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2018.03.03

ボルドー、Chateau Olivier

 オリヴィエを訪問したのは初めてだった。160ヘクタールもの森に囲まれ、60へクタール近い畑を所有する、こんなに広いシャトーだとは知らなかった。12世紀にはじまるペサック・レオニャンで最古のシャトーだとも知らなかった。

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▲大邸宅としての“シャトー”ではなく、堀や跳ね橋を備えた城塞としてのシャトーの面影を残す。

なぜオーガニック・ボルドーの話の中にシャトー・オリヴィエが登場するのか、いぶかしく思われても仕方ない。オリヴィエはごく普通の格付けペサック・レオニャン(妙な表現ではあるが)だ。申し訳ないが正直なところを言わせてもらえば、オリヴィエでなければいけない、というTPOは思いつかない。なくても困らない。まずいと思ったことは一度もないが、ほれ込んだこともない存在。

シャトー・オリヴィエがオーガニックの実験をしていると聞いた。オリヴィエでさえそうなのだ、と思った。安心はできるがとりとめのない、何が言いたいのかはっきりとしない、ぺたっとしたオリヴィエの味が、オーガニックでどう変化するのか興味があった。それは皮肉でも野次馬根性でもなく、本来優れているに違いないテロワールの力量を知りたかったからだし、こうした古典的大シャトーがどの程度真剣に取り組んでいるのかを確認したかった。

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▲清潔で機能的だが、過剰に演出的ではないあたりが、オリヴィエっぽい。

実験は6年前に始めた、と言う。しかしテクニカル・ディレクターのフィリップ・ステックルはオーガニックにそれほど関心があるようには見えなかった。プレゼンテーションの内容は、シャトーの西に位置する、18世紀には畑だったがそのあと森になってしまっていた8ヘクタールのBel Air区画を再発見し、2004年にカベルネ・ソーヴィニヨンを植えた、というストーリーがメインだった。

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▲航空写真を見せて区画の解説をするテクニカル・ディレクターのフィリップさん。


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▲これら三つの写真を照らし合わせてみれば、白と赤は違う土壌から生まれることが分かるだろう。これはオリヴィエだけではなく、ペサック・レオニャン一般に該当することだ。だから白と赤は性格的に異なっており、同じワインの白版と赤版とは言えない。

それはそれでおもしろい話だ。航空写真を見ると敷地の端にあり市街に接している部分だが、1720年の地図を見ると、確かにそこは畑になっている。砂利が深く堆積し、カベルネには最適だ。しかし畑面積を増やすことは禁じられているため、新たに8ヘクタール植えるためには、それまでの畑8ヘクタール分を更地にしないといけなかった。そうまでして植えただけの成果は明らかだ。若木にもかかわらず、Bel Air区画のワインは重量感があり、濃厚で、甘みさえあるのに対して、シャトー近辺の旧来の畑はなめらかで抜けがよくても腰高で薄い。なんたる違い。たぶんボルドー郊外の現住宅地の地下には、忘れ去られたグラン・クリュ、いまだ発見されざるグラン・クリュが眠っているのではないのか。

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▲シャトー・オリヴィエ 赤 2005年、2010年、2015年

 2005年、2010年、2015年とヴァーティカルで赤ワインをテイスティングする。タバコや血や土のアクセントと、もやーんと緩いミッドと、ぽそっと終わる余韻の、スタティックなワイン。2005年などつい最近に思えるし、ワインは既に現代的な味わいになっているのかと想像したが、まるで1970年代や80年代に逆戻りした感覚。これはこれで懐古趣味的な動機には最適ではある。それでも、2005年という「つい最近」がこれほど遠い昔であることに驚く。ボルドーの変化は早い。2010年は垂直性が出てきて、酸に勢いがあり、凝縮度が高い味わいだが、樽が過剰で、やはり余韻は短く、スタティックで、昔の味だ。1995年あたりの右岸を思い出す。オリヴィエは時代のスタイルへの反応が遅いのか。

Bel Air区画を含み、ブレンドにプティ・ヴェルドを入れるようになった2015年は、大きく三次元的な広がりがあり、強さと軽やかさを兼ね備え、タンニンが以前とは比較にならないほどキメ細かく、果実味がピュアで、複雑でいてディフィニションに優れ、余韻も長くダイナミックだ。同じシャトーのワインだとは思えない。しかし、オーガニック的な見晴らしのよさがあるかと言えば、若干疑問だ。

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▲シャトー・オリヴィエ 白 2011年、2013年、2015年



次に白。2011年は、教科書的なソーヴィニヨン・ブランの単純な香りがして、小さく、スタティックで、酸が固く、重心が上の、早摘み味。なぜほぼすべてのシャトーがこの方向に行ってしまったのだろう。私以外の人が皆このスタイルをよしとするのだから(故ポール・ポンタリエだけが私と同じ意見だった)、どこかによいところがあるはずだと謙虚に思い、一生懸命にテイスティングしてきたが、ひたすら頭痛がするだけなのでもうやめた。何億人がおいしいと言っても、私にとってはおいしくないものはおいしくない。

2013年は、2011年と同じシャトーとは思えないほどスタイルが根本的に異なり、熟した風味とセミヨン的な厚みと構造があり、重心は下にあって安定している。そして2015年は2013年の延長線上にあり、さらにダイナミックで、さらにスケールが大きく、暑い年だけあって洋ナシのコンポートやオレンジやパイナップルの厚みのある熟した香りも心地よく、酸もしなやかでいてフレッシュ。全体が大きな力の中で調和を保ち、何かひとつの要素だけが目立つこともない。ソーヴィニヨン・ブラン78%、セミヨン20%、ミュスカデル2%というブレンド比率以上にセミヨンを感じさせるのがいい。ボルドーの砂利質土壌にあっては、熟したソーヴィニヨン・ブランは不思議とセミヨン的な個性を見せるようになるのだ。これは明らかにオーガニックの味が感じられる。そして白のほうが赤よりもよい。

ではオリヴィエらしくなくなったのか。そんなことはない。のんびりと鷹揚で、生まれ育ちがよく思いやりがあり、スリルはゼロでも落ち着いて則を超えない味、つまり飽きのこない家庭的上質さは、以前よりはるかに優れた形で健在だ。最新のシャトー・オリヴィエを飲んだら、私はもう「なくても困らないワイン」とは言わない。

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▲向こうが霞むほどに広い畑。手前が石灰、奥の盛り上がっている部分は砂利。周囲は森で、畑は外界から遮断されており、オーガニック栽培、いやビオディナミに最適に見える。

帰り際に、畑のどの部分をオーガニックに転換したのかと聞くと、シャトー正面から見て左、第三紀の泥灰岩・石灰岩の場所。そこには白ブドウとメルロが植えられているという。なるほど、そういうことか!実験を始めたのは2012年。赤の2010年と2015年の断絶の理由、白の2011年と2013年のあいだの方向性の転換と2015年のさらなる質的向上の理由も理解できるではないか!

シャトー・オリヴィエの歩みは遅くとも、正しい方角に向かっている。最新の白ワインからは、確かにここが格付けシャトーであることを示す特質を感じ取ることができる。結果は明らかなのだから、全面的にオーガニックに移行してほしい。シャトー・オリヴィエよ、何を躊躇する必要があるのか。

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