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2019年2月の記事

2019.02.14

Jo Ahearneによるクロアチア、フヴァール島ワインのセミナー

 
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 イギリス人MWジョー・アハーンがクロアチアのフヴァールで造ったワインをテイスティングしつつ、フヴァールと主要品種プラヴァッツ・マリについて深く学ぶセミナーが、輸入元ヴァンドリーヴ主催により、南青山のキャプラン・ワイン・アカデミーで行われました。
 以前、日本橋浜町ワインサロンでもフヴァール島のワインについては現地取材をもとにご紹介しました。フヴァールは全長150キロの島ですが、人口は11000人しかおらず、未開の土地が広がっています。あるのはブドウ畑ぐらい。おなかがすいても食べるところさえ見当たらない(冬はどこも休み)。しかしそのワインは圧倒的です。日本橋浜町ワインサロンでお出しした過去すべてのワインの中でもベスト10に必ず入るほどです。

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▲フヴァールの畑を説明するジョー・アハーンさん。映っている写真は、畑から海を見下ろしたところ。転んだら天国行きです。

 フヴァールの気候は、最高気温30度、最低気温6度、日較差8から10度、日照時間はヨーロッパの島で最高となる2800時間、そして降水量700ミリ。南の海沿いは急斜面、北は平地で肥沃です。土壌は石灰岩か、ドロマイト。場所によって細かく石灰になったりドロマイトになったり。石灰岩は酸性水に溶けるので脆くなって根が深く入り、ドロマイトは溶けないので逆。石灰岩土壌のほうが陽イオン交換容量が大きく、ワインの酸も高くなる。ようするに石灰岩のほうがドロマイトより優れているようです。

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▲プラヴァッツ・マリとその親品種の歴史。プリミティーヴォがヴェネチア共和国滅亡の近くになって初めてイタリアに渡ったのが興味深い。それまではヴェネチアによって守られていたと考えるべきか。


 プラヴァッツ・マリは19世紀の終わりに生まれたCRLJENAK KASTELANSKIとDOBRICICの自然交配品種。CRLJENAK KASTELANSKIは18世紀半ばにイタリアに渡ってプリミティーヴォになり、19世紀半ばに(たぶんウィーン経由)アメリカに渡ってジンファンデルになりました。もともとの品種は病気でほぼ絶滅してしまい、今フヴァールに植えられているジンファンデルはアメリカから持ってきたものだそうです。プラヴァッツ・マリは意外と最近に誕生したのですね。

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▲プラヴァッツ・マリは色づきに相当なムラが出る品種。ゆえに下写真のように、収穫時には必ずレーズン状のブドウが混じる。

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 プラヴァッツ・マリとは青くて小さいという意味です。実際そういうブドウです。大変に興味深い点は、色づきが同時期に起こらないこと。写真を見ても分かるとおり、青い果粒もあれば緑の果粒もあります。これが収穫時期になっても緑だった果粒の成熟はそのまま遅れているため、収穫時には必ず未熟果、適熟果、過熟果がひと房の中にまじりあいます。レーズン状のブドウが2,3割の時点で収穫せよ、と地元では言われているそうです。それがワインになると、若干のえぐみを伴う強いタンニンとレーズンのようなこってりした風味がまじりあう不思議で複雑な味に。譬えて言うなら、ひとりゲミシュター・サッツ味。単一品種でもこの複雑さ、そして必ず表現される垂直性。それが好きな人は、プラヴァッツ・マリは世界屈指の素晴らしいブドウです。私ももちろんこの品種が大好きです。

