« 日本酒の講座 | トップページ | 5月25日、ラングドック・デー »

2018.05.14

Terroirs & Millesimes En Languedoc 2018

Terroirs & Millesimes En Languedoc 2018


 ラングドック・ルーションに興味があるなら、このイベントは必須と言えます。ラングドック・ルーションの大試飲会&セミナー、テロワール&ミレジメ・アン・ラングドック。今回が二回目の参加です。

ここでは、ラングドック・ルーションの全アペラシオンのワインを毎日何百本とテイスティングできるだけではなく、いくつかの産地を訪問したりセミナー等のイベントに参加することができます。この世界最大の産地を理解するために、一週間にわたる朝9時から夜10時までの特訓を受けてきました。

以下、テイスティング、産地訪問、セミナー等イベント、の3つのカテゴリーに分けて、開催された時系列で記事をまとめてみます。

Dsc05934
▲ラングドックでの拠点は、世界遺産カルカッソンヌ。

テイスティング

□■サンシニャン、リムー、マルペール他

Img_0044_2

▲試飲会場にブラインド状態で並ぶ膨大な数のワイン

 まずはサンシニャン、ロックブリュン、マルペール、カバルデス、リムー、クレーレットデュラングドック、ミュスカのテイスティング。

 サンシニャンのしなやかさは相変わらず上品で好きです。しかし今飲むと立体的な構造には欠けていることに気づきます。何故かベルルーはありませんでしたが、ロックブリュンを飲むと、こちらは確かに、より優れたテロワールなのだと理解出来ます。昔ロックブリュン協同組合に行った時はヘタな造りで閉口しました。その印象が強くて偏見を持っていました。こうしたブラインドテイスティングは思い込みを是正するのに有効です。実際よいと思ったワインはロックブリュン協同組合のものでした。

 リムー赤、カバルデス、マルペールというボルドー品種系ワインは、ラングドックらしさが弱く、ポジションが難しいアペラシオン。しかし味わいの濃さ強さはさすがラングドックで、偉大なワインにはなれないとしても、がっちりしたステーキなどパワフルな料理にはボルドーやベルジュラックよりいいかなと思いました。中ではリムー赤がイチボ、カバルデスがストリップロイン、マルペールがヒレでしょうか。しなやかなマルペールはこの地の名物カスレにも向きます。

 リムーの泡は、このテイスティングにおいては美味しいと思えませんでした。一皮剥ける必要のあるワイン。リムーの暗さが気になって仕方ない。スカっと抜けて欲しい。

□■フオージエール、ラ・クラープ、ピク・サン・ルー、テラス・デュ・ラルザック

Img_0077_2
▲日本にいては、こうした同一アペラシオンのワイン、特にクリュのワインを数多く比較試飲する機会はないだろう。


 タイトルにある
4つのアペラシオンのワインのブラインドテイスティング。いくつかの結論は、

1、これらのアペラシオンではオーガニックの意識が高く、例えばフォージェールでは総面積の半分がオーガニック。こういう状況になると俄然力を発揮するのが協同組合。かつては農薬臭いワインが多くて協同組合ワインなど飲めないという人も多かったと思いますが、今はあまりそういうワインはありません。いろいろな区画のブレンドですから、一か所の区画からのみ作られるドメーヌワインより複雑な味になりやすく、アペラシオンの全体像が把握しやすい。これは我々初心者には大事な点です。全体像が見えてから、ひとつひとつの区画の味を追求し、それぞれの個性を理解して、それが最高に生きる文脈を具体化していくのが芸術家たるソムリエの仕事(もちろん消費者各人の責務でもある)でしょう。この試飲会のように数十軒のドメーヌのフォージェール(べつにフォージェールに限ったことではありませんが)を飲む機会があれば、「私にとってフォージェールとは何か」を考えやすくなりますが、全員にそれを要求するのは非現実的です。ならばまずは手っ取り早く協同組合のワインを飲むことです。

2、フォージェールはラングドックの中では例外的な味。ラングドックは濃厚で力があっても、普通はワイルドではなく、案外と穏やかで細やかなものです。しかしフォージェールだけはダークサイドの力が強く、ワイルドで、もりもりとしたエネルギーが蠢いていて、ここだけは違う神様が宿っている感じ。ラングドック全アペラシオンの中で最もブレタノミセス確率が高いと思います。とはいえ過去にフォージェールは300本ぐらいしか飲んだことはないので、偶然かも知れませんが、やはり今回でもそうでした。何故そうなるのか。他よりp Hが高いような味ではあります。さるドメーヌのワインがブレタノミセス確率が高く、しかしそのドメーヌのワインが国際的に最高のワインと評価され、最も高価だとすればどうなる可能性があるか。他の人はそのスタイルを真似するかも。もちろん日本ではブレタノミセスが好きな人が多いようなので、これは問題でもなんでもないでしょうし、日本ではラングドックというとフォージェールの名前がすぐに挙がるのも、それ故かも知れません。ちなみに多くのフォージェールは重心が真ん中から下ですから、よく言われる、「フォージェールにはジビエ」には注意が必要です。イノシシには合っても鹿には合わず、雷鳥には合ってもキジには合わない。もちろん例外はありますが、全体として、です。私はあまりワインを飲む機会がないので、こんな簡単な結論に至るまでに5年以上かかりました。ワインのプロの方々は私のようにのんびりしていないので、つくづく大変だと思います。

3、フォージェールとラ・クラープは平均点をとれば白の方がいい。白の方がスケールが大きく、エネルギーに余裕があり、素直。白のほうがグランクリュ感があります。もちろん赤もいいものがありますが、フォージェールのブレタノミセスとラ・クラープの水平性を解決しないといけない。ジェラール・ベルトランのグラン・クリュ系ワインの中でも、私はラ・クラープは改善点が比較的大きいと思います。本当は既に解決手段は伝えてあるのですが、去年それをやるのを忘れたそうで、実験は今年です。ラ・クラープは確かにそこそこ平地ですし、海に近いので、内陸産地より水平的になるのは当然ですが、それでも程度があります。ボルドー程度の垂直性があるべき。それ以下では、到底ラングドックのグランクリュとは言えない。ただ、凝縮度、気品、細かさ、酸のきれいさに関しては、グランクリュの名に恥じない。

4、テラス・デュ・ラルザックは相変わらず正体不明で、スケールが小さい。なぜ世界中の人がこれをラングドックのグランクリュと呼ぶか分からん。十年ずっと飲んできて、産地を歩き回っても、やはり私にはプルミエクリュ。同じ場所でグランクリュと呼べるのは、赤のテラス・デュ・ラルザックではなく、微甘口白やランシオのクレーレット・デュ・ラングドックだと常々主張してます。ピク・サン・ルーが好きと思う人は、実はラングドック全般があまり好きではない人です。酸があり、ブルゴーニュと類似するミネラルがあり、緻密で、ピュアな赤系果実がある重心の高いワインをよしとするのが最近の風潮で、日本も例外ではありません。悪いワインではないがスケールが小さいから、やはりプルミエクリュです。ピク・サン・ルーが好きならあまりラングドックにこだわっていても先がないので、ブルゴーニュを追求することをおすすめしたい。とにかくそんなに酸が好きなら、ヴァンデュモワとか、追求すべきワインは北産地に沢山あります。北産地では酸のないグリオットを絶賛し、南産地では酸のあるピク・サン・ルーを称揚していては、世界中のワインが同じ味になってしまうということを、影響力のある方々には少し意識していただけるとありがたい。もちろん彼らが無知だからそうするのではなく、全部をとことん分かった上でそう言うから、消費者のワイン観への影響が大きい。それを気にしてしまうのです。全員が同じことを言っていては危険だ、と。日本にラングドックワイン通が一万人はいるとして、たぶんその中でピク・サン・ルーよりグレ・ド・モンペリエの方がラングドックらしいと言う人は数人でしょう。私のような低レベルの話でさえ、私と同意見の人はそんなにいないのですから。ちなみにロゼというのは恐ろしいワインで、赤よりずっとテロワールの底力が分かるとも言えます。ピク・サン・ルーのロゼはイメージでは良さそうですが、これが力がなくて表層的なきれいさに終始しがちなワインです。誤解されたくありませんが、私はピク・サン・ルーがゴミだと言っているのではありません。世界中ピク・サン・ルー絶賛の嵐であるという一元的全体主義的傾向が不自然だ、と言っているのです。まあ、素人は黙ってろ、とワイン通の方々に言われそうですが、素人には素人ならではの視点もあるということで。

