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2018.09.28

サンジョベーゼ

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 日本橋浜町ワインサロンでサンジョベーゼをテーマにした講座を開催しました。
 サンジョベーゼはイタリアで最も栽培される品種です。2015年の統計では栽培面積55100ヘクタール。過去15年で21%減少し、二位のピノ・グリージョ(15年で532%増加という驚異的、というか危機的数字)に追い上げられているとはいえ、最重要地場品種の地位は当分は安泰でしょう。サンジョベーゼのワインを扱っていないワインショップもレストランもほとんどないはず。この品種の個性を理解しておくことはワイン生活において役に立ちます。
 サンジョベーゼ=トスカーナ、サンジョベーゼ=キャンティ・クラシコ、では必ずしもないと認識することが大事です。今回はロマーニャやカリフォルニアのサンジョベーゼを含めてブラインドでテイスティングし、この品種のあるべき姿について皆で考察しました。
 私は近年のキャンティ・ク...ラシコが好きではありません。しつこく言っていますが、マルヴァジアやトレッビアーノを禁止し、カベルネ、メルロ、シラーを認可品種に含めるようになった規定は間違いです。時代にむしろ逆行しています。サンジョベーゼのワインを偉そうな味、フランス的な味、がっしり濃厚な味に仕向けていく傾向、そしてそれをよしとする消費者の傾向は理解不能です。サンジョベーゼは果実味が不足する品種だとされますが、その解決は、収穫時期を遅らせ、フルーティかつフレッシュな風味の白ブドウを混醸し、軽く抽出して、軽快でいてディティール感の豊富なワインを造る方向性であるべきです。
サンジョベーゼは、積極的な意味で普通のワインを造った時にその実力が最大限生かされる品種のような気がします。名古屋のきしめんみたいなものです。すべてに最上級の食材を使い、トリュフ等を練りこんだりして、完全予約制・一日10人限定・一杯1万円のきしめんを造ることが、きしめんの正しいありようでしょうか。宮きしめんにせよ、名古屋駅ホームの立ち食いきしめんにせよ、あの価格・あのスタイルでかくも完成された味わいを広く提供できていることが偉大なのです。
 一面的な品質志向から自由なワインのほうがいい。今回は、イタリアのワイン生産の1割強を占める超超巨大協同組合ワイナリーCaviroの、オーガニック・ルビコーネ。そしてこれまた日本のイタリア料理店では見向きもされるはずがない大企業Sensiのオーガニック・キャンティ(クラシコではありません)を入れておきました。いい感じに力みが抜けて、普通においしいことを目指しているような味。余計なタンニンも樽もなく、素直にフルーティです。これがオーガニックであるということが重要です。再び名古屋駅きしめんの例に戻るなら、その品質を本質的に向上させるには、トリュフを入れるほうがいいのか、味を変えて外国人に受けるようにするのがいいのか、それとも小麦粉をオーガニックにするほうがいいのか。そもそも私がサンジョベーゼの講座をやろうと思ったのは、この二本のワインを今年飲んで、あまりのおいしさに衝撃を受けたからです。よくあるキャンティ・クラシコのように、固くも苦くも酸っぱくもありません。ルビコーネにせよ、サンジョベーゼ・ディ・ロマーニャにせよ、くそみそに言う人もいますが、私はむしろトスカーナよりやさしくてなめらかで酸も穏やかで、家庭料理には使い勝手がいいと思っています。他産地の有名高級ワインの例で言うなら、クロ・ド・ラ・ロシュよりクロ・サン・ドニのほうが、オーゾンヌよりシュヴァル・ブランのほうが家庭料理向き、というようなものです。ロマーニャのサンジョベーゼはもっともっと注目されるべきでしょう。
 なんだかんだ言って、値段は安くとも存在感があってスケールが大きいのはブルネッロ。今回はコストコのPBという安価なものをお出ししました。こういうワインもブラインドでなければ、「コストコのワイン?ふざけるな!」と、偏見が先に立ってしまって真価が分からないはずです。味から推測するに、ブルネッロの丘の北側斜面の砂が多いところのブドウだと思いますが、その軽快さがいい。そしてヴィンテージは2011年。さらっ、ふわっとした味のヴィンテージなので世評は低いのですが、だからこそゴリゴリしたタンニンや厳しい酸もなく、フレンドリー。そして価格は有名なキャンティ・クラシコよりずっと安いのですから(本当に驚くべきコスト・パフォーマンス!私はコストコの商品開発者を尊敬します)、これ以上なにを望むべきかと思うほどです。
 私にとっての最上のサンジョベーゼは、カリフォルニア、セゲシオのキャンティ・ステーションとエイコーンのアレグリア・ヴィンヤード。どちらも樹齢は100年ぐらい。自根、そして混植混醸です。エネルギー感、スケール感、余韻等々、圧倒的。超高密度なのにごつくない。果実味が豊かでいて重たくない。世界屈指の偉大なワインです。しかしサンジョベーゼらしいカジュアルさというかフレンドリーさを失っていない。どうしてもっと評価されないのでしょうか。それ以前に、まったく知られていないと思います。これまた理解不能です。
 どのワインであれ、今回のサンジョベーゼには明確な共通点があります。それは中心となる骨格の堅牢さと垂直性、重心の中央定位、外縁部分の若干あいまいな滲むような形です。安価なワインであっても垂直性が明解だというのは素晴らしい点です。そしてこの特性ゆえに、サンジョベーゼはフードフレンドリーなのです。水平的で重心が上または下、といったワインが多くありますが、それではチキン向けかポーク向けであっても、いろいろな食材の料理を一本でカバーすることはできません。味が上から下まであるということがどれだけ貴重な特性なのか、実際にいろいろと食べてみれば分かること。1000円を切るような安価なワインでさえこの顕著な垂直性と中央定位があることが、サンジョベーゼのすごさです。
 お見えになった方の中には、サンジョベーゼが好きではないという方もいました。しかしこの講座のあとには、「いままでダメなサンジョベーゼしか飲んでいなかったと知りました。サンジョベーゼが好きになりました」と。間違った認識をしないためには、有名であるとか高価であるとか高得点であるとかの外部的雑音に影響されないことです。

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