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2018.07.19

Domaine Charton, Mercurey, Bourgogne

 コート・シャロネーズの赤は最近おいしい。堅牢さとシリアスさのジヴリーもいい。繊細さと透明感のリュリーもいい。そして肉厚さと果実味のメルキュレもいい。それぞれキャラクターがはっきりしているし、何より価格が比較的手ごろだ。

10年前ぐらいまでは、コート・シャロネーズといえばクレマン・ド・ブルゴーニュが有名だったし、リュリーの白の評価が特に高かったと思う。赤は、タンニンが粗くて薄くて抜けが悪いといった印象ではなかったか。気候変動がコート・シャロネーズの赤にはプラスに働いているかも知れないし、何より生産者の意識が高まっている。ドメーヌ・シャルトンの若き当主ヴァンサン・シャルトンに、「なぜメルキュレは最近揃っておいしくなったのか」と聞くと、「世代交代した若い生産者たちが一緒になって盛り上げているから」だという。それは他のドメーヌでも聞いた話だ。

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あか抜けて品のあるメルキュレのドメーヌの名前を挙げよ、と問われれば、たぶん多くのメルキュレ・ファンはドメーヌ・シャルトンを思い起こすだろう。現当主ヴァンサン・シャルトンの祖父はブシャール社の社長を務めた人。ブシャールのメルキュレの畑はその後ルイ・マックスに買われた。シャルトン家もメルキュレにいくばくかの畑を所有し、ブドウを栽培してはいたが醸造はしていなかった。しかし父親ジャン・ピエールはワイン造りまでしっかり面倒を見たいと思い、ワイン生産者に。その後ルイ・マックスの畑の一部は日本人イザワ氏の手に渡る。イザワ氏の資産管理人はパリに住んでおり、彼は2013年から2014年にはその畑をドメーヌ・シャルトンに賃貸しし、2015年には彼らに売却した。数奇な運命である。しかし所有すべき人のところに畑が返ってきた感がある。

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ヴァンサンが父と共にワイン造りを始めたのは2008年、2011年からは彼単独で仕込むようになった。それからオーガニックを試してみたが、「エコセールから派遣される人たちは何も畑のことを知らないのにあれこれ指図するのがいや」で、認証を取る気はないが、実質はオーガニックで、彼の表現によれば「リュット・レゾネ+++」だ。あくっぽい雑味がなくしなやかに伸びる味わいに、その成果は容易に見て取ることができる。

メルキュレのテロワールについて聞くと、「南向き斜面は白い土でごつごつした味、北向き斜面は鉄分の多い赤土でエレガントな味」だという。メルキュレの畑は、大きく分ければ、北西から南東に抜ける村の大通りを挟んで二つの大きな丘(実際は相当複雑な形状をしているが)に位置している。温暖化にとっては有利な北向き斜面がピノ・ノワールに好適な粘土石灰質土壌であるなら、メルキュレの赤が最近おいしい理由も理解できる。その南西側の丘の中でも一級畑は東向き、村名畑は北向きが多い。日当たりが悪いところが村名畑なのだが、今ではむしろ日当たりが悪いことはプラスにさえ働く。全体として見た場合、メルキュレの村名赤ワインが一級ワインと比べて遜色がない理由のひとつもまた理解できる。

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メルキュレ村のワインは地域名ブルゴーニュも質が高い。このドメーヌのブルゴーニュ・ブランは、シルト・粘土質土壌の南西向き斜面に植えられた樹齢40年のブドウから出来る。地域名としては傑出したスケール感と力強さがあり、いかにもメルキュレらしい重心の低い粘り感が好ましい。多くの人がシャルドネに期待する特徴が見事に表現されているワインだ。一級クロ・デュ・ロワの白はさすがに繊細で上品で垂直的なのだが、つまり教科書的ワインテイスティングでの評価からすれば優れたワインなのだが、重心が高く、地域名よりはるかに固く、使い勝手は(特に値段を思えば)地域名のほうがいいのではないかと思う。これはワインを単体でしか評価しない人には分からないだろう。どのみちそういう人はモンラッシェ絶対主義だろうから、グラン・クリュを彷彿させるワイン=いいワインという価値尺度しか持っていない。そのような考え方の問題は、1、ならばモンラッシェだけ飲んでいればよい。2、とはいえモンラッシェは高価なので買わない。3、ましてレストランではモンラッシェはオーダーしない。4、なぜ多くのクリマがあり、何万種類ものワインが存在しているのか、理解していない。5、コート・シャロネーズは単に劣った産地としか映らない。6、食卓での機能性を理解していないために、料理に対して合うワインを選べない。私のような一般人からすれば、そういったブルゴーニュワイン通は迷惑な人たちだ。

