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2018.11.02

ジェラール・ベルトラン来日記念テイスティング・ランチ

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▲ジェラール・ベルトランと私。ジェラールのほうが私より三歳年下。



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▲人形町大門通り(明暦の大火以前の旧吉原)にあるフレンチ・バル、サン・ピエール


 11月2日、忙しいスケジュールの合間を縫ってジェラール・ベルトランさんが来日中にテイスティング・ランチのための時間を空けてくれました。
 会場は人形町『サン・ピエール』。ジェラールは「日本に来たのだから日本料理がいい」とずっとだだをこねていたのですが、「それは自由時間をたっぷりとって日本に来た時のために残しておこう、今はあなたのファンのためのサービスとラングドックワインに情熱的な高橋シェフへの感謝が大事」と押し切りました。終わってみれば彼は「おいしかった、行ってよかった、高橋シェフは才能がある」と喜んでいました。もしそれをお客さんの前で言ったなら社交辞令の可能性もありますが、車の中でふたりきりの時にそう言っていたので本当です。私は「高橋さんは才能があるだけではなく、人の声に耳を傾け、謙虚によいものを取り入れる能力がある。それは貴重な能力だ」と。「確かにシェフは一般的にエゴの塊になりがちでフレキシブルさがないな」と彼。自分でもレストランを経営していて困ったことが過去にたくさんあるからこその発言です。
 
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▲イワシのマリネにはプリマ・ナチュール・シラー。
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▲秋刀魚のオリーヴオイル素揚げには、ミネルヴォワ・ラ・リヴィニエール・ラ・ヴィアラ
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▲メカジキのスパイス焼きにはシャトー・ラ・ソヴァジョンヌ テラス・デュ・ラルザック ロゼを。

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▲タコのセト風煮込みにはシガリュス。白も赤も。

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▲牛カルビのカリカリ焼きにはクロ・ドラ。

 

 料理は以前の会でお出ししたものと基本は同じ。失敗のないようにしないと。ラングドックのワイン、特にベルトランのオーガニックやビオディナミのワインに重要なことは、料理をいじくりまわさず、食材の鮮度感を生かすだけではなく、調理時間をかけすぎずに、さっと作ってすぐに提供し、料理の鮮度感を生かす、ということ。いじくりまわしていると、見た目はいいとしても、また知的なおもしろさはあったとしても、エネルギーが失われます。それが日本のフランス料理にとっての大問題なのです。私は寿司やてんぷらのようなシンプルな日本料理、トラットリアのイタリア料理、多くの中国料理にあって、世評の高い、食通の方々が好まれる類のフランス料理にはないものは、自然のダイレクトなエネルギー感だと思います。
 たとえば秋刀魚にしても、ハーブとニンニクの風味のオリーヴオイルで素揚げにしただけですが、それにまさるエネルギー感の料理はありません。私はトルコのボスポラス海峡の海辺の屋台みたいなレストランで、サバのオリーヴオイル素揚げを食べた時にショックを受けました。この秋刀魚が何料理なのかといえば、トルコ料理かもしれません。肉料理はスペインのリベラ・デル・デュエロで食べたもののアレンジです。
 今回の料理で意識したのは、垂直性です。ベルトランのワインとの相性を考える時に忘れてはならない特徴です。しかし料理の垂直性が議論されることはありません。ベルトランのシャトー・ロスピタレのレストランでさえも、料理に垂直性がないことをジェラールも私も常に問題視しています。垂直性がない料理が、垂直性を求めたワインに合うわけがありません。この何か月間、どうすれば料理に垂直性が出るか、店じまいのあとの深夜に、何度もお店を訪れて見本を見せてきました。もしこれを読まれている方でそれなりにフランス料理に詳しい方がサン・ピエールに行かれたら、「田中はどうやって垂直性を出すようにしたのか」と聞いてみてください。

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▲今回のワイン。最後のワインはベルトランのものではなく、自宅から持ってきたデザート用のモーリー・ブラン。ジェラールも「モーリー・ブランは好き」と言っていたが、酸がなくソフトでいてミネラリーなモーリー・ブランはデザートやチーズにとって大変に重宝するワイン。日本には入ってこない。
 そしてベルトランのワイン、ないし高品質のラングドックワインの美点を引き出すための料理のもうひとつの工夫は、味の凝縮度を上げること。前菜の肉団子(プリマ・ナチュール・シャルドネ用)、秋刀魚(プリマ・ナチュール・シラーやミネルヴォワ・ラ・リヴィニエール用)、そしてカルビの黒焼き(クロ・ドラ用)のみっつは素揚げです。揚げれば水分が蒸発して味の凝縮度が上がるからです。ラングドックのワインは濃厚ですから、料理が貧相で密度が薄いと、よくある例と同じく、ワインのアルコール感が強まるだけではなく、料理に対してワインがごつすぎて下品に感じられてしまう。それではこうした生産者を招いてのテイスティングが台無しになってしまうのです。
 ところが往々にして、高級ワイン(クロ・ドラは3万円近くする)だと繊細な高級フランス料理を合わせようとする。たぶん合わないでしょう。ジェラール・ベルトランのワインは、むしろステーキ店、焼き肉店、焼き鳥店のような、素材をストレートに生かした料理を出す店で扱うべきだと思っています。

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