« Schauer, Sud-Steiermark | トップページ | VieVinum 2018, Vienna, Austria »

2018.07.18

Domaine de Clos des Rocs, Loche, Maconnais

 マコネは現在微妙な位置にある産地です。昔ならお買い得なブルゴーニュ白ワインとして、全白ワインの中でも最も安心できる存在だったのですが、今では相当に高価。とりわけプイイ・フュイッセをはじめとするクリュのワインは高い。それなら他にいろいろな選択肢がありますし、もはや白ワインといえばブルゴーニュでなければならないという時代でもない。クリュ・マコネはどうあるべきなのかを考えるために、久しぶりにマコネ地区を訪問しました。

Photo
▲整理整頓感のあるドメーヌの中庭。ワインの味もあか抜けている。


 プイイ・ロシェの生産者としてトップクラスの評価を受けるドメーヌ・ド・クロ・デ・ロック。フランスでル・ポワン誌のワイン特集号の表紙を飾ったことで、いまでは知らぬ人がいないドメーヌ。フランスのみならずイギリスで人気が高いのがよく分かる、クールで知的な味。クリマ違いで5つのプイイ・ロシェを作ります。それぞれ違う味なのは当然ですが、どれも帯に短し襷に長しの味。単一クリマワインではこうなります。ブルゴーニュ中単一クリマのワインばかりで本当にいいのでしょうか。ひとつひとつのワインについてコメントする気にはなりません。してはいけないとさえ思います。そうしてしまえば、クリマAがクリマBより優れているという話の方向にならざるを得ない。しかし、その視点そのものが間違いなのです。

Photo_2
▲裏手にあるクロ・デ・ロックの畑。写真を見て分かるとおりの盛り上がった丘で、いかにもおいしそう。

Dsc06550
▲畑の下にある樽熟成庫には石灰岩の母岩が露出している。その割れ目からブドウの根の先端が見える。これを見れば、ワインのミネラリティ―について理解できる。

 当主オリヴィエ・ジルーは、同じプイイ・ロシェの中で5つものわインを造る理由について、「それぞれのテロワールを生かすため、お客さんの好きなワインを選んでもらうため」と言います。以降は彼と私の会話です。
T「それはグランヴァンの思想ではない。グランヴァンは究極を求めるものだ。絵に喩えるなら、クリマは絵の具であって、それを理解した後に、より完全な形になるように構成しなければならない。クロ・ド・ヴージョに残る中世の巨大なプレスを見よ。あれでどうやって単一クリマワインを作れるのか。なぜブルゴーニュにおける歴史的なクリマの確定が単一クリマワインの生産とイコールになってしまうのか。だからドン・ペリニヨンのやったことが正しい。それぞれのクリマの個性を見極めて、それらを正しく組み合わせてグランヴァンを作ったのだから。あなたはビバレージを作りたいのか、それともグランヴァンを作りたいのか」。
G「ではあなたが最近飲んだ中でグランヴァンの具体的な名前を挙げてくれ」。
T「グラヴナーのオスラヴィアのリボッラの最新ヴィンテージ2008年。彼がやってきたことの到達点といえる究極的な完成度だ」。
G「そんなよく分からないワインの名前を挙げられても知らない。ブルゴーニュのグラン・ヴァンは何か」。
T「グラヴナーを知らないと言われても困るが、ブルゴーニュで言うならクロ・ド・ベーズ。あれは4つの地質のブレンドだ。だからいい。クリマ=単一地質ではない。多くのグラン・クリュは単一地質ではない。あなたの考えは間違っている」。
G「白ではなにか。私にとってはコシュ・デュリのムルソー・ぺリエールだが」。
T「現状のブルゴーニュの白に本当のグランヴァンはない。単一地質単一品種では無理だ。だからどれもこれもフラットでシンプルな味になる。ムルソーというなら、ペリエール・デュスからシャルム・デュスーまでを混ぜたらグランヴァンになれるかも知れない。論点を明確にするため、これから5つのプイイ・ロシェを僕がブレンドする」。
 そう言って、5つの地質をある順番でブレンド。個人的にはより大きくより複雑でより長いワインになったと思いますし、彼の表情もそれなりに納得していることを思わせましたが、彼は黙っていたので実際のところ何を考えていたのか知りません。
T「しかし理想は、・・畑は3日遅く夕方に収穫、・・畑は朝早く、・・畑は正午、・・畑は朝から夕方まで3回収穫。ブレンドの原料としてのワインと単一クリマワインでは収穫の考え方が違う。個々の畑が全体のために貢献する特徴を考えればそうなる」。
G「では収穫の時に来てくれ。全量買ってくれるならそうしてもいいが」。

