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2018.03.04

ラングドック Mas de la Plaine Haute

 日本でラングドックワインを見かけるとしたら、それは安価なペイドック、つまり北方品種の廉価版としてか、それともビオワインとして、だ。そうではなく、ラングドックの味を理解しようと思ったら、いったいどのアペラシオンのワインを飲んだらよいのか。そもそもどのエリアを飲めばよいかが分かっているなら、既にラングドックを理解している。分からないから多くの人が困っている。

フランスワインは位階秩序のワインなので、クリュをまず飲んでおけば、その産地の特徴が見えるとも言える。ではラングドックのクリュはどこか。ここ数年、その議論が盛んだ。上級アペラシオンを確定し、その価値を上げることでラングドック全体へのアンブレラ効果をもたらすという戦略は正攻法であり、ラングドックはクリュ策定にいそしんでいる。2011年に発表された時点ではブートナック、ミネルヴォワ・ラ・リヴィニエール、ラ・クラープ、ピク・サン・ルー、ロックブリュン、ベルルー、テラス・デュ・ラルザック、ペズナス、グレ・ド・モンペリエ(以上すべて赤)、リムー白がクリュだとされた。ラングドック委員会の広報資料を見ると、今は最初の6つが残り、フォージェールが加わっている。かと思えばホームページの違う場所では、ブートナック、ミネルヴォワ・ラ・リヴィニエール、ラ・クラープ、テラス・デュ・ラルザックの4つがクリュとされている。どうなっているのだろう。ともかく、内部でも紛糾しているようだし、クリュの選択についての議論をしていると際限がないのでやめておくが、基本的了解事項ではあるので、これらのワインはテイスティングしておいて欲しい。そうでなければ話が前に進まない。

私が今回ラングドックで確認したかったのは、ラングドック委員会が考えるクリュではなく、自分なりの経験をもとにフラットに考えた結果の“グラン・クリュ”の味だ。私が選ぶのは、フロンティニャン、クレーレット・デュ・ラングドック(現状のエリア全部かどうかは別として、少なくともアディサンやアスピラン)、ベルルー、フォージェール、ブートナック、ミネルヴォワ・ラ・リヴィニエール、フィトーである。

ラングドック最初のAOC1936年のフロンティニャンである。ミュスカ系アペラシオンの認定順を見れば、フロンティニャン、43年のリュネル、49年のサン・ジャン・ド・ミネルヴォワ、59年のミレヴァルの順だ。これを見て思わないだろうか、優れたワインから認定されている、と。ミレヴァルはもっさりしている。サン・ジャン・ド・ミネルヴォワはミネラリーだが官能性がない。リュネルはミュスカの魅力全開で上品だがミネラルと酸に若干欠ける。そしてフロンティニャンはリュネルの果実味と香りにサン・ジャン・ド・ミネルヴォワの酸とミネラルを足したような味がする。この記事を読まれている多くの方々もたぶん同じ意見だろう。畑を見たことがあればなおさら分かるが、飲んだだけでも明白だ。この点に関して、往年のINAOの見事な見識を尊敬するしかない。

かつてナポリ王国の宮廷晩餐会のワインリストを見たとき、フロンティニャンがラフィットやイケムと並んでいるのを発見した。昔はそういうポジションのワインだった。なぜ今は違うのか。ローマ帝国以来の由緒ある畑のテロワールが、戦前まではよしとされ、最近になって軽視されるというのはどういうことか。ミュスカの市場性が小さいからだと言うなら、グラン・クリュにあからさまな政治色とマーケティングを持ち込んでいると糾弾されるべきだ。ではボンヌゾーやソーテルヌ等の甘口ワインも格下げするのか。建前を通さねばならないところでは通さねばならない。

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▲斜面の上にある質素なドメーヌ。父親は若木4ヘクタールを所有、オリヴィエは古木のミュスカと若木の黒ブドウ計4ヘクタールを所有。

