« パリでの第40回サロン・デ・ヴィニュロン・アンデパンダン | トップページ | 初心者講座 シャンパーニュ »

2018.12.12

サヴニエール

Photo_49
 ロワール白ワインの王はサヴニエール。当たり前のことです。飲めば分かる別格のスケール感と厚みと長さ。しかし、あまり見かけません。かろうじて見かけるとしたらニコラ・ジョリーのクーレ・ド・セランですが、それを買う人は、本当にサヴニエールが好きでクーレ・ド・セランの個性を欲して買っているのかははなはだ疑問。たぶん、有名だから、という理由でしょう。
 ワイン教育=有名な名詞の暗記、といった状況では、ロワールに限らず世界じゅうのワインが実体的内容ではなくブランド価値で評価されることになる。そもそも、もし世の中じゅうのクーレ・ド・セランの消費者が、クーレ・ド・セランの個性を十分に考えた上で好きで買っているなら、消費者からの適切なフィードバックが生産者にあったはずで、ニコラ・ジョリーの80年代から90年代のスタイルがあんなに迷走することはなかったと思います。
 往年の彼のスタイル、すなわち硬くて酸が強くて神経質な早摘み味は間違いです。シュナン・ブランは少し貴腐がついたほうが必ずおいしい。往年のサヴニエールだってそうだったはずですし、ニコラの母親が造っていたワインもそうでした。あの早摘み時代のニコラ・ジョリーのワインは、正直言っておいしくなかったわけで、それでビオディナミと言われても困るというか、ビオディナミへの疑問を抱かせるネガティブな効果さえありました。
 私は90年代末、最初にニコラ・ジョリーに会った時、クーレ・ド・セランは95年モワルーが一番だとちゃんと伝えています。クーレ・ド・セランもロシュ・オー・モワンヌも本来ボーン・ドライではいけない、貴腐をつけるべき、と。ありがたいことに、2001年、貴腐がついてとろりとしたワインに仕上げてからのニコラ・ジョリーは、特に娘ヴィルジニーが醸造を手掛けるようになった貴腐の年2004年からは、彼らは方向転換して積極的に1割程度の貴腐ブドウをブレンドしています。今では、サヴニエールで一番収穫が遅い生産者は、一番早い人から3週間後のニコラ・ジョリーです。
 早摘みシュナン・ブランが嫌いな私としては、現在のニコラ・ジョリーが理想のスタイルなので、暑かった今年の収穫時9月初頭にも彼にメールして、「絶対にまだ収穫するな、アルコールの高さと酸の低下を恐れてはいけない。熟していないブドウにテロワールの表現はできない」と書きました。彼は、「周囲はもう収穫している。ヴィルジニーは不安がっているが、私もまだだと言っている」と。アンジュー地区のあるべきシュナン・ブランはフレッシュ&フルーティなどではありません。なぜアンジュー地区は甘口アペラシオンがあんなに多いのか。コトー・デュ・レイヨンからロワール河を渡って反対側にあるより乾燥したサヴニエールでは貴腐がつきにくいのですが、それでも貴腐がつかないわけではありません。
 
 なぜサヴニエール、ないしアンジュー全体が理解されないか。パリのワインバーやそれなりにワインにこだわったビストロに行ってアンジュー・ブランがない状況というのは考えられないでしょう。そこには正当な理由があります。ところが日本でロワールといえばまずはサンセール、そのあとヴーヴレでしょうか。ロワール白の個性は、と、そこそこワインを知っている人に聞けば、冷涼でアルコールが低めで酸が高いすっきりしたワイン、との答えが返ってくるはず。だから中途半端な勉強は迷惑なのです。そう思ってアンジュー地区の白ワインを飲めば、イメージとは異なって戸惑う。ねっとりして重ための味だからです。サヴニエールもその延長線として見ることができます。それをネガティブにとらえる人ばかりだから、サヴニエールがきちんと理解されないばかりか、早摘みワインがもてはやされることになる。早摘みしたアンジューやサヴニエールは、サンセールやヴーヴレに似てくるからです。
 
