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2018年10月の記事

2018.10.27

オーガニック・プロセッコと上海料理

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九段にある上海料理店、『上海庭』で、オーガニック・プロセッコの講座を行いました。メニューは上海料理らしさがあってプロセッコに合うものを考え、オーナーシェフの張さんに特別にオーダーしました。
1、白切鶏
2、エビの龍井茶葉炒め
3、ローストチキン
4、沪江排骨
5、干糸、エビ、金華ハムの白湯煮込み
6、豆腐と上海蟹味噌
7、葱油開洋拌麺

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 日本人に合わせて普通のメニューは麻婆豆腐とか京醤牛肉糸とか上海とは関係のない料理が大半。予約しに行った時には「こんな料理作っているんじゃない!上海人としてのプライドを持ってほしい」と張さんを激励。通常とは次元の異なる素晴らしい味でした。日本に来る前は上海のホテルにいて江沢民にも料理を出したことがあるという張さんですから、気合が入れば当然本場の味を出してくださいます。干糸や葱油開洋拌麺など、本当に伝統的な上海っぽくてうれし涙が出ました!ちなみに脆皮鶏は広東料理ではないかとつっこまれる前に弁解するなら、Asolo Prosecco Superiore DOCGに対しては他に合うメニューが思いつきませんでした。
 お出ししたワインは先日プロセッコで取材した時に購入してきたものです。白切鶏と脆皮鶏にはAsolo、エビにはコネリアーノ地区のフリッツァンテ。排骨にはDOCのプロセッコ、干糸にはDOCGのヴァルドッビアーデネ、蟹味噌豆腐には同じくヴァルドッビアーデネのビオディナミのワインが合いました。
 平地のDOCワインは、それだけテイスティングしたら水平的で質感が粗いので確かにDOCGより劣った質だとみなされますが、そのかわり流速が遅くて粘りがあるので沪江排骨(ようするに酢豚の高級版)には最高です。DOCはDOCのよさがあります。流速が早いほうから遅いほう、そして重心が高いほうから低いほうに並べれば、アゾーロ、ヴァルドッビアーデネ、コネリアーノ、ノーマルのDOCになります。それと甘辛度合いを鑑みれば、プロセッコは簡単に食事と合わせることができます。アルコールは11パーセント台と低く、酸はしなやかで、泡も強くなく、そして若干の甘さがありますから、中国南部の料理や日本料理が合うはずです。それは今回の上海料理との見事な相性で証明されたと思います。
 ピッツェリア的な飲食店で安くて気軽で安心できるビール代替品みたいな立場になりがちなプロセッコですが、きちんとしたオーガニックのワインは「今まで飲んでいたプロセッコはいったいなんだったのだろう」と思えるほど気品があります。プロセッコのエリアはもともとオーストリア領ですから、今でもワインはどこかオーストリア的な冷涼感と透明感と節度感があるのがおもしろいところ。プロセッコはピッツァのような南イタリアのノリで楽しむものではなく(そう思われているからこその商業的成功なのですが)、しっとりと落ち着いて味わうにふさわしい内容を持っているワインです。しかしオーガニックのプロセッコが恐ろしく少ない現状では、それを実体験する機会さえ普通はありません。残念です。
 それにしてもビオディナミのCol di Manzaは、他に比較するものもないほど圧倒的なプロセッコ。複雑で立体的で繊細で上品で安定感があり、これを飲んでしまうとこれからどうすればいいのだろうと、ご参加の4名の方々全員がおっしゃっていました。日本には輸入されていませんから、またワイナリーに行って買うしかないでしょう。
 ところで今回も新しいテイスティングカップでワインを味わいました。以前のバージョンのカップも持参して比較してみると、やはり新しいほうのエネルギー感や香りや密度感が印象的。ご参加の方が欲しいとおっしゃられたので販売することにしました。これを読まれている方の中でご入用の方はお知らせください。このテイスティングカップの味を経験したら、普通のワイングラスには戻れません。ワインファン(特にビオディナミワインのファン)全員必携だと、個人的には思っています。
 

2018.10.26

ラ・クラープのシャトー・リヴィエール・ル・オーのオーナー、エリック・ファーブル氏来日セミナー

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ラングドックのグラン・クリュのひとつ、ラ・クラープの有力な生産者のひとつが、シャトー・リヴィエール・ル・オー。輸入元であるトゥエンティーワンコミュニティの招きで、オーナーであるエリック・ファーブルが来日し、セミナーを開催しました。知人が輸入元にかけあってくれて、私もお話を聞くことができました。
 
