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2018.07.10

ポルトガルワイン試飲会

 2018年7月9日、白金の八芳園で行われたポルトガルワインの試飲会に行ってきた。あいかわらずの盛況。昨今の人気の高まりを反映している。ワインの基本はフランスワインだと思っているような旧態依然の固定観念がいまだはびこるなか、すべてのワインは相対的であって、なにかがアプリオリに基本であるはずがない、という健全なワイン認識のためにも、こうしたワインが大メジャーになっていくのはいいことだ。それだけに、今やポルトガルをニッチなマニア向けワインと見なすのは間違いであり、しっかりと向き合っていかねばならない。

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 ポルトガルはポルトガルの味がする。土壌も標高も雨量も、そしてもちろん品種も違うのに、アペラシオンを超えたある種のノリが共通している。
 ひとつの理由は明白だ。多くが混植混醸だからだ。単一品種は純粋さが取り柄だ。ブレンドは構成美が取り柄だ。混醸は複雑さ、いや複雑さだけでは言葉が足りない、要素間の境界が見えない積極的な曖昧模糊さが取り柄だ。ところが混醸ではないワインでさえ独特のにじみ感がある。オーストリアやドイツやフランスのワインに顕著に見られる風味と質感の光沢、ワイン表面で反射する光のまぶしさとは対極にあるような、マットでアーシーな鈍い乱反射。このような個性はワイン単体で鑑賞した時には周囲の雑音に埋没しがちだ。端的に言えば、地に足のついた気取らない料理と状況において長所を発揮するワインである。
 不思議なのは、混植混醸とはいっても、同種のワインによく見られる一直線の垂直性がないことだ。たとえば現在の代表的な混植混醸ワインであるウィーナー・ゲミシュター・サッツ(ウィーン北のもの)には味わいの中央に柱が立っているかのような垂直性があり、そこにいろいろな要素が串刺しになっているかのような、シャシリク・エフェクトとでも呼ぶべき特徴が見られる(焼き鳥は竹串ゆえにたとえとして違う)。この時、肉や野菜は中央に串を刺す。ゆえに全体の形は左右対称になる。というか、ワインは基本すべて左右対称である。ところが唯一ポルトガルの混植混醸ワインは、上下軸の位置によって左右方向の広がりに偏りが感じられる。譬えて言うなら、黒川紀章のカプセル建築。このようなぎくしゃく感は他に記憶がない。この点が、今回の試飲会で最も印象に残ったことである。
 これを複雑さとみなして積極的に評価すべきなのか、それとも乱れとして懐疑的なスタンスをとるべきなのか。私は後者の立場を現時点ではとる。なぜなら、自分の知る限り、左右非対称の味の料理が存在しないからである。ポルトガルワインが単独鑑賞型グランクリュ指向では基本的にはないとして、食卓用ワインとしての価値を追求するなら、そこでの疑問は看過できない。
 もうひとつの疑問は、下方垂直性の不足である。上下方向の線分の長さが揃っていない。上に向かう力の量のほうが多い。もちろん自根ならば揃うのだろうが、いまそれを嘆いても現実的ではない。どうすれば下方垂直性を増すことができるか、生産者サイドの技術的課題と認識されてほしい。これに関しては日本のポルトガルワインの専門家がポルトガルでさまざまな指導をされているはずなので、いずれ解決されるだろう。
 この問題と重複するのは、重心の高さである。今回試飲したほぼすべてのワインの重心が高い。なぜだろうか。重心が高くなる品種も土壌も標高もあるが、すべてがそうではない。ポルトガルの料理の多くは重心が中央から下にあるのではないか。日本の料理の重心も低い。ならば重心の高いワインの使い道は限られる。日本とポルトガルはイカタコ等魚介類の料理が多いという点で共通する食文化があり、ゆえにポルトガルワインは日本の食卓に合う、というロジックが現在一般的に流布されているが、それは本当に正しいだろうか。もともとのポルトガル料理にさえ合っているとは言えないのではないだろうか。

