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2018.03.05

ラングドック、Mas de Bayle

 クリュとはなんなのか。上級アペラシオンとベーシック・アペラシオンの差はなんなのか。それを理屈ではなく感覚として分かるためには、同じ生産者が同じ条件で造る両者のワインを比較する以外に方法はない。

 ブルゴーニュならば、同じリューディで違うクリマという例があり、ブドウ畑の地図から探すことができる。しかしラングドックで区画地図は公開されていない。機会があるごとに聞いて回るしかない。もちろん違う品種や造りのワインならいくらでも探せるが、それでは変数が多すぎて好例とはならない。

 長年探してきて、やっとよい比較対象を見つけた。マス・ド・バイルの「ラングドック」と「グレ・ド・モンペリエ」である。グレ・ド・モンペリエは一時クリュに選ばれていた、そして今でもグラン・ヴァンとされる、上級アペラシオン。INAOの判断基準はどのようなワインをよしとするのか、これで分かる。

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▲マス・ド・バイルの畑。手前の平地がAOPラングドック、左奥の斜面がAOPグレ・ド・モンペリエになる。所有面積は20ヘクタール。

 両者はグルナッシュ主体でタンク熟成。普通はベーシックなワインがタンク熟成で、上級アペラシオンは樽熟成になってしまうから、正当な比較ができない。両者の畑は地続きで、ラングドックは平地、グレ・ド・モンペリエは緩斜面である。土壌はこの地では一般的な石灰岩の礫を含むロームで、当主のセリーヌ・ミシュロンは「両者ともに同じ」と言う。

ワインを比較すると、どちらがよいかはにわかには判断できない。ラングドックは黒系果実味の厚みとパワー感が心地よい水平的なワインで、流速が遅く、タンニンは若干粗く、酸が太く、大きくて、余韻は長い。グレ・ド・モンペリエは赤系果実味の純度とリズム感が印象的な垂直的なワインで、流速が早く、タンニンは硬質だが粒が小さく、酸はより高く抜けがよく、しかし小さく、余韻は短い。

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▲ボルドー瓶に詰められる左ふたつ、Languedoc Cuvee Tradition 2016 とGres de Montpellier Cuvee Odon 2016 は樽不使用。前者はシラー40%、グルナッシュ40%、カリニャン20%。後者はシラー40%、グルナッシュ40%、ムールヴェードル20%。ブルゴーニュ瓶の高額ワインふたつ、AS de BayleとUne Fille Dans Les Vignesはシラー90%、カリニャン10%でマセラシオンが3週間と長く、後者は樽熟成10カ月。高価なワインになればなるほど、つまり、あれこれ技巧を凝らすほどおいしくなくなるのはラングドックではよくあること。素材がいいなら、刺身がうまい、ということだ。



どちらが好きかと言われれば文句なくラングドックを選ぶ。ピクプール・ド・ピネの北東に隣接する地区のワインである以上は、海沿いの鷹揚とした雰囲気と南国らしいざっくりとした温かみを求めたいからである。グレ・ド・モンペリエのような方向性なら、極端に言えば内陸の産地からも得られる。それは好き嫌いの範疇だとしても、スケールの大きさと余韻の長さは客観的な指標なはずだ。どうして上級アペラシオンのほうが小さくて短いのか不思議だが、逆に何がクリュにとって重要とされる要素なのかがよく分かる。垂直性、抜け感、早い流速といった、フランスじゅうの上級アペラシオンのワインから観察される特徴は、ラングドックにおいても優先的な評価対象なのだ。仮にそれが重要でないなら、上級アペラシオンを高いお金を出して買う必要はない。 

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▲Mas de Bayleの外観と発酵タンク。


セリーヌさんの祖父が1997年に創業したマス・ド・バイルは、海外メディアで取り上げられるような華々しいストーリーや変わった造りなどなにもない、ある意味地味な、典型的国内消費用ワインだ。輸出先はドイツと米国のみで、輸出比率は3%から5%しかない。上記ふたつのワインの特徴はマセラシオンの期間の短さだ。たった1週間しかない。発酵温度が25度から27度と低めで、また樽を使っていないため、ゴリゴリとしたタンニンや息が詰まるような固まった果実味とは無縁の、しなやかで伸びやかな風味と繊細な構造がある。地元で飲まれるワインはこうでなくてはいけない。

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▲当主のCeline Michelonさん。


輸出向けの派手なワインはもう飽きてきたという人も多いだろう。他人と競争するような味は疲れると思う人も増えてきただろう。その点、マス・ド・バイルのワインは、無駄、無理がなく、生産者が意識してきちんとできることを着実な足取りで行っているような安心感がある。普通の上質ラングドックワインが好きなら、そしてモンペリエからセートあたりの海辺の味が好きなら、日本の日常の食卓のためにお勧めしたい。


 

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