 未熟果の種は緑色で、長くマセラシオンすればワインが強烈にエグくなるので、アハーンさんは調理用濾しザルで緑色の種をすくって除去するそうです。それをブルゴーニュでシャルドネ用に使われたジュピーユのオークの樽で熟成。ジュピーユはけばいヴァニラ香ではなく上品な個性で有名ですが、それをフヴァールで使うというセンスがいいと思います。伝統的なスラヴォニアの樽はあまり質がよくなく、トーストが強すぎるそうですが、優れた樽を発見したので、そちらも少し使用するようになったとのことです。
 揮発酸が多めの味が好きだそうで、欠陥として感知される閾値ぎりぎりのところで抑えつつ、意図してそういうワインに仕上げます。そうしないとプラヴァッツ・マリはシンプルな香りになってしまうそうです。ですから彼女のプラヴァッツ・マリ・サウスサイド2014は、昔のバローロや昔のブルネッロ的なキャラクターがあります。明らかにイタリアワインに近い。フヴァール島を含むクロアチアのダルマチアは、昔はヴェネチア共和国、そのあとオーストリアですが、彼女のプラヴァッツ・マリはオーストリアっぽくは一切ありません。
 「酸が大好き」だというだけあり、ロゼのロジーナ2017(ダルネクシャ品種)も、オレンジワインのワイルドスキンズ2017(クッチュ、ボグダヌシャ、ポシップのブレンド)も、テレンス・パトリック2016(ダルネクシャ主体、プラヴァッツ・マリ、メルロのブレンド)も、最近のワインっぽい早摘み味です。プラヴァッツ・マリ・サウスサイド2014はそこまで早摘みではない味ですが、それでも地元で飲むプラヴァッツ・マリと比べればずっと酸っぱい。地元の人にはやはり「酸っぱい」と言われるそうです。

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▲ピノ・ノワールに似た味に仕上げたテレンス・パトリックはフヴァールのサバのグリルにぴったり合うそう。


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▲左がアハーン・ヴィーノのプラヴァッツ・マリ2014、右がピーチー・キャニオンのパソ・ロブレスのベイリー・ジンファンデル2014。ジンファンデルのほうがなめらかだが水平的、プラヴァッツ・マリは風味の幅が広く垂直的。


 いかにも頭脳明晰なイギリス人がきちんと計算してイギリス人の嗜好に合わせて造ったワイン、といった趣。特にテレンス・パトリックは「ピノ・ノワール的なワインを造ろうと思った」そうで、その通りになっています。それも新世界のピノ・ノワールです。完成度は高いと思いますが、ここからフヴァールに入門したら、寿司をカリフォルニア・ロールから入門するようなものです。既にフヴァールに親しんでいる人なら、「ああ、こういう解釈もあるんだ」、「確かにここが問題で、こう解決したのか」、といった知的な楽しみが得られます。そういった意味では大変に高度なワインですが、経験値と知的好奇心の高いお客さんに向けたワインなのですから、それでいいのです。

 ちなみにセミナーは英語のみ。ロンドンっ子アハーンさんの早口のイギリス英語に追いつくのは私にとっては大変でした。教室の中のノリは通常とは異なり、私は最前列に座っていたのでなおさらなのですが、ふと海外にいるような気になりました。最近は日本でも英語のみでOKになったのかと、プラスの意味でもマイナスの意味でも感慨しきり。
 

2019.02.10

日本酒の勉強

沢山の日本酒を試飲しながら、日本酒をいかなる基準で評価すればいいのか思案中。なぜいいのかを表現するための用語を確定していかないと。簡単に言えば、私がワインに対して使ってきた言葉と尺度をそのまま該当させた時に、何か問題が起きるのかを自分で検証しなければいけない。例えば、A という要素があれば美味しい、と仮説を立てるとする。そして実際にいろいろ飲んで。Aという要素がないのに美味しいと思うお酒があったなら、その仮説は修正しなければならない。また、AB二本のお酒があって、Aが美味しいと思う。ではもう一方のBにはなく、Aにはあるものとは何か、と考えていきます。こういった感覚と論理を一致させる努力をしないと、何か言おうにも、まともな日本語にすらなりません。