Photo_3
▲全種類のワインを試飲して議論。

Dsc06551_2
▲プイイ・ロシェの地質図。畑ごとにずいぶんと異なるのが分かる。だから別々のワインにする、というのが現代主流の考え方。だから適切に混ぜてより複雑な構築力のあるワインを造る、というのが私の主張


 モンラッシェならまだしも、プイイ・ロシェで単一クリマのワインを造れるほど、土地にポテンシャルがあるとは思えません。しかしそれはあくまで単一クリマならば、という前提です。プイイ・ロシェじたいにはポテンシャルがあります。三畳紀までを含むいろいろな地質が入り混じっているということは、プイイ・ロシェは団体スポーツのようなものだと考えた時に本当の力が発揮される産地なのだと思います。サッカーチームをバラバラにして100メートル走の試合に出してはいけません。
G「シャトー・フイッセの高いキュベは単一クリマではないか」。
T「だからシャトー・フイッセは安いブレンドの方が美味しいのだ」。 

 オリヴィエさんは深く物事を考える生産者ですし、醸造家として才能があるのは飲めばたちどころに分かります。ただ、今の方向性では将来の展望が開けず、袋小路に陥るのが目に見えています。分断、分析のあとに統合を目指さねばならない。しかし誰からもそんなことは言われたことがないようです。そりゃそうでしょう。今では泣く子も黙るオリヴィエ・ジルーです。最初は「またこういう単一クリマワインか。言ってもしょうがないから何もコメントしないで帰ろう」と思っていたのですが、「意見を言え」と要求されたので素直な感想を言ったまでです。私はその場では美辞麗句を並べて後になって当人のいないところでまずいと言うようなことはしたくない。問題点も解決法もわかっているなら、なぜ当人に伝えないのかと常々思います。

 しかし、ここで論点としていることはこの個別のドメーヌにのみ該当するわけではありません。ブルゴーニュ全体いやフランスワイン全体に該当することです。複数の畑のブレンドを造るためには絵具の色数が多いほうが有利です。ですからネゴシアンの潜在能力は今皆が思っている以上にあるはずです。さいわいドメーヌ・ド・クロ・デ・ロックはたくさんの区画を所有しているので、色数には不自由していません。あとは刷毛で単色の絵具を布に塗ったようなものを絵画と呼ぶのがいいか、それとも多数の色で何かを描くものを絵画と呼ぶのがいいのか、という問いに自ら答えるだけです。仮に単色の絵具しか所有していないなら、それにふさわしい技法を発明しなければなりません。例えばイヴ・クラインはICB一色しか使いませんでした。そこで阻害要因となるのは、フランスにおけるアペラシオンワインの製法の自由度の少なさですが、できる範囲で創造的になるしかありません。いずれにせよ、地質境界線をもとに複数キュヴェを作って、この区画のワインはいまひとつだがそれもまたテロワールの個性、と開き直るのは人間としての責任放棄だと思います。

 

« Schauer, Sud-Steiermark | トップページ | VieVinum 2018, Vienna, Austria »

ワイン産地取材 フランス」カテゴリの記事