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2018.07.09

Clos du Temple, Cabrieres, Languedoc

 ペズナスの内陸寄りに位置する標高480メートルのカブリエール。畑面積300ヘクタール、ワイナリー5軒に協同組合1軒というマイナーなアペラシオンですから、大多数の人は飲んだことさえないでしょう。

  ここはラングドックの中でも特に涼しいところで、山の麓にあるアディサンから登ってくると、気温差の大きさに驚きます。さらに興味深いのは日照。写真で分かるとおり、このあたりは雲がかかっていて激しい直射日光があまり差しません。ですから赤ワインは色が薄く、収量が多ければ青臭くなりがち。そのかわりロゼにはぴったり。生産比率は半々です。これほどロゼの生産比率が高いラングドックのAOPは他にないと思います。

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  ところがマイナーすぎて需要がなく、ジェラール・ベルトランが言うには、「協同組合はただでロゼワインをくれる。ラングドック最高のロゼワイン産地なのに。彼らはおろかだ」。ラングドックに詳しければ、どこのアペラシオンがテロワールのポテンシャルと実際の価格の差が大きいのか分かるはずです。いまやフランス最大のロゼ産地はラングドックであってプロヴァンスではありません。しかし日本ではラングドックのロゼなど存在しないに等しい。ただでもいらないと日本では言われるでしょう。いくらテロワールがよくてもマーケティングしないと伝わらないもの。消費者はむろん、プロでも受け身の人は多く、自分で探求しないと、だれかがマーケティングしてくれるのを待つことになります。そんなワイン人生で楽しいですか?皆さんワインの勉強をしているから、ラングドック全アペラシオンとデノミナシオンの中でどこがロゼの生産比率が高いかという数字は暗記していたりします。だとすればあと一歩問えばいい。なぜここはロゼなのか、と。そこにどんな意味があるのか、と。そうすれば需要が生じ、協同組合がただでロゼワインを放出するような「おろか」というよりかわいそうな状況を生じることはありません。

 

  ジェラール・ベルトランはこの地で谷の反対に位置するふたつのワイナリーを買収して合体させ、新しいエステート、クロ・デュ・タンプルとしました。畑を見渡す高台、写真撮影地点が、来年2月に着工予定(法的な認可プロセスが順調なら)のセラーの立地です。建築プランの最初から見ていますが、私のアイデアを取り入れて、天窓付き、そして非並行・非対称壁面、一部石積みです。とにかく牢獄のようにしない、というのがポイントです。楽しくない雰囲気のところからは楽しくない雰囲気のワインができます。

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 ジェラールはエステート・マネージャーに車の中から電話し、「いまから行く。ランチを用意しておけ」と命令。マネージャーは「はい、わかりました」。ジェラールは、「普通なら、ここに食べ物はありません、とか、できません、とか言うだろう。しかし彼は何も命じても、はい、と応える」。ここで「できません」とネガティブな答えをしたら間違いなく左遷なのでしょう。麓の村で買ってきたというソシソン、生ハム、パン、チーズ、トマト、そして有名なレジニャンの玉ねぎ、メロンが用意されていました。すごくおいしい。さらにクロ・デュ・タンプルの敷地内にある野菜農園でとれたビオディナミのトマトとイチゴ。これはさらにおいしい。ところでトマトに塩を振って食べましたが、その塩はゲランドでした。ゲランドの塩をラングドックの食材にかけると、塩味と食材の味に一体感が生まれません。ゲランドの味は冷たいからです。いろいろなものの気配を揃えることは大事なのです。

  畑を見ながら相談していたのは、発酵タンクの形です。最終的な判断はまだですが、今まで見たこともない形になるはずです。もちろん意味のある形をしています。翌日テクニカル・ディレクターに「なんであんな形なのか」と聞かれたので、「あれは・・・を意味している。それプラス、消費者への印象付け。ワインビジネスは中身だけではなく見た目も大事。多くの人は飲んだだけではわからないのは知っているでしょう。飲む前からの方向付け、インパクト、話題性、革新性を考える必要があります」と答えました。なぜならクロ・デュ・タンプルはロゼワインに関するジェラール・ベルトランのフラッグシップになるからで、象徴価値を大いに備えている必要があるのです。すると、正しい「象徴」でなければなりません。

 

  写真の赤い床の上のふたつの石積みこそ、私が今回ラングドックに来た最大の理由。石積みの違いによるワインの味の違いの実験です。

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  右が正しく左が間違っています。右のワインを飲んだあとでは左は飲めたものではありません。つぶれていて苦い。自分で遺跡を調べたところ、ギリシャ人も古代ユダヤ人もローマ人も正しい石積みを知っていました。当たり前ですね。フランスでも中世の途中までは伝承されていたようですが、そのあと喪失。私のような門外漢でもわかる違いなのに、なぜ700年間も誰も気づかないのかと思います。うまく石を積めば石積みセラーの味は最高で、それができないならコンクリートのほうがましです。クロ・ドラのセラーは私がチェックする前に完成していたので、それを見て「なんじゃこりゃ!」と怒りました。石積みが間違っているからです。しかしそれが間違いだと証明するためには、このような実験をしてワインをテイスティングしてもらわないといけない。クロ・ドラの時は「そうは言ってももう出来てしまったものはしかたない。次はちゃんとやる。二度同じ間違いはしない」とジェラールが言っていたので、今回の実験になったのです。もちろん彼も納得。しかしこれは危険な経験で、いったん正しい方を知ってしまったら、既存のすべてに納得できなくなってしまいます。自分の知る限り、近世以降に造られた石積みセラーはすべて正しいものではありません。

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クロ・デュ・タンプルは特別にデザインされた瓶に詰められます。下が四角く、上が丸い形です。建物は土台はおよそ四角いものです。「ワインは建築である」という私の考えからすれば、当然瓶の底は四角くなければ不自然になります。その上に柱が立ってその上にドームが載る。「タンプル」らしい形です。

  このようにしてみると、ワインにはまだまだ考えねばならない事柄がたくさんあるとお分かりになると思います。そしてすべては関連しあっています。あるひとつのステップだけ、要素だけを抽出してよしあしを決めることはできません。

  クロ・デュ・タンプル完成までのストーリーを本にしたいとジェラールは言っています。楽しみにしていてください。

 

 

 

 

 

  

 

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