 現当主オリヴィエ・ロベールの先祖であるバプティスト・パランが19世紀末に創業したマス・ド・ラ・プレーヌ・オートは、総面積797ヘクタール、ドメーヌ数26軒のフロンティニャンの中にあって2軒しかないオーガニックワイナリーのひとつである。もうひとつは高名なシャトー・ド・ストニーで、12ヘクタールと規模が大きいが、こちらはたった4ヘクタール(当人は3ヘクタールと言っていたが、ホームページでは4)。ワインだけでは生きていけないので、オリヴィエ・ロベールは携帯電話の修理屋でもある。「ワインが欲しい時はまず電話してくれ。町中の店からワイナリーに駆けつけるから」と言われた。父親は配管工でもあったとホームページに書いてある。本来なら、そんなことをしなくてもよい土地なのに、、、。

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▲フロンティニャンの畑には第三紀プリオセーンの石灰岩の礫がたくさん。



 路上のマルシェで売っているようなワインでも、協同組合のワインでも、今までまずいフロンティニャンには一本も出会ったことがない。常にフロンティニャン独特の伸びやかさと気品とやさしさとメリハリがある。オーガニックだとなおさらだ。見た目はぼろい田舎家で、醸造設備もかわいそうなぐらい質素だが、それでもオリヴィエさんの造るフロンティニャンは別格の気品を振りまく。通常のフロンティニャン以上に垂直的で、立体感があり、ダイナミックで、当然ながら人工的な気配がしない。高価なコンロとブランドのフライパンで焼いた並の肉と、薪で火を起こしてそこらの鉄板で焼いたAOP牛と、どちらがおいしいか。私は前者のようなワインより後者のようなワインをよしとする。

 それはわざわざ訪問するまでもなく自明なことなのかも知れない。しかし私は前日、カブリエールはグラン・クリュ足りえるか否かについてジェラール・ベルトランと議論していて、もう一度“グラン・クリュ”の味を確認したくなった。私にとってグラン・クリュとはどこなのかを再認識したいと思った。栄光ある1936年認定AOC、フロンティニャン。北方系品種や北方系スタイルとは関係ない、本来のラングドックらしいラングドックを考察するためには、再びここから始めるしかない。

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▲なんともラングドックな色合いのテイスティング・ルーム。ミュスカ・ド・フロンティニャン・クラシックは8・5ユーロ。赤は10ユーロ。フランスで買っているぶんには安いと思うが、残念ながらこの価格では日本では高すぎて売れないと言われるだろう。



 ではフロンティニャンはミュスカしかおいしくないのかという疑問がわく。気候的にも土壌的にもミュスカでなければならない理由などない。偉大なテロワールは、基本、その土地に好適な品種であるならば、品種を問わずその偉大さを表現する。コルトン・ランゲットはシャルドネもピノ・ノワールも素晴らしく、ランゲンはリースリングもゲヴュルツもピノ・グリも素晴らしく、サヴニエール・ロシュ・オー・モワンヌはシュナンもカベルネ・フラン(AOPにはならないが)も素晴らしい。訪問の目的は、この疑問に対する答えを見つけるためでもあった。

 マス・ド・ラ・プレーヌ・オートではムールヴェードル40%、シラー45%、グルナッシュ15%の赤ワインも造る。もちろん赤をフロンティニャンで造ったらIGP Pays d’Hérault Collines de la Moureでしかないが、その2016年ヴィンテージは想像どおりの見事なワインだ。海辺ならではのゆったりした余裕のあるパワーとしなやかな酸に、濃厚で立体的な果実味に、垂直的な構造。余韻は明らかにグラン・クリュの長さ。ブートナックやラ・クラープといった定評あるクリュと比べてなんの遜色もない。やはりフロンティニャンは偉大なテロワールなのだ。

 なぜこれほどの土地がIGPなのだろう。フロンティニャンAOPを設けて地中海品種の辛口を認可し、旧来の酒精強化甘口ミュスカはミュスカ・ド・フロンティニャンAOPのままにして、二本立てのアペラシオンにすればいいではないか。そうすれば、甘口ワインの不人気に引きずられて偉大なテロワールじたいも忘れ去られるような愚を犯すこともない。

 私はラングドック委員会の記者会見やミーティングに呼ばれたことがないので、彼らが何を考えているのかは直接は知らない。もし話ができる機会があれば、彼らにとって優れたテロワールとは何を意味するのか、そしてなぜフロンティニャンがクリュと見なされないのか、聞いてみたいと思っている。だが彼らの答えがなんであれ、私にとってはフロンティニャンはグラン・クリュであり、それをマス・ド・ラ・プレーヌ・オートで再確認したのだった。

 

 

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