□■ラングドック、グレ・ド・モンペリエ、ペズナス、モンペイルー、ピクプール・ド・ピネのテイスティング

Img_0198
▲こういう機会でもないと、ソミエールやサン・サチュルナンの比較試飲などできない。

 
広い面積のグレ・ド・モンペリエはワイン生産量も多く、よく見かけますから、味がイメージしやすい。しかしその周辺、つまりモンペイルー、サン・サチュルナン、サン・ドレズリイ、サン・ジョルジュ・ドルク、メジャネル、ソミエールあたりは、プロならともかく普通の消費者にとって未だにはっきりとイメージ出来ないアペラシオンだと思います。私もこういう機会でないとなかなか飲みません。
 グレ・ド・モンペリエは海味。ラングドックらしい赤のアペラシオンをひとつ選べと言われたら、私はここにします。ラングドックは地中海に面した産地ですから、海に向かって開かれた、暖かい穏やかな味というイメージをもつのは当然。そしてグレ・ド・モンペリエはそのイメージ通りに海に向かった低い丘の斜面に広がっています。夏は暑くなりすぎず、夜の気温はあまり下がらず、という典型的な海沿いの気候。日本人にとっては親近感があるはずです。形が水平的でタンニン・酸ともにソフトですから日本の多くの料理にも向きます。海沿いというだけではなく、多くが砂岩土壌というのもその個性に寄与します。見る人によっては弱いと思うでしょう。これは実際の食卓向けワインであって、観賞用ではありません。理念的にはよいワインですが、今回試飲した数十本の中での品質のムラは激しく、重心が上で固くて酸っぱい、グレ・ド・モンペリエとは思えない味の早積みワインも多く見られました。日本のワイン通やプロの方々は酸を最も大事にされる方が多く、そうしたタイプのワインが増えて来ています。78年前のグレ・ド・モンペリエのほうが平均的には“らしい”ワインが多かったと記憶しています。この間に重心は確実に上がっています。重心の低いワインがどんどん少なくなって、どうやってプロの方々は料理と合わせておられるのでしょう。釈迦に説法で申し訳ないですが、もう一度グレ・ド・モンペリエの丘から地中海を臨み、本来どういう味であるべきなのか考えていただきたいものです。そういえば、ラングドック委員会の当初の案ではグレ・ド・モンペリエはグランクリュに含まれていました。今は脱落。どうしたのかと、アペラシオンの会長オリヴィエ・デュランさんに聞くと、エリアが広くて行政区が一つではなく、それぞれの政治家の思惑が異なって政治レベルではの意思統一ができずに流れたそうです。ワインとは関係ない話。ラングドックで残ったグランクリュは皆山系アペラシオンです。ラ・クラープは海系ですかと聞くと、距離的には海系だがな地形的には山系だと。このままではラングドックワイン=山系ワインというメッセージを発信することになります。それは一面的すぎるばかりか、ラングドックワインのイメージにとって、また味わいの評価軸形成にとって、いいことではありません。
サン・ジョルジュ・ドルクはグレ・ド・モンペリエの一部ですから当然似たキャラクターですが、平均してグレ・ド・モンペリエより凝縮度が高く、タンニンもしっかりして、よりスケールが大きく、香りはより黒系でクローブやナツメグや黒コショウのアクセントが加わります。ここはグランクリュ候補になってもいいぐらいです。普通のグレ・ド・モンペリエが煮魚ならこちらはハンバーグのデミグラスソース的です。
  サン・ドレズリーは粘りとコクとパワーがある、黒系果実とスパイスの香りがダイナミックな、スケールの大きい味です。いかにも南仏な感じがします。前者と比べてこちらは全体に若干重心が上がります。マトンカレーな感じでしょうか。
 サン・サチュルナンは赤系果実で軽快な味。スケールが小さいのですが、なかなかチャーミングで、キメが細かく、チキン向きです。このようなマイナーアペラシオンが使いこなせるようになって、サラッとローストチキンと一緒に出したりしたら通っぽい。私もそうなりたいので、このテイスティングに参加させていただいているわけです。そういえば今ラングドック委員会は日本のレストラン向けにプロモーションしていて、コンテストを行い、既に50軒のソムリエにラングドックワイン専門家の認定を与えたとか、ラングドックワイン委員会長が言ってました。コンテストにはブラインドテイスティングもあるはずで、つまりはサン・サチュルナンとソミエールの味の違いがブラインドで分かるレベルの人が毎年50人づつ 増える。数年経てば、サン・サチュルナンにチキン、といった組み合わせがソーテルヌにフォワグラみたく常識のうちに入るようになるでしょう。私は小売店にも同じようにコンテストを開催して欲しいとお願いしました。そうすればレストランと合わせて1年100人づつラングドック専門家が増える。私は到底グレ・ド・モンペリエを構成する64(たぶん。うろ覚えですみません)の村ごとの違いとか覚えてられないので、例えば煮魚にグレ・ド・モンペリエというところまでは自分で考えられるとして、ではホウボウならどの村か、キンメならどの村か、といったことを聞く人がいません。もしも私の案が取り入れてもらえたなら、そういった相談に対して的確なラングドックワインを提示していただけるようになる。委員会には頑張って欲しい。
ソミエールもまた重心が上のワインで小さい。こちらはタンニンの質が粗く、苦く、抜けが悪い。独立したアペラシオンにする意味は感じられません。2015年や2016年の高温乾燥には向かない土地かも。このようなキャラクターなら多雨の年のワインを試してみたい。
 ペズナスもまた当初のグランクリュ候補から脱落したアペラシオン。私の好きな生産者パスカル・ブロンデルさんに何故かと聞くと、小さいアペラシオンで生産量が少ないという理由で落とされた、と。サンシニャンは大きすぎるという理由で落とされた。小さくても大きくても屁理屈つけて落とすなら、選考基準が裏のどこか別のところにあるとしか思えない。それはともかく、ペズナスはフランスでは珍しい玄武岩土壌。ラングドックの中でも唯一無二のアペラシオン。かっちりと整った形で重心は上で質感が大変に緻密。 酸は低いのですがベタつかず、香りの立ち上がり方にスピード感があります。この個性は貴重。ラングドックの赤ワインを10種類売るなら、どれも似たり寄ったりにならないようにするためにもペズナスは必要です。スパイスをきかせて焼いたラムや鹿といった感じです。ただスケール感がないので、グランクリュかどうかは微妙でしょう。
 ピクプール・ド・ピネは既に日本でもお馴染み。しかしこのアペラシオンは村によって相当キャラクターが異なるので注意が必要。だいたい牡蠣型と白身魚型に分かれます。牡蠣牡蠣と皆が言いますが、メズやフロレンサックやポメロールなら分かります。特にメズは明らかに牡蠣型。しかしモンタニャックやピネやカステルノー・ド・ゲールはどうでしょう?ピネ村はホタテのバター焼きかも。収穫のタイミングでも決まりますが。ピクプール・ド・ピネは知る限り27軒の生産者がいますが、その半分くらいは日本に入っていると思います。丁寧に試飲を重ねて料理と合わせていけば、だいたいの法則性は誰にでも分かることです。そして全体の平均を取れば、牡蠣より鯛やスズキだということも分かる。そして値段が高くなると、ますますバタークリーム系ソースの鯛になる。単純化された思い込みではワインは選べない。逆もしかりで、ワインに合う料理は選べない。ラングドックは広いので、ちょと齧っただけでは無理。先に触れたようなラングドックワイン委員会のプログラムが必要です。ちなみにシャトー・ド・ピネのオーナーによれば「ピクプール・ド・ピネは最近でこそパリのブラッセリーで置くようになったが、彼らは長い間無視していた。ブームはパリより外国のほうが早かった」そうです。日本でのフェリーヌ・ジョーダンの成功は、たぶんその最初期だと思います。そしてフェリーヌ・ジョーダンのスタイルこそ牡蠣型の典型。そこで停止していてはいけません。ワインは新たな発見の連続が面白いのですから。

 

□■ルーションのロゼ

 Img_0235

 ペルピニャンでの最初のテイスティングはロゼ。一言で言うなら、7月末から収穫が始まるようなルーションはロゼには暑すぎます。しかしこの場合のロゼとは、日本で好まれる「酸がしっかりしてフレッシュで軽やかでエレガント」な(もはやお笑いですが)ロゼ。フランス最大の日照量があるような暑い土地でそんなワインは出来ない。もちろん重厚パワフルな高いアルコールの濃密なロゼなら最高のものが出来るにしても、多くの人にとってロゼはロゼで、テロワールのワインではなくスタイルのワインであり、そんな重厚濃密なロゼはただの変なワインだと思われるでしょう。つまり期待されるものから最も遠いのがルーションのロゼ。必然的に、期待に沿うべく、早摘みするしかない。そうすれば味が固くなり青い風味となり苦くなる。多くの人がそれをミネラリーでフレッシュだと言って評価する。そのような考え方に同意できない日本における超マイノリティーたる私にとっては、ルーションのロゼは、残念ながらアタリの少ないワインです。