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美味しかった作品は次の写真のもの。
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ブラインドで飲んでも、いざ蓋を開けてみると、やっぱり兵庫県吉川町特A山田錦だったりする。福井の梵の日本の翼、いかにもそういう味。氷温長期熟成によってパワー感が奥行きや複雑さに転化している印象。社長の高橋さんによれば、梵は90品目もあって杜氏は一年中忙しく酒を造っているそうです。品目数がひたすら増えていくのがどこでも問題だと思います。人間の才能には限界があるので、どれだけひとつに集中することができるかも究極的な品質に関係するはず。それでもこの作品は見事。兵庫県の福智屋の生酛純米大吟醸も堂々たる構えと安定感の中にゆったりとしつつビビッドな酸が絡み合い、香りは穏やかでいて伸びがあってたいしたもの。特A山田錦だけがいいわけではないと先日書いたばかりではないか、と言われそうですが、美味しいものは美味しい。そして地元の米と酵母で発酵したタイプも美味しいものは美味しい。青森県の米、華想いと、青森県の酵母、まほろば吟を使った桃川も、淡々とした中にきちんとした構成力があり、前後感とそれがもたらす空間の広さを感じさせ、さらには中心密度もあるため、品があります。福島県の豊久仁の純米大吟醸は、いかにも五百万石の軽快さとすーっと伸びる香りときめの細かさ。いかにも大吟醸といった趣ですが、香りと味のあいだの一体感に優れ、香りを浮足立たせないだけの足腰の強さがさりげなくあるのが素晴らしく、全体として整った品位があります。どこに美味しい理由があるのか、ずっと考えています。美味しいと思わなかったのが、吟醸と大吟醸。純米大吟醸は面白いことに、いいものはとてもいいし、ダメなものは肩透かしの極致。雫酒や中取りならいいわけでもない。
 
この4本の純米大吟醸は順当に高品質ですが、左3本は個性の面白さが印象的。岐阜のお酒の流れのスムースさと風味の透明感、京都のお酒のフワフワした捉えどころのない花霞的空気感の中に秘めた芯の強さ、東京のお酒の朴訥な当たりのよさや朗らかさや親しみやすい温度感。どれも飲んですぐに風景が浮かび、使い途が見える。東京のお酒は余韻が若干短いので点数は高くならないにせよ、実は飲んで一番身体に浸透する感じ。私は東京人なので身体の大半は東京の水で出来ているからなのか。正直、多摩自慢が一番「普通でいい感じ」に思えるとは予想していませんでした。ある意味、テロワールおそるべし。
 
 

2019.02.08

ジャパン・ワイン・チャレンジ授賞式&ワイン・イントゥー・ウォーター、チャリティ・オークションー

汐留のコンラッドホテルでジャパンワインチャレンジのトロフィー受賞生産者や代表者の方々への賞状授与式。審査員代表として私がプレゼンターをさせていただきました。

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そのあと、高円宮妃殿下や各国大使のご臨席を賜わり、水のない国で井戸を掘る運動資金を作るためのチャリティオークション。高円宮妃殿下のスピーチのあとに、私がスピーチを仰せつかりました。ケンブリッジ大学を出られた妃殿下の美しい英語のあとで私のつたない英語とは申し訳ない。話したことは、世界各国には沢山の知られざる美しい個性があり、それらは一つの尺度で優劣をつけるべきものではなく、ひとつひとつの存在の中に踏みいって本質を見る努力をすべきである。そしてそうした未知の美しさを発見して世の中に知らせるのが我々の責務である。といった内容。目の前にアルメニアやクロアチアの大使がおられたので、ヴォスケハットやアレニ・ノワール、ポシップやブラヴァッチ・マリを例に挙げて話しました。例によって急に言われて即興スピーチですが。

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それにしても、こうしてトロフィーワインや日本酒を飲むと、ジャパンワインチャレンジとインターナショナルサケチャレンジがいかにユニークか分かります。普通ならトップにならない作品がトロフィーです。

