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2018.12.19

初心者講座 シャンパーニュ

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 この時期、なにかとお世話になる機会が多いシャンパーニュ。ですから12月の初心者向け入門講座はシャンパーニュをテーマにしました。
 シャンパーニュはワインであると同時にシンボルであるような典型的なアイテムです。ある意味、シャンパーニュであること自体が価値です。ハレの日にはシャンパーニュ。何かお祝いしたい時にはシャンパーニュ。食前酒としてのまずはシャンパーニュ。ほうっておいてもシャンパーニュがそのような意味をもつわけではなく、シャンパーニュ自身がそのようなものとして自らを位置づけ、不断のマーケティング努力によって勝ち得た意味です。そこでは内容との直接的な関係はありません。紅白饅頭は、基本的なスタンスとして、紅白饅頭が配られる一連の儀式の中のシンボルとして見るべきなのか、それとも菓子そのものとして見るべきなのか、といえば、当然前者です。そこで赤いお饅頭の色は人工的な色素なので自然ではないからダメだ、といった議論をしてもしかたありません。実際のところ、ワイン初心者にとって、シャンパーニュは分析の対象としてのワインではなく、ハレの日を彩るシンボルとしての意味のほうが大きいはず。だとしたら、そこでマッシフ・ド・サンティエーリーがどうしたこうした、タイユを入れるべきか否か、といった話をいくらしてもたいした意味はありません。まずはここの議論をしっかり踏まえるのが大事です。もしどのようなブランドがどのような意味作用をもつのか、といった議論をするなら、それはそれで楽しいでしょうし、ある種の人には役に立つことでしょう。しかしそれは私がこの講座で扱いたいテーマではありません。どのようなワインであれ、その内容にのっとった価値を自ら発見することが大切であって、世の中に流布している意味作用を無自覚的に受容することがワインのためになるとは思わないからです。
 次にはシャンパーニュの本質規定を考えました。発泡ワインならばシャンパーニュでなくとも今や世界中に選択肢はあります。その中でシャンパーニュを選ぶとするなら、そこには正当な理由が必要です。もしシャンパーニュの本質とはずれた特徴をシャンパーニュに求めているなら、シャンパーニュにとっても消費者にとっても不幸です。初心者にとって大事なのは、シャンパーニュが北限の産地だと知ることです。
 テイスティングは、まずシャンパーニュ2本とクレマン・ド・ブルゴーニュとオーストラリアのスパークリングの計4本のブラインド比較。質問はふたつ、どれがいいワインか、というのと、どれがシャンパーニュだと思うか、です。明らかに一番よいワインだと個人的には思ったフランシス・オルバンの単一村ピノ・ムニエ単一品種のワインを一番よいワインだと思われた方が一番多く、二番目によいワインだと思ったヴァンサン・ブーズローのクレマン・ド・ブルゴーニュがよいと思われた方が二番目に多かった。そしてどれがシャンパーニュかと思うかとの問いには、フランシス・オルバンが一番多く、ヴァンサン・ブーズローは二番目。簡単に言うなら、一番いいワインがシャンパーニュ、だという観念がテイスティングに先立っているからです。しかしオルバンのピノ・ムニエのワインは典型的なシャンパーニュとは違います。それがシャンパーニュだとブラインドでもわかったのはすごいことですが、もしシャンパーニュらしさを理解した上なら、ドラモットがシャンパーニュだと思われた方がひとりもいないという事態を説明できません。ドラモットは基本3品種をブレンドし、ワインの味わいの中にあの独特のチョークの味があり、質感が緻密で酸がしなやかに強い、いかにもシャンパーニュなシャンパーニュだと個人的には思っていますが、いいワインだと思った方もおらず、シャンパーニュだと思った方もいない。内容と名辞の不一致。ここをどう考え、どう解決するかです。
 シャンパーニュらしさを考える上で、ふたつ大切なことがあります。格付けと製品構成です。前者は土壌から見て端的に言うなら、チョークがあればあるほどよい、という観念を表し、後者は澱との接触時間が長ければ長いほど、つまり酵母の死骸の味がすればするほどよい、という観念を表しています。フランシス・オルバンをシャンパーニュらしいと思った方が大半だったのでその理由を聞くと、熟成感といった答えが返ってきました。主観的な好き嫌いはともかく、それは正しい認識です。残るはチョークらしさです。チョークの興味深い特性は、1立方メートルあたりなんと300から400リットルもの水を含むということ。つまり水分ストレスがない味になるということ、果皮感のない味=果汁感のみの味になることです。搾汁率に対する厳密な規定もそこに関わっていると考えられます。
 2番目のフライトは、同じ生産者、同じ畑で、ブリュット、ドゥミ・セック、ブラン・ド・ブラン、ロゼの比較。甘さが異なると何が変化し、何が変化しないか。ピノ・ムニエ90%シャルドネ10%のワインとシャルドネ100%のワインでは何が異なるか、ブリュットに赤ワインを入れたら何が変わるか、を確認しました。製法や規定ならいろいろなところに書いてありますが、言葉だけ覚えてもしかたない。味として、個性として、機能(なんの役に立つのか)として感覚で理解することが大事です。
 ワインに関しては初心者はすぐに生産者の名前を覚えるという方向性に行ってしまいますが、その前にやらねばならないことはたくさんあります。何を買うか、以前に、自分はどのような特性を欲していて、その特性を得るためにはどのような要件(品種、土地、ヴィンテージ等)に着目しなければならないかを考えましょう。

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