常識として考えて欲しい。コート・シャロネーズのワイン、特に地域名は、鑑賞用ワインではなく実用ワインだろう。ならば実用ワインを評価するにふさわしい価値尺度で見ていかねばならないのであり、そこで超高級ワインとどれだけ似ているかなど、どうでもいい。メルキュレ村の地域名白ワインのプライスポイントは多くのカジュアルなフランス料理店にぴったりだ。有名な村の3万円の一級、10万円の特級をその場でふつうに飲んでいる人などごく少数。適切プライスポイントでいかに適切に機能するかが大事なのだ。これこそが重要なのだが、多くの人はブルゴーニュの白ワインを魚料理と合わせるだろう。大半の魚介類は重心が低く、フランス料理に登場するすべての魚料理は質感が柔らかい。だから岩だらけの表土の薄い斜面の上の畑から産出される白ワインは、固く、重心が上だという点で、好ましい相性とはならない。原理的に合わないワインを、そうと分かっていながらレストランで飲むのは、レストランが表現する崇高なマリアージュ芸術への破壊行為であり、ワインに対する冒涜である。私がドメーヌ・シャルトンの地域名白を一級白よりも評価する理由をお分かりいただけただろうか。

赤の地域名も興味深い。タンニンは少なく、酸もなく、骨格も弱く、ゆえに一般的な評価基準からすればしょうもないワインだとみなされるだろう。しかしそのような味であるがゆえに、タンニンで切るべき余分な脂肪がなく、酸が少なく、柔らかい質感の料理(煮魚等、そのようなものは沢山ある)には最高の相性となる。この厚みのあるフルーティさはいかにもメルキュレの地域名だし、この質感の洗練度と香りのピュアさはいかにもドメーヌ・シャルトンだ。

村名メルキュレの赤は南向き斜面の最下部のリューディ、シャピトルから造られる。重心が低く、ジューシーで、ゆったりした味わいと、スパイスや黒系果実のケーキのような香りが心地よく、メルキュレらしさが全開だ。20%は全房で発酵し、ピジャージュはまったく行わず、新樽25%で熟成という造りがセンスがよい。特に2016年は霜で相当な量のブドウを失い、通常1万本のところをこの年は4千本しか生産できなかったというだけあり、凝縮度が高い。和牛のシチュー等にぴったりだろう。繊細で酸が高く硬質なミネラル感のある重心が高いピノ・ノワールならありすぎるぐらいあるブルゴーニュで、こうしたキャラクターのワインは貴重だ。

収量が少なければいいというものでもない。1級ラ・シャシエの2016年はヘクタール当たりの収量38hl。確かに力強く、しっとりした質感はさすがだと思うが、どこかエッジが立ち、酸が固く、黒系スパイスの香りが重たすぎる。それに比べて2017年の収量は45hlと多いが、それが好ましい軽やかさと抜けのよさをもたらし、質感の細やかさと酸のまろやかさも調和がとれ、全体としてはるかに完成度が高い。これはコーヒーの粉と水の量のバランスと同じ話だ。ラ・シャイエを飲んで私は「クローン115の味がする」と言ったが、聞いてみるとたった1%のみが115だという。その割には独特の風味が目立つ。115は完熟させないとタンニンも粗く感じるように思える。115828777と同じ日に収穫したのなら、それは間違いだ。そのことはヴァンサンに伝えたし、彼も納得していたから、今年から意識してくれるのではないか。

メルキュレの中で最上の畑とされるクロ・デュ・ロワはさすがの出来。2016年独特のエッジやスパイシーもあるが、それがフローラルな香り高さとあいまって複雑さをもたらし、分厚い果実味に包まれてタンニンも目立たない。垂直的で伸びやかな、典型的に優れた一級畑の特徴を備えつつ、メルキュレらしいずっしり感があり、重心が低いのもいい。

どれを飲んでも知的な輝きのある、迷いのない味。現代ブルゴーニュらしいさらっとした冷たい個性になるかと思いきや、適度なところで踏みとどまってスタイル重視にならず、それぞれの畑の特徴が素直に表現されている。ヴァンサン・シャルトンは決して有名ではないが、これからもっと知られるべき存在だと確信している。

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