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2018.07.15

La Gravera (Costers del Segre, Catalunya)

 デメテール認証ビオディナミワイナリー、ラ・グラベラの混植混醸、ラ・ペル。ひとことで言って、偉大なワインである。このワインは1166年創立のシトー派Las Avellanas修道院の麓、0・95ヘクタールの畑から生まれる。1889年に植えられた品種は24種類。そのうち10種類の黒ブドウから赤ワインが、残り14種類の白ブドウから白ワインが造られる。


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▲周囲にはブドウ畑がない野原の中に忽然と姿をあらわす古木のブドウ。
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▲ラベルデザインはワイナリーデザインと同じくかっこいい。ワイナリー名にちなんだ砂利のモチーフが円で表現されている。



 今回その赤ワインをテイスティングさせていただいた。色は薄く、一見淡々としているようでいて、その奥には驚異的なディティールが絹織物のように組み合わさり、ハリがあってしなやかで、空気をはらみつつたなびいているかのような軽快な動きがある。混植混醸ワインならではの特質として、特定品種の個性が突出することもなく、複雑と言っても幼稚園のブロックのようにおおまかな原色の要素の組み合わせでもない、分析を拒絶する自然な一体感。なぜこのようなワインが日本には輸入されないのだろう(輸入されているのはベーシックなものだけ、それも極少量)。...スペインワインとしては高価かも知れないが、それでもコート・ド・ニュイの村名ワインと同じぐらいだ。日本は何万種類のブルゴーニュワインであふれているというのに。ワインファンは年間数千本のワインを飲んでいるだろう。ワインのことは知り尽くしていると感じているかも知れない。しかしまだこのようなワインが発見されないまま残っているのだ。

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▲カラー・コーディネートされた、スタイリッシュなワイナリー。一見、大手の工業系ワイナリーかと思うが、実に真面目なビオディナミ。想像できるとおり、ワインはよくあるヒッピー・ビオと異なり、安定してクリーン。このセンスが素晴らしい。

 ワイナリーはDO南西部、サブゾーンSegriaにある。インダストリアル・ゾーンの中に、他の会社と並んで建っている。ヒッピー・ビオディナミな雰囲気ではない。中に入り、社長のSergi Garciaさんを待つあいだに周囲を見わたすと、ずいぶんとコンテンポラリーでインダストリアルな内装だ。しかし徹底的にアーティスティック。このセンスはただものではない。さすが世界の美意識のリーダー、カタルーニャだ。
 メインとなる畑は砂利採掘場(=ラ・グラヴェラ)跡地だ。当然、土壌は砂利質。コステルス・デル・セグレは年間降水量が400ミリ程度しかないが、灌漑はしていない。周りを高い土塁で囲まれたくぼ地。保水性はよさそうだ。外界とは隔絶されている空間であり、周囲で使用される農薬の影響は受けない。羊を放って雑草を食べさせる。ビオディナミ調剤の原料となるハーブ類は畑の中で栽培される。内部での循環的物質・エネルギー交換を行う独立生態系としてのビオディナミ農園という思想をきちんと体現しようと努力している。ビオディナミはただ調剤を撒いただけでは実現できないのだ。

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▲砂利採石場跡を畑にしているため、周囲から一段掘り下げてある土地。この閉鎖性がビオディナミにとっては理想的だ。雑草は羊に食べさせるが、このような地形ゆえ羊が逃げることもない。



 Garciaさんによれば、ビオディナミにしてからアルコール度数は1度下がり、pHも下がって、ガルナッチャでさえ3・5。もちろん早摘みしたからではなくワインの味は熟している。ラングドック・ルーションで3.8といった数値になじんでいると、驚異的な効果に思える。オーガニックやビオディナミ栽培の問題として銅と硫黄の散布への依存が言われるが、ここではハーブの組み合わせによってべと病を抑止し、なんと銅の使用は全廃。うどん粉病対策の硫黄さえもあまり使わないという。ワインに対するSO2添加も極小。SO2無添加のガルナッチャの赤ワイン、Lagravera Tintoを飲んでみても極めてピュア。言われなければ無添加だとさえ思わないほど。ブドウじたいにパワーがあるとしか言えない。
 混植混醸ワイン、ラ・ペルに話を戻す。このワインはスペイン産のアンフォラであるティナハで発酵・熟成される。それだけの話なら、最近は珍しいことではない。むしろ流行りである。流行りすぎて、ティナハの使用それ自体が目的化する倒錯に陥っている。「みんな使っているから自分も実験するために買ってみた」と、新しいおもちゃを手に入れた子供のように楽しそうに話す生産者は多い。まずティナハがあって、そこから実験するのでは話の前後が逆である。まず長年の問題意識があり、問題解決のための刻苦奮闘があり、たどり着いた解決としてティナハがなければいけない。グラヴナーの1990年代の苦闘があってはじめて21世紀にアンフォラという光明が見えるのだ。ティナハやクヴェヴリといった陶製の甕はなんのために使うのか。コンヴェンショナルな答えは、1、樽の香りをつけずにニュートラルだから。2、多孔性で適度な酸素透過性があるから。それはそれで正しいだろう(私はこの世にニュートラルなものなど存在しないと思うが)。しかしそこには甕のもつ象徴性・哲学性への視点が欠けている。言うまでもなくそれは大地とワインとの接点確保である。それを忘れたら、同じく“ニュートラル”と呼ばれるステンレスタンクを使い、適度な酸素を供給するミクロ・オキシジナシオン器具を用いるのと何が違うというのか。

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▲あちこちの産地のティナハ。左から二番目のつやつやしたティナハが地元の土を使い、外側に蜂蜜を塗ったもの。今まで見た甕の中でもこれはベストのひとつ。



 ティナハはカスティージャ・ラ・マンチャ、カセレス、コルドバ州といったスペイン各地で作られる。しかしカタルーニャからは遠い。大地との関係性が希薄になる。それら代表的産地のティナハで実験してみても結果はいまひとつ。そこでラ・グラベラでは地元から遠くない窯元に特別にワイン醸造用ティナハを注文し、その原料粘土に自分自身の畑の粘土を混ぜてもらった。さらには窯から出してまだ熱いティナハの外側に自分の畑にある蜂の巣箱から採取したハチミツを塗った。ご存知の通り、ジョージアでは使用前に熱したクヴェヴリの内側に蜜蝋を塗る。殺菌のためと酸素透過性を適度に制限するためである。しかし「内側に塗ったらワインに味が移ってしまうから、外側に塗った」。酸素透過性低減効果は内側でも外側でも同じだろう。これは、しっかりとジョージアの伝統的クヴェヴリ発酵を学び、それを自分のワイン造りへと応用した、天才的なアイデアだ。しかしなぜハチミツか。ハチミツは花のエッセンスだ。花のエッセンスは花のエネルギー、すなわち上方垂直性をもつ。土のエネルギーは逆に下方垂直性へと向かう。花なき土は重くて暗い味になる。甕発酵ワインの多くがそういう傾向である理由のひとつは、土の要素ばかりで花の要素がないことである。言うまでもなく、この特別なティナハはコマーシャルなティナハより優れた結果をワインにもたらした。それはラ・ペルを飲めばたちどころに理解されるであろう。

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