ラ・クラープの名前はだんだんと知られるようになりました。ラ・クラープのおもしろさは、その特異な地質・地形にあります。私も既に十回ほどラ・クラープを訪ねているので、このアペラシオンに関してはそれなりに理解しているつもりです。地質図を見ていただくと一目瞭然、ラ・クラープだけ他とは異なります。ここはもともと独立した島であり、ナルボンヌを流れるオード川が運搬する土砂によってナルボンヌとのあいだの海が埋め立てられ、14世紀に大陸の一部となってしまったのです。地質年代は白亜紀です。ラ・クラープは温暖なオード県の太陽の味というより、白亜紀の冷たい質感と内向的な酸が特徴となります。海の近くなのに、確かに海の塩辛さを感じるのに、海の朗らかさや明るさを感じない、緊張感のある味。ですから私は決してラ・クラープがラングドックの代表だとは思いませんが、ラングドックの多様性を示すよい例のひとつだと言えるでしょう。
 
エリック・ファーブルはボルドー出身です。奥さまはシャトー・フルカス・オスタン(最近オーガニックになって素晴らしくおいしい!いま注目のシャトーです)のオーナー一族。そして彼は、1986年から1993年のシャトー・ラフィットのテクニカル・ディレクター。86年、88年、89年、90年と続いたあの偉大なラフィットは彼が作り上げたものです。節度があって引き締まって気高い味わい。まさにラフィットらしいラフィット。その偉業はどれほど強調してもしすぎることはありません。
 
ひとことで言えば、シャトー・リヴィエール・ル・オーは、ラングドックにおけるラフィットの味です。もし彼が選んだアペラシオンがブートナックやフォージェールだとしたら、ラフィットっぽい味など冗談でしかありません。しかし彼がラフィットをやめた94年から探してついに見つけた土地はラ・クラープ。ラフィットとある意味共通点がある味になるアペラシオン。ですからエリック・ファーブルのラフィットスタイルは違和感があるどころか、見事にラ・クラープの個性を引き出しているのです。
 
それは樽を使わないクラシックのほうに、より顕著。特に2005年には驚きました。熟していて重心が中心にあるのに、涼し気なミント、グラファイト、赤系果実の香りがあり、酸がくっきりとして、心地よい緊張感を漂わせます。まったく過熟風味がなく、かといって早摘みのせせこましさやうわずった重心とは無縁。完璧な収穫タイミング。そしてミントとグラファイトと赤系果実といえば涼しい年のラフィットではありませんか!クラシックの赤は、シラー、グルナッシュ、ムールヴェードルのブレンドです。ムールヴェードルが20%も入ると、南国的スパイシーさと粗いタンニンが目立つワインになるものです。しかしシャトー・リヴィエール・ル・オーは極めて流麗な質感。彼はムールヴェードルが好きで、この品種が成功する土地を選んだといいます。畑は海のすぐ近く。そう、ムールヴェードルは内陸だとごつくてマッチョな味になりますが、海のそばだと上品な味になるものなのです。
 
樽熟成しているグラン・ヴァンのほうはカリニャンが含まれています。しかしカリニャンはどうしても武骨なタンニンになります。こちらも明らかにラフィットの痕跡を感じるワインですが、ヴィンテージで言うならカリニャンのせいで95年的で、88年ではありません。私はこのグラン・ヴァンを飲んですぐにある重要なことに気づき、それが正しいかどうか質問しました。答えは私の想像した通りだったのですが、オフレコだと言うので書けません。しかしワイン通の方ならすぐに気づくことだと思います。
 
赤ももちろんよいとはいえ、ラ・クラープはどちらかといえば白の産地だと思っています。なぜならラ・クラープは、ブールブーランクを補助品種ではなく主要品種として用いる例外的なワインだからです。ブールブーランクは極めて晩熟で、今年のように暑い年でも十月中旬から下旬に収穫です。熟していないブールブーランクは酸っぱくて苦い味にしかなりません(それはそれで、ほんの少しブレンドするぶんにはいいメリハリ感を与えるよい素材です)。ところがラ・クラープではしっかりと熟すため、エキゾティックでスパイシーで表現力の高いワインになります。イタリアのマルヴァジア(というか、クロアチアの、と言うべきかも知れません)と近縁だと言っていましたが、さもありなん、です。シャトー・リヴィエール・ル・オーのグラン・ヴァンの白は、今まで飲んだラ・クラープの白の中でも最上の部類に属する大傑作です。
 

