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2018.08.30

Bressan, Friuli=Venezia Giulia

 フリウリを代表するナチュラルワイン生産者のひとりとして人気の、特に日本では相当に有名な、ブレッサン。今回はじめてのテイスティング。期待が膨らむ。当主フルヴィオ・ブレッサンは体格といい雰囲気といい、ネットの写真で見る限り独特のインパクトがある人なので、会うのも楽しみだった。

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▲当主、フルヴィオ・ルカ・ブレッサン。



 若干遅刻して来た彼は会うなり喋り続ける。ワイナリーの目の前に広がるピノ・ノワールの畑を歩きながら、私が「ピノ・グリージョはいらん。ピノ・グリージョばかりだからいつまでたってもフリウリが誤解される」とぶつぶつ言っていると、彼はこう言った。「この地で生産されるワインの99%はアメリカ向けピノ・グリージョだ。私はもうピノ・グリージョは造りたくない。2016年には引き抜いてしまった。樹齢80年の古木だったから抜きたくはなかったが、しかたない。現在のピノ・グリージョはコモディティでしかない。私はそういうワインを造りたくない。しかしアメリカの雑誌はうちのピノ・グリージョをベストワインに選んだ。皮肉なものだ。しかしベストとはなんだ? DOPワインでヘクタール当たりの最大収量は120ヘクトリットル、IGPなら190だ」。私は思わず、「そんな収量ではテロワールの味などしない。アルコール入りの水でしかない」と言うと、「そうだ。だからうちでは35ヘクトリットルだ。フリウリには4200軒のワイナリーがあるが、そのなかでシリアスなのは6,7軒のみなのだ。フランスかぶれか赤子殺しが横行している。彼らはバカなのか、犯罪者だ。消費者にも問題がある。アメリカの消費者でワインが分かるのは0.001%。日本は2%だろう。ロバに教えるのは時間の無駄だし、ロバにとってもツラいのだ」。アメリカはそういう状況だとして、ではどこで人気なのかといえば、これがフランスなのだ。「特にピノ・ノワールが売れる」。「ああ、それでは彼らもフリウリワインファンとはいえない。彼らはあなたのようなナチュラルワインが欲しい。しかし彼ら自身の品種がいいと思っているし、理解するための努力もしたくないからピノを買う。いかにもフランスだ」。



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▲不思議な外観のワイナリー。

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▲この辺りはどこも平野でブドウと穀類の畑が混在しているところが東欧っぽい。

もちろんピノ・ネーロがまずいわけではない。5年間の熟成を経ても生き生きとしたエネルギー感があり、なめらかで、うまみがのって、よいワインだ。10カ月マセラシオンしたオレンジワインであるピノ・グリージョ2014年もなめらかな質感が心地よい。彼が批判するようなしょうもないピノ・グリージョばかりが横行する中では、傑出した出来だとは思う。しかしマリアーノ・デル・フリウリの地で、それも1726年からの歴史が残るこの地の名家たるブレッサンが、ピノ・グリージョとピノ・ノワールで評価されていること自体、フリウリワインの不幸だ。このふたつのワインの問題は、緩さと短さだ。品種と土地が合っているとは思えない。

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▲ワイナリー内部。左のソファのある場所で話を聞いていたが、カフェっぽくて落ち着ける。

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▲畑の土壌のサンプル。けっこう肥沃な土に見える。

 ブレッサンはオーガニックでもビオディナミでもないが、フルヴィオの「内的倫理」に基づいたナチュラルなワインを造る。農薬、添加物としても、自然の硫酸銅と自然の硫黄しか使わない。ワイナリーに自然なものと工業的なもののサンプルが置いてあったが、同じ分子構造だとしても色も結晶も大きく異なる。ワインへのSO2の添加量も、「普通は1リットル当たり270ミリグラム、オーガニックで150ミリグラム、うちは20ミリグラム。ブレッサンのワインは自立できるからSO2の助けはミニマムでいい」。どのワインも当たりが柔らかく、エッジがなく、しかし腰砕けにはならない密度の高さがある。イソンツォの平地らしいしっとり感やフルーティさが親しみやすく、食卓で自己主張が強くなりすぎないやさしさがある。オーガニック認証はなくとも、確かにこれはナチュラルな味わいだ。

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▲1997年ヴィンテージのピニョーロがまだ樽に入っている。ものすごい色素とタンニンの品種だけに熟成が必須とはいえ、20年とは!色はこのように淡いが、味はビビッドで驚く。昔風のバローロ・リゼルバに似ている。



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▲樽の内部を見ると、板材そのままでトーストしていない。マルベリー、栗、桜、アカシア等々の木を使う。ワインの味が樽っぽくない理由が分かる。

 ラインナップの中ではヴェルドゥッツォが特に優れていると思う。土地じたいはソフトな味の方向性だから、この品種の苦みを伴う固さがちょうどよいバランスとなる。「白い色の赤ワイン」と言っていたが、まさにその通りだ。適度なトロみと厚みはいかにもフリウリで、気配の広がり感や余韻の安定感を見るに、品種と土地が合っていると分かる。19世紀中頃にはヴェルドゥッツォが「フリウリ地場品種の中で、最も典型的で代表的な品種のひとつ」と評価されていたらしい。昔の人のほうが理解していたのだろう。

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▲ヴェルドゥッッツォ 2015年。48時間スキンコンタクト後、19度から21度で発酵。8カ月以上樽熟成、5カ月ステンレスタンク熟成。ブレッサンはどのワインもリリースが遅いが、「無濾過ワインだから安定するのに時間が時間がかかる」と言う。



 過激な発言の多い生産者だが、ワインの味は意外なほどにそつがない。むしろ地味めだと言っていいぐらいで、理性的な整い方をしている。しばしワイン談義をしていると、ワイルドな顔の裏にある繊細な知性が明らか。そのギャップがまた魅力的なのだし、それがブレッサンのワインに正統性に支えられた安心感をもたらすのだ。

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