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2018.06.01

5月25日、ラングドック・デー

 5月25日はラングドック・デー。知ってましたか?私は知りませんでした。世界中でラングドックワインのイベントが行われる日のようで、私は西麻布にある超高級フランス料理店『アズール・エ・マサウエキ』で行われたプレスランチに参加させていただきました。
 プレスランチに招かれるなどめったにない経験なので勇んで出かけましたが、住所を間違って控えていて、せっかくタクシーに乗ったのに住宅地の中の見知らぬ場所で降ろされてしまいました!遅刻してすみません。

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 和食器や和食材を生かした創造的フランス料理で知られる店ですから、プレゼンテーションはきれいですし、調理技巧は超絶的ですし、味は大変に繊細。フランスに行っても田舎町の無名のレストランで地元の人に混じって普通のフランス料理ばかり食べていて、家でも普通のフランス料理しかつくらない私は、これはいったいなんなんだろう、と目を丸くするしかありません。例えば写真の太刀魚。お椀の蓋を開けると中からスモークが出てきて、しばらくするとその霞が晴れて中からまんまるの銀色に光る月に見立てた太刀魚が漆黒の器を背景にして浮かび上がるという料理。なんと風流。藤原定家が喜びそう。私ごときはニンニク風味のオリーブオイルの中に入れて揚げてパセリとレモンをかけてがつがつ食べ、フォージェールの白か何かを冷やして飲むだけでしょうに。

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 さて、今回のメニューとそれに合わせたワインのリストは以下のとおりです。
■アミューズ
太刀魚のマリネ ホワイトアスパラガスのババロワ
ドメーヌ・ジ・ロレンス クレマン・ド・リムー ル・クロ・デ・ドモワゼル 2015
■前菜
リードヴォーとひしおのグラタン仕立て キウイ添え
シャトー・ダングレス ラ・クラープ グラン・ヴァン・ブラン 2015
マス・サン・ローラン ピクプール・ド・ピネ 2015
■魚
時しらずの猪ベーコン巻き 北海大あさりブールノワゼットソース
ドメーヌ・ド・バロナーク リムー 赤 2013
ドメーヌ・アンヌ・グロ・エ・ジャン・ポール・トロ ミネルヴォワ ラ・シオード 赤 2014
■肉
スモークした仔牛のロースト 花付きズッキーニのファルシー ソースタップナード
レ・トロワ・ネッサンス テラス・デュ・ラルザック 赤 2011
ジェラール・ベルトラン テロワール・コルビエール 赤 2014
■デザート
燻製シナモンと黒ビールのクラフティ
ジャン・クロード・マス ミュスカ・ド・サンジャン・ド・ミネルヴォワ
2016
 もちろんおいしい。しかしふと思うのですが、ここで「おいしかったです!」と書いても、読む人にとっては「ああ、そうですか、よござんした」で終わりですよね。私が読み手ならそう思ってしまいます。だってこういったお料理は一期一会で再現性がなく、天才しか作れない料理で、つまりは大多数の人の役に立たない情報だからです。
 ところで、こうした超高級フランス料理店に行く方々は果たしてラングドックワインをこの場で飲むだろうか。まあ多くの人はシャンボール・ミュジニー・レザムルーズとか飲むのでしょう。現状では、なんだか違和感があるな、と思う人も多いでしょう。