例えばベスト日本ワインは、都農ワインのスパークリングうめわいん。甲州でもメルロでもなく、ブドウですらない、梅を発酵したもの。日本ワイン関係者全員が卒倒するか激怒するか嘲笑するか、でしょう。日本のワインのプロは、こうした作品がブラインドで出てくると、イレギュラーだから判断停止してしまうか、梅は補糖と加水なしにはワインにならず、不純であり、炭酸ガス注入式は邪道であるとして却下するでしょう。それは原理主義です。結果より理屈優先。しかしこのワインは、ミネラル感、構造、バランス、垂直性、余韻の長さといった普遍的評価項目において優れているだけでなく、純粋に美味しい。さらに、地元名産の果物の素晴らしさを知らしめる役割をしっかり果たしている。そして商品企画力、具体化の技術において卓越している。他にはないユニークな美味しさを初めて作り出したこと自体、絶賛されるべきものです。そもそも宮崎で無理してヴィティス・ヴィニフェラを栽培するのがそんなにいいことか。地元に育つ伝統的な果物を使う方がテロワールのワインとして正しくはないか。さらに言うなら、梅は自根だし、より自然な形で生えている果物ですから、ブドウより自然なエネルギーがある。よく出来たボルドーもどきやブルゴーニュもどきを日本で作っても仕方ない。ウソだと思うなら、このワインを買って試して欲しい。ちなみに外国人審査員は皆評価しました。彼らは美味しいものは美味しいと自信を持って言う。そしてこれが日本でしかあり得ないワインであることを評価する。生産者の方は、海外からの観光客に評価される、と。それは当然でしょう。

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日本酒もしかり。トロフィーを取った岩手の浜千鳥大吟醸は、通常なら評価されない類の酒。固くて厳しい味。しかし大吟醸なのに重心が真ん中にあり、立体的垂直的で余韻が長く、タイトでミネラリーで、しっかり背骨がある。いかにも岩手。兵庫の山田錦を使ってもこの強烈に岩手らしい味を出してくるのがいい。つまりどういう味なのか違う表現で言ってくれ、と、岩手めんこいテレビの方に質問されたので、「岩手短角牛の味、石割桜の姿」と答えました。日本じゅう同じ味のお酒では意味がない。土地の神さまに捧げるに相応しい、その土地らしい味でなければ。

梵の天使のめざめは更に過激な個性。「いろいろ受賞してきましたが、天使のめざめに賞を与えるのはこのコンテストぐらい。普通なら門前払いのお酒」だと。使用するお米は地元産のいろいろな品種ブレンド。山田錦ではなく、普通米さえ使っています。それをフレンチオークで10年熟成。アルコール度数18度、日本酒度マイナス15。日本酒かどうかさえ分からない味。あえて他に喩えるならリブザルト・ランシオ。ものすごいパワー、凝縮度、複雑さ、垂直性、構造、余韻、そして唯一無二の美味しさ。暴れた要素を熟成によってまとめ上げたダイナミックな構成。世に溢れる去勢酒の反対。私は20点満点をつけました。外国人審査員と私は高い点数、日本人審査員は低い点数。同じ話ばかりですみませんが、ユニークなものに対する評価が出来ないのが日本人です。ユニークなスタイルの中にある普遍的な美点に着目すれば、この作品が素晴らしいと即座に分かるはず。似たり寄ったりのお酒、減点法で成績のよい無難なお酒ばかりあってもつまらないばかりか、退化してしまう。今売れているタイプのモノマネをするのではなく、自分が正しいと思う酒を作らないといけない。

口では個性だ多様性だと建前を言いつつ、審査員がら実際にはユニークな作品を正当に評価出来ないなら、異分子排除、画一化に加担しているだけです。建前を言うだけたちが悪い。他人がどうあれ、いいものはいい、と主張できる自信を持つのが大事。欠点を指摘するより、長所を発見するほうが百倍難しいが、百倍世の中のためになるのです。

