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2018.07.17

Muhr-Van der Niepoort

 カルヌントゥムのスピッツァーベルク最大の生産者(6ヘクタール所有、6ヘクタール賃借)、ムール・ヴァン・ダー・ニーポートのドルリ・ムールと、スピッツァーベルクの麓の村、Prellenkirchenで待ち合わせ、畑に連れていってもらいました。彼女のワイナリーも、もうひとりの代表的なスピッツァーベルクの生産者であるヨハネス・トラプルのワイナリーも、畑からはずいぶんと遠くにセラーがありますから、今までスピッツァーベルクは遠目に仰ぎ見るだけでした。ついに実際に足で踏みしめることができました!

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▲村の教会前の駐車場で待ち合わせ、ドルリさんにスピッツァーベルクに連れていってもらった。平野の中に一か所だけ線状の丘が盛り上がる地形なのが分かるだろう。


 平地の中に突然出現する丘。これは、ルーマニア、ウクライナ、ポーランド、スロヴァキアを弓状に貫くカルパティア山脈の最後の部分。カルヌントゥムの西からアルプス山脈が始まります。ですからスピッツァーベルクだけは気候も地質もなにもかも異なり、カルヌントゥムの他の場所がツヴァイゲルト主体なのに対して、ここはブラウフレンキッシュで有名な畑です。石灰岩の母岩に、けっこう厚め(特に下部)のレス・ロームの表土。もっと石がごろごろしているのかと想像していましたが、表面にはほとんど石はありません。

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▲ドルリさんの後ろをついて畑に上るが、スピードが追いつかない。畑仕事で足腰が鍛えられているのが分かる。彼女の娘は日本語を勉強したいそうだ。

 ドルリ・ムールは近郊の農家の生まれ。祖母は14歳の時に独立してプレレンキルヒェン村で農業を始め、結婚するときにスピッツァーベルクの畑を0・1ヘクタールだけ親からもらったそうです。ドルリは通訳になろうと思ってフランス語やスペイン語を習得。それからワイン、ビール、スピリッツ、食品、旅行関係のPR会社を1991年に創立(今でも経営しており、12人の従業員がいるそうです)。そこでワインに魅せられ、モレッリーノ・スカンサーノに10ヘクタールの土地を買ったものの、ポートの高名な生産者ニーポートと結婚して(その後離婚)ドウロに移住し、そのプロジェクトは断念。とはいえワイン造りへの情熱は冷めず、「どこがいいかを考え、故郷に戻ってきました。02年には買いブドウで仕込んだものの、難しいヴィンテージゆえにうまくいかず、翌03年は乾燥しすぎ暑すぎの年でうまくいかず、しかし冷涼な04年に素晴らしい出来のワインとなって、スピッツァーベルクでワインを造ろうと決意した」そうです。

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▲これは若木のブラウフレンキッシュの畑。個人的には古木より若木のキュヴェのほうがエネルギー感とピュアさがあって好きだ。


 当時スピッツァーベルクの所有者は高齢化が進み、後継ぎがいない状態の農家が多かった。「その人たちを訪ね、あとがないから私に畑を売ってくれ、と言うわけにはいかない。どうすればいいかと考え、彼らが通う病院にポスターを貼りだした、畑求む、と」。なんと賢い方法!おかげで短期間で畑を買い進めることができました。2002年当時は1平方メートル当たりの価格は1・5ユーロ。しかし2017年には7・5ユーロと5倍の値段に高騰。ここが最高の畑だということが認識されてきたからですし、それを世の中に証明したのがドルリ・ムールのワインです。

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▲シャンベルタンの畑で白ワインを造るように希少な、リート・スピッツァーベルクに植えられたグリューナー・ヴェルトリーナーとリースリングのワイン。この畑ならではの不遜なまでの存在感とパワーがすごい、オーストリア白ワインの中でも隠れた大傑作。


 フラッグシップであるRied Spitzerberg、リート・スピッツァーベルクは古木のブラウフレンキッシュから造られます。大変に凝縮度が高く、10年ぐらい熟成させないと空気感が出ないような、黒系果実とスパイスの香りのワイン。若木から造られるLiebkind、リプキンのほうが個人的には抜けがよくて、特に2015年のような暑い年には、バランスのとれた味だと思います。本来なら古木と若木を混ぜたほうがおいしいはずです。私が好きなのは、Syd Hang、スードハングという名前の、2003年に植えたシラーのワイン。これはオーストリアのみならず、世界のシラーの中でも傑出した出来のワインだと思います。今回特に印象的だったのが白ワイン、Prellenkirchenの2016年。グリューナー・ヴェルトリーナー90%にリースリング10%のブレンド。リースリングは古木のブラウフレンキッシュの畑の中に植えられているそうです。グリューナーはプラスチックの桶で発酵後、オーク樽とステンレスタンクで熟成。リースリングはステンレスのみです。「ムルソーが好き」というドルリさんだけあって、よくあるオーストリアワインのすっきりフルーティな味とはずいぶん異なり、濃密でパワフル。しかしアルコールは11・9度しかありません。ミネラルの塊のようなワインですし、スピッツァーベルクのテロワールのすごみを、むしろブラウフレンキッシュよりもはっきりと理解できると思います。最近飲んだオーストリアの白ワインの中でも最高レベルです。
 「ポートワイン生産者と結婚していたから」、ブラウフレンキッシュでポートタイプの甘口も造ります。名前はSaudade、メランコリーという意味だそうです。「甘い思い出」と言うので、「甘くて苦いのでしょう?ポートはその両者のバランスが要なのだから」と応えると、「そう、苦くもある、もちろん!」と。彼女はニーポートさんと離婚してしまいましたからね。彼は今何人目の奥さんと一緒なのでしょうか。
 彼女はもともと除草剤等使用していませんでしたが、2015年からはオーガニック栽培を始め、2018年ヴィンテージから認証取得予定。今でも傑出したワインですが、これからさらによくなるでしょう。

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