□■コリウール

Img_0238

 コリウールはグランクリュ候補になっています。確実にそうなるでしょう。畑を見てみれば分かります。実際その味わいは、ノーマルなコート・ド・ルーションと比較して、確かパワーリザーブ感が違う。ゆったり大きい。

 コリウールとバニュルスという重複するこの産地で本来造るべきはどちらのワインなのか、という問いは、してはいけないことを承知していてもしてしまう。もちろんバニュルスのほうがいいワインだとは思います。しかし今の世の中、酒精強化ワインの市場は小さい。バニュルスでは経済が成り立ちませんし、それだけにこだわっていたらモンペリエ周辺のミュスカ産地のようにステイタスが失われる。甘口から辛口への構造変換は必須であり、そのための制度的サポートが必要なのです。コリウールとモーリーはそれを行っています。

 もちろんコリウールはバニュルスよりも早摘みせざるを得ない。完熟したらアルコール度数は完全発酵の限界を超えるような産地です。あからさまな早摘み味のしない、つまり重心が上ずって固くて小さい味ではない、ゆったり感のある、本来あるべき姿のワインはテイスティングした全体の2割ぐらいです。それを選べば全フランスワインの中で最も大船に乗ったような気分になれるはずです。

 政治的意図は理解できるにせよ、こうしたテイスティングに酒精強化ワインが出てこないのは問題です。ますます忘れられてしまいます。フランスの酒精強化ワインの8割はルーション産ですから、ルーションがPRしないで誰がするのか。


□■コート・ド・ルーション・ヴィラージュ村名付き

Img_0345

コート・デュ・ルーション・ヴィラージュ村名付きワインとモーリー・セックのテイスティング。カラマニー、ラトゥール・ド・フランス、レスケルド、トータヴェルの違いは、日頃これらのワインに接する機会があまり多くないだけに、私もすぐに忘れてしまいます。こうして産地ごとにまとめてブラインドテイスティングすると全体的な印象を思い出すことが出来て助かります。
 概してルーションは西のピレネー山脈方面にいけば雨が多く標高も高くなりますし、北のコルピエール山塊方面に行っても標高が高くなりますから、産地ごとの地理的違いは明らかにワインの味に出ています。今回の試飲では相対的に品質が劣っていたのはカラマニーです。ここは片麻岩と花崗岩の土壌です。比較すれば、粗く、薄く、短く、水平的。果実味は結構しなやかなのにタンニンの粒が大きく、キメが粗く、余韻の後半で味が抜け落ちていくのが気になってしかたない。もちろん村名付きワインですから、それなりに高いレベルでの話ですが。クローブ的スパイシーさが鼻に抜けるのは面白い魅力です。風化した花崗岩の砂質土壌であるレスケルドはスケール感はないですが、サラッと上品です。石灰岩土壌であるトータヴェルは軽快で流速が早く、リズム感が心地よい。垂直性が前二者よりあり、立体的。余韻も長く、もたつかずに抜けがいい。雲母片岩土壌であるラトゥール・ド・フランスは最もスケールが大きく、流速が遅く、クリーミーで丸い形。酸はしなやかで甘い果実味の頬への広がりが魅惑的で、余韻も長く、ボリュームを保ちます。一番南国的です。つまりは西側アペラシオンより東側アペラシオンのほうがよい印象だったということです。
 全般に、十数年前と比べて明らかに重心が高くなったと思います。アルコールを抑えるためには早摘みするしかない。しかしグルナッシュ的な味わいで重心が高いワインがチキンチーズダッカルビや鴨肉の甜麺醤炒めのような料理以外にどんな料理に合うのかよく分かりません。普通、トロミのある料理は重心が低いからです。昔は豚肉によく合うワインが多かったのですが。その観点からすると、この4者の中では比較的重心が真ん中に収まるラトゥール・ド・フランスが一番使いやすいと思います。
 モーリー・セックは一番重心が低い。黒系果実風味と低い酸と粘りのある質感とスケール感。堂々とした風格は、ここがグランクリュだと分かります。モーリー・セックはグルナッシュ6割から8割ですから、どのワインもグルナッシュらしいむっちりして細やかで柔らかな個性が感じられます。それでも重心が低いワインは全体の3割。どうすればいいのでしょう。
 モーリー地区は東西17キロ、南北4キロ。南北にある石灰岩の山に挟まれた谷で、白亜紀の頁岩や粘板岩の地質。標高は西の丘の上で400メートル、東の谷底で100メートル、降水量は西で450ミリ、東で350ミリです。もちろんこってりしたワインは東から、すっきりしたワインは西のから生まれます。生産者の住所と畑の位置はだいたい一致していますから、どういう味わいを求めるかによってどこの生産者のワインを買えばいいか見当はつけられます。まずはモーリーを甘口辛口含めて何十種類か飲み、全体像を把握し、自分なりのモーリー地区ワインの理想像を形成していく必要があります。私はコリウールよりもモーリー・セックのほうが合う料理は多いと思います。後者の方が重心が下で厚みがあって流速が遅いからです。ブラインドで飲んで最もモーリー地区らしいと思えたモーリー・セックのワインは、モーリー協同組合のナチュール・ド・シストです。生産の半分は協同組合ですから、キュベあたりの生産量は多く、原料のブドウはモーリー地区全域から。当然モーリーを代表するワインになります。昔からモーリー協同組合のレベルは高く、ここの辛口と甘口テュイレがあればだいたいのところ事足れりです。もちろん、延々と同じようなことを言っていて申し訳ないですが、ナチュール・ド・シストもテュイレ・シャベール・ド・バルベラも日本で見たことがありません。

 協同組合ワイン=大量生産低質ワインだと思うのは間違いです。しかし日本では生産者の変人度合いストーリーをワイン価値の一部として販売消費しているので、メディア受けする“浮世離れした狂気の淵に立つ天才”とは対極の位置にある協同組合ワインが受容されません。しかし変人がただの変な人ではなく天才だと認識するためには、普通とは何を理解していなければならない。そのためにもモーリー協同組合のワインは飲んでおきたい。モーリー村に行けば、道はひとつしかないのですぐに分かります。


産地訪問

□■カバルデス

Img_0045

Img_0048

▲完全な平地は牧草地、ブドウ畑は緩斜面に作られていることが大事。ワイン専業産地ではないからこそ、土地の正しい振り分けがなされているのがラングドックです。


 ラングドックの北西端にあるアペラシオン、カバルデス初訪問。大西洋気候と地中海気候の交わる所、ボルドー品種と地中海品種がだいたい等分でブレンドされるワインです。土壌は第三紀イオセーンの石灰岩の上に礫を多く含むローム。マルペールはより大西洋気候で粘土が多いそうです。カルカッソンヌでのテイスティングで経験した両者の味の違いも納得できます。カバルデスはよりステーキ向き、マルペールはよりシチュー向きということ。ガストロノミー的には興味深いワインです。ラングドックワインに詳しいソムリエが必然性のある文脈でサラッと使いこなせばかっこいいですね。フランスで小売価格平均10ユーロ(安いもので8ユーロ、高いものは30ユーロ超)ですから、日本では一般家庭では消費されるにはちょっと高いので、レストラン向け。輸出が少なく、地元消費が多いのも理解できます。


□■発泡ワイン発祥の地、サン・ティレール修道院


Img_0187_2

Img_0188

Img_0189_2
▲世界最初のスパークリングワインが造られたという記録が残る、サン・ティレール修道院。しかしこの暑い場所でなぜブルゴーニュ品種なのかという疑問をぶつけると、「修道士は各地を移動していた。ブルゴーニュから来た修道士が持ってきた」、とのこと。本来入り混じるわけもないモーザックという南西品種とピノ系の品種がこの地でブレンドされるには歴史的な根拠があり、でたらめに造られたわけではないのです。

 1531年、ベネディクト会のサン・ティレール修道院の僧によって、歴史上記録に残る最初のスパークリングワインが造られました。リムーはスパークリングワインの元祖です。

 せっかくの機会なので、修道院の人に、なぜアルビジョワ十字軍がこの地の人々を殺戮しなければならなかったのか聞くと、「辺境の地だったラングドックではキリスト教の教えが正しく伝わらず、勝手な解釈で信仰し、それが大勢力になったから、正すために」。「しかし皆殺しにするのはどうなんでしょう」。「それを命じたのはイノケンティウス三世、イノセントという名前なんですからねえ(笑)」。私は、「欲に目が眩んだ貴族達が権力拡大と金銭目当てで暴走したもので、ヴァティカンの真意ではない」と言うのかと思いました。ローマ教皇の無謬性を対する懐疑を修道院で聞けるとは、自由な世の中でいいですね。

 ワインセラーは二階にあります。といっても自然の地形で、そこが盛り上がった砂岩の丘になっでいるから、修道院から階段を上りはしますが、地下ではあります。結構小さいです。写真で見るとおり、天井には穴が4つ開けられています。これは村人たちが食糧を投げ入れた穴。修道士たちは午前2時から祈っているので、食べものは恵んでもらわないといけません。

 畑から修道院までは1971年製シトロエンDSで行きました。大戦後の車の中では最高傑作のひとつでしょう。フランスらしさ、それもパリらしさの塊みたいなツッパリかた。 かっこいい。往年のフランスが好きならシトロエンDSが好きに決まってる。どの車が欲しいかと聞かれたら、P2とか35Bとか非現実的なことを言わないなら、DSが欲しい。そのDSに乗るのは初めてだったので興奮しました。あのハイドロニューマティックのフワーンとした乗り心地!地球防衛軍みたいな内装!