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 今回出品されていたワインの中で、明らかに重心が低めで、ポルトガル料理にも日本料理にも出番が多そうだと思ったのは、カーザ・レルヴァスのアレンテージョIGP、Art.Terra Curtimenta。アンタン・ヴァース、アリント、ヴィオニエを18℃から25℃という高めの温度で醸し発酵して中樽熟成したオレンジワインである。この生産者は他にもアンフォラワイン等現代の流行を意識したワインを造る。「オレンジワインはポルトガルでも人気なのか」と生産者に聞くと、「いや、そんなことはない。最近ぽつぽつと出てきたが」。「伝統的なワインではないということか」。「商業生産としてはそうだが、私の祖父の時代には白ブドウをプレスせずに醸し発酵していた。ポルトガルは昔は家庭でワインを造っていたが、それはオレンジワインだった」。だとすれば分かる、家庭でオレンジワインを造っていた時代は、正しくポルトガル料理に合う味だったのだ。
 重心が高いワインをよしとする傾向は世界的なものである。標高700メートルの畑から酸が強く重心が高いワインを造る生産者に、「このワインの特徴は何か」と聞くと、「エレガント」と答えた。「エレガントなのはこのワインに限ったことではないだろう」と言うと、「・・・・」。それがエレガントの定義となっている以上はしかたない。「優雅な人間とはどういう人間か」との問いに「背が高い人」との答えが返ってくるようなものである。到底納得できないのだが、彼の責任ではまったくない。
 重心を下げるためには、というか重心が上になりすぎないようにするためには、完熟ブドウを収穫する必要がある。だが地球温暖化によって完熟ブドウの潜在アルコールは高くなっている。しかしアルコールの高さはむしろ罪悪のように見なされているようだ。今回の試飲会で驚いたのは、アルコール度数によるポルトガルワインの分類が見られたことだ。12から13度がバランスがよい、と書いてある。それが評価基準であり、それが「バランス」の定義ならば、収穫は自動的にその糖度になるような日に行われる。多くのワインの早摘み味=痩せて、すっぱく、重心が高く、単調で、固い味は、明らかに間違った価値基準に基づくものだろう。酸酸酸とバカみたいに繰り返す現代のテイスティングメソッドとその背後にあるイギリス的嗜好を見直し、評価基準を変更して、重心が高く下方垂直性のないワインをよしとする結果にならないようにしなければならない。しかしそれはほぼ無理なことである。なぜなら世界中、日本も含め、誰もそれがおかしいことだと思わないし、そのような重心が高いワインがイカタコ等魚介類の料理に合うと思っているからである。

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 ひとつSO2無添加ワインがあった。CARM SO2 Free Redである。ほとんどすべてのワインが細身(未熟なのだからしかたない)な中で、これは満足できる広がりが感じられた。骨格型のワインになりやすいトゥーリガ・ナシオナル単一、かつ同じ傾向のドウロであることを思えば、やはりSO2の問題は大きいのだと言わざるを得ない。家庭でオレンジワインを造っていた時代にはSO2は無添加だったはずだ。我々は正しく温故知新のアプローチを採らねばならない。SO2をただちに全廃せよ、とは言わない。火山の硫黄を昔のように樽内で燃やす方法の再考(もちろんこれが難しいことは分かっているが)と、最近流行りのUV殺菌法を採用することが、とりあえず試してみるべき事項だろう。

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 通常のワインとしては、アレンテージョのMouchao(モウシャオン)のグランヴァン、モウシャオン2012が印象的だった。これはヘクタール当たり4.5ヘクトリットルまで収量を抑え、22℃から23℃という低温で発酵し、5から7日という短いマセラシオンで造られる。低収量+軽い抽出がまずいわけがない。アリカンテ・ブーシェとトリンカ・デイラ品種とは思えないタンニンの細かさと香りの伸びやかさ。アリカンテ・ブーシェには色が濃いだけではない素晴らしい潜在能力があるのだと分かる。ポルトガルワインとしては高価(それでもコート・ド・ニュイの村名ぐらいだ)ではあるが、飲む価値は十分にある。

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 お買い得なワインとしては、Cartuxa(カルトゥーシャ)のアレンテージョ、EA Red Bio 2016がよかった。赤ではこれだけがオーガニックなのだが、明らかに他のキュヴェよりタンニンが上質で後味にしなやかな広がりがある。上級キュヴェは樽が強すぎてむしろ粗っぽい。二本続けてアレンテージョ。これに限らず、全体としてこの地域の平均品質の高さが印象的だった。
 ポートを忘れてはいけない。すかした味ではないポート、しみじみと滋味深いポートとして、つまりイギリス上流階級的な世界とは異なるテロワールのワインとして、Agri Roncao Vinicolaの生み出す味わいには注目したい。除草剤不使用だという。買いブドウではそうはいかない。ブドウそのものの質がよいため、10年という短い熟成のポートのほうが、長い熟成によって古樽のにおいがついてしまっている上級ワインよりむしろおいしいと思った。
 国際市場向け、アングロサクソン評論家向けではないポルトガルワインを経験してみたい。ポルトガルワインの本当の実力を理解できるようになるためには、ポルトガルを丹念に歩きまわるしかないようだ。日本に輸入されているポルトガルワインは、まだまだ輸出向けに作り上げられた工業メンタリティーが感じられるものが多いようだ。

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