« 初心者講座 リースリング | トップページ | サヴニエール »

2018.12.02

パリでの第40回サロン・デ・ヴィニュロン・アンデパンダン

Photo_10


パリの南西、ポルト・ド・ヴェルサイユでのヴィニュロン・アンデパンダン試飲会。千近いワイナリーが出展しています。フランスワインをテイスティングするにはよい機会です。地味めの地元消費系ワインが沢山あるのが魅力。海外メディアが取り上げるすごいワイン、個性爆発のインパクトの強いワインというより、フランスの一般的ワイン消費の文脈で機能する、コストパフォーマンスに優れ、飲み飽きず、アペラシオンの個性がしっかり分かるワインが多いのがいい。つまりは、フランスワインのフランスワインらしさが好きな人向け。
 
ところがそういったワインは日本ではあまり飲めません。フランス食文化の偉大さは日本人なら誰でも知るところで、フランス料理店もものすごい数があります。みんなフランス料理が大好きみたい。だとすればフランス総菜屋さんもたくさんあってしかるべき。ところが、人口一千万を超える東京、フランス産品で溢れる東京ですら、ほんの少ししかありませんよね。ある有名なフランス総菜屋さんでもイタリアっぽい料理が多い。なぜリゾットなのか、と。そんなにフランス料理が好きなら家でフランス料理を日常的に食べていて当然でしょうに、そうではない。つまりはフランス料理店は好きでもフランス料理は好きではない人が大半なのだと結論づけるしかありません。ちょっと胃の調子が良くないからうどんにしよう、ではなく、牛肉のタルタルにしよう、と普通に思う人はあまりいない。実体としてのフランスではなく、象徴としてのフランスが優位な状況。フランス輸出経済がそれで成り立っていると言えばそれまでですが、それではサロン・デ・ヴィニュロン・アンデパンダンに出展される類のワインが一般化しないのも分かります。それが悪いと言いたいのではなく、バランスが不自然だと。
 
喩えて言うなら、普通の町の蕎麦屋のカレー南蛮の美味しさが分からないのにミシュラン蕎麦屋のトリュフ練り込み蕎麦を絶賛する人をどう思うか。私は普通のカレー南蛮がこの世から消えたら泣きますが、トリュフ蕎麦がどうなろうと構いません。それと同じスタンスに立った場合、例えば会場前のブラッセリーの普通の鴨のコンフィと、会場にある普通のソーミュール・シャンピニーやガイヤック・ブロコールやボージョレ・ヴィラージュの相性の、地に足のついた安心の味が美味しいと思わないなら、本当にフランスワインが好きなのか、と問いたくなるのです。

Photo_12


個別のワインについて話しているとキリがありません。多くのワインが2017年ヴィンテージですが、チャーミングで軽やかで屈託のない、明るい味。北産地に関しては、酸っぱくて固くて陰気な2016年よりいい。補糖嫌いな私には2017年のブルゴーニュはありがたい。補糖ヴィンテージを絶賛する日本のブルゴーニュファンは、つまりは大吟醸が純米大吟醸よりいいと言っているわけです。話が合いません。純米大吟醸の方がいいと思うなら、2015、17、18はいい年です。写真のシュヴァリエのクローズエルミタージュは気に入りました。日本未輸入ですが、誠実な畑仕事を感じるナチュラルな味のいい生産者です。特に左の粘土石灰の畑のステンレスタンク熟成の キュベがいい。最近は北ローヌのシラーの樽無しが好きなのです。樽のザラつきや余計な香りがシラー本来の細やかで抜けの良い個性を邪魔します。その観点からすると、コートロティの生産者の樽無しIGPシラーがどこもおしなべて美味しい。いろいろ探してみる価値はあります。余計な樽に無駄にお金を払う必要はありません。しかし日本ではブレタノミセスの北ローヌのシラーが人気のようですから、というか、シラーとはそういうものだと思っている人が多いみたいですから、クリーンでしなやかな北ローヌのワインはなかなか理解されないでしょう。特に2017年は、多くの人が期待するパワフルさ、強いタンニンと酸がありません。私は、だからいいのだ、と、極少数意見として言っておきたい。
 
Photo_11


ちなみに鴨のコンフィですが、全体にシブレットを振りかけてあるのがポイント。これが全体の重心を持ち上げ、風味を冷涼にして、ロワールのような産地のワインに合うようにしてある。無意識だと思います。しかしそれが食文化です。

Photo_13

Photo_14
閉会後、会場近くの普通のビストロに生産者の方に連れて行っていただきました。別に特別なところではなく、ただ会場に近いからという理由で出展者たちでにぎわっているという、おそろしく普通の店。しかしフォアグラは見た目は悪いのに軽やかで細かく、たいしたもの。なんでこうできるのか。こんなにユルい店なのに。それはそうと、先程ソーミュールシャンピニー、ブロコール、ボージョレを典型的パリのワインの例として挙げていたばかりなので、この店のリストを見て、やっぱり、と思いました。こういう、ワインにこだわっていない、ある意味いい加減な店だから、集団的無意識が表出する。ちゃんとマルシニャック、ブルイイ、ソーミュールシャンピニーが並んでいるではないですか!

Photo_15
逆に言えば、これらのワインに合う味にしなければパリっぽいとは言えない。そしてリストの半分を占めるボルドーのユルいチョイスがまたいいですね。普通のレストランでは当然ながら格付けシャトーからボルドーを見るのではなく、普通のフードフレンドリーなワインとして見るのが正しい。そうすればこのようにリストの価格の低いほうを占める良品がたくさんある産地だと分かります。
 
ここではアルザスワインのトレンドについて興味深い話を聞きました。それは、1、単一品種からブレンドへ。2、ピノ・ノワールへの改植。私が昔から言っていたことですね。やっと、です。例えばフローリアン・ベックのフランクシュタイン、キュベ・リリーは品種表記がなく、リースリング、ピノ・グリ、ピノ・ノワール、ゲヴュルツの混醸。もちろん法令違反です。聞くと、リースリングとして申請しているそうです。なしくずし的に現在の間違ったグランクリュ制度が改変されていくのはいいことです。品種よりテロワールが重要で、そのテロワールの美点を最大限引き出す手段として品種を捉えればいいだけです。しかし今さらピノ・ノワールと言っているようでは気候変動に対して遅い。もはやアルザスはピノには暑すぎ。だから多くのピノが焦げた風味があるし酸が鈍い。今ならブラウフレンキッシュの方がいい。そして多くのピノが抽出しすぎ樽使いすぎ。間違った方向に行っている人が多いようです。

« 初心者講座 リースリング | トップページ | サヴニエール »

試飲会等」カテゴリの記事