モンテリー, Domaine Monthelie-Douhart-Porcheretの五代目当主、カタルディーナ・リポさん来日セミナー

 モンテリーはブルゴーニュの中でも特筆すべきお買い得産地。知っている人は知っています。ブルゴーニュファンを自称していながらモンテリーに関する見識がないならモグリと言われます。ですからカタルディーナ・リポさんの長い日本滞在期間のあいだに行った数々のイベントは相当な盛況だったようす。知らない人は知らないままでいいです。モンテリーまで法外に高くなったらたまったものではありませんね!
 そしてこのドメーヌはモンテリーの中でも最上の一軒。オスピス・ド・ボーヌやルロワの醸造長を務めた名人、アンドレ・ポルシュレのドメーヌだったのですから、技術的洗練度が違います。モンテリーに地酒っぽさを求めるなら他にもたくさんありますが、完成度と上品さを求めるならここです。
 
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▲カタルディーナ・リポさん(右)と、パートナーのヴァンサン・モンフォールさん。モンフォールさんはベルギー人。彼のレストランでリポさんのワインを売っていたことから知り合ったそうだ。
 モンテリーはコート・ドールの村々の中で最大の日照量。ゆえにモンテリー=日照量最大=温かい味と思われがちですが、話はそう単純ではありません。日照量は村の中で計測されます。モンテリーの村は高台の開けた場所に位置しますから、確かに日の出から日の入りまで燦燦と照らされています。他の村より高いので、中世の戦争時にも敵兵の動きがよく見え、防御策を事前にとることができたため、他の村々のように破壊されることがなかったといいます。畑も、ヴォルネイの丘にある1級シャン・フュイヨとかは開けた地形ですが、多くの村名畑が位置する特徴的な南北に延びる狭い谷は、朝の光がないか、すぐに日陰になるか。決して日照が多いわけではありません。
 
 それでもモンテリーの村名白は概して温暖味。特にこのドメーヌは周囲より1週間遅くシャルドネを収穫するそうですから相当にトロピカルだとはいえ、他でもやはり温暖味。譬えて言うならプティ・シャブリの風味にも似ています。谷に堆積している真っ白な石灰の礫を見てもプティ・シャブリに似ていて、どう考えても一般的なコート・ド・ドールのジュラ紀中期の石灰岩ではありません。地形を考えてもオート・コートからの崩落礫なはず。そこを今回聞いてみると、やはりそうで、ジュラ紀後期とのことです。原地性ではないので、畑の土を掘っても岩盤には至らず、どこまでも礫が積もっているそうです。つまりは温かい土壌なわけで、ワインの味がそうなるのも当然です。岩がないので、石灰の風味があるのに構造が柔らかく芯がないという独特の味わいになります。それが個性的でいい。構造という点では新世界的。貴重な存在ですし、マリアージュ的には大変に役に立つのです。モンテリーは最小の村でいて白ブドウの栽培比率は12%しかないので、これこそ知る人ぞ知るワインです。

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▲モンテリー1級レ・デュレスの白ワイン。2016年の超低収量が味わいの凝縮度に反映されている傑作。
 1級レ・デュレスの白は反対に、典型的なコート・ド・ボーヌ。風味はよりレモン的で、酸に硬質さがあり、芯の堅牢さが特徴的。近隣のムルソーに似ているとよく言われますし、その通りですが、ムルソーよりきめ細かくしなやかだと思います。同じ畑の赤も素晴らしく、ヴォルネイ側のようにキメが粗くなく、細かく硬質な要素が隙間なく結合している姿に品があります。誰もがヴォルネイ側は女性的でエレガント、オーセイ側はマッチョと言います。私は反対です。ざっくりとして温かいヴォルネイ側と精緻でタイトなオーセイ側と言うべきです。白赤ともに、大変に優れたブルゴーニュです。他に気に入った赤は、ポマール1級シャンラン。ポマールはよく言われるようなごついワインではありません。特に1級シャンランは標高が高く、ヴォルネイと接している畑ですからすっきりと伸びやか、かつ安定感があります。形のきれいさはさすがポマール。よいテロワールならではの隙のない構成美が感じられます。
 