Img_0177



□■リムー

Img_0165_3

Img_0170
▲葉の裏に白い毛が生えているのがモーザックの特徴。これがこの地のワインが「ブランケット」と呼ばれる理由です。

 久しぶりにリムーに来ました。改めて畑を見ると、丸い砂利があります。生産者に聞くと、昔の川底だと。石灰岩はあるかと聞くと、ない。どうりでリムーは骨格に乏しいわけです。このようなロームなら肉厚のボディーは生まれるので、それを尊重する楽しみ方をすればよいのです。そう思うと、リムーの白品種であるモーザック、シャルドネ、シュナン、そして赤の主要品種メルロは、どれも肉厚型です。

 しかしリムーは香りがスッと立ち上がらない。常に上方の伸びが眼の下あたりで終わってしまう。シャンパーニュは、よいものなら必ず頭頂まで行きます。それは使用品種が全部重いからです。モーザックのブランケット・ド・リムーやアンセストラルなら、それはそれで伝統であり、個性と見なせばいいが、主力はクレマンです。あくまでクレマンは非地場品種シャルドネ主体のワインであり、モーザックのようなローカル色を訴求するワインではありません。ワインとしての完成度を上げるべきです。だからラングドック委員会の会長には、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ブラン、ミュスカを5パーセント程度の補助品種として認めるべきと言いました。そうすれば確実に香りが上がり、華やかさが出てきます。

 そもそもリムーは、赤ワイン品種がメルロ、カベルネ・フラン、マルベック、シラー、グルナッシュ、カベルネ・ソーヴィニヨンなのです。それらの品種が熟すのですから相当な高温です。それなのに同じ場所に植えられるスパークリング用白品種が北方のシャルドネやシュナンというのはおかしい。話が逆でしょう。クレマンの白品種は相当無理して早摘みするしかないと想像出来ます。アンセストラルなら早摘みしなくともいいが、クレマンはしかたありません。だから本来なら、ソーヴィニヨン、クレーレット、ヴェルメンティーノ、グルナッシュ・ブランあたりでクレマンを作ってもいいぐらいです。

 AOPはともかく、IG Pでならいろいろ出来るはずです。フランス認可品種200種類がどれでも使えると、会長が言ってました。最近は地球温暖化でさらに降水量が減っているため、ギリシャのアシリアティコを試験的に植えてみたという話を聞きました。アルバリーニョもあるそうです。そんなに極端なことをせずとも、IG Pでいろいろな品種のスパークリングを作ってみればいいのに、と思います。しかし誰一人としてソーヴィニヨンを植えません。赤がボルドー品種にぴったりの気候だと言うなら白だってボルドー品種でしょうに!皆で似たりよったりのワインを作っているだけては面白くないでしょうに!フランスはワインに関して本当にチャレンジ精神のないところです。というか、これはチャレンジでもなんでもなく、極めてロジカルな話をしているつもりなんですが、どうして理解されないのか理解出来ない。南方系品種で熟した赤ワインが出来る気候で、北方系品種で瓶内二次発酵のワインを作るのはおかしい、という意見がそんなにへんですか? 同じ意見の人に会ったことがありません。日本で誰もクレマン・ド・リムーはへんだ、と言いませんよね。高名なワイン評論家の方々が揃って現状のクレマンに納得されて評価し、消費者の方々もそれが正しいと思われているのならそれでいいのですが。

 今は日本で多くクレマン・ド・リムーを見かけますが、アメリカはもっとです。リムーのスパークリングはもともと輸出が50パーセントあるのに、そのうちクレマンで23パーセント、ブランケットで32パーセント、アンセストラルに至っては67パーセントがアメリカ合衆国に売られます。アメリカで最も売れているフランスのスパークリングはシャンパーニュではなくリムーです。アンセストラルは最低60グラムの残糖がある甘口。消費者はもっと辛口を好むのではないかと聞くと、逆に、甘いから若い人によく売れるのだそう。アンセストラルに氷を入れて飲むのが流行りだとか。いかにも慣習に囚われないアメリカな話です。ちなみに標高の高い畑のアンセストラルはフォワグラにぴったり。基本的にソフトで流速が遅いですから。低地なら豚のリエットでしょう。

 リムーのシャルドネも人気です。地場品種でもないシャルドネならペイドックのワインを買えばいいではないかと思いますが、やはりAOPであることが大事なようです。しかしリムーのスティルの白を買う人は、リムーらしさが欲しくで買っているのでしょうか、それともフランスの安価なAOPシャルドネが欲しくて買っているのでしょうか。多分後者でしょう。それでは動機がIG Pと同じで、AOPの精神に反します。そもそも、シャルドネ、モーザック、シュナンと、同一生産者で比較すれば(これは大事です。実体的背景なきシャルドネ崇拝はよくない、シャルドネファンにとってさえ)、一番美味しくないのがシャルドネだったりもします。ところがリムーの生産者がどの順番で三品種のワインを出すか観察すると、シャルドネが最後の場合が多い。全員がどっぷりシャルドネ教にはまっている。よくない状況です。リムーはモーザックの産地です。ましてリムーのシャルドネを飲んで「ブルゴーニュに似ているからいい」などと思うようでは、AOPワインを飲む資格さえありません!ラングドックから出て行け、と言われて当然。ところが最近は生産者も「ブルゴーニュスタイルでしっかりした酸を出してエレガントに仕上げるため早く摘みました」と言う。だからリムーは好きになれません。味ではなく、消費心理や象徴的価値の問題としてです。

Img_0194
▲この生産者はスパークリングを造りません。彼女らの赤ワインが一番印象的でした。つまり、リムーはボルドー品種にとっては冷涼感のある味になる産地。ブルゴーニュ品種なら温暖な味になる。この地にふさわしい品種はまだ残っているはずです。



 リムーで好きなのは赤です。カバルデスやマルペールより山のワインですから、味は基本的にメリハリが強くゴツい。特に中央から北東地区は暑いのでそうなります。脂肪の少ない肉のステーキな感じ。しかし300メートル以上と標高の高いオート・ヴァレ地区は別です。土壌も石灰質になります。ここでは山ワインらしいメリハリ感に加えてしっとりしなやかな質感も備わった伸びのある冷涼な赤ワインが出来ます。私が注目したいのは、人気の高いこの地のIG Pピノ・ノワールではなく、AOPの赤。つまりメルロ、カベルネ・フラン系ブレンドの赤。一番マイナーな存在ではありますが、こうした隠れた宝を見つけるのが楽しい。

□■ミネルヴォワ・ラ・リヴィニエール

Img_0208
Img_0211
Img_0213
▲ミネルヴォワ・ラ・リヴィニエールは場所によって、シスト、砂岩、石灰岩があり、それによってずいぶんキャラクターが変わるのですが、それでもゆるぎない自信や余力感はすべてに共通。これぞグラン・クリュです。


 1999
年にラングドック最初の村名付きアペラシオンになり、ラングドック委員会がグランクリュ制定に動き始めてからも不動の候補、誰もが文句なくラングドック最上のアペラシオンと評価するのが、ミネルヴォワ・ラ・リヴィニエール。クロ・ドラもこのアペラシオンです。

 産地を車で回りました。今回はシトロエン2CVです。何故ミネルヴォワ・ラ・リヴィニエールがそんなにいいのか。だいたい中心的な標高は150メートルから250メートル、最高標高地点は500メートル。畑は400メートルぐらいまであります。産地の面積は2700ヘクタールありますが、写真を見て分かるとおり、畑は点在するのみで、畑面積は400ヘクタールしかありません。全体として南向きのなだらかな丘。地質は標高が高いところにわずかにシストがあり、次に砂岩、次に石灰岩。降水量は550から600ミリ(ドメーヌ・ド・ルースタル・ブランのワインメーカーによれば。アペラシオンのホームページによれは400から500ミリ)。品種構成はシラー、グルナッシュ、ムールヴェードルあわせて最低60%、そのうちシラーかムールヴェードルが最低40%。知る限り大半のワインがシラー主体。確かにそれらの客観的データは味わいに出ていると思いますが、優れている理由には直結しません。モーゼルやヴァッハウやコート・ロティやプリオラートのように写真映りのよい、見ただけですごさが伝わる畑ではなく、意外に茫洋としています。