2018.10.24

ヴォルネイ

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 久しぶりにヴォルネイ。以前のモンテリーの続きとして見ていただくと、隣りの村でもどれだけ違うのかがよく分かります。
 ヴォルネイは小さい村で、他の多くの村よりもキャラクターの統一性があります。モンテリーのように、ヴォルネイ側とオーセイ側と違いすぎてわけがわからない、ということはありません。ではそのキャラクターとは何かということを、ブラインドテイスティングを通して探求しました。
 興味深かったのは、この5本のうち、ヴォルネイ村にドメーヌがない一軒のワインだけが、まったく個性が異なっていたことです。「どこの村だと思いますか」と聞くと、「明らかにコート・ド・ニュイ」、「ブロションかな」と。私もジュヴレっぽいと思いました。そしてそのドメーヌはジュヴレ村にあります。どう解釈すればいいのか。その村の地付き酵母の味なのか、それとも造りての頭にある理想の味がジュヴレであって、そのイメージが転写されたり、無意識にもそう造ってしまうのか。このような経験は何度もあります。そのドメーヌの中で比較するなら確かにヴォルネイはヴォルネイらしいのに、ヴォルネイ村の生産者のワインと横並びにしてしまうと異質感が目立つ。ネゴシアンのワインよりもドメーヌのワインのほうがいい、という意見の背景には、このような事態があるのではないか。ところが昔と異なり、今ではどの村にドメーヌがあろうといろいろな村の畑を所有していますから、これはネゴシアン対ドメーヌの話というより、ワインのアペラシオンの村と蔵の所在地が同じか否かの話なのです。
 私個人としてはモンティーユのミタンが一番好きでした。ビオディナミ栽培のエネルギー感と全房発酵独特の複雑性。モンティーユの知的な冷たい味は必ずしも好きではないとはいえ、そして涼しい年には茎っぽさが目立つとはいえ、09年のような暑い年にはちょうどいい。そもそもヴォルネイは暑い年でも決して暑苦しくならないのがいい。
 ミタンはマイナーな畑です。しかし、現在の格付けよりもむしろ信用できると思う1860年の格付け(1級、2級、3級に分かれる)ではミタンは1級。クロ・ド・シェーヌやブルイヤールは2級です。その違いは立体感や複雑性に出ていると思います。
 マルキ・ダンジェルヴィーユのフルミエは、よく言えば陰影感の濃さ、悪く言えばごちゃごちゃ感があり、好き嫌いが分かれるところです。十年以上熟成させても樽が目立つのもマイナス。しかし存在感の強さ、威厳は素晴らしい。05年というヴィンテージゆえでもあるでしょうが、骨格の確かさは傑出していました。
 私は昔は明らかに谷の南側の畑(シャンパンやタイユピエやクロ・ド・シェーヌやカイユレといった有名な畑が並びます)のワインのほうが好きでした。よりタンニンが細かくしなやかな質感だと思います。しかし最近はミタンやシャンランやフルミエのように谷の北側の畑のよさが分かるようになりました。ポマールに接しているこちら側のワインはよりスパイシーでタンニンに頑丈さがあり、逞しい。きれいごとにならない骨太感や土着的なパワー感や陰影感がいい。昔は奈良漬けのおいしさが分からなかったようなものです。経験を積むと、違う見方ができてくるもの。だからこうした比較テイスティングは楽しいのです。
 ちなみに食事は揚げカオマンガイでした。これがポマール側のヴォルネイとぴったり。さらっとしたローストチキンならムルソー側のヴォルネイが合うでしょう。いずれにせよ、ヴォルネイと鶏は絶対外さない相性です。
 