 今回のヴィンテージは2016年。この年は霜にやられて白の収量は通年の8割減。赤は3割減。ですから白の味わいの凝縮度は桁外れです。2003年のシャンパーニュのブラン・ド・ブランの味と似ていると言えばわかりやすいでしょうか。これほどの凝縮度が味わえる機会はめったにありません。
 
 希望を言うなら、ビオディナミにしてほしい。既に2018年からはHautes Valeurs Environnement認証レベル3。ならばそんなに難しくはないはず。ここなら、カッコつきビオワインではないビオディナミワインが造れるはずです。
 

2019.02.06

ヴィレッジセラーズ新着




銀座歌舞伎座横のヴィレッジセラーズで新着ワインの試飲会。おすすめは、
 
1 The Eyrie Vineyards Pinot Noir 2010

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言わずと知れたオレゴンピノの元祖にして頂点のひとつ。緊密で硬質なミネラルと気持ちよくタイトな酸味。冷涼な赤系果実の香り。そして自根ならではの垂直性。飲むほどにすごいワインなのだが、鬱陶しい自己主張もケバい高級感も皆無で、あくまで素朴。アルコールは11・5パーセントしかない。この古典的オレゴン美学が分からない人はオレゴンワインを飲まなくてよい。9000円。
 
2 The Eyrie Vineyards Trousseau 2016


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オレゴン初となるトルソー品種のワイン。これが2ヴィンテージめ、そして日本では初リリース。ダンディ・ヒルズならではのタイトな構造と垂直性。味にボケ滲みがないのに華やかに広がる空気感。エキゾチックな花とスパイスの香り。このジュラ品種の素晴らしさを、ジュラのワインよりも理解できるほど。ジュラと異なり泥臭さがないのに、ジュラと同じく実直で腰が座っている印象。6200円。
 
3 Koyle Cerro Basalto 2014

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チリ、コルチャグワの珍しい玄武岩土壌に植えられたムールヴェードル、グルナッシュ、カリニャン、シラーのブレンド。この地のローヌ品種ワインの出来は常に素晴らしいが、中でもこれは凝縮度の高さを保ちつつ軽やかな伸びときめ細かい質感とビビッドな酸を備えた秀逸な作品。なぜ今でもチリ=カベルネだと思うのか。前二者も玄武岩土壌であり、ある意味で香りもミネラル感も似ている。ほぼ無灌漑。ビオディナミ栽培。もちろん自根。4500円。
 
4 Teusner Gentleman Cabernet Sauvignon 2017

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南オーストラリア、バロッサのカベルネ。熟してなめらかな黒系果実風味。カベルネの構成の堅牢さがありつつゴツい粗さがない。バロッサ=ユーカリ的な香りに過剰な樽風味と思ってはいけない。それでもさすがバロッサらしい存在感と安定感は健在。無理ないつくりで味が整っている。よくこの低価格で出来るものだと思う高品質。高地と低地の畑のブレンド。低地は無灌漑。バロッサはシラーズが有名だが、実はカベルネがお買い得。家でステーキや焼肉を食べる時にこのワインがあれば間違いない。2500円。
 
5 Johan Vineyards Blaufrankisch 2014
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ビオディナミ生産者によるオレゴンのブラウフレンキッシュ。この品種のファンとしては、ついにアメリカでもオーストリア品種ワインか、と感慨深い。相当冷涼な風味。オレゴンに涼しさを求めるなら、多くのピノはもはや温暖味過ぎ。完成度はまだまだだが、当然ポテンシャルは充分。オレゴンの最先端に触れたい人にはおすすめ。4800円。

2019.02.01

モルドバワイン

ソムリエ教本にも載るぐらいにポピュラーな存在になってきたモルドバワイン。ゆったりした厚みのある果実味とソフトなタンニンと酸は多くの人にアピールするし、価格も手ごろなので、一定の人気が出てしかるべき。2000円程度のワインの平均的品質は高いと思う。つまりハズレなし、素っ頓狂なワインなし。数年前と比べて樽の使い方も洗練されてきましたし、タンニンが細かく滑らかになって、ますます飲みやすい。