しかし、確かにワインは優れている。パワーが違う。スケールが違う。余韻が違う。そして多くのワインが垂直的です。親しみやすさ無し。態度が大きい味。唯我独尊感、傲岸不遜感がいかにもグランクリュです。

 このアペラシオンでは毎年、あちこちから何人かのジャーナリストやソムリエを集め、生産者と一緒になってブラインドテイスティングする『ル・リヴィナージュ』というコンテストを行い、優れたワインを選出しています。これはプロモーションのためになるだけではなく、44軒の生産者がアペラシオンの個性を包括的に捉え、自分のワインに生かす機会にもなります。ミネルヴォワ・ラ・リヴィニエールの生産者たちの結束は固く、皆が助け合うところが他と違うと聞きました。皆が未来志向で、ラングドックでは珍しく、農家の子供が都市に流出せずに実家で働くそうです。ミネルヴォワ・ラ・リヴィニエールは高く売れますから、やる気も出ます。

  選ばれた9本のワインは、若干疑問なものもありますが、それでも全体として圧倒的なパワー感。ぐいぐい迫ってきます。香りは鮮やかで直線的で、タンニンも酸も強い。この酸の迫力も特徴です。だからゴリゴリした味になりやすい。前出の生産者は、「マセラシオンしすぎないことが大事だ」と。「カリニャンにM C法を採用してますか」と聞くと、「去年から始めた」。とにかくうまく制御しないと暴れてしまうワインだと思います。

Img_0217

Img_0230_2
▲おすすめはこの4本。ミネルヴォワ・ラ・リヴィニエールはスケール感と共に強固な芯があることが重要です。



  このテイスティングが行われたのはシャトー・ド・グールガゾー。ここのワインもル・リヴィナージュに選ばれていました。シラー80%、ムールヴェードル20%、アペラシオンの規定から推察されるのは、ラ・リヴィニエールは非グルナッシュのワイン、ということ。それをある意味極端な形で具現化しています。とてもタイトな、すくっと立ち上がる味わい。単体で飲んでいるとそれほど強いとは思えないのに、他のアペラシオンのワインと並べて飲むと、その圧倒的パワー感が理解できます。かっこいいワインです。

 このワイナリーが会場になるのは当然です。1980年代から、独立したクリュのアペラシオンに昇格させるべく尽力してきたのが、このシャトーと協同組合だからです。ミネルヴォワ・ラ・リヴィニエールのファンなら(日本でもこのアペラシオンはさすがに有名ですからファンもいるはずです)、このシャトーに対してしかるべき敬意を払うべき。しかし日本には輸入されていないと思います。というか、誰もこのシャトーの貢献を知らないでしょう。歴史的に重要で、味がアペラシオンの本質に即しており、値段も他と比べて案外安い、となれば、日本でも知られていいと思うのですが。

 

□■ヘリコプターでリブザルト

Img_0282

Img_0294
Img_0296
Img_0303

 ヘリコプターで上空からリヴザルト地区を見ました。畑の割合は少なく、手付かずの自然が沢山残っています。乾燥した土地なので、畑は水が溜まりやすいところにあります。それでも水が少ないですから、ルーションの平均収量は2016年で26hl/ha。これでは安いワインを造りようがない。ルーションからペイドックの単一品種ワインを望むのは間違いです。
 ラングドックでさえ安ワイン産地という偏見に苦しんでいます。しかしルーションの人に言わせると、「ラングドックは降水量も多いし土は肥沃なところも多いし比較的平地だし、大量生産に向く」。ルーションは、明らかに高級ワイン産地ですし、ラングドック以上にそういう方向で訴求しています。
 ランチはメゾン・カーズのエマニュエル・カーズさんと一緒だったので、日本での売れ行きについて聞いてみると、「安いワインしか売れない、EGO600本だけだ」と。ルーションの高級ワインに特別な価値を抱いている人は少数派。カーズは1997年にビオディナミへの転換を始め、05年には全体が認証を取得した、ラングドック・ルーションにおけるビオディナミの先駆者であることをもっと打ち出すべきです。「認証ビオディナミワインをこれだけの規模で作っているワイナリーはない。あなたは地球環境のため、人類のために尊敬に値する仕事をしている」と言うと、「わかっている」と。それがカーズのブランド価値です。
 安いオーガニックワインというだけでは、ラングドックにはコスト的に勝てません。フランスの田舎町の小さなスーパーでも必ずジェラール・ベルトランのオーガニックワインは売っています。日本でもファインズがそれらベルトランのネゴシアンワインを売るわけで、ますますメゾン・カーズにとっては、価格と量だけではない価値の訴求が必要です。カーズさんは、メルシャンは今はカーズの出資者だ、と。それは素晴らしいことです。つまりメルシャンはビオディナミのサポーターであるわけで、シュタイナーの唱える人類の霊的覚醒への道を日本において推進したいと考えているからこそパートナーになったのでしょう。メルシャンの人たちはカーズのワイナリーに頻繁に来て指導されていると聞きました。世界屈指の技術力を持つメルシャンですから、これから今まで以上にカーズのワインの質が向上するでしょう。実際、最新ヴィンテージは数年前とは比較にならないほど美味しくなっています。当然メルシャンの日本のワインもビオディナミになっていくことを期待します。
 しかしカーズのラベルデザインは中身のワインと関係ない雰囲気です。なんとかしなさい、と言うと、既にラベルデザインの改善計画はスタートしているとのこと。見ただけでビオディナミのスピリットが感じられるようにならないと。今でも紙やインクにはこだわっているそうですが、それは遠目で見ただけでは分からないし、自己満足になりがち。ラベルデザインはメッセージなのです。カーズは毎年日本に来てジャーナリストを集めて意見を仰いでいると聞きました。日本のワインジャーナリストの方々はビオディナミに精通していますから、畑やセラーや販売においてどうすればいいかの指導はされているはずで、私が付け足すことはありません。カーズは本当に尊敬すべきワイナリー。日本でしっかりとした地位を築いて欲しい。言うまでもなく、日本はビオディナミワインに関しては世界のリーダーです。店でこれほど多くのビオディナミワインを見かける国がどこにあるでしょう(オーストリアもありますが、まあそれは本国だから)?カーズのワインが一般家庭に浸透することで、高次元の精神へと日本人が導かれることになる。メルシャンが目指しているのはそれだと思います。
 ところでエマニュエル・カーズさんは「今日は君の好きなエメ・カーズの1978年を持ってきたよ」と。以前にヴィニュロン・アンデパンダンのブースでそのワインを飲み、私は彼に「ああ、うまい。会場で最高のワイン。これが試飲の最後。これを飲んだら他は無理。もう帰る」と言いました。それから彼とは会っていません。よくそんなに以前のことを、ふらっとブースに来て「うまい」と言って帰っただけの人とその人が好きだったワインのヴィンテージを、覚えているものだなと感心しました。

□■リヴザルト、シャトー・サン・ミシェル

Img_0257
Img_0269
Img_0259
▲下はランチに出てきた、ルーション名物、エスカルゴの網焼きです。

 リヴザルトの生産者が集まってのテイスティングはシャトー・サン・ミシェルで。このシャトーのワインはなかなか出色です。特に樽を使っていない中間価格のシリーズ、マス・サン・ミシェルの赤、そしてロゼが見事な出来。2017年から認証オーガニックです。ちゃんと熟した味。重心は下で、適度な垂直性があり、アルコール臭くないし、苦くない。そうあって当然なのですが、実際にはそんな基本的なこともなかなか得難いものです。ルーションは焦げだ風味が出やすく、それが樽で強められるワインが多い。そこに注意してワインを選ばないといけない。値段と樽が比例する現在のフランスワインの主流的考え方は困ったものです。
 私は屋外で太陽に当たっていると疲れてしまうので、セラーのほうで休んでいると、隅にオーナー夫妻が昔のMGのコンヴァーティブルの横に並んでいる写真を発見。その下にはミニカーのコレクション。するとオーナーが来たので、「MGを持っているのですか?」と聞くと、「いや、アルファ・ロメオ・ジュリアがある」。おお、なんと!さっそくガレージに連れていってもらいました。そこに収まっていたのは、1960年代後半の大ヒット作、デザイナー、ジョルジェット・ジュージアーロの最高傑作でもあるジュリア・ベルリネッタ1600です。下にもぐってみると、アルファ伝統のダブル・ウィッシュボーン前輪サスペンションが見えます。オーナーは「後輪はリジッド・アクスルだ」と。明らかに乗り心地は悪そうですが、ダイレクト感があるはず。私は昔、前輪ダブル・ウィッシュボーン、後輪ド・ディオン(リジッドの進化形ですね)の車に乗っていたので、見ているだけでそれを思い出します。そしてボンネット開けてもらうと、往年のDOHCエンジン。シンプルで機能的。シートに腰かけてみると、クラッチとブレーキとアクセルが現在の乗用車からすれば考えられないほど近接していて、かつ同じ面にあります。昔あったドライビング・シューズがなぜあんなに細身だったのか、理由が分かります。それにしても美しく、ダイナミックかつチャーミングで、見ているだけでわくわくするデザイン。さすがジュージアーロ。ほんと、60年代にデザインされた車は素敵です。私も買えるものなら買いたい!その時は、1600もいいですが、より軽量でハイチューンの1300

