています。シャカレロ40%、ニエルチオ40%、グルナッシュ20%のエキリブルは、グルナッシュが南コルシカらしさを強化する働きをしているようで、いつも好きです。しかし今年は若干小ぶりです。2014年には典型的なグルナッシュの個性を求めるべきではないといのはラングドックでも同じことです。いつもは最も好きではないニエルチオ80%のエスプリ・ド・ラ・テールの出来が良く、初めておいしいと思ったのも、タイトで硬質な冷涼系なニエルチオの個性がヴィンテージの方向性と合っているからでしょう。アルコール感も少なく、さらっとして、こまやかで、コルシカを飲みなれていないフランスワインファンに受容されやすい味でしょう。
 今回テイスティングしたコルシカの赤ワインはすべて、ペロ・ロンゴを含めて重心が高い。コルシカワインは例年ならもっと重心が下にあります。ですからイカやタコや豚やイノシシに合わせて楽しむのが通常年の南コルシカなら、2014年は鳥向きです。

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▲ドメーヌ・ア・ペラチアの畑

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▲ドメーヌ・ア・ペラチア アジャクシオ プレステージ 2014年


 いろいろと試飲した中でベストは、ドメーヌ・ア・ペラチアのプレステージ、2014年。さすがにアジャクシオ。コルス村名付きアペラシオンより、当然といえば当然ながら、余韻が長い。もちろんア・ペラチアは私が最も好きな生産者のひとりですが(以前雑誌で書いたとおり)、別にア・ペラチアだけがすごいわけではなく、アジャクシオが特別な場所なのだと思います。ストレス感のなさ、香りののびやかさとハーブ的な涼しげな気配、きめの細かさも評価すべき点。またア・ペラチアのワインは垂直性があります。香りの伸びがワインの形を上に引っ張ると同時に、他のどんなワインよりもしっかりとした下方垂直性を示します。つまりは、いいテロワールの味です。
 プレステージは以前は樽が目立って数年瓶熟成させないと暴れた味でした。しかし2014年はもう既に完成された味で、樽っぽさが浮足だちません。造りがうまくなってきたと思います。
 それにしても2014年には、多くの人がコルシカにいだくワイルドな印象はありません。ワインはワインであって、かつてのコルシカ独立運動の暴力性とは関係なく、そもそもそんなにワイルドな性格にはならない土地だと思います。畑は海のすぐ前なのですから、優しく穏やかな性格を備えてしかるべきです。そして2014年は、そのキュっとした、ある種ポジティブにこまっしゃくれ感のある酸を含めて、明らかに“フランス”な性質の味。コルシカワインの本質について考えるためのよい機会となるヴィンテージです。
 コルシカのフランス性について考えざるを得ないのは、ご存知のとおり、昨年12月に行われたコルシカ州議会選挙(その時からコルシカは二つの県ではなく、州です)でコルシカ独立派・自治権拡大派が45%強の得票率で勝利し、全議席の3分の2を占めるようになったからです。タラモン議長率いる与党はコルシカ語を第一公用語にするかも知れません。言語は思考を司る文化の基本ですから、それが影響を与えないはずがない。フランス国家にとって、またヨーロッパにとっていいことかどうかは別としても、ワインの個性のさらなる明確化という観点からすれば、この選挙結果はプラスに働くと思います。ワインはすべてが中央集権的なものではいけません。特にフランスワインは今まで帝国宮廷晩餐会的グラン・ヴァンへの指向性が強すぎたことが、現在のつまらなさを生み出しているのですから、コルシカワインがこれから風穴を開けてくれることを期待しています。

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