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▲会場には輸入元ごとにブースが設営されていたが、これはモルドバ大使館のブース。
 
しかし。。。そこまでは万国共通の技術でどうにでもなること。このままでは、メルローやカベルネやシャルドネといったメジャー国際品種の安価なワインというポジションのままです。数十本のワインを飲んでも、正直心躍るワインなし。フラットでエネルギー感弱く要素数少なく余韻短い。現代的洗練を増すと、ますます気になる。もっとキャラクターをしっかり出さないと。土地のポテンシャルはあるのはわかるだけに、大変にもどかしい。
 
単純なレシピを言うなら、甕発酵・熟成にすべき。安い昔風ドイツワインみたいなクリーンさの方向では将来がない。そして赤白品種混ぜて発酵すべき。中間色のアヤを増して、鍋物的な複雑さと一体感の両立を目指すべき。ブドウ価格も上がっているらしく、つまりは価格訴求も出来なくなるなら、将来誰があえて2000円のそこそこのシャルドネをモルドバから買うか。
 
日本では関係諸氏の多大な尽力のおかげでモルドバのほうがルーマニアより遥かにポピュラーだが、同じフェテアスカ・アルバやフェテアスカ・レガーラで比較したら、クリーン&フレッシュでモダンな方向性ならば、ルーマニアの方が標高の高さや石灰岩土壌ゆえに優位に立つように思える。ネガティブなことばかり言って申し訳ないが、逆に私は何故世の中じゅうモルドバをそこまで賞揚するのか分からない。口当たりのいいことを言うのは簡単。それは本心なのか。いまのうちに危機感を持たねば、鉄が固まってからでは形を変えるのが大変になる。モルドバのポテンシャルはこんなものではない。
 
モルドバワインの推進者、遠藤誠さんによれば、モルドバ人の奥さんの親戚たちの自家醸造自家消費用ワインが美味しい、と。そうだろう。黒海系ワインはどこもそうだ。クロアチアもそうだ。輸出用瓶詰めワインとは比較にならない美味しさだと容易に想像できる。つまり、もともと出来ないのではなく、やっていないだけ。なぜか。この問題こそ皆で真剣に考え、是正すべきだ。プロが揃って一元的なフランス中心的価値尺度をもってワインを評価する以上は無理なことだが。
 
会場にいらしたある指導的なワイン評論家の方に、「有名なワインのことばかり話してないでモルドバみたいなこれからの産地をサポートしなければダメだ」と言われた。私は怒って「マイナー産地を無視してきただと?本気で言っているのか?頭からワインかけるぞ、お前」。ここは怒るポイントですね。私は常に主流とは違う視点を提示してきたつもりだが、そんな風に思われているなら努力不足だということだ。しかし私にとってサポートとはその場限りのヨイショのことではない。

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試飲した中ではこの上写真のワインが印象的。カベルネ、メルロ、サペラヴィのブレンド。サペラヴィは強力な個性なので、ボルドー品種クサくない。地場品種ワインにストラクチャーを加える時にすぐにカベルネに頼るのは間違い。キャンティ・クラシコを反面教師にして欲しい。カベルネの代わりにサペラヴィだ。
 
最も素晴らしい点は、自然な質感と暖かみと包容力。木桶発酵、スラヴォニアオークの大樽熟成ならでは。ステンレスとバリックだけではモルドバのテロワール自体の美点を相殺することになる。何がモルドバの取り柄なのかを考え、それをどう技術的に実現するかを考える時、このワインのつくりは良い参考になるはずだ。この時の問題は、何がモルドバらしさなのか、というテーマでの突っ込んだ議論がないことだ。らしさの自覚、共有なくしてアペラシオンという意味での産地の形成はあり得ない。ただ物を生産しているだけではワイン産地とは言わない。
 
とはいえこのワインもやはりディテール、動き、余韻が弱い。モルドバにビオディナミワインはないのだろうか。
 
 

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