Img_0309

□■レ・ザスプル、テラス―協同組合

 日本でルーションワインといえば筆頭で名のあがるラファージュのおかげで知名度の高い産地、レ・ザスプル。そこに行く途中、車の運転手がとことん道に迷い、車内では目的地にいつになっても着けないことから怒号が飛び交っていました。すると、トイレに行きたいという人が「ここで止まれ」と。そこは偶然、テラスー協同組合でした。

Img_0351
▲熟成リヴザルトは好き嫌いがあるとは思いますが、一度その魅力にはまると、これは紛れもなくラングドック・ルーションの至宝だと言いたくなるはずです。



 私だけはテラス―協同組合のことを知っていました。1932年に創立され、70軒の農家、800ヘクタールから成るワイナリーです。ここのリヴザルト・オール・ダージュ18年は大傑作中の大傑作。VDNファンでこのワインを知らない人はモグリと呼ばれてもしかたないぐらいの存在。昔ルーションワイン委員会の当時のディレクターと食事していた時に熟成タイプのVDNの話になり、彼はこのワインを「ルーションを代表する傑作。みんな知っているけど」と。以前ここに来てこのワインをせっかく買ったもののペルピニャンで盗難に遭い、以来ずっと忘れることはなかったワインです。

  他の人はトイレに行くだけなのに、私はなんたる幸運と思い、しっかりお買い物。複雑で高貴。凹凸がない整った形。熟成していても失われないビビッドな力強さ。そしてイキイキした酸。そのあと、目的地でのテイスティングでも登場。それを飲んだある人は、「これはすごい。欲しい。田中さん、あなたさっきこれ買っていたでしょう」。「ええ、もともと美味しいと知っていましたから」。「くっそー」。こういうワインは日本にはなかなか輸入されません。VDNだし、高いし、協同組合だし、、、。皆さんもフランススペイン国境地帯に来ることがあれば是非テラス―協同組合に立ち寄りましょう。

Img_0361_2

 2時間半迷った後、レ・ザスプルの試飲会場に。ここでは素晴らしい白を見つけました。Chateau de CorneillaCavalcade(写真は赤のほう、珍しくシラー主体ですが、これもいい)。ルーションでは極めて珍しくMLFをしているワインです。ふっくらとした果実味があり、重心が下で、流速が遅く、複雑で、SO2を感じない。こういう白ワインが欲しかった!ルーションの白は酸のフレッシュさのためにMLFしないのですが、ワインの味が固くなって料理に合いませんし、SO2を沢山入れることになってスケールが小さくなるし、香りが立たないばかりか頭が痛くなる。グルナッシュブランやヴェルメンティーノは元々ソフトでクリーミーで酸が少ないことがいいのだから、無理やりロワールみたいな酸にするのは間違いです。そんなに高い酸が好きならルーションを買う必要がない。しかし往々にしてルーションの白ワインのお決まりの宣伝文句は、「ルーションとは思えない酸のフレッシュさ」。ルーションらしいことがプラスだと思われていない。ですから今回数十本の白を試飲しても、自分からすればほぼ全滅。固い酸っぱい小さい重心が上。アルコールを下げようとして早摘みして小さな味のワインにしても、アルコール度数はそれでも13.5度はある。アルコール自体のスケール感が果実味のスケール感を上回るから、結局はアルコール臭いワインになる。しかし皆それがいいと思っているからMLFなしのワインばかりなのでしょう。

  このワインももちろん輸入されません。“らしくない”ワインが数千種類あっても“らしい”ワインがほとんどない状況では正当で健全なワインの理解につながりません。“らしい”ワインはストーリーもないし、ワインのプロはそういう基本ワインなど飲み飽きてしまっているから、珍奇なワインのほうに惹かれるのはものすごく理解出来ます。しかし我々は基本ワインを飲み飽きていないばかりかそれを知りません。

 レ・ザスプレで我々消費者が知るべき大事なことは、それが199ヘクタールあることでも1977年にAOCになったことでもなく(それを知っている人は多い。そういうデータ暗記量とワイン通度合いが比例すると思われていますから)、それがねっとりとした柔らかく濃い黒系果実味と低い酸をもつことだと思います。全体に粘土が多い土壌ですし、実際に畑に行ってもシストはあっても石灰はない(つまりモーリー・セックの東部の味に似ていて当然)。

  とすると、このエリアで造られる白ワインがどのような味であるべきなのかの基本的な理解が得られるはずです。もちろんロワールのシュナン・ブラン的な味ではなく、どれほど少数派であっても、Chateau de Corneillaのような味のほうが正しいのだと思います。

□■ルーションのアンフォラのワイン

Img_0359_2

 ルーションの中でも最高価格帯に属するワインがこれ。建築家のワイナリー、ドメーヌ・ド・ラルシテクトのEarthです。瓶からして高そう。普通のキュベは16ユーロ程度と普通の値段ですが、このアンフォラ発酵ワインは140ユーロ。生産者自身、少々照れながら、「ラグジュアリーマーケット用ワインだから」と弁明。このような商品に生産費用と価格のリニアな関係はありません。

 美味しいワインです。外殻の境界線がなく広がる味わいはいかにもアンフォラ。ゆったりと漂う流れが心地よい。そしてそうと言われなければアンフォラだと分からないピュアさ。昔と異なり、最近のアンフォラワインは土臭くなりませんね。隣にいたRVFのジャーナリストもしきりに感心してました。しかし値段を聞くと・・・。

 このような「ラグジュアリーマーケット用アイコンワイン」はロバート・パーカーから高い点数をもらって意味があります。しかし92+。微妙です。「アンフォラから直接ピペットでグラスに入れたサンプルだったからかな」。たしかにこの重量級スペシャルボトルから飲むほうが点数が高くなりそう。しかしパーカーもバカではありません。このワインはポテンシャルはありますが、まだ未完成。スケール自体は値段からすると小さめなので、「小さなアンフォラですね」と聞くと、たったの160リットル。やはり600ぐらいは必要かと。小さいアンフォラは酸素が多すぎてワインに生命力が失われると思います。特にグルナッシュは弱い。また下方垂直性が不足するので、「セラーの床に置いただけでしょう」と聞くと、「そう」。「使用前にアンフォラにどういう処理をしましたか」と聞くと、「何もしてない」。誰かドメーヌに行って指導してきて下さい。高いワインが点数が低いと逆効果。さすがにラグジュアリーマーケットなるワイン消費者も意図を見透かしてしまう。建築家として貯えた資金をどんと投入したに違いないのに。私も改善アイデアを出してきましたが。

 この手のワインはフォーミュラが確立していないので、皆ひとりひとり試行錯誤。世界アンフォラワイン連絡会みたいものがあれば、もっと情報交換の場を開催したほうがいい。研修場所はトビリシが順当でしょうが、世界のアンフォラ(というかクヴェヴリ)ワインの消費の中心地と言っていいほどになった東京もいい。土地とブドウ品種の違いとクヴェヴリ用粘土の原産地の関係とか、焼き方の関係とか、陶芸大国日本でこそ出来るシンポジウムのテーマでしょう。ほんと、今どき、アンフォラで発酵しました!というだけでは意味がありません。ファインチューニングして完成度を高めていかないと、流行りもので終わってしまう可能性だってある。それは絶対に避けねばならないシナリオです。

 「ラグジュアリー・マーケット用のアイコンワイン」をめぐる議論はもっと深められねばなりません。格付け1級ワインなしのボルドー、モンラッシェなしのブルゴーニュ、、、。ちょっと考えられません。それらはまさに産地のイメージと付加価値を決定するアイコンですが、しかしそれらは永続的な超越性を保証する、歴史によって実証されてきたテロワールという実体的な裏打ちがある。アイコンワインはアンフォラで発酵したからアイコンになるわけではなく、値段を無理やり高くしたからアイコンになるわけでもないと思います(そうとも言えない例は新世界にあるにせよ)。