2018.10.21

初心者講座 シャルドネ

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 世界41か国で生産され、ゆえに世界じゅうどこに行っても見かけないことはないシャルドネ。この品種について基礎的な理解をしておくことは、初心者にとって大事です。今回は、シャルドネとはどういう味のワインなのかについて、ブラインドでの比較テイスティングを通して学びました。
 あれこれ解説しているときりがないですが、国やスタイルや土壌は多彩でも、シャルドネの味は強烈にシャルドネであって、標高が高ければ重心が上がる、涼しければ酸が強くなる、といった当たり前の差異を除けば、性格的にはどれでも同じといっていいぐらい。前回のピノ・ノワールの多彩な表現とはずいぶん違います。ゆえにつまらない。探求する価値があまりない品種です。
 多元的な表現をしないとなれば、価値尺度はひとつしかない。あとは価格の話しかできない。
 私はピノ・ノワールに関しては決してブルゴーニュ万歳の立場を取りませんが、シャルドネに関しては熱烈なブルゴーニュファンです。今回のラドワも圧巻です。というか、このラドワは、日本に輸入されていませんから飲んだことがある人のほうが少ないでしょうけれど、本当に素晴らしい出来です。ミネラリーでエレガントなブルゴーニュなのか、それとも果実味があって堂々としたカリフォルニアなのか。そのふたつで選択肢としては十分。そういった意味では初心者にとって選びやすい。
 微温感、水平性、粘り、粉っぽい質感、比較的抑制された鼻腔まででとどまって伸びない香り、流速の遅さ、ねっとり続く余韻。これらシャルドネの特徴を生かす料理ないし食品は、なんといってもチーズとハムです。たとえば夜9時にテレビでも見ながら、冷蔵庫にあるチーズとハムを出してきてソファでワインを飲む、といった、いかにも家庭でのワイン消費様態を想定するなら、選ぶワインはシャルドネに尽きる。スーパーでシャルドネを必ずおいているのには意味がある。
 飲んでいると口や胃にたまってきますし、相当しつこい。この味の引きづり感は味の素的です。多くの人がそれをうまいと思うのはしかたありません。

2018.10.19

アルメニア

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ジョージアワインを知っていればなおさらショック。隣の国で、同じコーカサス地域に分類されるのに、ワインの性格は完全に異なります。

    比較的重い土で石灰もある、標高低めのジョージア。軽い火山性の土で、標高の高いアルメニア。それだけではありません。民族性や文化の違いも感じられるのです。以前ジョージアの人が、ジョージアは武士でアルメニアは商人と言っていました。アルメニアは確かに商人国家としてペルシャとトルコの間で生きながらえてきました。イスラムの大国の只中にあるキリスト教の小国がアイデンティティを保ち続けるためには、大国にとっての存在価値がなければなりません。それが商いに長けたアルメニア人がもたらす商業利潤だったのです。というわけで、ジョージアが北京料理的味ならアルメニアは広東料理的味です。人の顔つきもそういう感じです。厳しいジョージア人に対して可愛いアルメニア人です。
    そしてジョージア語は他の言語との関係が不明な独自の言語なのに対してアルメニア語はインドヨーロッパ語族。だからアルメニアワインはオリエンタルな味がしません。確実にヨーロッパワインの味です。東方からの遊牧民起源を感じるブルガリア以上に、ヨーロッパです。地理ではなく味わいとしては、ジョージアとアルメニアをコーカサスワインとして一括りにしてはいけないのだ、と、御参加の方々は理解されたようです。
     アレニ・ノワール、特に道端で買ったワインの美味しさは圧巻です。家庭醸造のペットボトルワインだというのに恐るべきレベル。ちゃんとしたワイナリーの高価な瓶詰めワインより遥かにエネルギーがあります。
    ワインアカデミーで「好きなアルメニアワインは何か?」と聞かれ、「アレニの道端ワイン」と答えました。嘘でしょう!という顔をされました。「あれが外国人に評価されるワインだと思いますか?」、と。私は「もちろんです。あれが評価されないならアルメニアのPR不足が問題なのであってワインの問題ではない」。西欧におもねったワインなどいりません。皆がそう自信を持って言えるようになればいいのですが。
    最後はアルメニアン・コニャック。エレバンのヒンカリ屋で飲んだものと同じ、オトボルヌイ。参加された方々揃って大絶賛でした。アルコールっぽくなく、ちゃんと果実の香り味がします。粘り、厚み、腰の座りは、最初の二本の白ワインと同じ、典型的アルメニア白ブドウの個性。ブドウの多くは自根なはずなので、下方垂直性が顕著で、それが西欧のブランデーに対する大きな優位点になっています。私は蒸留酒を日頃口にしませんが、私でもついつい飲んでしまうほど美味しい。旧ソ連時代には共産圏のブランデーの供給源だったアルメニアの技術的蓄積を感じる完成度です。

