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2018.12.20

海沿いトスカーナ

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 近年のトスカーナワイン全般の傾向には賛同できません。固く、ぎこちなく、空気感が弱く、直線的なタンニンが目立ちます。この20数年間かけて彼らがよしとして選んだサンジョベーゼ・クローンのせいでもあり、ボルドー品種のブレンドの問題でもあり、地球温暖化・渇水ストレスの増大と、それに関連する早摘み志向の問題でもあると思います。
 とはいえ、トスカーナがダメな産地であるとか、サンジョベーゼが二流の品種であるとか言うつもりはありません。いろいろな要因の歯車がずれていると言っているのです。それはキャンティ・クラシコのエリアで最も顕著に見受けられます。内陸に位置する水はけのよい標高の高い斜面の畑というのが、必ずしも現在プラスに機能しているとは思えません。いろいろな機会にテイスティングして印象に残るのは、気候が穏やかなな海沿いの産地です。
 ですから先日はトスカーナの海沿いのワイナリーをいくつか訪ねてきました。海沿い産地は伝統的には優れたエリアだとはみなされていません。DOCGやDOCも最近になって増えただけで、仮にサッシカイアが生まれなければ、海沿いは今でもオリーブの畑か安価なロゼ用の畑が点在するだけの貧しい土地だったでしょう。実際、グロセット県の海沿いの道をローマに向かって走ると、あまりに家が少なく、ローマ時代からたいして変化していないだろう風景に驚かされます。
 海沿い(ないし川や湖のほとり)のワインは、トスカーナに限らず世界じゅう、しっとりとした質感、やわらかい果実味、まるいタンニンと酸を備えています。ボルドーのフロンサックとリュサック・サンテミリオンを比較すればすぐにわかります。内陸のサンジョベーゼのごりごり感・ごつごつ感がいやなら、当然いまは海沿い産地に注目すべきなのです。
 それと同時にトスカーナの白も知らないうちに驚くべき進歩を見せています。しょうもないトレッビアーノと薄くて酸っぱくて苦いヴェルナッチャというのは大昔の話です。今回、最南端産地アンソニカ・コスタ・デッラルジェンタリオとボルゲリでつくられるヴェルメンティーノ(プラス、マンゾーニ・ビアンコ)のワインをお出ししましたが、すっきりとして大変にミネラリーな冷涼な味わい。暑くるしいもったり味の正反対。赤ワインより白ワインのほうがいい、とおっしゃっている方さえいました。
 パッリーナの楚々としてキメ細かく、かつフレンドリーなサンジョベーゼも魅力でしたし、なんといっても皆さんが驚いたのは、モレッリーノ・ディ・スカンサーノ協同組合のワイン。グロセットにある比較的大きなショッピングモール内のスーパーで買ったものです。これがしなやかでおおらかでリッチかつ抜けがよい、見事な味わい。値段も当然手ごろ。協同組合ワインが成功するときは、本当にバランスがよい、いかにもその土地らしい味のワインになると思います。地元スーパーで売っている、大手Sensiの安価なボルゲリも見事。砂地のボルゲリらしさがよく出たしなやかでいて強い味。かの有名なグレート・ヴィンテージ1998年のオルネッライアと比較すると、この20年間の進歩がよく理解でき、むしろこのスーパーマーケットワインのほうが時間軸上の密度が均一で、アタック重視、ミッドの密度重視で余韻が落ちて下半身が弱いオルネッライアよりおいしいと思いました。ワインの味に過剰な思い入れや狙った感が見えないのがいい。多くの高級ワイン、高評価ワインは、あまりに人的要素が強すぎて逆に自然との接点が希薄になると常々思います。そもそも98年(ボルゲリのグレートヴィンテージ)のオルネッライアはブレタノミセスが感じられます。昔はこれでもOKだったのでしょう。自分の味覚も向上したのでしょうか。
 最後はビオディナミの二本。ボルゲリ域内のサンジョベーゼ&メルロ、モンテスクダイオ域内のカベルネ・フラン。これらのダイナミズム、気配の広がり、後方定位性、質感の緻密さと厚み、タンニンと酸のまろやかさと強さの高度な両立はおそるべきレベルです。前者はキャンティのフォントーディが作るテラコッタでの熟成。外国のクヴェヴリやティナハではなく、トスカーナの陶製甕というのがいい。樽熟成していないためボルゲリとは名乗れない、と言いますが、樽風味がないぶんピュアな果実とミネラル、そしてボルゲリならではのリッチさと涼しげな香りがストレートに表現されています。後者はサンジョベーゼではないためモンテスクダイオとは名乗れませんが、まさに海沿いトスカーナらしい塩味と穏やかな広がりがあります。これも樽熟成ではなくコンクリートタンク熟成。こうしたピュアな味わいに馴れると、樽がもたらす余分なタンニンや風味が邪魔に感じられるようになります。
 こうしたワインを飲むと、トスカーナっていいな、と思えます。最近やたらラグジュアリーイメージが強いトスカーナですが、ミラノやローマでトスカーナ訛りのイタリア語(本来トスカーナ方言が現代イタリア語の基礎となったにもかかわらず!)をしゃべると田舎者だと思われるそうです。実際トスカーナは田舎です。その田舎性が3,40年前には新鮮に感じられた記憶があります。無用に着飾っては逆に恥ずかしいのです。
 

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