 ではラングドック・ルーションにおけるアイコンワインとは何か。今回繰り返し触れているグランクリュの制定は、産地全体を水平的差異構造から垂直的位階構造へと転換していくための方策です。アイコンワインがあるとすれば、産地全体の戦略に則った形が望ましい。つまり、AOPコート・ド・ルーションからではなく、近い将来グランクリュとして公式に認定されるであろうブートナック、ラ・リヴィニエール、ラ・クラープ、テラス・デュ・ラルザック、ピク・サン・ルー、モーリー・セック、コリウールという七つのAOPから誕生しなければなりません。私はこのような典型的フランス的貴族社会的思想には必ずしも同意しませんが、日本においても高級ワイン消費とエリーティズムは結びついているようですから、客観的・経済的にはこの方向性でいい。しかしそれらが本当に実体的な裏打ちとなるだけの土地であるかどうかは歴史が決めること。今回いろいろとテイスティングして、ブートナックとラ・リヴィニエールは紛れもなくそうだとは思いましたが。

 アイコンワインがないことがいい、という考えもあります。例えばロワールや南西のワインは、アイコンの象徴価値を間接的に消費するというより、食卓における実質的な消費にしっかりと支えられている。しかし実質的な消費の前提は、主体的な選択を可能とする知識です。日本でラングドック・ルーションのワインに対する知識が深まり、誰もがそれぞれのAOPまたIGPのキャラクターを理解し、適材適所でワインを選べるようになったなら、それが私にとっての理想像です。いや、誰もが、とは言いません。プロならば、です。私もあと10年ぐらいこうしてテイスティングしていければ、少しは見えてくるかも知れません。

 私はアイコンワインに関して、上記ふたつの基本的スタンスとは別の考えを持っています。アイコンとは聖画のことです。聖画そのものに祈ったら偶像崇拝です。しかし第二ニカイア公会議で、聖画は描かれた対象を崇拝する手段であるとされました。絵の向こう側にあるものと信徒を結びつける役割を果たすとみなされるから意味がある。現在のアイコンワインは、それじたいが崇拝の対象にしか見えません。ないし、それ自体を崇拝させるべく造られたとしか。つまり偶像崇拝です。アイコンワインなきワインは、ひとりひとりによほどの覚悟がなければ無宗教になりがちです。本当のアイコンワインは、公会議で認定された通りの意味でのアイコンでなければなりません。

セミナーとイベント

□■INRAによる新しい耐病性品種

Dsc05943

Dsc05940
Dsc05944

▲ワイン生産大国の地位をフランスが維持することができるひとつの理由は、このINRAの存在。品種ごとの特徴をチェックするのはよいとして、それらのブドウはすべて基本的にはINRAのひとつの畑に植えられています。どんな土なのかと聞くと、石灰質ローム。異なった土でも実験しないと、それがワインとして優れているのかどうかは確実にはならないではないか、と言うと、その実験はこれから、とのこと。それにしても、下写真で一目瞭然のように、新しい品種のカビ耐性は見事なものです。

 ナルボンヌにあるフランスのブドウ研究機関INRAでは、うどん粉病とベトカビ病に耐性のある新しい品種の開発が行われています。フランス農地の3%を占めるブドウ畑で20%の農薬が使われ、その80%が防カビ剤なのですから、環境と国民の健康を守るためにも極めて重要な取り組みです。
  テロワール&ミレジメの中で行われた、IINRA実験農場ペシユ・ルージュの科学者たちによるセミナーで、彼らが新たに作り出した耐病性品種ワインを試飲することが出来ました。そもそも耐病性品種をどう作るのか。もちろん遺伝子組み換えではありません。うどん粉病に全くかからない、そしてベトカビ病にも強い耐性を持つアメリカ南東部の品種、ヴィティス・ロトゥンディフォリアのマスカディーニョとヴィティス・ヴィニフェラのマラガ・シードリングを交配します。その子供とカベルネ・ソーヴィニヨンを交配。その子供をピノ・ノワールと交配、その子供をグルナッシュと交配、その子供をセミヨンと交配、その子供をフェールと交配、その子供をさらにフェールと交配。このようにして、ヴィティス・ロトゥンディフォリアの耐病ゲノムを維持したまま、その血を薄めて、遺伝子配列的には98.7%がヴィティス・ヴィニフェラの品種が出来上がりました。これはひとつの例で、それが写真のロゼになりましたが、それだけではなく、いろいろなヴィティス・ヴィニフェラ品種との交配によるいろいろな品種が作られています。
  ヴィティス・ヴィニフェラの血が濃くなるに従い、味に立体感と骨格が出てくるのが興味深い。余韻も向上。アメリカ品種は香りの問題ばかり言われますが、私はそれは個性の一つとだと積極的に捉えています。ただ前記の点は問題です。
  16種類飲み、いくつかは大変可能性があると思いました。ドイツでは赤の交配品種はタンニンが強く色が濃いものを多く見かけますが、今回の赤は、フェールやグルナッシュの影響が強く、ゴリゴリしてません。フンワリしてとてもグルナッシュ的なものもあり、すぐにも実用化できると思います。
  せっかく作っても栽培されワインにならなければ無意味。これからどういうロードマップがあるかを聞くと、I NA O次第だと。認可品種にするか否かの決定過程にI N R Aは関与するのかと聞くと、ない、と。これは時間がかかりそうです。ブドウのため、農家のため、消費者のために、すぐにアクションを起こして欲しい。そしてヴィティス・ヴィニフェラ98.7%ても完全な耐うどん粉病性があるなら、まさに日本のための品種。すぐにでも輸入して栽培実験を始めて欲しい。硫黄と銅に依存する農業から脱却する道を皆で真剣に模索すべきです。まずは消費者が有名品種名でワインを飲む悪しき習慣をやめないと、どれほど素晴らしい品種が出来ても、売るすべがありません。

□■Chateau de Pennautierでの南フランスワイン・ソムリエコンテスト

Img_0058_2

Img_0065
Img_0073_2


 カバルデスのChateau de Pennautierで、南フランスワイン・ソムリエコンテストが行われました。このシャトーはヴェルサイユ宮殿と同じ建築家による豪華なもの。その中で最終審査。ひとりづつ、不意打ちで、あるアペラシオンについて10分スピーチ。全アペラシオンを相当詳しく理解していないと、人前で淀みなく10分喋れません。イギリスの人、上海の人、そして地元カルカッソンヌの最高級ホテル、オテル・ド・ラ・シテのシェフソムリエの3人がファイナリスト。スピーチは、あまりに当たり前ですが、地元のフランス人の圧勝。知識レベルが別次元。毎日その中で暮らしているのですから。しかし、このような当たり前の結果になるようなコンテストをしても市場開拓には今ひとつ繋がりません。フランスで最終審査せずともそれぞれの国で完結で十分です。日本のソムリエの方も当然いらっしゃるかと思いましたが、、、。いろいろお話を伺いたかったのに残念。日本のソムリエの方々は超絶的知識の持ち主ですし努力家ですからこのようなコントストは楽勝でしょうに、ラングドックには興味が薄いのでしょうか。ちなみにスピーチはフランス語か英語です。ウィットとユーモアを交えながら即興でそのアペラシオンについて外国語で話すのは大変です。上海のソムリエを見ていてかわいそうになりました。日本人はどうなのでしょう。昔は外国語がへただと言われていましたが、最近は東京で行われる試飲会で海外の生産者さんに対して来客の方々が流暢にいろいろな外国語で話しているのを見かけますから、もうなんの問題もないのではと思います。
 ちなみに私のテーブルには日本でもお馴染み、Hecht&Bannierのワインメーカーが。日頃からあの独特の落ち着き、淡々とした中の繊細なディテール感、ソフトな広がり、アタックより余韻重視のスタイルがどうやって生み出されるのか気になっていたので絶好の機会。それはブルゴーニュ樽での2年という長い熟成が要だとのこと。確かにブルゴーニュ樽の味がします。それに、ラングドックの人ではなくボルドーの人。道理で典型的なラングドックらしくはないわけです。それでいてラングドックでしかありえない味を、他とは違う形で作り上げたのですから大した才能だと思います。直接話を聞くまでは、ずいぶん外部の目を意識したワインだな、ちょっと苦手だな、と思っていたのですが、実際に生産者さんに会って考えが変わりました。外部の目を意識したワインではなく、外部の目でとらえなおしたワインだったのです。それなら評価軸が変わってきます。
 このような南フランスをテーマにしたコンテストは、ソムリエのみならずショップの人向けにも、どんどん開催してもらいたい。日本で、です。