2018.10.13

『アンバー・レボリューション』著者、サイモン・ウルフ氏の講演

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 アンバーワイン(オレンジワイン)に関する本を著したサイモン・ウルフ氏のワイン上級者向け講演がアカデミー・デュ・ヴァンで行われました。満席でしたが、主催者であるヴァンドリーヴのスヘイルさんのご厚意で部屋の隅に席を作っていただき、お話を聞くことができました。
 彼の定義では、オレンジワインとは「果皮と共に発酵された白ブドウのワイン。発酵時に温度調整なし、野生酵母による自然発酵」です。ずっと「果皮」のみの話をしているので、私は質問して、「果皮だけではなく種についても言及すべきではないか」と。実際、オレンジワインは果皮と種を果汁と一緒に発酵させるのですから。答えは「種も大事だが、果梗のほうが大事だ」と。ジョージアのカヘティ地方においては果梗もクヴェヴリに入れますが、ヨーロッパのオレンジワインは私の知る限り除梗します。タンニンは種に多く入っているのですから、オレンジワインのひとつの特徴であるタンニンのある白ワインという側面を考えるなら、私ならば「果皮・種と共に発酵」と言います。また、ピノ・グリやゲヴュルツのオレンジワインを思えば(それらは常に成功しています)、「白ブドウ」だけではなく、「白ブドウもしくはグリブドウ」と言ってもいいかも知れません。
 「温度調整なし、野生酵母による自然発酵」という制約をオレンジワインの中に含めるのもおもしろい点です。その理由は、「そうでないと本当のキャラクターが表現されないから」。しかしそれは白でも赤でも同じことではないかと思います。「オレンジワインはヴァン・ナチュールと同義ではない」と言っていたのですから、オレンジワインの定義にヴァン・ナチュールの内容を持ち込むのは話を複雑にします。では「温度調整した果皮・種と共に発酵した白ブドウのワイン」はなんと呼べばいいのか。そもそも室温の低い石造りのセラーの中で発酵させること自体、温度調整です。コンピューターコントロールのウォータージャケット付きタンクで温度調整したらだめで、室温での調整や外部からの人力水かけなら温度調整のうちに入らない、というのは無理があるわけで、オレンジワインの本質とは遠い話です。つまり、大きなカテゴリーとしてオレンジワインがあり、その下位カテゴリーとしてナチュラル・オレンジワインとインダストリアル・オレンジワインがある、といった定義にしておけばいいのです。
 全部で12種類の、世界じゅうのオレンジワインが提供されました。世界じゅうと言っても、多くは旧ハプスブルク帝国ゴリツィア・トリエステ地域とその近縁が主体です。ブルゲンラント、シュタイヤーマルク、スロヴェニア、クロアチア、トレンティーノ・アルト・アディジェ、そしてもちろんオスラヴィア。オレンジワインはまるでハプスブルク帝国ワインのように思えてしまうほどでした。本来なら、黒海沿岸ワインがもっと含まれないといけないと思うのですが、それらは輸出用ワインになっていませんからしかたありません。
 それらプラス、ルーションを含めた十本の大半は早摘み傾向でした。コメントには、重心上、固い、小さい、という同じ言葉が並びます。ウルフさんも「酸が大事」と言っていましたし、現在の世の中で最重要視されるのはどうも酸であって完熟風味ではないようですから、この傾向はしかたありません。ナチュラルワインの人ほど早摘みが目立つ気がします。しかし以前の投稿で取り上げたフリウリのグラヴナーやラ・カステラーダやブレッサンは早摘み味ではありません。早摘み味は酸はあるかも知れませんが、私にとっては土地の個性も品種の個性も減じられるし、エネルギー感、スケール感、余韻がないので、飲んでいておもしろくありません。それはオレンジワインかどうかの話以前の問題です。
 その点、最後のジョージアの2本、カヘティとルカツィテリとムツヴァネは次元の違う完成度でした。それらはノーマルなカヘティであって、ツィナンダリのようなクリュではありませんでしたが、それでも、です。
早摘みではありませんから重心は真ん中にありますし、スケール感・立体感があり、滔々と流れるような大きな流れがあります。西洋のオレンジワインが頭で考えている味なのに対して、ジョージアのオレンジワインはDNAに組み込まれて無意識に作られているような味。外国人が作る味噌汁や寿司のぎこちない味と、日本人が普通に作るそれらの味の違いと同じ。こればかりは歴史文化の違いです。それらがジョージアワインらしくないという意見もありましたが、たぶんそれはあるグループのジョージアワイン(日本では一般的な)を基準としているからで、私にとってのジョージアワインが好きなポイントは無意識性の完成度です。
 オレンジワインの評価基準が確立されていないといった議論もありました。私はそうは思いません。オレンジワインだろうが赤ワインだろうが、評価基準は同じです。抽象表現主義だろうが構成主義だろうが後期印象派だろうが、感動する絵は感動するのであって、つまりはおいしいものはおいしいのです。おいしさを因数分解するなら、香りの美しさや姿形の整い方やダイナミックさや浸透力やエネルギー感や大きさや余韻の長さ等々となっていきます。しかし多くのオレンジワインは、まだまだ発展途上段階ゆえ、香りがきたなかったり、姿形が乱れていたり、エネルギー感がなかったり、余韻が短かったりしています。それはオレンジワインだからダメなのではなく、下手な造りだからダメなのです。
 例えばオレンジワインブームをけん引してきたひとり、フォラドリのノジオラを見てみましょう。十数年前に初めてフォラドリがティナハを使い始めた時は、あまりにまずくて驚きました。ノジオラも粘土臭くて困惑しました。しかし今回出された2014年(二枚目の写真の白ワインにしか見えないものがそれ)は恐ろしくピュアな香りで抜けがよく、以前とは別物です。早摘みは問題ですが、一時のフォラドリがまずかったのは、フォラドリ自身のせいでも製法そのもののせいでもなく、造り方をマスターしていなかったからだとわかります。他の生産者も十数年継続して造っていれば、フォラドリのように見違える出来になると期待します。
 白、ロゼ、赤と並ぶひとつのカテゴリーとしてオレンジワインが一般化した現在、オレンジワインについての議論がしっかりなされることは大きな意味があります。このような深い理解が得られる機会を与えてくださり、ありがたいと思います。
 