 今回はまずソーミュールとサヴニエールの比較から始めました。ソーミュールも悪いワインではありませんが、サヴニエールの凝縮度はけた違いです。格の違いは、値段の違い以上にあると思います。
 それから畑違い。砂岩、片岩、リオライトという3つの主要構成岩石によるワインの特徴を理解しました。また今回は公式的にINAOにグラン・クリュ申請をしている5つの畑のうち4つ、クロワ・ピコ、クーレ・ド・セラン、ロシュ・オー・モワンヌ、クロ・デュ・パピヨンをお出ししているので、そうではない畑のワインと比較し、明らかにグラン・クリュ候補のワインがきちんとグラン・クリュの味がすることも理解しました。細かさ、伸び、佇まいの整い方が違います。
 クーレ・ド・セランは2つのヴィンテージ、2007年と2016年。それまでのサヴニエールも見事ですが、クーレ・ド・セランはさらに格が違う。これぞビオディナミのグラン・クリュというスケール感、ダイナミズム、複雑さ、圧倒的な余韻。2007年で15・5度、2016年で15度という恐ろしく高いアルコールにも関わらず、中身があるのでアルコールを感じません。今の気候なら完熟したらこのぐらいのアルコール度数になる。それを無理やり早く収穫して13・5度にしたら不自然になるか、本来のポテンシャルを発揮できなくなるか、です。
 2007年は、当時は最高傑作だと思っていました。ものすごいパワー感です。しかし前に出てくるだけではなく、優れたビオディナミ独特の後方定位と渦巻状の動きがあります。今飲んでもこの好ましいビート感は魅力的です。
 2016年は一転して平穏で慈愛に満ちた味。2015年以降はまたスタイルが変わって、穏やかな温度感がありますが、2016年は2015年よりさらに凝縮度が高く、悟りを開いたかのように安定しています。何が変わったのかとヴィルジニーに聞くと、栽培も醸造も変えていないのだけれど自分自身が変わった、子供ができたことが大きい、と。参加者のおひとりが「お母さんの味」と表現されていましたが、その通りです。長らくクーレ・ド・セランをご無沙汰していた人には衝撃的な違い。以前とは似ても似つかぬ静謐で高貴なワインです。酸酸酸酸言っている日本の多くのプロやワインファンには到底評価されないでしょうが、私はこれが正しいサヴニエールの在り方だと思います。ニコラ・ジョリーの長年の苦闘が実を結んでこのような美しい世界に到達したことに泣けてしまいます。
 ただし、ジョリーのワインは生き物なので、周囲の状態が悪いと、まして根の日や葉の日に飲むと、とんでもない味になりがちです。昨日のような味が他でも得られると思ったら間違いです。普通はもっと角が立った味です。そしてクーレ・ド・セランのような本当のビオディナミワインに対して、いま私が使用している田中式テイスティングカップ・バージョン3は大変に役に立ちます。
 最後二本は甘口。甘口といってもあまり甘くありません。それがサヴニエールの甘口の素晴らしいところですし、甘くなってもサヴニエール独特の硬質なミネラル感は失われず、バランスがよい味。早く収穫するより遅く収穫して甘口にしたほうがいいと、実際にテイスティングしてみれば分かります。
 
 そして今回の講座のもうひとつのテーマは、ニコラ・ジョリーが見つけたルドルフ・シュタイナーの手稿に記されている星座と石の関係です。私はそれを彼の部屋で見つけ、彼とそのことについて議論し、画期的なアイデアを考えました。講座にいらした方にはそれをお伝えし、実際に実験してお見せしました。一度経験したら二度と後戻りできない巨大な効果。世界じゅうで昨日の講座にお越しの方のみがその作動原理と結果を知っています。それにしてもルドルフ・シュタイナーはなんでこんなことを思いつくのか!普通に聞けば、バカか、と言われて終わり。ですから詳しくは書きません。しかし実際にやってみると効果絶大。それと同時に、ビオディナミもまだまだ知られていないことがあるのだと思いました。ルネサンス・デ・ザペラシオンの生産者たちが70人ほど来年11月に来日するはずですが、その時にセミナーを開催して広く発表してもいいかも知れません。
 

« パリでの第40回サロン・デ・ヴィニュロン・アンデパンダン | トップページ | 初心者講座 シャンパーニュ »

日本橋浜町ワインサロン講座」カテゴリの記事