□■コリウールのセミナー

Img_0244

  今までどうしても理解できなかったことがありました。いろいろな人に聞いても釈然としない。それはバニュルスとバニュルス・グランクリュの違いです。後者がグルナッシュ・ノワール比率が高いのは知っていますが、他の要件がある。今回はルーションワイン委員会長とアペラシオンの会長がいらしたので、聞いてみました。すると、それはグランクリュ申請ワイナリーの所有畑総面積のうち60パーセント以上にグルナッシュ・ノワールが植えられていることだ、と。つまりバニュルス・グランクリュはアルザスやブルゴーニュといった他のグランクリュと異なりテロワールは関係ない。畑を選ぶというのはそういう意味だったのか!しかしその人の畑の6割以上がグルナッシュであることと、個々のワインが高品質であることの間には何の関係もない!今は地球温暖化でグルナッシュよりカリニャンが注目されるような時代。バニュルス・グランクリュの規定は無意味であるばかりか誤解を招き、また将来の発展のためになりません。

  コリウールの現在のタイプ別比率は赤55、ロゼ23、白18パーセント。いつのまにかロゼがそんなに。日本以外ではロゼが人気ですから。私は日本がロゼブームに乗らなかったのは賢いと思っています。美味しいワインに当たる確率はロゼが一番低い。今回も修行だと思って3桁台の本数のロゼをのんでいますが、ほとんど時間の無駄です。

  ちなみにコリウールとエリアが重複するIG Pコート・ヴェルメイユの中に、私の大好きなランシオ・セックが含まれます。AO P589ヘクタールなのに対してIG P面積は白ロゼ赤ランシオ含めてたった7ヘクタールです。ランシオ・セックはなきに等しい。 またコリウール村に買いに行かないと。私が最も好きなロゼのひとつであるバニュルス・ロゼも!バニュルスで一番美味しいのはロゼです。他に誰もそう思っていないにせよ!

□■『ヴュー・ミレジム』、熟成VDNのマリアージュ

Img_0382

Img_0381
Img_0391

Img_0390
▲ランシオ系ワインは古典的フランス料理ではなく、四川や上海の料理と合わせると、食中酒としての本領を発揮するのではないかと思います。そうせずとも、これは単体で完成された味わいです。最後のディナーが酒精強化がテーマとは憎い演出だと感激します。

 ペルピニャンの著名なレストラン、『ル・クロ・デ・リス』で、各VDN生産者組合会長や生産者多数を集めて、熟成VDNとフランス料理のマリアージュ・イベント。メニューとワインリストは写真を拡大して見て下さい。

 ワインだけ味わっているなら、VDNファンとしては感激の連続。素晴らしいワインばかりです。しかしこれはマリアージュのイベント。正直、普通のフランス料理に熟成VDNを合わせても、ワインの風味が強すぎ、アルコールが高すぎ、そして何より糖分が多すぎて、料理の味がしません。

 フォワグラとミュスカ・ド・リヴザルトは順当です。しかしここでさえワインが料理を抑圧してフォワグラの質感が粗く、味が苦くなる。思わずこれはフランス産ですか、と聞きました。焼いた魚とリヴザルト・アンブレ、仔牛のローストにバニュルスは・・・、ご想像に任せます。ラギオールのチーズにモーリーは美味しいですが、添えられたプルーンのジャムなしでは難しい。デザートのチョコレートムースとバニュルスやモーリーを合わせると、ワインが妙に苦く固くなって、樽風味も遊離し、お互いに別々に味わったほうがずっと美味しい。困ったものです。VDNは、ポートと同じく、熟成させるとアルコールが目立ちます。果実味は落ちても、ミュータージュに使われる純粋なアルコールの味は落ちません。これが問題。熟成させていなければまだ果実味の部分で相性の可能性はあったとは思います。

 料理と合わせてVDNを楽しむことが不可能だとは言いません。食中酒としてVDNを再生させるには、フォーミュラを変えるしかない。現在の最低45グラムという残糖では多すぎ。現実にはもっと多く、80から110とかです。それを25グラム程度に下げれば使いやすくなるはずです。しかし現在の規定である収穫時の最低ポテンシャルアルコール15度のまま、現行の製法そのままで糖度を下げれば、ワインのアルコールが18度を超えることになる。となると、ブドウの収穫時期を辛口ワインと同じぐらいにして(辛口用ブドウより酒精強化用のほうが収穫は2週間ぐらい遅いそうです)、添加アルコールを少なくするしかない。それで何か問題があるでしょうか。つまり、現在のワインに加えて、VDNドゥミセックの規定を作ればいいと思います。

 そう言うと、皆で口を揃えて、「いや、それは伝統だから変えられない、法律で決まったことだからそれに従うのが大事」だと。では消費スタイルや料理の変化に合わせないで、役に立たないワインとなり、大切にしているその伝統が滅んでいって、辛口ワインの産地になっていいのか。さらには、「チーズやデザートに合わせればいいではないか」と言われました。しかしそうだとしたら、このマリアージュイベントの意味はなんなのだろうかと根本的な疑問を抱きます。

 フランスの農家は保守的で、人と違うことをしようとしないと、いつもワイン産地で思います、だいたい、何をすればいいか、より、出来ない理由を考える時の方が頭の回転が早くなる。法律は人が作るもの。名目的にはINAOは生産者が総意で決めたことを承認する機関であって、勝手に決まりを作って生産者に押し付ける暴力ではないはずです。

 ルーションの委員会も日本に来てワインジャーナリストや専門家を集めて意見を聞いているようです。彼らが今まで改善策と未来像を提案してこなかったとは考えられません。聞いて何もしないなら聞かないのと同じです。

 残糖分を下げれば酸化熟成タイプのVDNは紹興酒の代わりになる。それは美味しそうだと常々想像しています。「紹興酒が中国料理に合うなら残糖を下げたVDNも合うはず」と言うと、委員会の方が、「中国に行って紹興酒を飲んだが、VDNのほうが甘くて酸があるから紹興酒とは違う」。いや、私は現状のVDNと紹興酒が同じ味だと言っているのではないです。未来のためにどうすればよいかを考えてアイデアを出しているのですから、生産的な議論をしてもらいたい。ともかくポテンシャルとしてはアジア料理に対する適性はフランス料理よりあるはずです。

 もうひとつ手取り早い改善策は、ランシオ・セックをIGPからAOPに格上げすること、つまりリヴザルトやバニュルスAOPの中にランシオ・セックを含めることです。なぜランシオは甘口だとAOPで辛口だとIGPなのか理解に苦しみます。

 エマニュエル・カーズさんはミュスカ・ド・リヴザルトの会長なので、帰り際、「おいしかったですが、ワインが甘すぎて料理と合いません」。「確かに」。「ドゥミ・セックのVDNを作ってください」。「IGPなら可能かも」。「まずはそれで新規市場にあたりをつけてみないと、将来が危ういです」。ルーションの委員会によれば、アンブレタイプの生産は伸びているが、ミュスカは減少傾向だそうです。

 ところで私がVDNが好きな理由のひとつは、SO2が極小だからです。それはそうです。SO2なしでも高いアルコールで保存性が高まります。ある生産者に聞くと、「瓶詰め時にほんの少し、15ミリぐらいしか入れない。当然樽熟成前に入れたら熟成しないのだからVDNにならない」。SO2はワインにとって完全な異物ですが、ブドウのアルコールは仲間です。ルーションの場合、添加するアルコールはルーションのブドウから造られるそうです。その土地のものでなければアペラシオンの筋が通らない。イタリアやスペインのブドウからアルコールを造るポートは見習ってほしいです。

あとがき

 いいかげん、ラングドックを北方品種ワインの廉価版を造る大量生産産地とみなすのをやめてほしい。私はまずそれを言いたい。

ラングドック・ルーションはフェニキア、ギリシャ、そしてローマの時代からの長いワイン文化のある産地。地中海沿岸らしく、料理とワインを共に楽しむ暮らしがある産地。そして気候と土壌に恵まれた産地。フランスワインを北から見るのではなく、むしろワインの伝播経路に従ってラングドック・ルーションから見れば、フランスワインのおもしろさが違う視点で理解されてきます。いや、そちらのほうが正しい理解だと思えるのです。

 しかしラングドック・ルーションはあまりに広大で、あまりに多岐にわたるワインを算出しているがゆえに、その膨大な情報量を前にしり込みしてしまう人が多いのも知っています。そこでおじけづかず、いったん扉を開けることができたなら、興奮の時が必ず訪れる。その興奮を味わうことができる最上の機会が、テロワール&ミレジメ・アン・ラングドックです。

« 日本酒の講座 | トップページ | 5月25日、ラングドック・デー »

ワイン産地取材 フランス」カテゴリの記事