 このあと東京駅の大丸11階で行われているワイン催事に行きました。そこでいろいろとテイスティングしましたが、大半は早摘み味で、重心上、固い、酸っぱい、小さいワインばかりでした。いったい世の中どうなっているのでしょう。本当にこんな味で皆いいと思っているのでしょうか。会場にはジョージアのワインもありました。クヴェヴリ発酵のオレンジワインや赤ワインを飲みましたが、ちゃんと熟したブドウの味がしましたし、ここでもまた別次元の完成度でした。
 単純に言えば、ジョージア万歳、という結論の一日でした。
 

2018.10.09

アルメニアン・コニャックとヒンカリ

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  アルメニアのブランデーはコニャックと呼ばれます。原産地呼称に神経質なフランス相手に裁判して勝ち、その名前を守ったのも、百数十年に及ぶ高品質ブランデー生産の歴史と世界的評価ゆえです。

    私は日頃蒸留酒を飲む機会がなく、アルメニアンコニャックも口にしたことがありませんでしたが、せっかくアルメニアにいるので飲んでみました。最も有名なアララットブランドの、7年熟成、Otbornyです。場所はヒンカリ専門店。ジョージア料理として有名な、いかにもシルクロードな、水餃子みたいな料理です。アルメニアにもあるのですね。ジョージアではヒンカリにはワインは合わせずチャチャを合わせると聞いたため、それに倣って蒸留酒。まあ中国でも水餃子には紹興酒より白酒の方が合いますね。
    アララットのコニャックはヤルタ会談の場でスターリンが出して、チャーチルが気に入り、以降毎年スターリンはチャーチルにアララットを40本送ったという話はよく知られています。それはDVINという長期樽熟成のものですが、私はウイスキーもブランデーもそこそこ短い樽熟成の方が好きなので、それに安いので(一杯500円)、7年を選びました。
    ムッチリ甘い味で、流速が遅く重心低め。オレンジママレードやピーチ的な、フルーティな香り。美味しいです。喩えて言うなら、ジャックダニエル的飲み易さ。アルコールより果実が勝っているため、私のようなアルコール嫌いでも楽しめますし、ストレートでも料理と合わせて飲めます。フランスのコニャックより大らか。旧ソ連圏では絶対のブランドなのに日本では認知度ほぼ皆無。もったいない。試してみる価値は十分にあります。
 

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