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2018.07.09

シャトー・ロスピタレでワインと料理を考える

 ワインだけ飲んで美味しいものが、常に料理と合うわけではありません。料理と合うワインが、単体として完成されたものでもありません。この問題はことあるごとに再考され続けられねばなりません。
 概してみな単体完成度を求めてワインを作ります。具体的使用状況適合性は考えません。違うのは自家製自家用のジョージアワインやオーストリアのホイリゲワインぐらい。ですからここでワインの三分類の確認が大切です。グランヴァン、ボンヴァン、ヴァンです。それぞれの目的は、神や自然や崇高なものや神秘の賛美、人間的文化的悦楽への貢献、飲料として身体的欲求の満足、といったところでしょう。多くの問題は、この三者の混同から生じます。いったどんなワインを作ろうとしているのかが明確に自覚されないまま、なんとなく無意識に高品質ワインを作ろうとしても、それは目的のない品質、つまりは無意味になるのです。

 ジェラール・ベルトランのシャトー・ロスピタレのレストランで、鳩とフォアグラの料理(写真)を食べました。その前にテイスティングしたのがラ・クラープのロスピタリスやミネルヴォワ・ラ・リヴィニエールのシャトー・ラヴィル・ベルトー。テイスティングの残りのワインがあり、この料理に合わせるとよいとのことで、試してみました。ところが料理よりワインのほうが勝ってしまう。タンニン、酸、固さ、大きさ等、いろいろな要素においてワインが上回る。このようなことは本当によくあることなのです。高級料理と高級ワインが合うと思ってしまうのは脳内で生み出された幻想の消費であり、それを仕向ける消費社会の論理の支配ゆえであり、実体ではない。


 ここで固さに着目してみたい。だいたい現在の高級フランス料理は肉であってもしっとりと火を入れて柔らかいものです。そして柔らかいことをよいことだとみなします。高級フランス料理に合わせたくなるワインは高級ワインです。そして高級ワインはグランヴァンと同義です。そしてグランヴァンはグランクリュから生まれます。多くの場合グランクリュは岩がちの畑です。岩がちの畑のワインは堅牢なミネラル感があります。またグランヴァンの赤は長期熟成可能性が要求され、強いタンニンが好まれます。ミネラルとタンニンのふたつの要因が合わさってワインは固くなります。ゆえに高級フランス料理と合わないのです。
 この問題を解決するにはどうすればいいか、ロジカルに考えてみてください。
1、 昔みたいにビアンキュイの火入れにする。
2、 抽出の軽い、タンニンの弱いワインをグランクリュから造る。
3、 表土の厚い畑からワインを造る。
4、 20年ぐらい瓶熟成させる。
 最も簡単は方法は肉を強火でしっかり焼くことなのですが、それではお客さんが納得しません。それは現実的には自宅で食事をするときの解決方法です。ボルドー格付けシャトーの場合はセカンドワインがあり、それはまさに上記2に該当するカテゴリーのワインです。素晴らしいボンヴァンだと思います。このようなワインを皆が意図して造ってくれると、料理とワインの関係は今より密接になります。グラン・クリュからの高級ロゼワインもまたこのカテゴリーに入ります。上記3の観点は特に消費者が既存のワインリストの中から選ぶときには有用です。ジェラール・ベルトランの場合、表土の厚い畑とはシガリュスであり、コルビエール・ブートナックです。だからこの両者は柔らかい。ゆえに現代フランス料理とよい相性を得る確率は、表土の薄いラ・クラープやミネルヴォワ・ラ・リヴィニエールよりも大きくなります。上記4は古典的な方法ですが、農薬を使用している時代のワインはおいしくないし、溌剌としたエネルギー感やフレッシュ感が失われていくという事実はプラスに働くとは限りません。そして長期熟成させたラングドックのグランヴァンをオンリストしているフランス料理店はないに等しい。
 
   料理に合わせることを目的とした多彩なボンヴァンが必要です。しかしよくある考え方、作り方では、中間価格帯ワイン=ボンヴァンになるとは限りません。グランヴァンからはじかれたワインで安価なセカンドワインを作っているだけではまだまだグランヴァンもどきなのです。そのワインでしか得られない美点をまっすぐにワインに向き合って追求しないと、どれほど生産者が「どの子供もかわいい」と言いつつ、それはある子供を軽んじているのと同じことになります。またグランヴァンの味を安く気軽に楽しむ、といった消費者サイドの考えは倫理的に問題があります。そう思ったとたんにグランヴァンのグランヴァン性は失われるからです。  
ボンヴァンがまあまあの出来のワインだと思ってはいけない。高価高級なワインだってあり得ます。あくまで目的意識の違いです。繰り返しますが、神にささげるワインがグランヴァン、人間の消費文化の向上に貢献するワインがボンヴァンです。
 たとえば高価高級なボンヴァン、高級フランス料理用のワインの作り方は以下のようなものです。
1、 グランクリュの畑を選ぶ。
2、 固くなる品種の比率を下げ、軽やかさやしなやかさをもたらす品種を増やす。特に、白ブドウとの混醸。
3、 低収量。
4、 7日以内の短いマセラシオン。
5、 新樽不使用。中樽や甕やコンクリートタンクの活用。
 これで高級な味だがパワフルすぎず固すぎないワインができるはずです。このようなワインをグランヴァンと呼ぶ人もいますし、目的意識ではなく品質レベルのみで分類するならそれでいい。これは定義の違いで、私にとってはグランヴァンは絶対・究極・崇高を目指さねばならないものであって、そこに「高級フランス料理に合う」などという目的を導入してしまうことは神の冒涜に思えます。
 というわけで、現在のジェラール・ベルトランのワインの複雑なポートフォリオは、たぶん、グランヴァン、ガストロノミックワイン、 アールドヴィーヴルワイン、ファン、ベーシックといったキーワードで分類しなおすことができるはず。そしてそれぞれ、目的にふさわしい造りをするのがなにより肝要です。
 今までワインサイドからの話をしてきましたが、レストランサイドの話もすべきです。なぜならシャトー・ロスピタレのレストランは、ワイナリー併設のレストランなのであって、生産されているワインをおいしく飲ませるような料理を作ることが最大の目的だからです。おいしい料理を作るだけでは普通の町のレストランと同じです。
 現在の料理はおいしいのですが、ジェラール・ベルトランのワインに合うかどうかは別の話です。固さの話は既にしましたから措くとして、基本、3つの要素が弱いからです。それは、1、垂直性、2、酸、3、ダイナミズム、です。どうやればワインにもっと合うようになるのか今度シェフと相談してくれ、と言われました。考えるのはやぶさかではないですが、私はジェラールに言いました、「あなたはワインメーカーなのかレストランオーナーなのか。同じ時間があるとして、ワインに時間を割くべきか、それともレストランか。現時点の優先順位はワインに決まっている。まだやることがたくさんある。レストランは人に任せるべき」。ところがキッチンとホールの距離の遠さは、日本に限ったことではない。そこが解決されないと、いくら「人に任せ」ても機能しないのです。
 

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