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 だから、あえてやっているのです。イベントの意図は明確です。高級・ラグジュアリー・先鋭的という文脈にラングドックワインを位置付けるということです。多くの著名ジャーナリストが揃ってこのイベントについて書けば、消費者は無意識にもその文脈を獲得する。どのみち大多数の人は細かい話は記憶しません。高級フレンチ=ラングドックワインという等号さえ意識してもらえば十分以上です。それは大切です。ラングドック委員会から来日した女性も冒頭のセミナーでクリュをはじめとする多くのAOPについて解説していました。日常消費用IGP主体の産地からAOP主体の産地へと衣替えしていくことが、生産者サイドの産業構造からしても消費者の意識としても必要です。スペインと価格競争してもラングドックの負けは見えています。いまどれだけの生産者が廃業へと追い込まれていることか。しかしいいニュースもあります。AOP化努力はそれなりに実を結び、日本への輸出量は減っていても単価はアップしているそうです。この方向性をさらに確固たるものにするには、こういった超高級フランス料理店で出てきても自然だと思われる真のグラン・ヴァン(それはおいしいというだけではなく、ある種のオーラがあるワイン)が20種類ほどは登場してほしいと思います。言うまでもなく、クロ・ドラをはじめとするジェラール・ベルトランの一連のエステートワインはそれを目指しているわけです。
 ラングドックの高級化が内在的な運動に由来するのではなく、既存のブランドに依存する形で行われるのだとすれば、私は釈然としません。たとえばバロナークとグロ&トロは、それぞれムートンとリシュブールという強力なブランドを利用したワインです。ラングドックファンとしては、それは恥ずかしい戦略です。グロ&トロが登場した時、イギリスの評論家は、まるでブルゴーニュみたいだ、と言って高く評価したそうです。方便としての有用性は理解するとしても、それは間違った考え方です。ブラインドで飲んでブルゴーニュみたいなミネルヴォワと、ミネルヴォワ以外の何物でもないミネルヴォワと、どちらが正しいワインなのか、ということです。
 こうして考えてみると、果たして「超高級フランス料理店」という文脈がラングドックらしいのか、という疑問が湧いて当然です。ラングドックはそういうノリの土地なのか。多分、違う。最高の食材をシンプルに調理したような料理のほうが、私は“らしい”と思います。例えば良質のジビエを囲炉裏端で焼いた時に飲むワイン、というお題が与えられた時、クロ・ド・ラ・ロシュやシャトー・パヴィではなく、ミネルヴォワ・ラ・リヴィニエールとかテラス・デュ・ラルザックの名を多くの人が挙げるようになるのが理想です。クロ・ド・ラ・ロシュはどうぞパリのミシュラン3つ星でお飲みください、と。ストレートな勢い、あれこれ考えすぎずいじくりすぎない鮮度感といった特質を忘れてはいけないのではないかと思います。高級な日本料理でもふたつの方向がありますよね、京懐石と江戸前寿司という。どちらがボルドーでどちらがラングドックなのか、悩むまでもないでしょう。

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 ところでこれはワインジャーナリストが集まっての会なのですが、せっかくラングドック委員会サイドと意見交換できる機会なのに、皆さん何も言いません。私と彼女の会話はこんな感じ。
・世の中スパークリングワインの需要は多いのに、AOPのスパークリングワインはリムー系だけ。そして主たるクレマン・ド・リムーの品種はシャルドネやシュナンであってラングドック品種でさえない。これはおかしいと思います。
「リムー以外でもスパークリングはありますよ。ペットナットも最近よく見かけるし」。
・いえ、それはAOPではないし、IGPですらない。ヴァン・ド・フランスですよ。私はラングドックとしてスパークリングワイン生産を後押しするべきだと思う。地中海品種スパークリングのAOPがひとつ欲しい。たとえばミュスカ系産地はどうですか。甘口ミュスカが売れずに皆困っているのは知っていますよね。彼らのためにスパークリング・ミュスカのAOPを作るべきです。フロンティニャンに行った時も、素晴らしい生産者がミュスカでは食べていけずにiPhoneの修理屋さんをしていますよ。おかしいでしょう、この状況は。フロンティニャンはラングドック最古のAOCなのに。
「え、フロンティニャン?ラングドック最初のAOCはフィトゥーでしょう?」
・それは赤ワインの最初です。フロンティニャンは36年、そのあとリュネル、そしてフィトゥーです。
「そうかなあ」。
・あなたが知らないなら、世界中誰も知らないってことですよ。まあ私はフロンティニャンの大ファンですから。
「私は海沿いのミュスカは甘すぎて好きではない。サンジャン・ド・ミネルヴォワが好き」。
・酸が高いですし、香りもすっきりしていますから、サンジャン・ド・ミネルヴォワが好きというのは典型的に現代的な嗜好だと思います。しかしフロンティニャンの歴史的な栄光と貢献を思えば、私としては当然フロンティニャンに相応の敬意を払うべきだと言いたいのです。
 あまり会話がかみ合っていませんね。しかし伝えるべきことは伝えられる時に伝えないといけない。というか、だれもかれもラングドックワインのことをまともに考えていないんだな、とつくづく思います。

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